都会的な外観が特徴の「コンクリート打ち放し」の家は、根強い人気を誇っています。コンクリート打ち放しの壁は、他の壁とどう違うのか、外壁と内壁に用いる際の特徴やメリット・デメリットとともに、採用する際の注意点をRC designの井上功一さんに聞きました。
目次
コンクリート打ち放しとは?
コンクリート打ち放しとは、本来、住宅の構造体(柱、床、梁などに代表される骨組み部分)として使用することの多いコンクリートを、仕上げとして採用している壁です。
ただし、一口に「打ち放し」といっても、30年くらい前と現在では、若干意味合いが違うと井上さんは言います。
「昔は、コンクリートを固めた後、型枠を外した状態、つまりコンクリートの素地の状態を『コンクリート打ち放し』と呼んでいました。しかし、この状態のコンクリートの表面には無数の気泡が開いており、そのままだと穴に溜まった水やほこりが原因で、水垢が付いたり、緑の藻が生えてしまったりするケースがありました。
その後、技術が進歩し、現在ではコンクリート素地の表面に撥水剤や塗料を塗布して仕上げることで、先に述べたリスクを回避する『コンクリート打ち放し』が普及しています。
ちなみに当社では、スポンジのような道具を使って、コンクリート素地の上に水性塗料でコンクリート打ち放しの模様をパタパタと叩くように描き、その上にクリア塗装をして、さらに光触媒塗装を施しています。そうすることで、きれいな打ち放しの模様を15年くらい楽しむことができます」(井上さん、以下同)
RC造の構造
コンクリート打ち放し壁について具体的に見ていく前に、まずはRC造(Reinforced Concrete)の構造について紹介します。
「RC造の建築物には、ラーメン構造と壁式構造がありますが、一戸建てに用いられるのは主に壁式構造です」
壁式構造は、建物を鉄筋コンクリートの壁で支えている構造のことで、その壁が仕上げとして直接目に触れる形になっているのが、コンクリート打ち放しです。
打ち放しではないRC造住宅との違い
RC造の壁は、コンクリート打ち放しだけではありません。
内壁の場合、石膏ボードを張って、クロスで仕上げる方法が一般的ですが、外壁の場合、表面に木造や鉄骨造と同様、タイルや天然石を張ったり、吹付塗装をしたりするケースもあります。
「外壁の場合、外観の好みによってタイルや吹付塗装などを選ぶ方もいます。また、構造体であるコンクリートの表面をカバーするように仕上げをするので、構造体の保護という意味では一定の効果が見込めます。
タイルや吹付塗装をする場合、コンクリートを固めるときに使う型枠は、ベニア板を使いますが、これは、上から別の仕上げをするため、コンクリートの表面が多少デコボコしていても問題ないからです。
一方、コンクリート打ち放しの場合は、表面の平滑性が見た目の印象を大きく左右するため、ベニア板の表面にウレタン塗装をして平滑にしたツルツルの型枠を使います」
コンクリート壁のメリットは?
耐火性・遮音性・耐久性が高い
「コンクリート打ち放しに限りませんが、RC造の住宅には、耐火性が高い、遮音性が高い、耐久性が高いなどのメリットがあります。」
間取りの自由度が高い
「構造上柱が不要なので、間取りの自由度が高く空間づくりがしやすい点もメリットです」
コンクリート壁のデメリットは?
価格が高いイメージがある
「一方、デメリットとしては、一般的な木造・鉄骨造住宅と比較して価格が高いというイメージがあると思います。しかし、最近は高性能な住宅が増えており、大手ハウスメーカーさんの高性能住宅と比べると、価格差がなくなってきています。」
熱を伝えやすい
「もう一つ、デメリットとしては、コンクリートが熱を伝えやすい素材であることです。壁をコンクリート打ち放しにしたい場合、建物の内部と外部を隔てる壁(外周壁)は、内側か外側か、どちらかには断熱材が必要になるため、片方しか打ち放しにはできません」
外壁をコンクリート打ち放しにすることのメリット
上図のとおり、外周壁の内側か外側か、どちらかには断熱材を施工する必要があるため、断熱材を施工した壁面はコンクリート打ち放しにはできません。
では、外壁をコンクリート打ち放しにした場合のメリット・デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
紹介してきたように、コンクリート壁のメリットとしては、「耐火性」や「防音性」が高いことが挙げられます。また、RC造のメリットとしては「空間づくりのしやすさ」などが挙げられます。
では、外壁をコンクリート打ち放しにした場合のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?
