静岡県静岡市にお住まいの望月さんは、自らプランニングし、妻と義理の両親とともに暮らす二世帯住宅を建てました。
クラブDJをするほど音楽好きな望月さん。家の中に「DJブース」を設置し、音楽を存分に楽しんでいます。
他にも釣り、キャンプ、自転車、登山、山スキー……と多趣味な家族の趣味道具を美しく、使いやすく収納するための工夫に驚かされます。
音楽やマンガなど、圧倒的な熱量を注ぐ「好きなもの」をおもちの方に、こだわりの住まいをご紹介いただく「趣味と家」第18回です。
こんにちは。望月道隆といいます。
2019年3月、静岡市に私と妻、義理の両親の4人で暮らす二世帯住宅を建てました。当時は工務店のリフォーム事業部に勤務していたこともあり、自分で図面を引き、間取りや設備、細かい仕様まで一つひとつ決めた注文住宅です。
私は大学時代からDJを始めたのですが、社会人になってもその熱は冷めず。家を建てるなら、音を気にせずプレイできる空間が欲しいと考え、防音対策やデザインにこだわった「DJブース」をつくってしまいました。
今回は自慢の「DJブース」や二世帯の家族が快適に暮らすための工夫を紹介します。
【目次】
万全の防音対策と「壁の色」にこだわったDJブース
わが家は1階が両親の生活スペース、2階が私たち夫婦の生活スペースになっています。
家の中で存分に趣味を楽しむ空間として設けたのが、2階の「DJブース」です。
私は大学時代にバイトでためたお金でターンテーブルを買い、DJを始めました。就職後も毎週末、小さなクラブでDJをしたり、自分でミックスしたCDをレコード屋で売ってもらったり。
ですが、これまでに住んでいた賃貸住宅では音漏れの問題もあり、なかなか思うようにプレイできませんでした。ですから、DJブースをつくるのは念願だったんです。
家の中にDJブースをつくる上で、徹底的に防音対策をしました。まず、全ての壁にセルロースファイバーという防音効果の高い断熱材を入れました。加えて、スピーカーに近い正面の壁にはサイディング加工を施して、外から音が聴こえないようにしています。
床材の下にも遮音マットを敷き、1階の天井裏にも厚めの断熱材を入れて吸音。両親の生活スペースに音が漏れないよう対策しました。実際、音漏れはどうなのか両親に聞いてみたのですが、DJプレイ中もほとんど気にならないレベルだそうです。
他にこだわった点としては、DJブース内の「壁の色」ですね。真っ黒な空間にしたかったので、漆喰(しっくい)に炭を混ぜています。
この家の壁の標準仕様は、ビニールクロスではなく漆喰の塗り壁です。漆喰はもともと白い素材なので、基本的には黒い塗料を混ぜても茶色やグレーにしかなりません。それでも、無理を承知で職人さんにお願いしたところ、「炭の粉」をドバドバ混ぜて、理想に近い黒を実現してくれたんです。
「その代わり、ひび割れたりしても同じ色での補修はできないよ」と言われましたが、絶対にクレームは出さないからとゴリ押しして。傷がついたら、鉛筆で塗りつぶして補修しています。ちょうど鉛筆の2Bくらいの濃さと質感の壁なので、塗ってしまえば傷はほとんど見えません。
ちなみに、漆喰にはもともと消臭効果がありますが、炭を混ぜたことでそれがさらにパワーアップ。カレー味のカップヌードルをこっそり食べても、においが全く残らないから妻にバレない。思わぬ効果を生んでくれました。
ただ音を聴くだけの空間にするのではなく、せっかくならDJプレイをしている様子を眺めてもらえると面白いなと考え、リビングに接しているブースの前面をガラス張りにしました。
イメージしたのは、ラジオ局の公開収録スタジオ。また、私が好きなHIPHOPの雰囲気に合う、90年代のニューヨークのような危うい空気感を出したくて、リビング側の壁にレンガを張ることに。
……ところが、きれいなレンガを整然と張ってしまうと、ラジオの公開収録スタジオというより「厨房がのぞけるパン屋さん」みたいになって、中で職人さんがパンをこねているような雰囲気が出てしまう。
