コンパクトハウスとは、その名の通り小さな家のこと。小さいといっても機能性やデザインは通常の注文住宅に劣りません。近年流行しているコンパクトハウスについて、A-1 homeの荒井宣貴さんにお話を伺い、コンパクトハウスの特徴や建てるときの注意点、メリット・デメリットなどについて解説します。間取り例や実例も家づくりの参考にしてください。
目次
コンパクトハウスとは?定義や特徴を解説
コンパクトハウスとは「小さな家」を意味します。建築上の明確な定義はありませんが、一般的には延床面積が30坪未満の家のことをコンパクトハウスと呼ぶことが多いです。
「コンパクトハウスの特徴はシンプルで過不足がないつくりです。コンパクトだからといって生活する上で不便なことはありません。構造や機能面は通常の住まいと同じで、本当に必要なものだけを取り入れているのが特徴です」(荒井さん、以下同)
コンパクトハウスと混同されやすい言葉に「ペンシルハウス」があります。ペンシルハウスとは都市部の15〜20坪ほどの狭い土地を活用して建てられる3階建ての細長い住宅のことです。
コンパクトハウスは都市部の狭小地以外でも建てることができ、平屋、もしくは2階建てのつくりが多いため両者は性質が異なる建物と考えてよいでしょう。
面積の目安
「当社が手掛けるコンパクトハウスで最も多いのは延床面積20坪前後の平屋づくりの建物です。20坪あればファミリー向けの3LDKの間取りを実現できます。広さの目安としては、一人暮らしは10坪、二人暮らしは13〜16坪、ファミリーは17〜30坪ほどになります」
流行の背景
「コンパクトハウスが流行している背景として、従来の大きな家では空間を持て余してしまうため、無駄を省いた家をつくりたいと希望する人が増えたことが考えられます。例えば二人暮らしの夫婦が30坪の家を建てても、ほとんど使わない空間や設備が生まれてしまい、後悔に繋がるケースも多いのです。そのため自分たちの生活に必要なものを過不足なく取り入れた家が欲しいと考える人がコンパクトハウスを選んでいます。さらに、通常の住宅と全く変わらないクオリティーであるにもかかわらず、広さの分、設備費や内装・外装費用などを節約できるというメリットがあるため多くの人に注目されるようになりました」
コンパクトハウスに向いている人は?
ここからはコンパクトハウスがどのような人に向いているのかについて解説します。
一人暮らし
注文住宅といえば家族向けのイメージが先行するかもしれませんが、コンパクトハウスは一人暮らしにも向いています。1DKや1LDKなどの部屋数が少ない一戸建て住宅も建てることができます。
ミニマリスト
衣食住に関して必要最小限の物で生活をしている人のことをミニマリストと呼びます。持ち物が少ない人はコンパクトハウスとも相性がよいはず。逆に、たくさんの持ち物があるとそれだけ収納や居室が必要になるためコンパクトハウスには向いていないかもしれません。
「収納は多ければ多いほど便利という声をよく聞きますが、必要以上に収納をつくることで物が増えてしまい、家が片付かなくなってしまう可能性もあります。自分の持ち物に合わせて本当に必要な収納だけをつくることも、無駄なくシンプルに暮らすコツかもしれません」
シニア(老後)
子どもが独立し、老後に家族数が減った場合には、コンパクトハウスという選択肢もあります。家族が多いときは広ければ広いほどよかった部屋や収納も、シニアには広すぎて日々の掃除や家事に苦労することもありますが、コンパクトな空間にすることで家事の負担が減るでしょう。
また建て替え時に、必要な部屋数にすることで建築費も抑えられます。
平屋にできれば階段の昇り降りがなくなり、バリアフリーにすることで、足腰への負担やケガのリスクを軽減できる点もメリットです。
老後に金銭面だけでなく、心身ともに負担なく安心して暮らしたい方には、コンパクトハウスをおすすめします。
コンパクトハウスのメリットは?
