神奈川県秦野市(はだのし)にお住まいのたなこさん。紅茶や英国文化好きが高じて、ついには憧れの英国住宅を建てることに。
庭を眺めながら優雅な時間を楽しめるコンサバトリー風ルーム、紅茶に合うお菓子をつくるための広いキッチン、ウェッジウッドの「ジャスパーウェア」カラーを再現した壁……など、ティータイムを楽しむための工夫がたくさん。
音楽やマンガなど、圧倒的な熱量を注ぐ「好きなもの」をおもちの方に、こだわりの住まいをご紹介いただく「趣味と家」第17回です。
初めまして。たなこと申します。神奈川県秦野市で夫と3歳の娘と共に元気に楽しく暮らしています。
私は社会人になってから紅茶にハマり、紅茶や英国文化が大好きになりました。好き過ぎるあまり、2022年の年末に憧れだった英国テイストの注文住宅を建てました。
今回はお気に入りのコンサバトリー風ルームや広いキッチンを中心に、わが家を紹介させていただきます。
【目次】
- ティーセット購入から「紅茶と英国文化」の沼へ
- せっかく注文住宅を建てるなら憧れの英国住宅に
- 輸入玄関ドアにこだわって家の配置を変えた
- 絶対に欲しかったコンサバトリー風ルームと広いキッチン
- 大量のティーカップを「見せる収納」「守る収納」
- コンセントは惜しまない。どこでも紅茶を楽しめる工夫
- ウェッジウッドの「ジャスパーウェア」カラーを再現した壁
- まだまだ発展途上。将来の姿を夢想する楽しみ
ティーセット購入から「紅茶と英国文化」の沼へ
私が英国文化に触れるきっかけとなったのは茶器と紅茶です。
就職と同時に都内で一人暮らしを始め「東京の一人暮らしにふさわしいおしゃれな何かを買うぞ!」と意気込んで百貨店のリビングフロアをウロウロしていたところ、目に入ったのがイギリスの有名陶磁器メーカー「ウェッジウッド」のティーセットでした。
優雅なラインと金彩に、どこかカントリーな雰囲気もある愛らしいヘビイチゴ柄。以前からロリィタファッションを愛好し、かわいくて美しいものが大好きな私は一目惚れして購入をしました。
「こんな素敵なティーセットで優雅にお茶を楽しめたらいいなぁ」と、そのうち、ちゃんとしたいれ方で紅茶を飲みたくなり、意を決して紅茶教室の初心者向けレッスンに参加することにしました。
教室に着いてびっくり! 教室の外観、内装、インテリア、トイレまで全部愛らしいこだわりの英国住宅になっていて、どこを見ても本当に素敵だったのです。
他にもかわいいステンドグラスの扉、フロアタイル、アンティークの家具、きらびやかなシャンデリア、その明かりに照らされる美しい食器たち……。素晴らしい光景に、その日から英国住宅のことが忘れられなくなりました。
夫と出会って結婚してからも私の英国&紅茶熱は冷めず、日本紅茶協会が主催しているティーインストラクター養成研修に挑戦することにしました。
紅茶のいれ方、製造方法や種類、中国から始まる茶の長い歴史といった知識だけでなく、ヨーロッパでは上流階級だけのものだったお茶が徐々に庶民へと広まっていった歴史的背景などを学び、紅茶の発展に深く関わっている英国文化への興味も強くなりました。
また、この頃にはお茶と一緒にいただくスコーンやケーキなどイギリス菓子の素朴で家庭的などっしりとした味わいのとりことなり、自分でもあれこれとレシピを調べてつくるようになります。独身時代以上に茶葉や食器、製菓用品がどんどん増えていきました。
しかし、その趣味を楽しむには当時住んでいた賃貸マンションでは手狭過ぎる! 自宅でのティータイムではあまり雰囲気も出ません。頭には常に食器や、あの紅茶教室のようにお茶と食器が映える空間への憧れがありました。
