二世帯住宅は、親世帯と子世帯でどの程度の距離を保つのかが大事です。親世帯と子世帯の距離によって分けられる二世帯住宅の代表的な3つのタイプには、それぞれメリットとデメリットがあります。メリットを享受しつつ、デメリットを間取りの工夫で緩和するにはどうすればいいのか、一級建築士の佐川旭さんに伺いました。
二世帯住宅、どんなところに気をつければいいの?
二世帯住宅は、「子育てを自分の親に手伝ってもらえる」「実家を建て替えるのと同時に少ない資金でマイホームが持てる」「将来、親は高齢になっても安心」など、さまざまな理由で検討されます。
ただし、二つの世帯が一つの建物に住むわけですから、普通の戸建てにはない気をつけるべき点もあります。
「二世帯住宅のほとんどが、親世帯と子世帯の親子二世帯住宅です。親子二世帯住宅は、困ったときにすぐ助け合えるというメリットがある一方、プライバシーとコミュニケーションのバランスに十分気をつける必要があります。親世帯と子世帯の最適な距離感を探りながらじっくりとプランニングに反映することが大事です」(佐川さん、以下同)
二世帯住宅の分け方は、親世帯と子世帯の距離に応じて細かく分けることができますが、ここでは、1.玄関+水まわり共用タイプ、2.玄関のみ共用タイプ、3.完全分離タイプの3つに分けて、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて見ていきたいと思います。
二世帯住宅のタイプ別特徴とメリット・デメリット
それでは、二世帯住宅のタイプ別にそれぞれの特徴とメリット・デメリットを見てみましょう。
1.玄関+水まわり共用タイプ
二世帯で一つの玄関を共用し、それ以外に浴室やキッチンなどの水まわりも共用するタイプです。
【メリット】
このタイプは、浴室またはキッチンといったコスト高になる部分を共用することで、予算を抑えられるというメリットがあります。また、日々の生活の中で必然的に二世帯の接点ができるため、後でご紹介する2タイプに比べてコミュニケーションがとりやすい点もメリットです。
【デメリット】
浴室は、最も高いプライバシーが求められる空間です。そのため、浴室を共用する場合は利用時間でトラブルになるケースが考えられます。キッチンを共用する場合も注意が必要です。キッチンはちらかりやすい上に使い方に個性が出やすいため、実の母親と娘が共用する場合はそれほど問題になりませんが、嫁姑の関係ですとお互いストレスになる可能性が大きいようです。
2.玄関のみ共用タイプ
二世帯で一つの玄関だけを共用し、その他の水まわりやリビングなどは分離させるタイプです。
【メリット】
お互いのプライバシーを守りながら、行き来しやすい点が大きなメリットです。宅配便の受け取りなど、一方の世帯が不在のときに、もう一方の世帯に対応してもらえるといった利点もあります。
【デメリット】
玄関まわりに物があふれて、ちらかる傾向があります。また、1階と2階で世帯を分ける場合、1階の人は時によっては2階の音が気になることもあります。
3.完全分離タイプ
世帯ごとに玄関を設け、内部もきっちり分けるタイプです。
【メリット】
他の2タイプに比べ、世帯ごとに高いプライバシーを確保することができます。また、何らかの事情で将来どちらかの世帯が空いた場合、賃貸に出すことも可能です。
【デメリット】
全て2つずつ必要なため、どうしてもコストは高くなってしまいます。また、他の2タイプに比べて、世帯間の行き来が面倒です。コミュニケーションが少なくなり、共同住宅に住んでいるような味気無さを感じてしまう人もいるでしょう。
各タイプのデメリットを間取りで緩和!
