気温が上がると、家の中に蟻が侵入してくることがあります。築年数が経過した家に限らず、新築でも小さな隙間があれば入り込む可能性があります。
とくに蟻は数匹ではなく群れで侵入するため、完全に駆除するのが難しく、小さな子どもやペットがいる家庭では殺虫剤の使用をためらうこともあるでしょう。そこでこの記事では、蟻が発生する原因とともに、効果的な対処法や侵入を防ぐ方法を詳しく紹介します。蟻対策を考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
家の中に蟻が出るのはなぜ? 放置したらどうなるの?
通常は家の外にいることが多い蟻が家の中に出るのはなぜなのでしょうか? 放置するとどうなるのか?あわせて紹介します。
家の中に蟻が出る理由は?
家の中で蟻を見つけると、なぜ侵入してきたのか気になる方もいるでしょう。ここでは、蟻が家の中に現れる主な理由について解説します。
エサを探している
「蟻はエサを求めて常に広い範囲を移動しており、その過程で家の中に侵入してくることがあります。家の中にエサとなるものを発見すると、『道しるべフェロモン』というニオイ物質を腹部から分泌し、それを頼りに行列をつくるのです。
家の中に蟻が侵入している場合、多くはエサを求めていると考えられます。蟻は雑食性で、さまざまな食べ物を好みます。とくに嗅覚が優れており、人間には感じ取れないわずかなニオイにも反応して集まってくるのです。
人間が暮らす家には、食べ物や食べカスが存在するため、蟻はその鋭い嗅覚を活かして侵入してきます。「蟻=甘い食べ物」というイメージがあるかもしれませんが、実際には甘いものに限らず、食べカスや油分などにも引き寄せられることが多いです。
蟻にとって人間の家は、エサが豊富にある魅力的な場所といえます。そのため、わずかな食べ物のニオイを感知し、家の中へと入り込んでくるのです。
巣をつくっている
「蟻は地面の下に巣をつくるイメージがありますが、壁の板と板の間など閉所空間に土を運んで巣をつくる種類も少なくありません。そのような蟻が家に巣をつくってしまうと、家の中で大量の蟻が現れるようになってしまいます」
蟻が家の中に侵入する理由の一つに、巣をつくるための環境が整っている可能性も挙げられます。エサと同様に、家の中には蟻が巣をつくりやすい場所が多く存在するのです。
蟻は、壁と床の隙間、サッシや玄関の隙間、網戸の穴など、さまざまな場所から侵入してきます。家の中にはエサがあるだけでなく、巣をつくるのに適した場所も多いため、蟻にとっては非常に快適な環境となっています。
とくに巣がつくられやすいのは、壁の隙間や床下、壁紙の裏側、カーペットの下、観葉植物の周辺などです。
梅雨の時期に避難するため
蟻は湿気が多く、土が柔らかい環境を好みます。自宅周辺に雑草が生い茂っていたり、腐りかけた木を放置していたりすると、蟻が寄りつきやすくなるでしょう。
しかし、梅雨に入り雨が多くなると、蟻は室内で巣をつくりやすくなります。さらに、この時期は蟻が活発に活動するため、家の中に侵入する可能性も高まります。
とくに気温と湿度が高い時期は、食べ物が傷みやすくなり、ニオイが発生しやすくなります。蟻は嗅覚が優れているため、わずかなニオイにも敏感に反応し、家の中へと引き寄せられるのです。
雨を避けるだけでなく、ニオイの発生しやすさも、蟻が室内に現れる要因の一つといえます。
蟻はどこから入ってくるの?
「蟻は体長が小さいため、配管で開けたような大きな穴からだけでなく、サッシや玄関の小さな隙間、床下とつながるわずかな隙間などからでも侵入してきます。また家に持ち込んだ植木鉢にもともと蟻の巣があり、そこから生息範囲を広げることもあります」
家の中の蟻を放置するとどうなるの?
「蟻はシロアリのように木材を食害することはないので、放置したからといって家自体に被害が出ることはありません。ただ、家の中に巣をつくられてしまうと目に入る機会が増えます。とくに食材に群がっているような様子は、見ていて気持ちがいいものではないでしょう。
家電に入り込んで基盤に影響が出たり、場合によっては皮膚をかまれたりすることもあるので、できるだけ早めの駆除をオススメしています」
家の中に出る蟻の種類は?
家の中に出る蟻の、主な種類を紹介します。
蟻の種類 |
特徴 |
ヒメアリ |
体長:約2〜2.5mm 食性:吸蜜性 |
イエヒメアリ |
体長:約2〜2.5mm 食性:雑食性 |
ルリアリ |
体長:約2mm 食性:雑食性 |
トビイロケアリ |
体長:約3〜4mm 食性:吸蜜性 |
ムネアカオオアリ |
体長:約10mm 食性:吸蜜性 |
蟻は種類によって食性が異なります。駆除したい蟻がどの種類かを見分けられると対策しやすくなります。
家の中に蟻が出たときの「対処法」は?