そこで、わざとレンガを割り、あえてラフな感じで塗ってもらうよう左官職人さんにお願いしました。職人さんもノリが良く「俺が塗るときれいになっちゃうから」と、入社2日目の若い職人さんに丸投げ(笑)。結果、イメージ通りの仕上がりになって満足しています。
この空間で気が向いたときに1人で1~2時間黙々とプレイしたり、新しいレコードを買ったときには流して音をチェックしたり。
DJが趣味のうまい友人が遊びに来たときは、聞くほうに専念します(笑)。「DJをやってみたい!」という人も遊びに来るので、そのときは教えていますね。DJブースで人とのつながりが生まれています。
釣り、自転車、登山……大量の趣味アイテムをどう収納するか
いきなり私の趣味全開のDJブースを熱く紹介してしまいましたが、この家のプランニングに当たっては、主に2点を重視しました。
まず、「大量にある趣味のアイテムを、いかに収納するか」ということ。
私たち夫婦も両親も、みんな多趣味。それも道具を使う趣味が多いため、十分な収納スペースの確保はマストでした。
私の趣味は、DJに加えて、釣り、キャンプ、自転車、それからApple製品の収集。妻は釣り、キャンプ、自転車、ベアブリック(クマ型のブロックタイプフィギュア)を集めること。両親は登山や山スキーなど、アウトドア好きです。
レコードは数千枚、釣りざおは夫婦合わせて数十本、自転車も何台もあり、キャンプ道具や登山道具は大きくてかさばる物も多い。旧居の賃貸アパートでは自宅とは別に倉庫を借りて保管していたほど、物があふれていました。
それでも新居の居住スペースにはなるべく物を置きたくない。そこで、玄関エリアの「土間(間取図の「SC」)」や「小屋裏収納」など、趣味の物を保管することに特化したスペースを意識的に確保しました。
まず、玄関土間には自転車や両親の山の道具など、汚れやすいものを置いています。
釣りざおも、もともと土間に置いていましたが、今は置き切れなくなり、2階の洋室へ移動しました。
数千枚のレコードも同じ部屋に保管しているので、「釣り道具」と「レコード」のスペース争いが勃発していますね。
高さ1.4mの小屋裏収納には壁全面に棚を設けていて、二世帯それぞれの物の保管場所に。
ここに置いているのは、あまり使用頻度の高くないキャンプ道具や、DJの機材など。物が増えるたびにこのスペースが侵食されていくので、ここでも4人で陣地の奪い合いが起きています(笑)。
物が多くても雑然とした空間にならないよう、ルールを決めています。まず、収納ケースを統一したり、スタッキングできるものを選んだりして、なるべく無駄な隙間をつくらないこと。
次に、「分類」を徹底すること。はじめに「よく使う物」は、何がどこにあるか一目で確認できるように収納し、「年に1〜2回程度しか使わない物」はスタッキングのボックスに収納するなど、使用頻度によって保管場所を分けています。
そして「よく使う物」に関しては、必要な物を必要なときにすぐ取り出せるよう、そこからさらに細かく分類しています。
例えばレコードなら「HIPHOP」や「レゲエ」「ソウル」といったジャンルで大きく分けた上で、ジャンルごとにアルファベット順に棚へ並べていく。
釣りざおであれば「海釣り用」「ブラックバス用」「港用」「船用」などに分け、さお同士がぶつかって傷まないよう専用のロッドスタンドなどに立てて保管しています。
レコードも釣りざおも単なる「コレクション」ではなく、DJや釣りを楽しむための「アイテム」なので、見た目の美しさ以上に検索性や取り出しやすさを重視しています。
収納スペースを考えて設計した家ですが、「もっとこうしておけば……」という反省点もあります。
一つは、動線を考えた収納スペースや扉の配置。釣り道具やキャンプ道具はアウトドアで使用するものですが、メンテナンスや準備を行うのは室内。出し入れのたびに2階や小屋裏収納を往復すると準備で疲れてしまうんですね。もう少ししっかり検討すれば良かったと思っています。
もう一つは、収納スペースの高さ。写真を見てお分かりになると思いますが、長い釣りざおだと天井に当たってしまうことも。趣味にもよりますが、可能な限り収納スペースの高さは確保してほしいですね。
