注文住宅を建てる人の中には、自分好みのアイテムを使いたいとか、できるだけコストを抑えたいといった理由で施主支給を希望する人もいます。そもそも施主支給とは何なのか、また施主支給のメリット・デメリット、注意点などについて、マドリヤ アーキテクツ一級建築士事務所の代表で、一級建築士の落合正一さんに話を聞きました。
施主支給とは?
「施主支給とは、施主が個人で購入したパーツや建材などを工務店や建築会社に渡して取り付けてもらうことです。なお、施主が購入して施主自身で取り付ける場合は『施主施工』と呼んでいます」(落合さん、以下同)
施主支給はどこでも対応してくれる?
実は、施主支給の要望にどこまで対応するかは、家を建てる工務店や建築会社によってまちまちです。
「施主支給は、さまざまな調整が必要なため、対応を嫌う会社があるのは事実です。例えば、事前に施主が建築現場に搬入した照明器具を割れないように作業するのは気を遣いますし、事務所に保管するとなれば、保管場所も確保しなければなりません。
施主支給の設備を取り付けて、使用中に何か不具合が発生した場合、それが支給された設備のせいなのか、取り付け方が悪かったのか、問題を切り分けるのが難しいケースもあります。
ただし、最近は施主支給を前提としたメーカーの通販サイトがあるなど、業界内で施主支給が一般的になってきています。そのため、物にもよりますが、施主支給に対応する会社も増えているのではないでしょうか」
施主支給のメリット・デメリットは?
施主支給は、施主にとってどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
施主支給のメリット
1. 自分の好きなものを取り入れることができる
「私たちが普段取引していないメーカーのものでも、施主ご自身で好みのものを探して新居に設置できる点は大きなメリットです。
入手先は、ネット通販で上手に探して購入している方が多い印象ですね。数多くの選択肢の中からご自分で選んだものなので、納得感があると思います」
2. 気軽に家づくりに参加できる
「施主支給によって、自身のこだわりを住まいに反映することができます。自分で設置までを行う『施主施工』ほどの大変さはなく、気軽に家づくりに参加できる点はメリットです」
3. コストダウンが見込める
「施主ご自身で安価にパーツや設備を仕入れることができれば、コストダウンにつながる場合もあります。
ただし、本当に実感できるくらいのコストダウンを図ろうと思ったら、ものすごく大変です。感覚としては、数多くのアイテムで差額を細かく積み重ねて、10万~15万円コストダウンできれば優秀な方ではないでしょうか。コストダウンを目的にするなら、『施主施工』まで視野を広げた方がいいでしょう」
施主支給のデメリット
1. 工務店・建築会社の保証外
「原則として、支給されたものに何か不具合が発生した場合、工務店や建築会社は保証してくれません。ノークレームを条件に施主支給に対応する会社がほとんどです。ただ、国内のしっかりしたメーカーの物であれば、メーカーが保証してくれる場合があります」
落合さんによると、明らかに施工不良が原因で不具合が発生した場合、責任は工務店や建築会社が負いますが、実際には責任の所在を明確にできることの方が少ないそうです。
「施主支給は当たり前のことではなく、施工会社の協力あってのこと。当然、施工会社側も問題がないように努めますが、責任を負えないことがあるということは、理解してほしいですね」
2. 手間がかかる
「まず、欲しいものを探すのに手間がかかります。また、実際に取り付けられるかどうかを確認するのも大変です。物によっては、施主支給で工務店に渡したものが、規格などの問題で取り付けられないといったケースもあり得ます。
さらに、住宅の建築工程に合わせて、施主自身が支給品の搬入スケジュールを調整する必要もあります。もし、搬入日が遅ければ、全体の工程に影響が出ますし、早すぎても保管場所の問題が発生します」
3. イメージと違うものが届くことも
「通販サイトで支給品を購入した場合、イメージと違うものが届く場合があります。例えば、木製のもので木目の柄や色の明るさが商品紹介画像と違うことはよくあります。ネット通販では見栄えのいい画像を載せているので、このようなリスクは想定しておいた方がいいでしょう」
施主支給に向くものと、向かないものは?
落合さんによると、施主支給に向くものと向かないものがあると言います。一体どのようなものが施主支給に向いていて、どのようなものは向かないのでしょうか?
