家の敷地内に住居とは別に小屋を建てる人が増えています。小屋は、書斎やアトリエ、テレワークスペースとしても活用できる便利な空間です。自宅の庭などのスペースを使って小屋を建てる方法や必要な費用、設置後の使い方について「小屋やさん」を運営する植田板金店の植田博幸さんに話を聞きました。
最近流行りの「小屋」とは小さな家屋のこと
小屋とは小さな家屋を意味しますが、どのくらいの規模のものを指すのでしょうか。販売会社によって大きさもさまざまで、住宅と同じような設備を備えた小屋もあります。小屋の特徴や利用方法について、もう少し詳しく解説します。
小屋の特徴
小屋とは文字通り「小さな家屋」を意味し、建築基準法によって定義が決まっているわけではありません。近年は物置や倉庫といった収納目的だけでなく、テレワークスペースや小さな店舗など、人が過ごしたりビジネスのために使う空間として小屋を活用する人が増えているようです。
「販売会社によって小屋の特徴は異なりますが、当社が製造販売している小屋は『10㎡以下で住宅と同様の耐候性を持った建築物』というのが特徴で、2畳から6畳までラインアップがあります。住宅と同じ材料を使ってつくっているため、小屋の中で人が生活しても問題ありません。電気や水道を通すこともできるので、小屋の中にキッチンやトイレ、お風呂を設けることも可能です」(植田さん、以下同)
汎用性が高く、幅広い用途に活用できるため、住居と同じ設備を整えれば小屋に住むこともできます。
小屋とタイニーハウスの違いは?
タイニーハウスのタイニー(tiny)は、英語で「小さい」を意味します。文字通り解釈すれば小屋もタイニーハウスの一種です。
しかしタイニーハウスにはただ「小さい」という意味だけでなく、シンプルな暮らしという意味も含まれています。
2000年代後半に起きたリーマンショックをきっかけに、アメリカでは本当の豊かさとは何かと考える人が増え、家賃やローンに縛られないシンプルな暮らしが注目されるようになりました。
タイニーハウスによるミニマルな生活に共感する人も多く、その後アメリカから世界へと広まったといわれています。
タイニーハウスはいくつかの種類に分類でき、車でけん引して移動できるトレーラーハウスや、別荘地で見かける半球型のドームハウス、エンジンが搭載されているキャンピングカーなどもあります。
日本でイメージする小屋は、母屋とは別に設けた小さな家を意味することも多く、アメリカでいうタイニーハウスとは少し意味合いが異なるかもしれません。
ちなみに、小屋やプレハブはタイニーハウスと区別して、スモールハウスと呼ばれることもあります。
小屋のメリット
コンパクトでしっかりとしたつくりの小屋にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
気軽に手に入って簡単に設置できる
「小屋のメリットは気軽に手に入って簡単に設置できるところだと思います。最小で駐車場一台分ほどのスペースがあれば設置できますし、基礎工事も容易なため設置まで1日もかかりません。10㎡未満の建築物であれば特別な場合を除いて建築確認申請も不要です。また、設置が簡単にできるということは、住宅とは異なり解体せずに処分できるため手放すときにも大きな手間はかかりません。不要になった小屋をフリマサイトで販売している人もいます」
開業や音楽鑑賞にも使える
ほかにも、匂いや音が出ても母屋の生活に影響を与えないことも小屋のメリットであり、ネイルサロンなどを開業する場合や音楽鑑賞のための空間としても適しています。防音壁を使用して音が外に漏れないようにすることも可能です。
住宅ローンのプレッシャーがない
詳しい費用については後述しますが、小屋はプレハブであれば100万円~、住宅と同じような仕様でも200万円程度から手に入れることができます。住宅ローンを利用せず、自己資金で購入しやすい価格帯は、小屋の魅力ともいえます。
住宅ローンを組むと月々の返済や借入利息が発生し、借入期間によっては返済が何年も続きます。住宅ローンを組むことを重荷に感じる人にとっては、ハードルの低さがメリットといえるでしょう。
小屋のデメリット
小屋にはさまざまな良さがある一方で、デメリットもあります。
現物を見ないとクオリティーが分かりにくい
「販売会社によって小屋のつくりに差があるため、購入前に現物を見ないとクオリティーが分かりにくい点がデメリットかもしれません。広告やHPの画像だけでは小屋のイメージが湧きにくいと思うので、ぜひ現物を見てください。小屋と聞けばプレハブのような簡易的な物置小屋をイメージする人もいるかもしれませんが、現物を見て普通の住宅と変わらないクオリティーに驚いたという人も多いんですよ」
気軽に入手できるからこそ即購入したくなるかもしれませんが、理想の小屋を手に入れるためにも現物をチェックすることは大切です。
小屋を設置する方法は?土地の条件や申請方法について解説
自宅の敷地内に小屋を建てるときに確認すべき条件や必要な申請について解説します。
小屋を設置するのに必要な面積や土地の条件は?
