神奈川県藤沢市に書庫付きの注文住宅を建てたsuzukoさん。書庫内にはなんと「移動式書架」を導入しました。
個人宅には珍しい移動式書架ですが、そのおかげで35000冊にのぼるコレクションを、本棚より効率よく収納できるようになったそう。さらにはデータベース化することで蔵書を探しやすくなったといいます。
音楽やマンガなど、圧倒的な熱量を注ぐ「好きなもの」をおもちの方に、こだわりの住まいをご紹介いただく「趣味と家」第16回です。
こんにちは、suzukoと申します。
私は物心ついたころから漫画が好きで、王道の少年漫画・少女漫画から始まり、社会人になってからは給与という燃料を得て、さらにいろいろなジャンルの漫画を楽しんできました。
漫画を読む趣味の延長線上で出合ったのが「同人誌」。最近はコミックマーケット(コミケ)という名前も広く知られるようになりましたが、こうした即売会にも通うようになり、好きな作家さんの同人誌を買い集めること、数十年。
気付けば、自宅には26000冊を超える同人誌と商業コミック7000冊、漫画以外の本も含めると約35000冊が集まっていたんです。
今回は、そんな大量のコレクションを収納するために約240万円をかけて導入した「移動式書架」の話をしたいと思います。
【目次】
- 大量の本を収納するために移動式書架は必須だった
- 圧巻の収納力! 本の保管に最適な環境をつくる
- 移動式書架で「本の探しやすさ」が飛躍的に向上
- 書架をより使いやすくアップデートする楽しみ
- 「ダブル書斎」で夫婦それぞれ自由に過ごす
- 「うちでも移動式書架を導入した」うれしい反応
大量の本を収納するために移動式書架は必須だった
私の家族構成は、妻と母との3人暮らし。妻とはボランティアでスタッフをしていた同人誌の即売会で出会い、結婚しました。
妻もコレクター気質なので、2人分の荷物は膨大に。結婚後は妻の実家の空きスペースに一部を置かせてもらっていたものの、この家を建てる前に2人で住んでいた3DKの社宅は本やグッズを詰め込んだ段ボールで埋め尽くされていました。
そんな折、数年前に持ち上がったのが「母が住むアパートの取り壊し」。それを機に母との同居と、せっかくなら……と社宅を出て家を建てることを考え始めました。
幸いにも、神奈川県藤沢市に妻の実家が所有していた土地があり、そこに私たち夫婦と、私の母が暮らす家を建てることになりました。東海道線の藤沢駅からバスで10分+徒歩3分、もしくは辻堂駅から徒歩17分ぐらい。286㎡の土地です。
土地探しに苦労しなかったり、費用面が抑えられたのは大変ありがたかったです(恵まれすぎている話ですが……)。
土地の図面を見ながら思っていたのは「この広さなら、書庫をつくれるな……」ということ。そして、どうせつくるなら単に本棚が並ぶ書庫ではない、スペースを最大限有効活用できる「移動式書架」を備えた書庫をつくりたい……!
移動式書架というのは、手やハンドルの力で動かせる本棚のこと。人が通るためのスペースを最小限にすることで、本の収納スペースを最大化できます。大学図書館や会社の資料室などで見たことがある方もいるのではないでしょうか。
私も職場の書類保管庫で見たことがあったのですが「これがあればより多くの本を収納できる!」と感じ、憧れる気持ちがありました。
家を新築する際、妻も私も「今ある本を捨てる選択肢はない」という思いだったため、スペースを確保するためには移動式書架の設置は必須! と意見が一致しました。
圧巻の収納力! 本の保管に最適な環境をつくる
とはいえ、自宅に書斎や本棚専用のスペースをしつらえている人はいても、移動式書架となるとほとんど設置している人はいないのが現実。
参考になりそうなのは書架メーカーのカタログと、後は1件だけ見つけた実際に移動式書架を導入した人のブログだけ。
そのブログを参考にしつつ、実際にメーカーさんや建設会社さんと相談しながら、重さに耐えられるか、本を守るための環境づくりは……といったハード面を検討し、整えていきました。
まず、重量のある書庫が建てられる土地なのか心配だったので地盤調査を実施。結果は「特段の問題なし」。地盤強化をしなくても建設可能と判定されました。
建物全体を支える基礎部分は一般的な住宅と同じですが、わが家が普通の家と違うのは、重さに耐えられるように書庫全体に縦横とも通常の2倍の支持材を入れて補強した点。
さらに移動式書架はその構造上、全重量がレールや車輪にピンポイントにかかります。そのため、書架のレールは基礎の上に直接敷設しました。これらの対策によって、本を満載したときには1台当たり1トンを超える書架が基礎そのものに乗る形になっています。よく言われる「床が抜ける」心配はありません。
実際に導入した移動式書架の実力は、期待通り!