施主支給に向くもの
「一言で言うと、取り換えが効く物は、向いています。壊れて交換するのと同じイメージで、たとえ支給された物に不具合があっても、取り換えれば大事に至りません。例えば、パーツ類。タオルハンガーやトイレットペーパーホルダーなど、水まわりのアクセサリーは問題ありません。照明器具なども、自宅で保管しておける物ならば、搬入スケジュールに神経質にならなくて済むので向いています。
また、支給品を製造しているメーカーが慣れている場合も適しています。例えば、家具屋さんに造作してもらったキッチンを支給する方もいますが、そういった場合は家具屋さんの方も慣れているので、工務店・建築会社とのやりとりがスムーズです」
■施主支給に向くものの例
・パーツ類(タオルハンガーやトイレットペーパーホルダーなど)
・照明器具(自宅で保管しておける物)
・施主支給に慣れているメーカーの物(造作キッチンなど)
施主支給に向かないもの
「簡単に交換できないもの、家自体の保証に関わるものは止めた方がいいでしょう。柱や基礎、外壁材に関わるものは、おすすめしません。
ユニットバスを施主支給したいという方もいますが、これもおすすめしません。最近はネット通販でユニットバスを施工費込みで売っていますが、建築現場に他の業者が入ってきて作業をすると、調整の手間が増えますし、現場が混乱する原因になります」
■施主支給に向かないものの例
・柱
・基礎
・外壁材
・ユニットバス
施主支給可能だが注意が必要なもの
落合さんによると、施主支給にあたり、施工会社によって対応は可能だが、注意が必要なものもあると言います。
1. フローリング
「フローリングは物による値幅が大きく、コストダウンしやすいので、ネットで安価なものを購入して使いたいという施主の方は少なくありません。壊れやすいものではないので、あまり扱いに気を遣う必要もありませんが、『含水率』の問題があります。
含水率とは、木材に含まれる水分の比率のことで、含水率が適正値ではないフローリングは、将来反りかえって床が変形してしまう可能性が高いのです。当社では、実際に現場に届いたフローリングの含水率を測って、適正値でなければ施工しません。施主の方とも、事前にそういう約束で施主支給に応じています」
2. 建具
「建具の施主支給には、さまざまなパターンがあります。例えば、古材を現代用にリユースするような場合、古材の建具を扱う専門の会社があり、そういう会社は施主支給に慣れているので、基本的に問題ありません。
しかし、洋風建築でよく見る凝った装飾の建具を個人で海外から取り寄せて、施主支給したい場合などは注意が必要です。実際に、現場に搬入してみたら、ドアノブがなかったというケースがありました。そうなると、建具職人にドアノブを付けてもらうなど、追加の人件費が発生します」
施主支給のやり方と注意点を紹介!
施主支給に対応してくれる工務店・建築会社であることが前提ですが、実際にはどのように依頼すればいいのでしょうか?
事前交渉のタイミング
「家づくりにあたっては、図面や工程表に全て落とし込んでおく必要があります。どんな型番のものが、どのタイミングで届き、どこに設置するのか。これらが全部決まっていないと作業ができません。なので、施主支給を依頼するデッドラインは着工前です。できれば、設計図に落とし込む前の事前打ち合わせの段階が理想です」
依頼方法
「事前打ち合わせの段階で、『施主支給したい』と相談してください。そこで、対応の可否や条件などをすり合わせます。請負契約を結んだあとだと、見積りが変わる可能性があるので、その前に相談した方がいいでしょう。
通販サイトで購入を予定している場合は、その商品の販売ページも教えてください。購入前に相談してもらえれば、取り付けが可能かどうかの判断もできます。物によっては、責任の所在を明確にするために、覚書を取り交わすこともあります」
支給品を搬入するタイミング
「支給品を現場に納入するタイミングについて、当社では原則として、施工を予定している日の前日に届くようにお願いしています。
ピンポイントの指定が難しい場合、事前に設計者もしくは施工会社の事務所に入れていただくか、施主の方に直接現地に持ってきていただくようにお願いしています」
注意点
1. 施主支給を前提とした通販サイトは比較的安心
「施主支給を前提としてキッチンや建具を通信販売している会社がありますが、そういった会社の物は、基本的に問題ありません。施工業者用の取り付け説明書も公開されていることが多いです」
2. 仕様がはっきりしない物は要注意
「問題なのは、仕様がはっきりしない物です。特に海外製で、日本に窓口のない会社の物は、施工業者用の取り付け説明書がないことが多く、当社でもお断りしています」
3. 搬入スケジュールが読めない物はトラブルの元
「海外発送でいつ届くのか分からない、欠品していて納品の目途が立たないといったスケジュールが読めない物は、他の工程へ影響が出ることも多く、トラブルの原因になることがあります」
施主支給で希望をかなえた先輩たちの事例を紹介!