「店舗やワークスペースなど人が中に入って過ごす場合は、4〜6畳の広さの小屋が理想的です。その場合は2.5m×5mほどの設置スペースが必要になります。小屋の大きさが2〜3畳ほどであればもう少し狭いスペースでも設置可能ですが、その場合は物置など収納の用途で購入されるケースが大半です」
ただし、小屋は建蔽率(建ぺい率)、容積率の対象になります。設置する前に、必要なスペースが確保できるか建築会社や販売会社に確認しましょう。
「土地の条件に関しては、極端に不安定な地盤でない限りは問題なく設置できると思います。少し傾斜がある場所でも小屋の下にブロックを置くなどして水平を保つことができます。設置について詳しく知りたい場合は当社など専門の事業者に問い合わせてみてください」
自治体によっては小屋を地面に固定することが条件となっている場合があるため、事前に確認しましょう。
建築確認や固定資産税の申請は必要?
「10㎡を超える建物および工作物を設置する際には、各自治体に建築確認申請が必要となります。一方で10㎡未満の小屋を設置する際は特別な場合を除き申請は必要ありません。ただし、環境保全のために建物の用途に制限を設けている地域や消防法による防火・準防火地域の区分によっては10㎡未満の小屋であっても申請が必要になる場合もあります」
そして、不動産登記法によって定められる「建物」と同意義の家屋には固定資産税がかかります。不動産登記規則第111条によると「建物は、屋根及び周壁又はこれに類するものを有し、地に定着した建造物であってその目的とする用途に供し得る状態にあるもの」と決まっています。
「建築申請確認および固定資産税に関して判断が難しい場合は、自治体や専門事業者に確認することをおすすめします」
小屋はいくらで買えるの?費用を解説
小屋は、いくらぐらいで購入できるのでしょうか。簡易的なタイプであれば100万円程度ですが、設備やデザインにこだわるとその分費用がかかります。
この章では、小屋の一般的な相場を紹介します。予算や希望に合わせて検討しましょう。
簡易的なものなら100万円、6畳の小さな家で200万円
「プレハブのように簡易的なものであれば設置費用を含め100万円が平均価格です。住居と同じ素材でつくられた6畳ほどの小屋であれば、設置費用を含め200万円からが相場ですね」
設備やデザインにこだわるなら300万円から400万円程度
「設備を充実させたり、デザイン性にこだわったりする場合は、300万円や400万円ほどになる場合もあります。また、自分で小屋をつくるDIYキットは30万〜100万円ほどの値段で販売されています」
小屋の価格は品質や設備、建て方によって大きく変わります。また、販売会社によっては小屋の費用と設置費用を別々に請求する場合もあるため、購入前によく確認しましょう。
「趣味のためだけに200万円の小屋を買うのは高いかもしれませんが、テレワークやビジネスにも使える汎用性の高い空間を買うと考えると、支払う値段以上の価値があるかもしれませんね。
また、雑貨屋やネイルサロンなどを開業した場合は、店舗を借りてリフォームしたりする費用と比較すると、小屋を購入する200万円はそれほど高くない初期投資だと思います。もしも途中でビジネスをやめてしまった場合でも、プライベートな使い道に切り替えることも可能なので有効活用しやすいでしょう」
小屋を設置するときのポイントは?
