腰壁は、部屋の雰囲気を変えるおしゃれなインテリアの一つとしてだけでなく、実用的な面もあります。一方でメリット・デメリットや費用がどのくらいかかるのかわからず、取り入れるかどうか迷う人もいるでしょう。そこで、石川淳建築設計事務所の石川淳さんと、カタリナハウスの成松弘之助さんに話を聞きながら実例を紹介します。
腰壁とは
腰壁の読み方は「こしかべ」です。そして腰壁という言葉が意味するものは、大きく分けて二つあります。
装飾的な仕上げによる腰壁
一つ目が壁の下部を、板やタイルなど異素材や異なる色のものに切り替えて仕上げた壁のことをいいます。人の腰の高さくらいで素材を切り替えることが多いことから腰壁と呼ばれます。
装飾的な腰壁の役割
床から1mくらいの高さの壁は、日常生活の中で人やペットが行き来したり、物をぶつけたりこぼしたりして、傷や汚れがつきやすいものです。腰壁には、それらを予防する役目があります。また、異素材を組み合わせることで、デザインのアクセントにもなります。
装飾的な腰壁を取り入れる場所
成松さんによると「家族で過ごすことの多いリビング、汚れがつきやすいトイレや洗面所に切り替えの腰壁の仕様を希望されるケースが多い」そうです。それ以外にも、デザインとして寝室や廊下など、いろいろな場所で取り入れられています。
装飾的な腰壁のメリット
「腰壁をタイルなどの素材にすれば、掃除がしやすく防水防臭対策としても有効です。また、腰壁に汚れや傷ができても、傷ついた部分を上からペイントするなどして、比較的簡単に補修できます。ペットを飼われている方にもお勧めです」(成松さん)
ほかにも、腰壁に取り入れる色調や組み合わせる素材によって部屋に変化をもたらし、おしゃれに演出することもできます。
装飾的な腰壁のデメリット
腰壁は、色や素材によっても大きく印象が変わるので、慎重にシミュレーションしてから決めないと、後から「イメージと違う!」と後悔することになりかねません。
「施主からは写真などの資料と共に『こんな感じにしたい』とイメージを伝えていただいた上で、任せていただくケースがほとんどです。打ち合わせでパースと施工事例のお写真を見て決めていただきますが、最終的にどのように仕上がるかイメージするのは、なかなか難しいかもしれません。私たちは、実物のカットサンプルを用いて違う種類を組み合わせたり、カラーチャートと合わせて確認していただくなどの工夫をしています」(成松さん)
また、壁紙のみの壁より、費用がかかる点もデメリットです。
「ざっくりとした目安として材料費だけで、全面を壁紙で仕上げるよりも腰壁の面積1㎡あたり5000円〜1万2000円程度はアップするでしょう」(成松さん)
さらに、壁に段差ができるため、埃がたまりやすく、こまめな掃除が必要になります。
仕切としての腰壁
「腰壁」という言葉を使う二つ目のケースは、例えば、吹抜けで普通なら手すりを設置するところを、腰までの高さの壁にする場合に、建築的な視点でこれを腰壁といいます。腰壁の向こう側の空間とつながりを持たせながら、部屋を仕切る壁としての役割を持っているのが特徴です。
「私が普段、腰壁という場合は、空間を仕切る壁の中で高さが腰までのもののことをいいます。吹抜けのほか、マンションのバルコニーなどの腰までの高さの壁も腰壁です。図書館などの公共の建物では避難経路などに使われる手すりという意味での腰壁の場合は、建築基準法で1.1m以上とされています。しかし住宅の場合、木造2階建てでは、この規定は適用されません」(石川さん)
仕切りの腰壁の役割
まず挙げられるのは、手すりの代わりとしての落下防止です。腰壁で隠れる下の部分は見えないので、目隠しにもなります。また、パーテーションのように空間に奥行きを持たせながら、境界線としての役割も果たします。
仕切りの腰壁を取り入れる場所
仕切の腰壁は、階段や吹抜けの2階部分などに多く利用されたり、スキップフロアなどの段差がある部分にもよく用いられます。
仕切りの腰壁のメリット
部屋の中に腰壁があると、腰壁のない部屋よりも、広く感じる効果があります。
「手すりのように線で区切られているよりも、部屋の途中に腰壁があると、壁の向こう側と壁の面を同時に認識して奥行きを感じることができます」(石川さん)
コスト面においても、全面を壁にするよりも面積が少ないので、費用を抑えられます。