「外観の意匠性が大きなメリットです。当然好みは分かれますが、コンクリートの質感を好んでコンクリート打ち放しを選ぶ方は少なくありません」
外壁をコンクリート打ち放しにすることのデメリット
「壁の内側に断熱材を施工する必要があります。コンクリート躯体に発泡ウレタンを吹き付けて断熱材にする断熱工法が多いのですが、しっかり施工しないと、壁の中で結露が発生してカビが生えてしまうことがあります。
ただ、最近では技術が進歩しており、型枠兼用の断熱材というものもあります。これだとコンクリート壁と断熱材が一体化するため、結露の発生を抑えられます」
コンクリート打ち放しの外壁は汚れが目立つという意見もありますが、これについては光触媒塗装などによって汚れにくくすることができます。
また、RC造のデメリットになりますが、コンクリートの建物は重いため、地盤調査・地盤補強が必要になります。その分、工期やコストがかかることもデメリットです。
注意点|再塗装などメンテナンスが必要
「コンクリート打ち放しの外壁は、定期的にメンテナンスが必要です。具体的には、表面のクリア塗装と光触媒塗装を再塗装します。新築の場合は築15年以内に再塗装をおすすめしています」
内壁をコンクリート打ち放しにすることのメリット
内壁には、外周壁の内側と間仕切壁の2種類があります。
種類1:外周壁の内側
「外周壁の内側をコンクリート打ち放しにするためには、外壁に断熱施工をする必要がありますが、間仕切壁には断熱材は不要なので、希望に応じてコンクリート打ち放しの仕上げにすることができます。なお、断熱材が必要な内壁であっても、石膏ボードやベニア板の下地を設け、その上からコンクリート打ち放し風の仕上げにすることは可能です」
種類2:間仕切壁
内壁の中でも間仕切壁は、さらに建物を支える耐力壁と部屋を仕切るだけの壁に分けられます。部屋を仕切るだけの壁をコンクリートにする必然性はありませんが、あえてコンクリート打ち放しにすることもあると、井上さんは言います。
「内壁をコンクリート打ち放しにすることで、コンクリート独特の素材感を室内で楽しむことができます。また、コンクリート壁は遮音性が高いため、オーディオルームや楽器演奏用の部屋をつくる場合、構造上必要のない部屋でもコンクリートの間仕切壁にして、好みに応じて打ち放し仕上げにすることがあります」
内壁をコンクリート打ち放しにすることのデメリット
次に、内壁をコンクリート打ち放しにすることのデメリットについて解説します。
外断熱を採用しなければならない
外周壁の内側をコンクリート打ち放しにするには、外断熱を採用する必要があります。
「ただし、日本の東北から西側の地域では、春、夏、秋の湿度が高すぎて、夏型結露が発生し、壁の内壁が濡れてしまうことがあるので、コンクリート住宅の外断熱はおすすめしません」
注意点|構造壁にしないよう設計する
「RC造はリフォームが難しいという意見がありますが、内部の間仕切壁は、なるべく構造壁にしないよう設計すれば、大きな問題はないでしょう。同様に、壁に埋め込まれているコンセントなどの位置を変えるのは難しいのですが、あらかじめ位置を変えることを前提に、下地を設けてその隙間にコンセントを設置するなど、壁に埋め込まない設計にしておけば問題ありません」
コンクリート壁の住宅の建築にかかる費用・価格
コンクリート壁の住宅は、工事内容によって費用が変化します。一般的には坪単価100万円程度とされており、木造建築物(坪単価50〜60万円程度)よりも高くなる傾向にあります。RC造はコンクリートのみならず、ほかの資材でも工期が長くなりやすいのが割高になる理由です。
このように初期費用は比較的高くなりますが、ランニングコストで考えると一概に負担が大きいとは言い切れません。RC造は木造建築よりも頑丈であり、地震や台風にも強くなります。法定耐用年数も木造建築は22年とされている一方で、RC造の場合は47年です。
したがってこの先のリフォーム回数も考慮すると、コンクリート壁を採用したほうが結果的に安く抑えられるケースもあります。
おしゃれなコンクリート打ち放し壁の実例を紹介!
