奈良県生駒市に戸建てを建て、4匹の猫、3匹の犬と暮らすyumiさん。
10年以上にわたって理想の土地を探し、ペットたちのため空間や建材などにこだわった平屋を自ら設計しました。犬と猫を複数飼っているからこその工夫もたくさん。
大切な家族の一員であるペットが快適に、そしてのびのびと過ごせる家づくりに取り組んだ人に登場いただく「ペットと家」第4回です。
こんにちは、yumiと申します。工務店でデザイナーとして働いています。
私は2021年に奈良県生駒市に一戸建てを建て、パートナーと大学生の娘、そして猫たち、犬たちと一緒に暮らしています。
生まれは大阪市内、育ちは奈良県の小さな町。自然豊かな環境で育ったせいか、私は幼いころから山や空、生き物といった自然が大好き。いつかは「山奥で暮らしたいな」と思っていました。
そんな私が出会った“運命の土地”と、仕事の経験を生かした愛着たっぷりのわが家についてお話しします。
【目次】
- 10年以上探した、ペットと過ごせる理想の土地
- 高齢のペットのため段差を極力なくした「シンプルな平屋」
- 勾配天井で猫の「隠れ家」を用意。脱走対策もばっちり
- 土間には薪ストーブ。冬はペットと人間が場所の奪い合い
- 自然との調和を意識した空間で、四季の変化を感じる
- 「家族の一員」としてプランニングする
10年以上探した、ペットと過ごせる理想の土地
ペットを飼い始めたのは、2009年のこと。娘とお出かけした際に何気なく通りがかったペットショップで、“特価”になっていた猫を見て「この子はこのまま買い手が現れなかったらどうなるんだろう……」と思い、最初の猫・コタロウを迎えたのが始まりでした。
「お留守番が多いうちの環境では、1匹だと寂しいかな?」と思っていたときに保護猫のチョビちゃんに出会い、2匹目をお迎え。そのあとは里親募集サイトを頻繁に見るようになったり、知人から声がかかったり、あれよあれよという間に猫が増えました。
里親募集サイトで見かけたパグのだん吉をお迎えしてからは犬も飼うようになり、猫と同じく「もう1匹いる方がいいよね」と2匹目をお迎え(笑)。当時は2階建ての戸建てに住んでいて、最も多いときで猫は6匹、犬は2匹を飼っていました。
残念ながら2022年の夏と2023年の春に2匹の猫が天国へ行ってしまい、現在は4匹の猫(スコティッシュフォールド1匹、MIX3匹)、3匹の犬(パグ2匹、ラブラドール・レトリーバー1匹) 、ニワトリとともに過ごしています。
パートナーとは「いつかは山奥に家を建て、豊かな自然に囲まれた環境でペットたちと一緒に暮らしたい」と話していて、子どもが巣立ったあとに二人でひっそりと過ごせるような場所を10年以上探していました。
「自然豊かな環境」は第一条件だけれど、あまりにも山奥過ぎると生活がしづらい。気になる土地はいくつかあったものの、電気やガスといったライフラインが通っていなかったり、駅から徒歩で小一時間かかるような不便な場所だったりと、なかなか希望した条件の土地には出会えていませんでした。
そんなある日、パートナーが見つけてきた今の土地はまさに理想! 住宅に囲まれておらず、木や森が見える。それでいてライフラインや宅地用の造成もできている、という好条件。
「今、決断しないとすぐに売れてしまうのでは……」と思い、その場で間取図のラフを書いてパートナーにプレゼン(笑)。合意を得て、すぐに契約とプランニングに動き出しました。
高齢のペットのため段差を極力なくした「シンプルな平屋」
以前10年ほど住んでいた家は、中古の戸建てを購入しリフォームした物件。持ち家ということで、和室を洋室にしたり、電気式の床暖房を設置したりとペットたちと快適に暮らすため少しずつバージョンアップしていました。しかしまだ不便さを感じる部分もありました。
中でも特に気になっていたのが、階段をはじめとする「段差」。猫たちも犬たちもみんな10歳以上と高齢化しており、特に犬たちは段差が苦手で、階段の上り下りが難しくなっていました。
犬たちと寝室で一緒に眠りたい! でもリビングは1階、寝室は2階とフロアを分けると毎日犬を抱えて上り下りすることになるし、犬たちの生活空間と、人間の生活空間が断絶してしまう。
そんな悩みを解消するため、今の家は階段はもちろん段差もできるだけ減らした「平屋」を選び、人間も動物たちも同じフロアで生活できるようにしました。