「素材や仕様にもよりますが、壁と同じ素材で設ける腰壁において、多くの場合は、家の躯体と同じ大工仕事の範囲で賄えます。そのため、一般的に別素材の手すりを設置するよりも壁と同素材の腰壁のほうがコストカットできるのです」(石川さん)
仕切りの腰壁のデメリット
デメリットは、上の部分が抜けているので、全面の壁で仕切るよりも冷暖房効率が悪くなる可能性があることです。
また、空間設計においてデメリットになる点はあるのでしょうか。
「手すりと違って向こう側が見えなくなるので、『抜け感がない』点をデメリットという人もいますが、それは好みによります」(石川さん)
腰壁に取り入れられる素材
腰壁に使用される素材はさまざまです。それぞれの特徴を理解して、デザインや好み、また予算なども考慮しつつ選びましょう。
モールディング
表面に凹凸があり、光が当たったときに印象的な陰影ができるのが特徴です。既製品のパーツは種類も豊富で、木製のものや樹脂でできたものもあります。一般的に上からペイントして仕上げるので、多少汚れたり傷がついて色が剥げても、上からペイントして直すことができます。
値段は全面が同じ仕様の壁と比べると高め。基本的にはデザインの凹凸が大きい製品ほど高価になります。さらに埃がたまりやすいのもデメリットでしょう。
板張り
板張りの腰壁は、ナチュラルなテイストの部屋に合います。杉などを使えば和風の部屋にも対応できるでしょう。
素材はさまざまで、無垢材(むくざい)もあれば、シート張りタイプなどもあります。もし天然木を使うのであれば、1㎡あたり1万円以上する場合もあります。
メリットとしては、木材なので加工しやすく、質感など完成の様子をイメージしやすいことです。
モルタル
近頃では、モルタルをキッチンなどの腰壁に使用するケースが増えています。外壁などにも利用されるモルタルですが、防水や汚れ防止の観点よりも、どちらかというと仕上がりのデザイン性で採用されるようです。
「本物のモルタルは経年と共にひび割れなどが生じる恐れがあるため、最近ではモルタル調の塗装を使用するケースが多いですね。施工は左官の仕事になるので、工期やコストがかかることに注意してください」(石川さん)
タイル
タイルは防水性があり、普段の掃除もしやすいため、トイレ・洗面所・キッチンなどで腰壁として使われることが多い素材です。
「水を使うところに限らず、デザインとしてタイルを取り入れる場合もあります。
タイルのデメリットはコストです。種類にもよりますが、1㎡あたり1万2000円は下らないでしょう」(成松さん)
壁紙
腰壁は、素材によっては費用が高くなりがちですが、機能性よりもデザインとして腰壁を取り入れるなら、壁の上の部分と違う壁紙を張ることで「腰壁風」に仕上げられます。この方法であれば、費用はかなり安く抑えられるでしょう。
腰壁を取り入れた実例を解説!
腰壁の実例と専門家による解説を紹介します。
木の板でモールディング風に仕上げた腰壁
白い腰壁は一見、モールディングのようですが、実は木材を張り付けて上からペイントしています。そうすることで、既製品のモールディングを使うよりもコストを抑えることができます。
「日本の住宅の場合、天井の高さは大体2m40cm程度。腰壁の高さは、人の腰の高さだと普通は1m〜1.2mくらいですが、そのまま日本の住宅に当てはめると、切り替え部分より上側が狭くなり、圧迫感を感じてしまいます。そこで、日本の住宅に合わせて腰壁の高さを70cmに抑え、空間の高さを感じられるようにしました。
キッチンの腰壁は手元を隠すために1.2mの高さがありますが、壁の腰壁と同じ色にするとバランスが良くないので、床と同素材のオーク材を使用し、床とつながりを持たせています」(成松さん)
タイルの腰壁をリビングに配置
この家は、猫を7匹飼っていて、猫たちの毛などが壁に付着しやすいのが施主の悩みだったそうです。そこで、キャットウォークの下を、あえてタイルの腰壁にして壁に傷がつきにくく、汚れても拭き掃除がしやすいようにしました。
「ツルツルした素材はタイル以外にもいろいろありますが、木の素材がメインの部屋にタイルの質感がアクセントになっています」(成松さん)
吹抜けの腰壁
仕切りの腰壁の事例です。吹抜けの上階に腰壁を配しています。
「施主からは、なるべく物を置かずにすっきり見せたい、ミニマムな空間にしたいと要望がありました。
腰壁の向こうは吹抜けになっていて、下のリビングから見上げたときに、上階に置いてある物が見えないようにするために手すりではなく腰壁にしています。
窓からバルコニーが見え、空間の広がりを感じられるのも特徴です」(石川さん)