ちなみに夫も、書籍やフィギュア、ボードゲームなど物を集めるタイプのオタク。2人の荷物を合わせると当時住んでいた部屋には収まり切らなくなっていたので、夫婦の間で「いつか一戸建てに住もう」という意見は一致していました。
せっかく注文住宅を建てるなら憧れの英国住宅に
娘が生まれ、賃貸マンションの更新を2年後に控えた2021年末。ついに本格的な家づくりがスタート。
当初は建売住宅も検討していましたが、収納量を考えると十分ではなく即断念。何より私がせっかくお金をかけて家を建てるならば、普通のお家では満足できない! 紅茶の趣味を楽しめるような英国住宅にしたい! と思うようになり、注文住宅を建てることに。
輸入住宅に強いハウスメーカーに行って、予算の範囲内で希望のプランが実現できそうか相談したり、実際の建築事例を見せてもらったりしました。
アメリカン、フレンチ、北欧風、地中海風……とさまざまな建築事例を見せていただいたのですが、本格的な英国住宅を実現したかった私にはどれもあまりピンとこないものばかりでした。
せっかく住宅ローンを組んで注文住宅を建てるのに、妥協して後悔するような家にはしたくありません。いろいろと悩みながらも、最終的には私が英国住宅を好きになるきっかけとなった紅茶教室を手がけた、憧れの英国住宅専門の建築事務所の門をたたいたのです。
われわれの予算では難しいのでは……? と恐る恐る問い合わせをしたところ、幸い、土地代が抑えられたら英国住宅を実現することが可能だと判明し、そこから早速土地探しをスタート。さまざまな巡り合わせで神奈川県秦野市で理想的な土地を見つけました。予算内&夫のギリ通勤圏という条件で決めた、夫も私も縁はなかった場所ですが、結果的にとても満足しています。
丹沢山系に囲まれた美しい景観、お茶に適したおいしいお水、安くて新鮮な地場産の野菜、のびのびとした環境でできる子育てなど、とても良い場所に移住できたなと感じています。広いお庭も確保できました。
輸入玄関ドアにこだわって家の配置を変えた
このエリアは立地的に「準防火地域(都市計画法において「市街地における火災の危険を防除するため定める地域」として指定されるエリア)」にあります。そのため防火に関する基準が厳しく、当初の設計では玄関は国産の防火扉しか選択肢がありませんでした。
しかし、なんといっても玄関は「家の顔」ですし、イギリスから輸入した分厚い木製のドアをどうしても使いたい! と最終的に建築制限のある延焼ラインより外に玄関が入るよう家の配置そのものをずらしてしまいました。
そこまでして導入した輸入玄関ドアは大好きなラベンダーカラーに塗装していただき、玄関の隣にはアンティークのステンドグラスを入れました。陽光が差すとステンドグラスの反射が奇麗でうっとりとしてしまいます。
絶対に欲しかったコンサバトリー風ルームと広いキッチン
家づくりを進める上で、絶対に欲しかった空間はコンサバトリー風ルームと広くて使いやすいキッチンです。
「コンサバトリー」とは、壁も天井もガラス張りの温室のこと。日照の少ないヨーロッパにおいて、自然光を取り込む工夫として古くから利用されています。以前アンティークショップ併設のカフェでコンサバトリーを体験し、窓から見えるお庭のグリーンと調和した空間でのティータイムに憧れていました。
ただ、わが家で本格的なコンサバトリーを設置するとしたら日差しが強い西側になってしまい、西日で壁や家具などが色あせやすくなるなどメンテナンスが大変そう。また輸入して設置するには予算も厳しい。
そこで、リビングとつながっている空間をコンサバトリー風テラスにすることに。全面窓ではなく、通常の室内窓としたことにより、懸念していた西日は優しく入ってくるようになりました。床はヴィクトリアンフロアタイルを敷き、ここだけ独立した空間の雰囲気が漂っています。