コンパクトハウスにすることで、どのようなメリットを得られるのでしょうか。代表的なメリットを6つ紹介します。
初期費用を抑えやすい
コンパクトハウスのメリットの一つに、費用を抑えやすいことが挙げられます。ただし、延床面積が小さくなるほど坪単価が高くなる傾向にあるため、坪単価だけを見て判断しないように注意しましょう。
「延床面積が小さくなるほど坪単価は高くなるため『コンパクトハウスって小さいのに実は高いのでは?』と感じる方もいるかもしれません。しかし、無駄なスペースや過剰な収納を設けず内装をシンプルにすることや、水まわりを集約して配管を短くすることで施工費用を抑えることができます。また、当社では規格材や品質が安定した工業製品等を適切に組み合わせることで材料費のコストカットを実現しています。さらに、建物が小さいため土地代や基礎工事の費用を抑えることも可能です。
このように、建築会社の工夫次第で総額を抑えることができます。ぜひ坪単価の数字に惑わされず、トータルの見積もりを確認してみてください」
一般的なファミリー向け住宅と比べて、コンパクトハウスは初期費用を抑えられるため、予算に余裕ができた分をデザイン費用に充てたり、インテリアや家電にこだわるなどコスト配分の自由度が高くなるのもメリットの一つといえます。
また、敷地面積が小さなコンパクトハウスであれば、地盤改良が必要な場合にも工事費用を抑えることができ、地盤対策に対するハードルも低くなります。
狭い土地でも家を建てることができる
「コンパクトハウスは延床面積が小さいため、狭い土地でも建てられるというメリットがあります。そのため土地代を節約し注文住宅を建てたいという方にコンパクトハウスをおすすめしています」
無駄のない動線をつくることができる
「コンパクトハウスでは人が過ごすスペースをなるべく広く確保できるように、家の中の通路をできる限り少なくします。そのため効率的な動線を計画することが可能です。移動の手間も最小限になります」
ランニングコストや税金を抑えられる
「建物自体が小さいため、光熱費などのランニングコストや修繕費用などを抑えることができます」
また、延床面積が30坪以下の家は小規模住宅用地に該当するため固定資産税や都市計画税などの軽減措置が適用され、節税にも有効です。
家族の距離感が近くなる
「当社の手掛けるコンパクトハウスでは、家族で長く過ごすリビングを広く設けた分、寝室や子ども部屋などは小さめに設計することが多いです。そのため居心地のよいリビングで家族と過ごす時間が自然と増えるかもしれません。この点はメリットである半面、プライバシー性が低いというデメリットでもあります」
メンテナンスや掃除がしやすい
コンパクトハウスは、通常10年から15年に一度行うことになる、外部改修にかかるコストを抑えることができるのは小さい家ならではの魅力です。
コンパクトハウスは足場代も安くすみ、とくに平屋の場合は、工事内容によっては足場代がほとんどかからないケースもあるでしょう。
また生活空間がコンパクトなため、掃除をする面積も小さくなります。日々の清掃にかかる労力を減らせることも、大きなメリットといえます。
コンパクトハウスのデメリットは?
メリットが多い一方で、コンパクトハウスにはデメリットもあります。建ててから後悔しないためにも、注意すべきポイントもチェックしておきましょう。
コンパクトハウスのデメリットを3つ紹介します。
狭さや圧迫感を感じることも
「通常の住宅に比べて延床面積が狭いコンパクトハウスでは、設計を工夫しないと狭さや圧迫感を感じやすくなります。例えば、リビングに開放感を出すために天井を高めにしたり、建具を減らすといった工夫が必要になります」
収納不足で後悔しやすい
「最小限の収納量で物が増えにくいことはコンパクトハウスのメリットです。しかし極端に収納を削ってしまったり、無計画に小さな収納をたくさん設けたりすると収納不足や使い勝手の悪さで失敗することもあります。住む人の持ち物の量に合わせて適切な位置に使いやすい収納をつくることが大切です」
プラスαのスペースを求める人には不向き
趣味部屋やパントリー、ビルトインガレージなどプラスαのスペースが欲しいと考える人にはコンパクトハウスは不向きかもしれません。生活上の必要最小限の部屋や設備を実現しているのがコンパクトハウスの特徴です。部屋数や設備の量に余裕を持たせたい場合は、30坪未満では実現が難しいかもしれません。
コンパクトハウスの間取り例は?