実際に家の中に蟻が出たときには、どのように対処すればいいのか伺いました。
蟻を追跡して巣の場所を確認する
「家の中に蟻が出たときには、蟻を追跡して巣の場所を確認します。家の外から入ってきている、つまり家の外に巣があるのか、それとも家の中に巣があるのかを把握しておくと、駆除する際に役立ちます」
蟻が集まる原因を取り除く
「テーブルに放置されたお菓子やゴミ箱に捨てられた食材などに蟻が集まっている場合は、その原因を取り除き、それ以上蟻が集まらないようにします」
家の中の蟻を退治する
「蟻が集まっている場所や通り道に沿ってウエットティッシュや雑巾などで拭き取ると、道しるべフェロモンを消せるので、それ以上行動範囲が広がることを防ぎやすくなります。その際、特別な薬剤は不要です」
蟻の巣ごと駆除する
「目に見える蟻だけを退治しても、巣からまた蟻が出てきてしまうので、家の中の蟻を根絶させるには巣ごと駆除することが大切です。蟻の巣の駆除には、蟻が巣に持ち帰るタイプのベイト剤(駆除剤)を置くと効果的です。ベイト剤は効果が出るのに数日から1週間程度かかることがあるので、できるだけ巣や進入口の近くで隅のほうに置くようにすると生活の邪魔になりません。
巣を見つけた場合に直接殺虫剤を噴霧する方もいますが、一般に市販されている殺虫剤は忌避性がある成分(ピレスロイド系)のものが多いので避けるのが無難です。そういった殺虫剤は、薬剤に直接触れた蟻は駆除できても、触れなかった蟻は分散して別の場所に移動してしまうので、結果的に範囲が広がる可能性があるためです」
プロに駆除を依頼する
「蟻は甘いエサを好む種類、油分を好む種類があるので、ベイト剤を置いて2週間程度たっても効果がなければ別のタイプを試してみましょう。その間ベイト剤は動かさないことが大切です。市販のベイト剤を試してみても効果がない場合は、プロに駆除を依頼するのも方法の一つです。プロは蟻の種類によって適切な駆除方法を見極め駆除するので、安心して任せてよいでしょう」
殺虫剤がないときにすぐできる「簡易的な対処法」も紹介
家の中に蟻が出たときは、できるだけ早めに対処するのが理想です。しかし、蟻対策のアイテムを常備していないこともあるでしょう。そこで、殺虫剤がなくてもすぐに試せる簡単な対処法を紹介します。
お酢やレモンで蟻を撃退する
蟻が家の中に侵入した際、殺虫剤がない場合でも、お酢やレモンを使って対処できます。昔から蟻の退治に効果があるとされているのがお酢やレモンで、これらに含まれるクエン酸が有効とされています。
お酢に含まれる酢酸は、生物の体内でクエン酸に変化する性質があります。蟻はこのクエン酸に弱いため、レモン水を使用するのも効果的です。
また、お酢やクエン酸スプレーを直接かけると、蟻の動きを鈍らせることができます。さらに、蟻の通り道にスプレーをしておけば、蟻が出す蟻酸(ぎさん)を中和し、侵入を防ぐ効果も期待できます。
蟻の侵入を防ぎたい場合は、お酢やレモンを水で薄めたスプレーをつくり、侵入しやすい場所や蟻に向かって噴射するとよいでしょう。
重曹を使用する
蟻の退治に効果的なのは、お酢やレモンだけではありません。重曹にも蟻を寄せ付けない効果があります。
蟻が1匹でも侵入すると、次々に仲間を引き寄せてしまいます。しかし、重曹を体内に取り込むことで、強力な殺虫効果を発揮します。その理由は、蟻の体内に含まれる「蟻酸」にあります。
蟻酸は、蟻が食べ物を消化するために必要な成分ですが、これが重曹と結びつくことで、二酸化炭素が発生する化学反応が起こります。重曹に含まれる炭酸水素ナトリウムの弱塩基性が作用し、蟻の体内で酸性のバランスを崩してしまうのです。その結果、重曹を口にした蟻は死んでしまいます。
ただし、蟻は本能的にこの危険を察知するため、重曹を口にしようとはしません。そのため、殺虫剤ほどの即効性はないものの、蟻の侵入を防ぐのには効果的です。
重曹は化学薬品を使わずに蟻を撃退できるため、殺虫剤よりも安心して使用できるでしょう。
食器用洗剤も安全で効果的
蟻が家の中に侵入してきたものの、お酢やレモンなどのクエン酸も重曹も手元にない場合は、食器用洗剤を活用するのもオススメです。ただし、そのまま使用するのではなく、水2:食器用洗剤1の割合で薄めて使いましょう。
蟻の体の表面には水を弾く性質があり、水をかけてもほとんど効果がありません。しかし、食器用洗剤を加えることで、界面活性剤が蟻の体に付着し、呼吸口をふさぐことで窒息させることができます。
食器用洗剤は家庭に常備されていることが多く、手軽にスプレーするだけで侵入した蟻を退治できるため便利です。使用後は、洗剤が残らないようにしっかり拭き取っておきましょう。
家の中に蟻が出ないようにするための「予防策」は?