スーモカウンターで紹介された会社を通じて施主支給の希望をかなえ、理想の住まいを実現した先輩たちの事例を紹介します。その人たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】施主支給によって、施主の好みが活かされたこだわりの家
賃貸アパートの住み心地に満足できなかったMさんは、スーモカウンターを訪れ、防音室をつくることをマストの条件に、依頼先候補を3社紹介してもらいました。最終的には、そのうち、実際に防音室のある家をつくった経験のある会社と契約。
完成した新居は、1階に防音室、2階にリビングという間取り。2階は勾配天井にして開放感を演出し、自分たちで探してきたファン付きの照明を設置しました。施主支給の素材や設備に積極的に対応してもらい、「自分たちの好みが活かされた」と満足気です。
この実例をもっと詳しく→
防音室に実績ある会社とタッグ、趣味のドラムを楽しむマイホームを実現
【case2】施主支給を活用してコストダウンを図りつつ、おしゃれな空間を実現
「家を建てたい」という思いが高まり、スーモカウンターを訪れたMさん。そこで希望を伝え、10社ほど依頼先候補をピックアップしてもらった後、5社に絞り込んで面談。最終的にはしっかりとした説明と見積りを提示してくれた会社に依頼することに。
完成したのは、木の梁が映える高さのあるリビングに、スタイリッシュなスケルトン階段が創り出すおしゃれな空間。スケルトン階段は、Mさんの友人経由で仕入れてもらいコストダウンを図りました。削れる部分は削って、コストをかける部分はしっかりと妥協をせずに気に入った空間に仕上げることができたと大満足です。
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デザインにこだわったわが家完成までの道のりは、楽しくてワクワクすることばかりだった
【case3】おしゃれな家づくりのために、インスタグラムを活用
注文住宅を建てるための知識を得るためにスーモカウンターを訪れたSさん。そこで、依頼先候補として、自分たちが希望する立地やスタイルに合う3社を紹介してもらい、その後、担当者の対応力や希望が叶いそうかで判断して、依頼する1社を決定。
生活感のないおしゃれな家で、暮らしやすい家というのがSさんのテーマ。インスタグラムを参考に、新居のキッチンには、ガラスとアイアンを組み合わせたオイルガードや吊り戸棚をオーダーで手に入れ、シンク上のグラスホルダーはネットで探したものを設置。センスの光るキッチンが完成しました。
この実例をもっと詳しく→
デザイン性は当然重視!その上で、ずっと先まで暮らしやすい家に
【case4】施主支給が可能なことが、依頼先決定の決め手
長女の小学校入学をきっかけに、マイホームを建てようと決意したNさん。スーモカウンターに相談し、希望の予算を伝えると、条件に合う会社をいくつか紹介されました。その中にあったのが、依頼先となる北欧住宅を手がけている工務店です。
決め手となったのは、キッチンや洗面ボウルなどの設備を自由に選べて、施主支給が可能なこと。「細部に至るまで、気に入ったものだけを使いたかった」とNさんは言います。海外メーカーのサイトやカタログを見て、キッチンのタイルやトイレの洗面ボウル、キッチンの水栓金具など、1つずつこだわり抜きました。
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内装や設備まで、好きなものを詰め込んだ住まい
施主支給するときのポイント
最後にあらためて落合さんに、施主支給するときのポイントを聞きました。
「これまで紹介したようなリスクも含めて、楽しめるかどうかが重要です。家づくりに参加することに重きを置き、コストダウンを一番の目的にしない方がいいでしょう。
そして、結局はコミュニケーションです。どういった物を支給したいのか、コストダウンできるかどうかも含めて、早い段階で施工会社に相談することをおすすめします」
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「施主支給に柔軟に対応してくれる建築会社はどうやって選べばいいの?」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望を叶えてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
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取材協力/マドリヤ アーキテクツ一級建築士事務所
取材・文/福富大介(スパルタデザイン) イラスト/村林タカノブ