家具はイギリスアンティークの丸テーブルと椅子を設置。照明の色と食器の相性が良く、ここでお茶をいただく時間は家の中での楽しみの一つです。
もう一つのこだわりはキッチン。長い間賃貸住宅のキッチンの狭さにストレスを感じていたので、「海外のおしゃれなキッチンのようにとにかく広くしたい……!」と考えていました。
食器を大量に収納できるカップボード、趣味のベイキング用のガスオーブン、たくさん入って洗浄力抜群の海外製食洗機……と、欲望盛りだくさんのオーダーでお願いしました。収納棚は食器類がしっかり収まるように細かくサイズ指定しています。高さのある引き出しはどうしても上の空間が無駄になりがちなので、引き出しも細かい段でつくっています。
当初はパントリーの設置も考えたのですが、扉や仕切りの分のスペースを使うくらいならと、カップボードに大きめの引き出しをつくって、買い置きの食品をしまうスペースにしています。
イギリスのドールハウスの階段のパーツを使ってつくられた角コーナーの飾り棚、デザインの最終決定直前に存在を知って急きょ入れてもらったバーレイのブルーキャリコ柄のタイル。どれもかわいくて、キッチンにいるだけでテンションが上がります!
早朝、ガスオーブンの前で椅子に座って、膨らんでいくパン生地や、東側の窓から見える日の出を眺めている時間は最高です。居心地が良過ぎてまさに「私のお城」。もっともっと使いやすく&かわいく変えていきたいと思っています。
大量のティーカップを「見せる収納」「守る収納」
わが家にはたくさんの食器、とりわけティーカップが大量にあります。多分これからも増え続けるでしょう。
どれも気に入って入手した食器なので箱にしまい込んでしまうのではなく、「見せる収納」を意識し、食器たちの一部はリビングの造作本棚に飾っています。
造作棚は地震が発生しても倒れるリスクが少なく、食器を守る役目もあります。他にもキッチン上部の棚には耐震ロック、食器の下には滑り止めシートや固定ジェルを敷いて大切なコレクションが割れないよう対策しています。
ティーカップは割れ物なので、いつかは欠けたり壊れたりする運命ですが、私の寿命よりもさらに長生きしてもらって、次の持ち主の元へ旅立つまで大切にしたいですね。
コンセントは惜しまない。どこでも紅茶を楽しめる工夫
家を建てる際にさまざまな建築ブログで情報収集をしたのですが、そこで学んだのは「コンセントは惜しまず付ける」でした。
将来的にインテリアの配置替えをしても対応できますし、コンセントさえあれば電気ケトルでお湯が沸かせて家中どこでもお茶が楽しめます! 付け過ぎてしまい、まだ使っていないコンセントもありますが、後悔はしていません。インテリアの配置や使用する家電は将来的にいろいろ変化していくものなので、見た目を損なわない程度に多めに付けておくことをおすすめします。
2階には独立した洗面台を設置して、ケトル用のお水をくめるようにしてあります。まだ設備は整っていませんが、いずれは茶殻用のダストボックスなどを用意して、1階に下りずとも食器の洗浄も茶葉の処理もできるようにしたいと考えています。
ウェッジウッドの「ジャスパーウェア」カラーを再現した壁
内装も英国テイストにこだわりました。
室内は主にペンキ塗りの壁を採用。中でもウェッジウッドの代名詞「ジャスパーウェア」カラーを再現した壁色が自慢です。塗装の打ち合わせの際に手持ちのプレートを現場に持ち込んで、ペンキのカラーチップから近い色を探す。とても楽しい作業でした。
お気に入りはブルーのダイニング。同じ色のカップでお茶を飲むとうれしい気分になります。ジャスパーのオーナメントを飾ったクリスマスツリーを設置するのも今から楽しみです。
(絵本の著作権 ©『サンタのなつやすみ』レイモンド・ブリッグズ(あすなろ書房))