2LDK(22.2坪)の間取り例
LDK、和室、洋室からなる2LDKの平屋の間取り例です。水まわりの設備を集約して家事動線をコンパクトにし、快適に暮らせるように工夫されています。和室は引き戸を開けてリビングと繋げることも可能。間仕切りによって空間の使い方を変えられるのもポイントです。
3LDK(27坪)の間取り例
コンパクトで便利な生活動線を採用した3LDKの間取り例です。22畳の広々としたLDKと2間の洋室、床の間を備えた和室を配置しました。リビングの造作テレビボードの裏側にはDJブースを設け、趣味を楽しめる家が実現しました。オープンタイプのキッチンはリビング・ダイニングと一体感があり、開放感のあるLDKになっています。
3LDK+SIC+WIC(27坪)の間取り例
約10畳のウッドデッキを備えたコンパクトハウスの間取り例です。屋内と屋外の繋がりを感じられるアウトサイドリビングを実現しました。玄関には土間続きのシューズインクローゼット、寝室には約2畳のウォークインクローゼットをつくり、収納力の高さにもこだわりました。
暮らしやすいコンパクトハウスをつくるためのポイントは?
機能的で暮らしやすいコンパクトハウスをつくるには、設計に工夫が必要です。面積を小さくすることを優先させるのではなく、無駄のない動線やレイアウトを採用し、理想のコンパクトハウスを実現させましょう。
暮らしやすいコンパクトハウスをつくるために、8つのポイントを紹介します。
動線の工夫で生活を便利に
「限られた面積の中に生活空間をつくるため、コンパクトハウスでは動線の工夫が暮らしやすさの決め手となります。通路を必要最小限にするなどして、移動の少ない効率的な動線計画を考えることが大切です」
アレンジしやすい間取りにする
「家族のライフスタイルの変化に伴い、使わない空間が発生する可能性があります。そういった事態を避けるため、どの空間もフレキシブルに活用できる間取りにしましょう。例えば、子どもが大きくなったときに寝室を間仕切りで分けて子ども部屋をつくったり、和室を使わないときは仕切りを開放してリビングの一部として広々と使えるようにしたりと、間取りの工夫次第で空間を余すことなく活用できます」
部屋の配置を工夫してプライバシーを守る
「家族の距離感が近いことはコンパクトハウスの長所であると同時に短所でもあります。プライベートな空間とLDKをできるだけ離して配置するなど、間取りの工夫次第で家族のプライバシーを守ることができます」
部屋の広さにメリハリをつける
「部屋の広さにメリハリをもたせることは、開放的なコンパクトハウスをつくるためのコツの一つです。LDKなど1番長く過ごす空間を広めにつくり、寝室や子ども部屋など一時的に使用する空間はコンパクトにするなど面積バランスを考えましょう。また、開放感を演出するために天井高を上げたり勾配天井を取り入れたりするのもおすすめです」
生活をイメージして収納計画を立てる
「コンパクトハウスでは収納の工夫も必要です。しまいたいアイテムを、家の中と外で使うものに分けて考えると収納計画を立てやすくなります。例えば、かさ張りやすい冬のアウターは室内に持ち込まず、シューズクロークの中に収納したほうが合理的です。このように家族の持ち物をリストアップし、実際の生活をイメージしてみましょう」
優先順位を決めてコスト配分をする
「コンパクトハウスは土地の価格や建築費用等を抑えやすい傾向があるため設備をグレードアップしたりデザイン費を増やしたりする選択肢も持てます。コスト配分や優先順位については事前に家族とよく相談して考えておくことをおすすめします」
また、間取り決めにおける優先順位を明確にすることも重要です。
「親が泊まりに来るときのための客間やテレワーク用の書斎など、プラスαの空間に関しては『本当に使うのか』『将来的にどう活用したいのか』までよく検討してみてください」
