限られた面積を有効活用してつくることができるインナーガレージ。山下建設の渡邊哲夫さんと針山弥生さんにお話を伺い、注文住宅にインナーガレージを取り入れる際のポイントについてまとめました。おしゃれで便利なインナーガレージにしたいと考えている人はぜひヒントにしてください。
インナーガレージとは?
定義や特徴
インナーガレージとは、建物の中に駐車スペースを取り入れたガレージのことです。3階建て住宅の1階部分をガレージにするなど、限られた土地でも有効に使い駐車場を設けることができるため、都市部の住宅密集地ではよく採用されています。
「設計次第で、家の中からガレージを眺められるようにしたり、アウトドアを楽しめる空間にしたり、趣味のスペースとしても活用することができます」(渡邊さん)
都心の狭小地では敷地内に駐車場を設けることが難しく、住宅の1階部分をガレージにする手法が人気です。都心部では建売でもインナーガレージ付きの家はありますが、車の車種や台数によってガレージに必要な広さや高さが異なるため、建売よりも注文住宅のほうがより使いやすいインナーガレージにすることができると言えます。また、建築コストが高く、規格住宅には採用しにくいという事情もあります。
ビルトインガレージとの違い
インナーガレージと似た言葉に「ビルトインガレージ」というものがあります。両者の構造に明確な違いはなく、ほぼ同じものであると考えてよいでしょう。近年はインナーガレージよりもビルトインガレージのほうが馴染みのある呼称かもしれません。
また、インナーガレージやビルトインガレージを備えた家のことを「ガレージハウス」と呼びます。
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インナーガレージのメリット
雨に濡れず車に乗り降りできる
「屋根のないオープンタイプの駐車場や、屋根だけ設けたカーポートの場合、建物と車の間を移動するときに雨に濡れてしまうおそれがあります。しかし、インナーガレージはそういった心配がありません。大荷物の買い物や子連れの外出の際も、傘をささなくてよいので便利です」(針山さん)
狭小地でも駐車スペースを設けることができる
狭小地の住宅に駐車スペースを設けたい場合、インナーガレージをつくるという選択肢があります。建物の1階部分をガレージにして上階を居住スペースにすることで、駐車のための土地を用意する必要がなくなります。
固定資産税が軽減される
インナーガレージは容積率の緩和を受けることができ、延床面積に対し5分の1までの広さであれば建築基準法では床面積には含まれません。そのため固定資産税の負担を軽減することができます。
また、地下にインナーガレージをつくる場合は、延床面積に対し3分の1までの広さであれば容積率の規制を受けないため、この場合も固定資産税が軽減されます。ただし、ガレージの設備が豪華な場合などは課税対象になることも。設計時、建築会社によく確認をしてみましょう。
趣味のためのスペースとしても活用できる
「愛車を鑑賞して楽しんだり手入れをしたりするためにインナーガレージを希望する方もいます。サーフィンやキャンプなどアウトドアの道具をしまう場所として活用することも可能です」(針山さん)
部屋に転用することも可能
「入居後に車を手放すことがある場合、容積率に余裕があればリフォームしてインナーガレージを部屋に転用することも可能です。シアタールームやキッズスペースにするなどプラスアルファの空間として活用できます」(渡邊さん)
インナーガレージのデメリット
間取りが制限される
インナーガレージをつくることによって、生活スペースを2階以上に確保するなど、間取りの制限が生まれる可能性があります。都市部の狭小地においては1階にインナーガレージ、2階と3階に生活スペースといった間取りが通例です。上下移動が発生することを考慮し生活動線を考えたほうがよいでしょう。
また、インナーガレージで発生する音が建物内に響くことを気にする人は、寝室やリビングをインナーガレージから離れた場所に配置するなど間取りの工夫が必要です。
1階の大部分がガレージのため住宅の耐震性が低くなる可能性がある
「都市部の3階建てガレージハウスのように、1階の大部分がガレージになる場合、車が出入りする部分に壁や柱を設けられず家を支える力が弱くなります。そのため、国の基準値をクリアした耐震性は保たれているものの、通常の住宅と比較すると耐震性が低くなる可能性があります」(渡邊さん)
耐震性に関して不安がある場合は、建築会社とよく相談しましょう。
防犯対策が必要
「敷地の門扉やガレージのシャッターのセキュリティーがしっかりしていれば、インナーガレージの防犯はそこまで気にする必要はないと思います。しかし、万が一不審者が侵入した場合、ガレージの内部は姿を隠しやすいため、心配な方は防犯対策を強化したほうがよいかもしれません。また、野良猫など動物がガレージ内に入ってしまう可能性もゼロではありません」(渡邊さん)
インナーガレージに必要な広さと高さは?