家の中に蟻が出ないよう、予防する方法はあるのでしょうか?
家を建てるときにできる対策
「家を新築するときには、シロアリ対策として床下に防蟻処理(ぼうぎしょり)を行うことが建築基準法で義務付けられています。防蟻処理を行うと、床下から侵入してくる蟻に対しては一定の効果を得られます。ただしそれ以外、例えば玄関やサッシの隙間からなどの侵入を防ぐことはできません。
なおシロアリが食害した木材は空洞が多く、蟻にとって格好のすみかとなり得ます。家を守り、さらに蟻が住み着くのを防ぐためにも、防蟻処理は定期的に行うことをオススメします」
家を建てたあとにできる対策
「家を建てたあとの蟻対策としてもっとも重要なのは『清掃』です。蟻は動植物の死骸や昆虫類、甘いものなど、さまざまなものをエサにします。蟻のエサになるものが家屋外周にあると、フェロモンを頼りに蟻が集まり、結果として巣をつくられることにつながります。そうならないよう家屋の周辺は常に掃除し、蟻が巣をつくりにくい状態にしておきましょう。
屋内においても、食べ物をそのままにしていると蟻を呼び寄せてしまいます。食品類は容器に入れたり、冷蔵庫の中に入れたりして保管する。ゴミ箱は蓋付きにするなど工夫しましょう」
蟻以外の害虫の浸入や被害を防ぐ対策は?
家の中には蟻以外にもさまざまな害虫が入ってきます。ここでは主な害虫の侵入や被害を防ぐ方法を伺いました。
シロアリ対策
新築時に施した防蟻処理は、5年程度で効果が切れるのが一般的です。効果が切れる前に再散布すると、シロアリの侵入を防ぎやすくなります。
「シロアリの薬の再散布は、施工いただいた会社や建築会社に依頼するのが一般的です。施工会社が不明な場合や対応が難しい場合には、弊社でも施工を承っております。
シロアリは日の当たらない場所や風通しの悪い床下など、人目につかないところの湿った木材を食害します。家の周囲に地面に接する形で木材を放置しないことも大切です。万一シロアリを見つけた場合は、会社に依頼し薬剤の散布やベイト剤で駆除してもらうとよいでしょう」
ゴキブリ対策
「ゴキブリも蟻と同様、窓のサッシなどのわずかな隙間から侵入してくるので、隙間がある箇所にテープなどを貼り塞ぐことが肝心です。家の中や周囲は清掃して乾燥させ、さらに生息場所となりやすいキッチンなどの水まわり、電化製品の周辺、家具の中などにベイト剤を置いておくとよいでしょう」
ムカデ対策
「ムカデにかまれると、腫れが長期間引きません。そうならないためにも、普段から徹底した対策が不可欠です。ムカデは乾燥に弱く湿った場所を好むので、床下換気扇を設置するなどして床下に湿気がこもらないようにしておきましょう。また家の周りの落ち葉や雑草をそのままにしていると住み着いてしまうので、掃除・お手入れをすることも大切です」
蚊対策
「蚊については、まずは発生を防ぐことを考えましょう。蚊の幼虫(ボウフラ)は、わずかな水たまりで発生・繁殖します。空きビンや容器類など水たまりになりやすいものは片付けるか、日の当たらない場所に置きましょう。植木鉢の受け皿はこまめに水を入れ替えると安心です」
クモ対策
「クモはハエ、ゴキブリ、飛翔性昆虫(飛ぶことにより移動する昆虫)を捕食するので、まずはエサとなる虫の侵入や発生を防ぐことが重要です。蛍光灯は虫が寄りつきやすい紫外線を発するので、LEDに替えると一定の効果が期待できます」
掃除が一番の予防策! 手に負えない場合はプロに駆除を依頼しよう
最後にあらためて齋藤さんに、蟻を含む不快な害虫に対処する際の心構えを伺いました。
「蟻を含む不快な害虫はあらゆる場所に住んでおり、100%予防する方法というのは残念ながらありません。しかし小さな心掛けや早めの対処で、被害を最小限に抑えられます。まずは家の中や周りのお掃除をこまめに行うことが、虫を家に寄せ付けず、被害を防ぐ一番の予防につながります。
それでも害虫が発生してしまい自分では手に負えない場合は、それ以上被害を広げないためにもプロに駆除を依頼することを検討しましょう。プロに依頼する場合は、事前に見積もりを取ったうえで、事前説明がきちんとしている会社を選ぶのがオススメです」
取材・執筆/佐藤カイ(りんかく)、SUUMO編集部