他にも私の部屋には大好きなすみれ色、廊下や階段には落ち着いた雰囲気が出るようブラウン……と、空間ごとにカラーが異なっています。
輸入壁紙は高価なので、アクセント壁紙として一部にだけ使用しています。限られた予算の中で手配するため、狭めの空間でできるだけ家の目立つ位置に張るようにしました。
1階リビングのマントルピース(暖炉の周りの装飾)には、ウィリアム・モリスの「Pimpernel」を。晩年のモリスが自宅のダイニングの壁に選んだ柄です。脇の本棚、グリーンの塗り壁と相まって落ち着いた雰囲気を演出しています。
1階トイレの壁紙は、鮮やかな鳥や植物が描かれたイギリスの老舗ブランド・サンダーソンの「Porcelain Garden」。「Porcelain(=磁器)」という名前から、おそらくシノワズリ(17世紀後半から19世紀初頭、ヨーロッパで流行した美術様式)の陶磁器をイメージしたものだと思われます。トイレが華やかな空間になりました。
2階寝室横の私の部屋にはウィリアム・モリスの弟子、ジョン・ヘンリー・ダールがデザインした「Golden Lily」を使用。お花が咲き乱れる優雅なデザインですが、塗り壁の色となじむようにパープルカラーが一部に使用されているものを採用したので部屋が全体的にまとまっています。
上記以外には一部を国産のクロスにするなどして予算内に収めました。「英国の家」といいつつ、国産の素材を取り入れながらもなんとか英国感を出しています。
ちなみに夫が唯一こだわった書斎は、遊び心でイギリスのマナーハウスやカントリーハウスで見かけるフェイクブックドア(本物の本棚に見せかけた扉)を採用しています。
実際にあるイギリスの古書のデザインを凹凸が出るように張っているため、壁紙では出せない本物のような質感でかっこいいです。この扉は夫のお気に入りで、毎日開け閉めするたびに誇らしい気分だと語っています。
夫は家に関する要望が「三方の壁側に本棚が設置できる書斎があればよい」と大変シンプルだったため、家を建てるにあたっては私の要望をほとんど取り入れて、予算をかけてもらいました。好きにやらせてもらえて本当に感謝しています。
まだまだ発展途上。将来の姿を夢想する楽しみ
仕事で疲れたり、なんだか元気を出せなかったり。そんな日でも、コンサバトリー風ルームの椅子に座り大好きなティーカップでお茶を飲むと気持ちが回復します。シャンデリアの優しい明かりがカップをキラキラと輝かせている様子は愛おしく、これらが生活の一部にあることがとても幸せです。
まだまだ発展途上の家です。ダイニングテーブルをアンティークに買い換えたいし、お庭を素敵なイングリッシュガーデンに仕上げて、コンサバトリーからの眺めを良くしたい。お庭でもティータイムを楽しめるようにしたい。やりたいことがたくさんあります。
それにはお金も膨大にかかるし、何年かかるかも分かりません。それでも、少しずつ手を加えながら将来の姿を夢想するのも日々の楽しみになっています。
設計事務所の方にわが家を「BLOSSOM COTTAGE」と名付けてもらいました。私たち家族の未来が開花する、これからもっと発展していくという意味が込められています。
娘の成長を見守りつつ、これからもこの家と共に楽しく穏やかに、心豊かに過ごせたらと思います。
🏠いろんな「趣味と家」🏠
● 書庫に「移動式書架」35000冊の本を収納
● 溺愛する椅子にベストな空間をつくった
● 「ゲーム御殿」でゲームに囲まれた生活
著者:たなこ
日本紅茶協会認定ティーインストラクター。紅茶、食器、英国、ロリィタ服、パンやお菓子づくりが好き。秦野のギャラリー喫茶 TEAVRILにて紅茶のお給仕をしています。
Twitter:@tikwb
編集:はてな編集部