気を遣わず、楽しく過ごせる二世帯住宅を目指して
家づくりのもう一つのポイントは「二世帯が仲良く、気を遣わず過ごせる」こと。
世帯ごとのプライベート空間を確保し、ある程度の距離感は保ちつつも、常にお互いの存在を感じられてコミュニケーションも取りやすい。そんな二世帯住宅にしたいと考えました。
そのため、LDKや浴室・洗面室、トイレなどの生活スペースは1階と2階に分かれ独立していますが、玄関は一つにしました。
二世帯住宅の場合、世帯ごとに玄関を設けるケースも多いですが、あえて共用にしています。いちいち「ただいま」「おかえり」と声を掛けるまではいかなくても、最低限「誰かが外から帰ってきたこと」くらいは分かるようにしたかったんです。
また、二世帯住宅特有の悩みである「音」の問題にも配慮しました。
私たち夫婦と両親とではライフスタイルが異なり、食事や入浴、睡眠の時間も違います。そのため、浴室や洗面室を共用にしてしまうと、両親が寝静まっている時間帯は音を出すことがはばかられて、入浴や洗濯ができなくなってしまう。そこで、水回り関係は1階と2階それぞれに設け、2階のお風呂は1階の寝室からなるべく離れた場所に配置しました。
ちょっとしたことでも、積み重なるとお互いのストレスが膨らんでしまいます。二世帯住宅の場合は特に、それぞれが気を遣わず、気持ちよく生活できるプランニングが重要ではないでしょうか。
それぞれのLDKには上下階をつなぐ吹抜けがあり、2階廊下の窓もガラス張りにしているので、どちらかのフロアの電気がつくと、なんとなく存在を感じることができます。
適度な距離感を取れるガラス張りの空間を、この家でいちばん気に入っています!
家を「遊び場」にしたら人生が充実した
最後に、もし私と同じように「音楽を楽しめる家にしたい」という人にアドバイスを送るとしたら、やはり防音対策は万全にしたほうがいいと思います。
見た目を気にしないのであれば、音が反響しやすいフローリングより、カーペットにしたほうがいいでしょう。また、ある程度大きな音を出したいなら、吸音効果の高い断熱材や二重窓も取り入れたほうがいいと思います。いずれにせよ、常識的なマナーの範囲内での防音対策なら、そこまでコストはかかりません。
あとは、見た目のかっこよさと使いやすさ、メンテナンスのしやすさ、それらのバランスをどう取るかも重要です。
例えば、機材は消耗品ですから、壊れたときにすぐ修理や交換ができるほうがいい。かっこいいからとスピーカーを壁に埋め込んでしまうと、交換するときに壁を壊さないといけなくなります。
私も埋め込み式にしたかったのですが、現実を踏まえて断念しました。最初にそこまで考えておかないと、せっかくの機材がいずれ「音の鳴らないオブジェ」になってしまうかもしれません。
他に細かいことを言えば、電圧をやや高くしておくなどいろいろあるのですが……、最も大事なのは「自らが心地よいと思える空間」にすること。これはDJブースに限らず、趣味のスペース全般に言えることだと思います。
私の場合、好きな音楽のジャンルや出したい音の雰囲気にマッチするよう、DJブースの内装にはこだわりました。機能面だけでなく、楽しみたい音楽や好きな世界観に合わせて内装やインテリアを統一すると、とても楽しい空間になるはずです。
私たち夫婦のように趣味が多い人間にとって「遊び」は人生の柱です。一生懸命仕事をするのも、オフの時間に思い切り遊ぶため。
それなら、オフの時間の大半を過ごす家を遊び場にしてしまえばいい。少なくとも私たちはこの家を建ててから、より人生が充実しています。
🏠いろんな「趣味と家」🏠
● 「家を建てるならシアタールームが欲しい」を貫いて
● カメラ沼にハマり「撮影スタジオ」がある家を建てた
● 好きなときに筋トレできる、ホームジムがある家
お話を伺った人:望月道隆
静岡県静岡市在住。工務店のメディアマーケティング部で広報を担当している。DJのみならず、料理動画を配信したり、自身のファッションブランドでグラフィックを手がけるなど、多才な一面も。
聞き手・文:榎並紀行(やじろべえ)
写真:関口佳代
編集:はてな編集部