平屋で7匹のペットがいると聞くと窮屈に感じる方もいるかもしれませんが、心地よく暮らせるように庭や縦の空間も含めて設計。自分の好みのテイストである「シンプル」も意識し、小さいけれど快適で開放感のある家が完成しました。
人間はもっぱらダイニングで過ごし、リビングは犬や猫たちのくつろぎスペースになっています。LDKの奥には寝室があり、ドアを開けておけばペットたちも自由に行き来ができます。
勾配天井で猫の「隠れ家」を用意。脱走対策もばっちり
犬と猫を多頭飼いしているからこそ、それぞれがゆったり過ごせるための工夫も凝らしました。
特に猫には、ときには犬や人間から離れて静かに過ごせる“隠れ家”が必要。勾配天井を取り入れ、縦空間を最大に使い、犬が侵入しない退避場所をいくつか設けています。
土間の隅には床から上れる猫用のステップが付いており、梁(はり)を渡って反対側の壁に移動したり、土間上部にある高窓のそばでくつろいだりして過ごせるようになっています。キャットウォークの役割も果たす梁は最低限必要な本数よりも1本多くつくって、猫の動ける範囲を増やしました。
なお、窓は脱走を防ぐため、ハンドル式の滑り出し窓を多く採用しています。以前の家では、かしこい子が引き違い窓の錠に爪をひっかけて上手に開けてしまうのが悩みだったので……。
また、地上にも「キャットスペース」と名付けた空間を設けています。
厳密には猫だけのスペースではありませんが、半土間にして猫の自動トイレと犬のトイレを置き、天井には脱臭システムを備えた埋め込み型の換気扇を設置しています。トイレの上の可動棚にはトイレシートや猫砂、フードなどのペット用品を収納しています。
前の家ではいろんなところに猫トイレを設置していたので掃除だけでも大変でしたが、自動トイレを導入してから手間が省けています。猫がトイレを退出すると1分で自動清掃され、容器が満タンになるとアプリに通知が届きます。排泄物は密封された容器にたまるためにおいも軽減されます。
また、猫たちそれぞれの体重を登録しているので、どの子がトイレに何分入ったかもその都度通知され、猫たちの健康管理にも役立っています。
広さは2畳分ほどですが、縦にも横にも無駄なく空間を使えるよう工夫しており、生ゴミ処理機、精米機、ホームベーカリーといった家電を置けるスペースや、掃除道具やワインのための壁面収納など、人間のものもしっかり収まります。「トイレの横に人間のもの?」と気になる方もいるかもしれませんが、実際にはにおいがほとんどないので全く気になりません。
また肉球の形をしたペットドア付きの勝手口も設置。家の北側にある裏庭へ自由に出入りできます。猫たちが外へ出られるのはここだけ。高いウッドフェンスを設けて、脱走防止対策も忘れずに。
ちなみに、家の周囲は駐車スペースにしている西面以外はすべてつながっていて、北面、東面、南面は犬とニワトリが自由に移動できる設計になっています。ペットを外に出す時間は、人間が在宅しているときだけにしています。
「過ごしやすさ」のほかにこだわったのが、「安全性」です。
自然素材にこだわっていたので床材は無垢(むく)材に。一方で無垢材は汚れや傷がつきやすいというデメリットがあるので、無垢材の中でも堅くて耐久性のある「オーク」を採用しています。
ペットたちを外に出しているので床が汚れてしまうのは仕方のないところ。こうした“不便”も動物と暮らす上では“生活の味わい”と言えるのかも……と考え、毎週1回の全面雑巾がけを暮らしのルーティンに組み込んでいます。
ちなみに塗料は、動物が口にしても安全なものを選んでいます。
土間には薪ストーブ。冬はペットと人間が場所の奪い合い
家を建てるにあたりこだわったもう一つのポイントが、土間をつくって薪ストーブを置くこと。土地探しでも「周囲への煙害を避けるため、住宅が密集していないこと」という条件を付けていました。
薪ストーブにこだわった理由は、勤めている会社に薪ストーブがありその暖かさを知っていたのと、できるだけ自然のエネルギーで暮らしたかったから。
薪の調達は、お庭の剪定をしている現場を見かけたら迷わず声をかけたり、家具工房などの方に声をかけたりして、処分する木材をいただいています。桜の木などもたくさんもらえます。
自宅は冬場の寒さが厳しいエリアにありますが、薪ストーブのパワーは絶大! 例えば、冬は夜に3時間ぐらい薪ストーブをつけたら朝まで20℃を超えたまま。本当に空間を暖める力が強くて導入は正解でした。
寒い時期は薪ストーブの前でペットたちがお昼寝をしたり、くつろいだり、人間は読書をしたり。場所の奪い合いになっています。