電気や水道を引く
「電気や水道を使えるようにしておくと、中で家電を使えたり、トイレや浴室、キッチンなどの水回りも使用可能になるので便利です。専門的な工事が必要になるので、小屋を設置する際に業者とよく相談してください」
建材がしっかりしていれば災害時も安心
「住居と同じ建材を使用している小屋であれば、台風や地震などの災害のときもダメージを受けにくいと考えられます。また、階層がなくコンパクトな小屋は地震で潰れにくいため、災害時の避難所にもなるように備蓄品を置いている人もいるほどです」
しっかりとした素材を使用して建てられた小屋であれば、台風や地震で壊れたり雨漏りを起こす可能性も低いようです。
内装をDIYで仕上げてこだわりの空間に
「DIYで小屋をつくる場合、屋根や外壁など外側の部分は建築の専門知識と技術を用いてつくったほうが安全で高品質な小屋になるので、プロに任せることをおすすめします」
雨漏りや災害対策のことを考えると小屋の外側はプロに任せたほうが無難ですが、内装であればDIYで自分好みにアレンジできます。特にクロスや断熱材の設置などは自分で仕上げやすい部分です。また、内装をDIYで仕上げることで数十万円のコストカットになるため、なるべく費用をかけたくない人には人気の選択肢です。
デザインの選び方
「小屋の外装も使う人の好みやコンセプトに合わせてカスタマイズすることができます。母屋がある場合は同じ外壁材や内装のクロスを揃えることで双方のデザインが調和します。その一方で、母屋とはあえて違う風合いのデザインを選ぶ人もいます。せっかく自分好みの小屋を設置するのなら、住居では実現できなかった好きなテイストを取り入れてみるのも夢がありますね」
おしゃれな小屋の活用実例を紹介!
ここからは、自宅の敷地内に小屋を設置した実例を購入者のコメントを交えて紹介します。趣味の部屋や雑貨店など小屋の活用の仕方も多種多様。ぜひ理想の小屋づくりのヒントにしてください。
趣味の音楽鑑賞を楽しむための小屋
自宅の庭に設置した、音楽鑑賞を楽しむための6畳の小屋。天井と壁にウッドチップボード、床にはクッションフロアを採用し、音が漏れにくい仕様になっています。また、天井や壁には断熱材が入っているため季節を問わず快適に過ごすことができます。
「小屋の中は防音効果がしっかりしていて快適です」(Hさん)
趣味に没頭できる自慢の小屋になりました。
和モダンな物置小屋
切妻屋根が特徴的な5畳の物置小屋。従来の物置小屋のイメージを覆す、和モダンな収納空間になりました。
「周りの景観と調和するおしゃれな外観は近所でも評判です」(Iさん)
物置とはいえ、ドア、窓、外壁なども住居と同じクオリティーで仕上げられているので、自然災害にも強く安心です。
庭の裏に設置したおしゃれな英会話教室
こちらは自宅の庭で英会話教室を行うために設置した6畳の小屋です。屋根材をそのまま外壁としても使用した、おしゃれなデザインが特徴的。出入口が屋根と壁で囲まれているので雨が降っていても濡れません。「アットホームな環境で、楽しく英会話ができそうです」(Kさん)
ミニキッチンのついた水回りが便利な離れ小屋
キッチン、トイレ、シャワーの設備が揃う水回りが便利な5畳の離れ小屋。スタイリッシュで洗練された外観と、無垢材のぬくもりや香りを感じられる内装が魅力です。後日、母屋と繋がるウッドデッキをDIYで取り付けてさらに便利になったそうです。
「かっこいい外壁はもちろん、水回り設備が充実しているところが気に入っています」(Tさん)
自宅敷地内につくった小さなタイ料理専門店
テイクアウトもできるタイ料理専門店を営むために家の庭に4畳の小屋を設置した実例。片流れの屋根やプロバンス風の可愛らしい外観が特徴です。中で調理ができるようにコンセント、換気扇、電気、水道も取り付けてあります。
「受注から設置までを急ピッチで、なんと3週間で仕上げてもらいました。自宅の敷地内に理想の店ができました」(Tさん)
スタイリッシュなドライヘッドスパ小屋
ドライヘッドスパのお店を営業するために自宅の敷地内に小屋を設置した実例です。黒で統一したスタイリッシュな外観が目を引きます。使ったスペースは駐車場一台分だけ。店内にはダウンライトを設置して落ち着く空間が出来上がりました。