書架1段は86cmの幅で横に2連、つまり172cmの幅になります。それが7段、そして両面に棚があるので、1台あたりの収納力は長さにして約24m。
そんな書架を7台、さらに片面タイプの書架を1台設置し、180mほどの収納全長を備えた書庫が誕生しました(収納スペースを長さに換算すること自体、なかなかないことなのではないでしょうか……)。
これまでわが家で使っていた80cm×6段のスチール製ラックに換算すると、実に38台分。とてもではありませんが、個人宅に収納できる量ではなくなってしまいます。ちなみに、その後もスチールラックなどが増え、収納全長はさらに延びています。
実際に、3DKの社宅を埋め尽くしていた2人分の蔵書を運び込んだところ、同人誌は全体の半分ほどのスペースで収納が完了!
27cm×38cm×高さ35cmの箱にぎっしり詰まっていた同人誌が、1段の3分の2ほどに収まったのには驚きでした。それ以外のコミックを収納しても、まだ余裕があるその姿は頼もしく、やはりうれしかったです。
ちなみに、本の保存に適した環境づくりも忘れずに行いました。
本は、カビの原因にもなる湿気を嫌います。また光によって印刷の色があせてしまうことも。そのため湿気対策と光対策はマストでした。
風通しは必要ですが、光は大敵。日焼け防止対策として窓は最低限の換気ができる数と大きさにしてもらい、遮光性のロールスクリーンをカーテン代わりに付けています。
また、湿気を避けられるよう、24時間換気しています。それとは別にエアコンによる空調、20畳対応の除湿器も設置しました。壁や天井の壁紙には湿度調節に適していると言われている珪藻土(けいそうど)入りのものを選択しました。
ちなみに、書架には転倒防止のための装置も備わっているので、本棚を並べておくだけの場合よりも地震時の危険を減らせるのもメリットでした。
予算にも限りはありましたが、書庫は最優先。プランを考えているときに、「寝室の広さ」「小屋裏収納」「移動式書架」の3つのうち、2つまではかなえられる……という状況になりましたが、私たちは迷わず広い寝室をあきらめました(笑)。
寝室はさすがに狭く、収納を1ブロック(91cm)だけでもLDK側にずらせばよかった……と、ちょっとだけ後悔しています。
移動式書架で「本の探しやすさ」が飛躍的に向上
この家を建ててからずっと、移動式書架を備えた書庫をつくったことの喜びを、日々感じています。
もともと、同人誌は「読んで終わり」ではなく「読み返す」ことも多い私。「あの本どこにあったっけ?」と過去の記憶をたどりながらめぼしい箱を掘り返しては、「ないな」「ここにもない」と繰り返すことも少なくありませんでした。
しかし、移動式書架は「探す」効率を飛躍的に向上させてくれました。
例えば、書架では同人誌をサークル名によって分類・整理しています。さらに最近は数年がかりで同人誌の発行年や作家さん、サークル名、ページ数に印刷会社といった“書誌情報”をデータベース化したことで、さらに探しやすくなりました。
1カ所に本が集まっていて、それらが整理された状態で保存されている。3DKで本の詰まった段ボール箱を積み上げていた社宅時代と比べると、趣味にまつわる時間・空間にメリハリができ、趣味に没頭する時間の質が上がったとも感じます。
本は、収納するだけなら箱に詰めて置いておくのが一番収納スペースの節約になります。でも、「読む」という目的を果たすためには「探しやすさ」が何よりも重要。移動式書架でそれを実感する日々です。
書架をより使いやすくアップデートする楽しみ
「書架を導入したことで発生した悩み」を解決するのも新たな楽しみになりました。
例えば、同人誌よりもサイズが小さいことがほとんどの商業コミックを収納するために段数を増やしたり、前後2列に陳列できるようDIYで陳列棚を改造したり。
並べている本がなぜかたわんで曲がってしまったときには、漫画や同人誌を所蔵する「米沢嘉博記念図書館」でスタッフをしている知人の話を参考にしたことも。独自で解決策を探ってきました。