ここでは、実際にRC designが手掛けたコンクリート打ち放し住宅を実例として紹介します。
【実例1】直線を活かしたクールな印象のコンクリート打ち放し住宅
「コンクリート打ち放しの外観がクールな印象の二世帯住宅です。屋上へ続くシンプルな外階段がアクセントとなっています」
【実例2】四角い外観に丸窓が印象的なRC造のガレージハウス
「施主の方は、以前住んでいたRC造のデザイナーズマンションが気に入っており、新居でもコンクリート打ち放しを希望されました。傾斜地を掘り下げた地上2階、地下1階の3層構造でガレージを確保。丸窓が外観のアクセントになっています」
【実例3】床やアクセント壁とも調和したスタイリッシュな内装
「広々としたLDKの内壁を、コンクリート打ち放し仕上げにしました。オークの床や天井、アクセント壁とも調和しています」
【実例4】杉板風の仕上げで温もりを演出したコンクリート打ち放しの内壁
「コンクリート打ち放しの内壁の表面を杉板風に仕上げました。無機質なコンクリート壁に温もりのある雰囲気を演出した事例です」
知っておきたい!コンクリート壁の住宅で快適に過ごすヒント
コンクリート壁の住宅で快適に過ごすには断熱カーテン・断熱シートを使用する、壁掛けフックを取り入れるといった方法があります。それぞれの特徴を説明するので、導入するかどうかを検討してみてください。
冷気が気になる場合の寒さ対策
従来コンクリート壁は冷気を伝えやすいというイメージを持たれていましたが、現在は断熱処理が施された壁材が多く取り入れられ、快適な室温を保ちやすくなっています。しかし、それでも冷気が気になる場合は断熱カーテンや断熱シートを使用するとよいでしょう。
断熱タイプのカーテンは一般的なカーテンと比べて厚めにつくられており、温かい空気を窓から逃がしにくくする効果があります。冷気も通しにくい素材であるため、冬場だけではなく夏場にも活躍できます。
断熱カーテンの寒さ対策以外のメリットとして挙げられるのが、結露を防げる点です。結露を放置するとカビやダニが発生しやすくなり、人によってはアレルギーを起こしてしまいます。したがって断熱カーテンは、自身の健康を守るうえでも有効といえます。
加えて寒さ対策には、断熱シートを取り入れるのもおすすめです。こちらも市販されており、窓や壁に貼ることで温かい空気が逃げにくくなります。
コンクリート壁でフックを付けるなら接着剤タイプ
住宅を快適に過ごすための方法として、壁掛けフックの使用も検討してみましょう。洋服やバッグを掛けて出かけやすくしたり、絵画を飾って室内をおしゃれに見せたりと暮らしにおいてさまざまなメリットがあります。
壁掛けフックでよく使われるのは、壁に穴を開けて使うタイプと接着剤で貼り付けるタイプです。しかし、コンクリート壁は硬く、簡単には穴を開けられません。
そのためコンクリート壁に壁掛けフックを取り付けたいのであれば、なるべく接着剤タイプのものを使用しましょう。あまりにも重い物を飾るとフックごと落ちてしまうので、どのくらいの重さまで耐えられるかは事前に確認してください。
コンクリート打ち放し壁の住まいを建てるときのポイントは?
最後にあらためて井上さんに、コンクリート打ち放し壁の住まいを建てるときのポイントを聞きました。
「RC造の一定以上の施工実績や施工体制のある会社をパートナーに選ぶことをおすすめします。地盤も重要になるので、土地選びから相談できるところだとなおいいでしょう」
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「コンクリート打ち放しのデザインが得意な建築会社はどうやって選べばいいの?」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望をかなえてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
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イラスト/タイマタカシ、長岡伸行