これまでご紹介した通り、二世帯住宅の3つのタイプには、それぞれメリットとデメリットがあります。それでは、デメリットを緩和するにはどうすれば良いのでしょうか。
「デメリットの緩和には、いくつかアプローチがあります。一つはルールをつくるといったソフト面での対応です。浴室を共用する場合は、どちらの世帯がいつごろ利用するかを決めておくと余計なトラブルを避けられます。それ以外には、ニーズに合った建材や住宅設備の採用です。例えば遮音材で音を出にくくしたり、二世帯分の収納区分ができるシューズボックスや2ボールの洗面化粧台を設置したりするといいでしょう。さらに、コミュニケーションに関しては、間取りを工夫したりといったハード面での対応が考えられます」
ここでは3つのタイプ別に、デメリットを緩和する間取りの例をご紹介します。
1.玄関+水まわり共用タイプの間取り例
浴室を共用する場合は、子世帯の方にシャワールームを追加するといいでしょう。若い人の中には夏場はシャワーだけで済ます人も多いですし、どうしても利用時間が重なってしまう場合に備えることができます。
●この間取りのポイント
1階が親世帯、2階が子世帯という配置です。親の入浴がスムーズに行えるよう、親世帯と同じフロアに共用の浴室を設けています。2階の子世帯からは、親世帯のリビングを通らずに1階の浴室に行けるため、ある程度のプライバシーを確保することもできます。また、2階に子世帯専用のシャワールームを設けることで、浴室の利用時間によるトラブルを防げる間取りになっています。
2.玄関のみ共用タイプの間取り例
どうしてもちらかりがちな玄関は、なるべく広いスペースを取り、玄関横には大型の収納を設けるといいでしょう。また、2階の排水音が気にならないよう、なるべく1階と2階の水まわりの位置は統一します。さらに、子どもの足音が気になるような場合は、2階の床面と1階の天井面の両方に遮音性の高い建材を使ったり、振動を抑える工法を採用したりするのも有効です。
●この間取りのポイント
1階に親世帯、2階に子世帯という配置です。共用の玄関スペースを広めにとり、玄関横にシューズインクロゼットを設けることで、ちらかりがちな玄関まわりをすっきり整理できるよう工夫しています。また、玄関の一部に吹抜けを設け、親世帯と子世帯をやわらかくつないでいます。水まわりの配置は1階と2階で統一し、音によるトラブルを防げる間取りになっています。
3.完全分離タイプの間取り例
完全分離タイプの場合は、コミュニケーションが少なくなり、共同住宅のような味気無さを感じてしまわないよう共用スペースをうまく利用しましょう。玄関ホールなどに一カ所だけ親世帯と子世帯をつなぐドアを設けておく、あるいはあらかじめ壊せる壁をつくっておき、将来的に家族の状況が変わっときには、そこだけリフォームするという方法もあります。
●この間取りのポイント
1階に親世帯、2階に子世帯という配置です。玄関が別々の完全分離タイプですが、敷地の中央に中庭を設けることで、親世帯と子世帯の交流を促します。また、1階の親世帯が中庭や和室から2階のデッキで遊んでいる孫の様子がうかがえるなど、適度な距離感でお互いの気配を感じることができる間取りです。
先輩たちの二世帯住宅から学ぶ
親世帯と子世帯の距離感をどう捉えて、どう間取りに活かすかは、家族同士の関係性よって大きく変わります。そこで、先輩たちがどんな点にこだわって二世帯住宅で理想の暮らしを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】広い玄関にこだわった防音室のある二世帯住宅は開放感も抜群
妻の実家近くのマンションで二世帯近居をしていたTさん家族は、ピアノ練習のための防音室と、行き来の面倒がない環境を求めて、妻の両親と暮らす二世帯住宅を建てることにしました。
Tさんの理想は、親、子、孫の三世代がゆったりと暮らせる広い家です。特にこだわったのが、住まいの第一印象を左右する玄関。玄関まわりだけは共用にし、広々とした玄関を実現。それ以外の水まわりやリビングはそれぞれに配置し、1階に親世帯、2階に子世帯と上下に分けた部分共用タイプの二世帯住宅としました。
子世帯のLDKと階段室の間の壁はガラスにし、2階のリビングにいても1階の気配が感じられるようにするなど、限られた共用空間を上手くコミュニケーションに活用しています。