本をきれいに保管しておくだけでなく、データベース化したり、きれいに保つための工夫を凝らしたりしている時間も、私にとって楽しいものになっています。
「ダブル書斎」で夫婦それぞれ自由に過ごす
さらに、書庫以外の空間もご紹介します。
夫婦ともにオタクであるため、それぞれの書斎を設けたのもこだわりポイントです。
個人のパソコンを設置し、妻は休日などはもっぱらこちらで調べものをしたり、趣味にいそしんだりしています。ちなみに私は書庫にこもって作業していることが多く、それぞれ自由に過ごしていますね。
書庫にこだわった家ではありますが、他の生活空間もきれいに設計できたのは満足しています。特に2世帯が支障なく過ごせるレイアウトは一番重要視しました。
土地の形状から全体的に東西に横長の建物となるため、「東西のどちら側にどんな部屋を配置するか」が考え方のベースに。
西側半分は隣の家と接している&敷地西側には高層マンションもあることから、陽射しが望めるのは東側の半分程度。日当たりの良さを考えると必然的に母の居住スペースは1階の東側になりました。
書庫はかなりの重量があると判断して1階、先ほどお話したように「光は大敵」なので日当たりの少ない西側へ。同じく重量がある浴室は1階北側に配置し、1階の残ったスペースを客間にしました。
2階は私たち夫婦の生活スペース。陽射しが望める東側に22.5畳のLDKを配置し、寝室や書斎は西側。こうして「パズルのピース」のように部屋が決まっていきました。
可能な限り収納を増やすため、小屋裏収納を設けたのも満足ポイント。私たち夫婦と母のシーズンごとの衣類や雑貨、旅行カバンなど日常的に使わないものや、書庫に収納しなくても大丈夫な同人グッズなどを保管しています。
実は最近はこちらにものが増えつつあり、「いつか整理しないとな……」と思いつつ、足が遠のいてしまっているという悩みも。
もちろん、書庫そのものも無限に収納できるわけではありません。新築当時は余裕があった書架も、5年が経過した今、残すところ7~8段のみという差し迫った状況になりつつあります。
年に2回のコミックマーケット、それに加えて年に4回以上のイベントに通い詰める体力と経済力を今後も維持できるのかを考えつつ、少しずつ節制しなければ……と今後の身の振り方を考えさせられることもあります。
「うちでも移動式書架を導入した」うれしい反応
ちなみに、移動式書架付き書庫を自宅に導入した……という今回の経験を同人誌にまとめて発表したところ、一部の読者の方から「うちでも導入した」という声を聞くことがあり、これもまたうれしい出来事でした。
周囲の友人からも「本当に書庫つくったの!?」と驚きの声や「憧れがかなってうらやましい……」という声もありました。自分の経験が少しでも、書庫に憧れる人の参考になればと思います。実際に導入してしまうかどうかは別として……。
移動式書架は本をたくさん持っている人なら一度は考える「書庫」のポテンシャルを最大限に引き出してくれる存在。これからも着々と増えるであろう本たちを収納してもらいながら、自分たち夫婦にとって使いやすい形を模索していきたいと思っています。
🏠いろんな「趣味と家」🏠
● 書庫のある家で床抜けの心配にピリオド
● 「ゲーム御殿」でゲームに囲まれた生活
● 「撮影スタジオ」を併設した注文住宅
お話を伺った人:suzuko
漫画と音楽、そしてお酒と台湾茶が動力源の1964年生まれ。都内の某国立高校を出てから、意外とおカタい職業に就くこと40年。還暦を目前に控えつつも、漫画に関しては自重の二文字を忘れがち。
Twitter:@suzuko
「おまえは今まで買った本の冊数を覚えているのか(二訂版)」など、制作した同人誌:https://magurotei.booth.pm/
聞き手・文:藤堂真衣
写真:関口佳代
編集:はてな編集部