さらに、入居後の暮らしまで視野に入れて優先度を決めると、より満足度の高い家になるはずです。例えば、ランニングコストを抑えることを優先し、LDKの屋根を低くするか、開放感を優先して吹抜けリビングにしたいかなど、実際の生活をイメージしながら家族にとってベストな形を選んでいくことが大切です。
家のサイズ感を建築前に把握する
「家のサイズ感は図面や数字を見るだけではなかなか把握しにくいものです。入居後に『思っていたよりも狭かった』という認識のズレを防ぐためにも、できれば建物を立体的な図面で表現した建築パースや模型などを使ってコンパクトハウスの広さを知ることをおすすめします」
採光を考慮して設計する
コンパクトハウスは狭小地に建てることも多く、周辺環境によっては十分な採光が取れないこともあります。隣家の配置や窓の位置を考慮し、なるべく太陽光を取り込める設計にしましょう。
また明るい空間は、実際の面積よりも広く感じさせる効果があります。高い位置に大きな窓を設けたり、吹抜けを採用するなどして、広さが感じられる工夫をしましょう。コンパクトハウスでも、アイデア次第で開放的で魅力的な空間にすることは可能です。
【実例】おしゃれなコンパクトハウス3選
ここからは、延床面積30坪未満のコンパクトハウスを建てた先輩たちの実例を3つ紹介します。ぜひ家づくりのヒントにしてください。
【case1】水まわり設備を集約した家事動線が便利な家
防音性の高い音楽室がある家を希望した娘と二人暮らしのBさん。延床面積57m2(約17坪)の2階建てのマイホームを建てました。1階に音楽室と納戸、2階にLDKと水まわりの設備、そしてロフトを設置。2階に水まわりの設備を集約したことで家事はすべて同じフロアで完結するようにしました。
この実例をもっと詳しく→
音楽、猫、本、色……好きなものを13坪にぎゅっと詰めこんだ家
【case2】夫婦が趣味を満喫できる充実した住まい
住居の隣の土地を購入し、夫婦の第二の新居をつくることに決めたMさん。延床面積約64m2(約19坪)の2階建ての1LDKKが完成しました。4.5畳の和室に炉を切って本格的な茶室にしたり、花火を一望できる屋上を設けたりして、夫婦の遊び場のように活用し楽しんでいるそうです。
この実例をもっと詳しく→
念願の屋上と茶室、予算内でアイデアにあふれた“夫婦の遊び場”が完成するまで
【case3】吹抜けを取り入れた開放的なLDKに
限られた広さの土地でものんびりとくつろげる居心地のいい家を建てたいと考えたKさん。吹抜けとスケルトン階段を取り入れた、延床面積約28坪の3LDKの家が完成しました。キッチンと洗面所を背中合わせにして間に両面収納をつくるなど、スペースを有効活用して収納も工夫。狭さを感じない住み心地のよい空間づくりに成功しました。
この実例をもっと詳しく→
限られたスペースを最大活用し、駐車スペースも2台確保!のんびりくつろげる居心地のいい家
コンパクトハウスで暮らす魅力とは
最後にまとめとして、コンパクトハウスで暮らす魅力について荒井さんに伺いました。
「コンパクトハウスは質を落とさず無駄を省いた機能的な住まいです。限られた空間をフレキシブルに活用し、効率的な動線を取り入れることができます。設計の工夫次第で開放感を演出することや、収納量を確保することも可能です。まずは建築会社と打ち合わせを行い、自分たちが快適に暮らせる住まいについて考えてみましょう」
スーモカウンターに相談してみよう
コンパクトハウスを建てたいと検討している人は、ぜひスーモカウンターに相談してみてください。アドバイザーがお客様の家づくりを全面サポートします。注文住宅を建てたいけど何から始めたらいいの?という方も大歓迎。家づくりのヒントから土地探し、お金のことまで親身になって相談に乗ります。
イラスト/コルシカ