広さ
インナーガレージの広さや高さは、車の台数や希望する間取りを考慮しながら決める必要があります。
「一般的な広さの目安は、車1台分であれば横幅3m×奥行き5m、2台分なら横幅6m×奥行き6mほどになります。さらに横幅を90cmほど追加すると人がスムーズに出入りしやすくなります。バイクガレージの場合は中型バイク1台分で約3畳ほどのスペースが目安となりますが、バイクは車種ごとに車体のサイズが大きく異なるため、愛車に合わせてガレージを設計するとよいでしょう。
また、インナーガレージに家具などを置いて趣味の時間を楽しみたい場合は、さらに3畳ほど面積をプラスすると空間にゆとりが生まれます。しかし、インナーガレージを大空間にしてしまうと建物の強度に問題が出てくる場合があるため注意が必要です」(渡邊さん)
高さ
「天井の理想の高さに関しては住宅ごとに差異はありますが、一般的な天井高をもとに計画すると約2.3mほどが目安となります。もしもインナーガレージの天井を低くしても問題ない場合は、1m80cmほどに高さを制限し、ガレージの上にスキップフロアを設けるといった選択肢もあります。また、3階建ての場合はそもそも階高が低いため、天井を高くできないのが一般的です」(渡邊さん)
後悔しないインナーガレージをつくるための注意点は?
地震対策をする
1階の大部分にインナーガレージをつくると、出入口に柱や壁をつくれないため耐震性が低くなります。そのため、デザインや機能だけを優先せず、構造のことも考えてインナーガレージを計画しましょう。建築会社によって手法や費用は異なるため、見積もりをする際に相談してみるとよいでしょう。正確な構造計算に基づいて耐震設計をしている建築会社に依頼することが大切です。
車を買い替える際はサイズに注意
「車を買い替える際はガレージ内に収まるかを確かめる必要があります。家を建てた当時よりも大きな車種に変更する場合は要注意です」(渡邊さん)
一度つくったインナーガレージを広げるには大掛かりな工事が必要となりその分のコストもかかります。インナーガレージの広さと高さを正しく把握した上で車を選ぶことが大切です。
換気扇を設置する
排気ガスや揮発したオイルは健康に悪影響があるとされているため、特にガレージの中で愛車の手入れをする場合、排気ガスや湿気がこもらないように、インナーガレージの中に換気扇を設けたほうがよいでしょう。換気扇はシャッターや窓から離れた壁に設置すると、ガレージ内を効率よく換気できます。
予算や用途に合わせてシャッターを決める
シャッターを設けると、防犯性やプライバシー保護を高め、台風などの災害時にも安心です。しかし、シャッターを設けないことのメリットもあります。
「車の出入口にシャッターを設けないことで建築費用を抑えることができます」(渡邊さん)
予算やガレージの使い方に合わせてシャッターの有無や種類を決めるとよいでしょう。
室内につながる出入口は引き戸が便利
「ガレージと室内をつなぐ建具は引き戸が便利です。引き戸は開閉のときにスペースをとらず、開けたままにするなど柔軟な使い方ができます。大きな荷物の積み降ろしの際も負担が軽減できます」(針山さん)
一般的な引き戸の大きさは横幅約60cmほどですが、70cm以上あると余裕を持って出入りできます。
電気自動車のための充電設備を設ける
「電気自動車を使用する場合は、ガレージの中に充電設備をつくりましょう。電気自動車の充電設備というと大掛かりなものをイメージするかもしれませんが、照明のスイッチと変わらないくらいの大きさで壁付できるコンセントが主流なのでスペースも必要ありません」(針山さん)