モルタルのグレー壁キッチン
「対面式のキッチンを希望される人は多いのですが、既製品のアイランドキッチンなどを配置すると、リビングやダイニングの雰囲気がキッチン自体のデザインに引っ張られてしまいます。そこで腰壁を設け、その裏にI型のキッチンを設置したペニンシュラキッチンを提案することが増えてきました。部屋の雰囲気がキッチンの影響を受けづらく、コスト面においても、I型のキッチンのほうが断然安くできます」(石川さん)
既存の壁にタイルを張った腰壁
「洗面所の水が飛び散っても汚れにくい壁を」という要望から、壁の三面に白いタイルを張って腰壁とした事例です。
「元々の壁の上にタイルを張っただけのものです。腰壁の広さは3㎡くらいですが、トータルで4万円くらいでできました」(成松さん)
色彩を統一してスッキリ見せるモールディング壁
モールディングの腰壁でも、ペイントで上下の色をそろえると、違った印象になります。
「この部屋は、ファブリックや絵を壁にたくさん飾っており、腰壁を別の色にするとごちゃごちゃした印象になってしまうため、同じ色でそろえました。
ただの塗り壁だと、絵を飾っている上部が賑やかで足元がやや寂しくなるため、下の部分をモールディングの腰壁にしてバランスを取っています」(成松さん)
腰壁を取り入れて素敵な住まいを手に入れた先輩たちの事例を紹介!
腰壁を住まいに取り入れて暮らしやすさを追求したり、デザインにこだわったり。さまざまな仕様の腰壁の事例を紹介します。
【case1】キッチンの腰壁はホワイトボードにも!シンプルで長く住みやすい家を実現
夫の両親との同居を視野に入れた家づくりのためスーモカウンターへ相談に訪れたTさん夫妻。
アドバイザーから紹介された住宅メーカーのモデルハウスを見学し、自分たちに合ったサイズ感などの目安を把握。さらに、スーモカウンターで希望のエリアに土地を持っている会社との面談を設定してもらい、その会社で担当者とこだわりや希望を相談しつつ、理想の家を建てました。
キッチンは、手元が見えないように腰壁を立ち上げたペニンシュラキッチンを選択。キッチンとリビング側にはホーローパネルを張り、ホワイトボードとしても使う予定です。
この実例をもっと詳しく→
思い通りにできたシンプルな佇まいの切妻屋根がかわいい家
【case2】壁紙にもこだわり、イメージ通りのデザインテイストの家が完成!
結婚を機に、注文住宅建築を検討し始めたSさん夫妻。よく利用する商業施設にあるスーモカウンターを訪れました。
「よくあるデザインの家ではなく、シックで落ち着いた雰囲気の家を低コストで建てたかった」と話すSさん。アドバイザーから紹介された6社から最後は担当者との相性や直感で決めました。
センスが光る個性豊かなデザインの家にSさん夫婦も満足だそう。寝室は、壁紙で腰壁風に仕上げ、シャンデリアも取り付けたフレンチテイストに仕上げました。
腰壁風の壁紙で大人ガーリーな雰囲気の寝室(写真/和田真典)
この実例をもっと詳しく→
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腰壁を取り入れた住まいで後悔しないためのポイント
注文住宅に腰壁を取り入れる場合、素材によって空間の雰囲気や手入れのしやすさが変わるため、機能性を重視するのか、デザインとして取り入れたいのか、腰壁の目的についてあらかじめ整理するのが大切です。
さらに取り付けの高さによっても部屋の印象は大きく変わるため、天井高とのバランスを見て施工することが必要です。
独立した腰壁で落下防止の手すりの代わりとして設置する場合は、安全のために高くするのか、一体感を持たせるために低くするのか、目的に合わせてよく検討しましょう。
スーモカウンターに相談してみよう
海外のおしゃれな家のように腰壁を取り入れたいと考えても、失敗したくはありませんよね。そのようなときは、ぜひスーモカウンターにご相談ください。スーモカウンターでは、ご要望を伺い、お客さまの希望をかなえてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
無料の個別相談のほか、「はじめての注文住宅講座」や「ハウスメーカー・工務店 選び方講座」など、注文住宅の家づくりに役立つ無料講座も利用できます。ぜひお問い合わせください。
取材協力/
石川淳建築設計事務所
株式会社カタリナハウス
取材・文/和田 文(りんかく)