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【case2】親世帯、子世帯が毎日気配を感じながら暮らせる理想の二世帯
いずれはどちらかの親と同居し、もう一方の親とは近居しようと考えていたNさん夫妻。第二子誕生を機に、本格的に家づくりを進めました。
妻の希望は、親世帯とお互いに気配を感じながら、毎日顔を合わせられる二世帯住宅。お風呂も一つでいいと思っていましたが、一緒に暮らすこととなった夫の両親からは、生活時間帯が違うのでお風呂は分けたいという希望があり、水まわりを分けた玄関だけ共用の二世帯住宅となりました。
1階を親世帯、2階を子世帯という配置にしましたが、玄関を1つにしたことで、毎日顔を合わせて、頻繁にコミュニケーションを取ることができます。その上、不在時には代わりに宅配便を受け取ってもらえるなど、意外なメリットもありました。
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【case3】適度な距離感で暮らす二世帯住宅は、互いに安心できる住まい
結婚して賃貸アパート暮らしだったIさん夫妻は、築40年の実家を二世帯住宅に建て替えることを夫の両親に提案。その申し出を夫の両親も快諾し、早速理想の二世帯住宅づくりがスタートしました。
Iさんの希望は、木のぬくもりがあること。予算も限られていたためローコストが条件でしたが、スーモカウンターで紹介された建築会社に希望を伝え、建材なども工夫してもらうことで、予算内に収めることができました。
間取りは、親世帯、子世帯それぞれの暮らしを尊重するために、玄関のみ共用タイプとし、水まわりは世帯ごとに分けました。
親世帯が暮らす1階は、玄関やバスルームに手すりをつけるなど、バリアフリーに。お互いのフロアを頻繁に行き来することはないものの、すぐそばで暮らしている安心感は大きいと言います。
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【case4】気を使わない完全分離タイプ、シンプルを突き詰めた真四角の二世帯
築40年、5DKの夫の実家に同居していたSさん夫妻は、実家が台風で雨漏りしてしまったため、思い切って二世帯住宅に建て替えることにしました。建て替えを機にパソコンなどのオフィス機器を整理して、自宅内に仕事場を整えたいという気持ちもありました。
妻の希望は、完全分離タイプの二世帯住宅。これまでは同居だったため、自由にキッチンやお風呂が使えず、不便を感じていました。夫の希望は、不必要な間仕切りやデッドスペースを排除した、真四角な間取り。
そして完成したのは、1階も2階も1LDKずつのシンプルな家。玄関は2つあり、親世帯と子世帯が上下に分かれて住んでいます。気を使うことは少なくなっても、お互いの気配は伝わる、その距離感が心地いいと大満足です。
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二世帯住宅の間取り検討のポイント
二世帯住宅の間取りを検討する際には、まず親世帯・子世帯のほどよい距離感を探ることからスタートするのが早道です。そのためには、家族みんなで本音で話し合う機会が必要になってきます。
佐川さんからも次のようにアドバイスをもらいました。
「二世帯住宅のメリットとデメリットを見極めて、共通のルールをつくり、その上でプライバシーとコミュニケーションのバランスを間取りによってどう工夫していくかが大切です」
スーモカウンターでできること
二世帯住宅は、普通の戸建てに比べて決めなければいけないことが多い上に、関与する人も多いため、なかなかまとまらない場合があります。スーモカウンターでは、親世帯、子世帯がどのような暮らしを送りたいか、どの程度プライバシーを守り、どの程度交流したいかなどを聞いたうえで、理想の二世帯住宅を実現してくれそうな依頼先を紹介しています。
無料の個別相談のほか、二世帯住宅の費用や税金、間取り、生活の注意点など、家族で話し合うために必要なポイントがわかる「『二世帯住宅』建て方講座」など、無料の家づくり講座もご利用いただけます。ぜひお問い合せください。
取材協力/佐川旭さん
佐川旭建築研究所代表。一級建築士、インテリアプランナー。間取り博士とよばれるベテラン建築家で、住宅だけでなく、国内外問わず公共建築や街づくりまで手がける。
取材・文/福富大介(スパルタデザイン) イラスト/つぼいひろき