「看板、植木、ドア下のステップなどは自分で用意しました。小屋の外観は黒系で統一しています。自宅が白系なので対比となっておしゃれです」(Mさん)
テレワークもばっちり!応接室のある事務所小屋
自宅の駐車場に小屋を設置した実例です。事務所、応接室、倉庫など幅広い用途で使用しています。設置場所に傾斜がありましたが、ブロックを置いて高さを調整し、水平が保たれています。
「自宅駐車場にかなりスペースが空いていたので、そこを有効活用したく思い小屋を購入しました」(Tさん)
自宅に仕事を持ち込まず、集中して作業ができそうです。
可愛いハンドメイドショップの小屋
テイクアウトのコーヒーと雑貨を販売する小さなお店として、自宅の庭先に小屋を設置した実例です。展示場で可愛らしい外観の小屋に一目惚れし、購入を決意しました。
「展示場で実物を見ると、小屋の可愛いさが分かりますね」(Mさん)
日光が入る明るい店内には木の素材感を活かした什器を置いて、素敵なお店が出来上がりました。庭に設置したテーブルでコーヒーを飲むこともできます。
低予算200万円で建てる小さな家の注意点
小屋を建てるとき、どのようなことに注意したらよいのでしょうか。小さい家だからこそ、注意しなければならないポイントもあります。
この章では、プライバシーへの配慮と法律・規制に関するポイントについて紹介します。
プライバシー
小屋は空間が限られているため、音の問題に留意して窓やドアの配置や空間の設計が重要です。
また外からの視線が気になる場合は植栽や塀を使うなど外構も工夫すると良いでしょう。
法律・規制
小屋だとしても、先述したように用途地域ごとに定められた建蔽率や容積率を遵守する必要があります。
同じ敷地内に母屋がある場合は、母屋と小屋を合計した床面積や容積が、建蔽率・容積率それぞれの上限を超えないようにしなければなりません。加えて、建設地が「都市計画区域」および「準都市計画区域」に位置する場合は、建築確認申請が必要になる可能性があります。
小屋が10㎡を超えるときは建築確認申請をしなければならず、防火・準防火地域に所在する場合などは、大きさにかかわらず建築確認申請が必要です。
さらに土地用途指定の有無も確認する必要があります。自治体によって基準が異なる場合もあるため、自分が建てる場合などで、建築できる面積や建築確認申請が必要かどうかの判断が難しいときは、かならず役所の担当窓口で相談するようにしましょう。
建築確認申請をする場合は、申請に時間がかかります。希望する時期に完成しないこともあるため、スケジュールについては事前に確認することをおすすめします。
以下の記事では、より詳しく小屋の法律・規制について解説しているので、あわせて参考にしてください。
>>知っておきたい小屋の注意点 建築確認は? 固定資産税は?
小屋を上手に活用するには?
多くのコストをかけず簡単に設置することができる小屋。住居とは別の小さな個室空間が欲しい人にとって小屋を持つことは魅力的な選択です。
自宅の敷地内に小屋を置く場合、まずどこに置くかを決める必要があります。その上で、土地の条件や小屋のサイズ、設備等について施工業者と相談しましょう。内装に関しては設置後にもカスタマイズしやすいので、「小屋を育てていく」ような感覚で時間をかけて理想の空間に仕上げていくのも小屋を持つ楽しみの一つです。
ぜひ記事で紹介したポイントを参考にしながら、理想の小屋ライフを始めてみませんか。
スーモカウンターに相談してみよう
自宅の敷地内に小屋を設置することに興味のある人は、ぜひスーモカウンターで相談してみませんか。小屋を置くためのスペースを考慮した家づくりについて、専門知識をもったスタッフが一緒に考えていきます。また、注文住宅の基本について学ぶことができる無料の講座も開催中です。家族が暮らしやすい理想のマイホームにするため、計画を立ててみませんか。
イラスト/青山京子
監修/SUUMO編集部(小屋とタイニーハウスの違いは?、住宅ローンのプレッシャーがない、低予算200万円で建てる小さな家の注意点)