ただ、構造的にどうしても段差をつくらなければならなかったのが唯一の残念ポイント。
年を重ねて足腰の弱ってきた犬の中には、土間からリビングへ自力で上がれない子もいます。そこで、現在は踏み台を置くなどして工夫して生活しています。
自然との調和を意識した空間で、四季の変化を感じる
パートナーからは「これまで住宅の設計に携わってきた君の『集大成の家』だから、我慢や妥協をせず好きなように建てたらいいよ」と言われていたので、ペットとの暮らしやすさやデザイン以外も妥協せずに考え抜きました。
夏場の日差しを遮りつつ冬場は低めの太陽光が室内までしっかりと差し込むよう、軒(のき)を大きく出して季節ごとに必要な光が差し込むよう計算し、快適に過ごせるよう工夫。
夏場の日中はペットのためエアコンを使いますが、太陽が沈むとエアコンが必要ないくらいの涼しさ。冬場も南側の窓を大きめにしたことで太陽熱と薪ストーブ本体の熱だけで十分。蓄熱効果のある土間が室内を長時間暖かいままキープし、光熱費を節約できています。
建築の仕事をしているため、断熱性能や窓の配置はものすごく勉強していたので、その成果を発揮できたと思います。
また近辺は木が多く、川も近くにあるため湿気が多いので、調湿も意識しました。ペットのにおい対策も兼ねて、壁には脱臭効果のあるサンゴ漆喰(しっくい)を塗っています。
それから、照明計画にもこだわりました。
もともと煌々(こうこう)とした照明でつくり込んだ明るさが苦手だったのと、壁や天井が照明だらけになってごちゃついてしまうのが嫌だったので、ダウンライトはほとんど使っていません。唯一使っている寝室は、光源が直接見えないようグレアレス(まぶしさを抑えたダウンライト)にするなど工夫しました。
また配置にもこだわっており、「食事のときはここを点灯」「読書のときはここを点灯」というように、実際の生活を意識しながら照明を使い分けるイメージで設計しました。
最初は「暗い」と感じていたパートナーも娘も、この家で過ごすうちに少しずつ慣れたようで、今では各々の過ごし方に合わせてライティングを変えるのが日常の風景になっています。
猫たちもどちらかといえば明るいのが苦手なようで、薄暗い空間を好んで滞在しています(笑)。
ペットも「家族の一員」として家をプランニングする
ペットたちの快適さと安全を考えた家づくりを経て、わが家で特に変化が大きかったのはとある猫です。
とても怖がりで、以前の家では一つの部屋にこもりきりでほかのところには来ることがありませんでしたが、今はリビングでほかの猫たちとともに過ごす姿が見られるようになりました。
今の家は、犬や猫たちがどこで過ごすかがまったく決まっていません。各自に指定席があるような感じもなく、そのときによって好きな場所で過ごすスタイルになっていて、こちらも全員を探すのが大変なくらい(笑)。
それだけ居場所がたくさんあって、その子にとっては「隠れる場所がたくさんある」と思えたのかもしれません。そんな思わぬ変化もうれしかったですね。
これから犬や猫を飼う方、ペットとともに過ごす家を考える方には、ぜひペットを「家族の一員」としてプランニングをしてもらえたら、と思います。
ペットのトイレやケージを置くスペースを考えなかったばかりに、リビングの隅に置かなければならなくなって、なんだか見栄えが悪い……。せっかくの新しい家でそんな失敗は防ぎたいですよね。
人間のために寝室やトイレなど生活に必要なスペースを考えて用意するように、ペットたちにも同様に設計段階から必要なスペースや広さを確保してあげることが、自分たち人間の生活の質にもかかわってきます。
これからも彼らと一緒に過ごせる日々を大切にしたいし、いつかヤギをお迎えしたいなと考えています。既にいる犬や猫、ニワトリとの相性を考えながら、思い描いた暮らしを実現させられたらと思っています。
🏠 「ペットと家」アーカイブ 🐱 🐶
▷ 自称「お猫様の下僕」が4匹の猫と暮らす家
▷ 元迷い猫のため、“猫飼い初心者”が建てた家
▷ 犬も人間も幸せになれる「六角形の家」
お話を伺った方:yumiさん
奈良県生駒市在住。工務店勤務で設計&デザインを担当している。犬3匹(パグ2匹、ラブラドール・レトリーバー1匹) 、猫4匹(スコティッシュフォールド1匹、MIX3匹)、ニワトリと暮らす。
Instagram:@hy___home21
編集:はてな編集部