レイアウトを工夫しておしゃれな空間に
趣味の空間としてガレージを使用する場合、レイアウトにこだわることでデザイン性の高い空間になります。
「アメリカンガレージを意識したインテリアや、ネオンサインなどの電飾を設けるとおしゃれな雰囲気を演出できます。DIYでOSBボードや有孔ボードを壁に取り付ける手法も人気です」(針山さん)
便利でおしゃれなインナーガレージになるポイントを実例付きで紹介
新築の注文住宅に便利でおしゃれなインナーガレージを取り入れるときのコツを、山下建設の実例と共に紹介します。
カリフォルニアスタイルの外構に溶け込むデザイン
カリフォルニアスタイルの優雅な外構に溶け込むインナーガレージ。大型車2台を格納できる奥行きのある空間になっています。ガレージの天井にはおしゃれなペンダントライトを設置。照明器具にもこだわっています。
2カ所に駐車スペースを確保したガレージハウス
建物の正面にインナーガレージを、側面にはウッドバルコニー下部の空間を有効活用してもう1台分の駐車スペースを設けた実例。愛車を守るガレージは、真っ白な外壁と無垢材の外観に馴染む、シンプルなデザインに仕上がっています。
参考にしたい! インナーガレージのある家を建てた先輩たちの実例を紹介
ここからは、スーモカウンターを通じてインナーガレージのある家を建てた先輩たちの実例を紹介します。ぜひ家づくりのヒントにしてください。
【case1】愛車と共に暮らすマイホーム
夫の実家がある敷地内に新築で家を建てたDさん夫妻。土地に制約がないため、趣味を楽しむことができるガレージを設けた家にすることにしました。玄関直通のガレージは、いつでも気軽にドライブに出かけられることに加え、買い物の後の負担が軽くなるというメリットも。リビングの窓から愛車を眺めたりガレージで車を洗ってリフレッシュしているとのことです。
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自慢のインナーガレージ付き!外観にもこだわった、三角屋根が連なる平屋の家
【case2】秘密基地のようなバイクガレージがある家
子どもたちがのびのびと過ごせる環境を求めて注文住宅を建てることにしたUさん一家。趣味のバイクを置くことができるガレージを設け、室内からもガレージ内部を見られるように設計しました。外に出ることなく、土間からガレージに移動できるのもこだわりのポイントです。
この実例をもっと詳しく→
家族が伸びやかに暮らせる、つながりのある住まい
インナーガレージを注文住宅に取り入れる際のポイント
最後に、インナーガレージを注文住宅に取り入れる際のポイントについて伺いました。
「インナーガレージを住まいに取り入れると、愛車を大切に管理することができ、さらに建物と車の動線が便利になります。予算やライフスタイルに合わせて広さや設備、屋内との動線などを考えていきましょう。また、通常の住宅とは建物の構造が異なるため、インナーガレージの施工例が豊富な建築会社に依頼すると安心です」(渡邊さん)
スーモカウンターに相談してみよう
注文住宅にインナーガレージを取り入れたいと検討している人は、ぜひスーモカウンターに相談してみてください。アドバイザーがお客様の家づくりを全面サポートします。注文住宅を建てたいけど何から始めたらいいの?という方も大歓迎。家づくりのヒントからお金のことまで親身になって相談に乗ります。
取材協力/渡邊 哲夫さん 針山 弥生さん
取材・文/佐藤 愛美(りんかく) イラスト/石山好宏