高気密高断熱の住宅や省エネ住宅の情報を集めていて、「パッシブハウス」という住宅を知った人もいるかも知れません。では、「パッシブハウス」とはどのような住宅なのか、その特徴やメリット、デメリットなどについて、パッシブハウス・ジャパンの代表理事である森みわさんと、パッシブハウスの施工を手掛ける大和屋の井野口政弘さんに話を伺いました。
パッシブハウスとは、省エネ住宅の設計メソッド
パッシブハウスとは、23年前にドイツのパッシブハウス研究所が開発した省エネ住宅の設計メソッドです。
「究極のエコ住宅」などと称されることもありますが、冷暖房機器のような設備ではなく、家自体で「健康になれる省エネ」を目指し、曖昧な「高性能」という概念に明確な基準を示しています。
「パッシブハウスには、冷暖房負荷や一次エネルギー消費量、気密性などで厳しい基準が設けられています。住宅性能は『PHPP』という専用のツールで評価され、現在、国内ではパッシブハウス・ジャパンが唯一の認定機関です」(森さん)
パッシブハウスの特徴一覧
パッシブハウスには、それぞれ特徴があります。
太陽光や風など自然のエネルギーを取り入れる
パッシブハウスは太陽光や風などの自然エネルギーを活用し、快適性が高く、エコな住宅を建てることができます。通風の良い家は、湿気やカビを減らし構造体にも良い影響をもたらします。
断熱
パッシブハウスは高断熱・高気密性であることが特徴です。そのため、エアコンや床暖房などの冷暖房設備に頼りすぎることなく、建物の性能を生かした断熱ができます。
気密性が優れていない場合、冷暖房器具をつけても部屋が暖まりにくかったり、夏場は冷えにくかったりします。
局所的に断熱をするのではなく、全体的に断熱することによって、温度変化にムラがない快適な暮らしができるわけです。
遮熱
パッシブハウスは、遮熱性にも優れています。住宅に軒やひさしをつくることによって、部屋に入る日差しを調整します。とくに夏の強い日差しは、カーテンやブラインドだけでは日光を防ぎきれず、室温の上昇の要因にもなり得ます。
パッシブハウスでは、軒やひさしを深くしたり長くしたりするなどの工夫をすることで、遮熱性を実現しています。さらに、光や風などの自然エネルギーを活用することで、より快適に生活できるようになります。
蓄熱
パッシブハウスは、蓄熱性があることも特徴です。蓄熱とは、熱を蓄えることを指し、夏場と冬場で以下のような効果があります。
・夏場:蓄熱材によって室温の上昇を防ぐ
・冬場:太陽光を蓄え気温が低下したときに放熱して建物を暖める
こうすることで、室内の快適な温度調整がしやすくなります。結果として、冷暖房器具の稼働時間も減らせるため、省エネにもつながるわけです。
パッシブハウスで満たすべき基準
パッシブハウスは、以下の厳しい基準を満たしている必要があります。
パッシブハウスの基準
年間冷房需要 | 15kWh/m2以下(地域により除湿需要が加算) |
---|---|
年間暖房需要 | 15kWh/m2以下 |
年間一次エネルギー消費量 | 120kWh/m2以下(旧基準の場合) |
気密性能 | 50パスカル加圧および減圧時に漏気回数が0.6回以下 |
それぞれ、詳しく解説します。
一次エネルギー消費
一次エネルギー消費量とは、年間で自然エネルギーをどのくらい消費するかの指標です。一次エネルギーは、石油や石炭、太陽熱など加工されていない状態のエネルギーを指します。住宅設備によるエネルギーは、以下のとおりです。
・冷暖房設備による消費量
・換気設備による消費量
・給湯設備による消費量
・照明設備による消費量
これらを合計した数値が、一次エネルギー消費量になります。
地域によって基準は異なりますが、北海道(Ia地域)を例に挙げると年間123.3kWh/㎡です。
また、東京都(IVa地域)では、年間47.9kWh/㎡です。
パッシブハウスのメリットは?
高気密・高断熱や省エネ性能をアピールする住宅はほかにもありますが、パッシブハウスにはどのような特徴やメリットがあるのでしょうか?
設備依存率を減らせる
パッシブハウスを省エネ住宅として捉える人もいるでしょうが、「『省エネ』にばかりフォーカスすると本質からズレる」と、森さんは言います。
「パッシブハウスにおいては、省エネというよりも、住宅性能を考え、太陽と風に素直な設計をすることで冷暖房エネルギーの少ない暮らしができます。太陽光発電を載せるといった省エネ志向のもっと手前、プランニングや躯体の性能で不必要な設備を圧縮するのです」(森さん)
最高レベルの住宅性能
「冷房に関しては地域によって若干数値は変わりますが、年間冷暖房需要がそれぞれ15kWh/m2、年間一次エネルギー消費量が120kWh/m2(旧基準の場合)、気密性能として50パスカル加圧および減圧時に漏気回数が0.6回/hという基準を満たす必要があります。これは例えば、断熱性で言いますと、HEAT20*が推奨する断熱基準で最高レベルのG2~G3に相当します」(井野口さん)
*正式名称は「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」。住まいの省エネ化をはかるため、断熱等の技術開発や啓蒙を行っている
健康で快適に暮らせる
「日本の家は冬の寒暖差が激しく、ヒートショックのリスクが高いという問題があります。なぜ寒暖差が激しいかというと、光熱費を節約するために人の居る部屋の中だけ暖めるから。パッシブハウスは家全体の断熱性能を高めて、6畳用エアコン一台で40坪まで全館空調が可能です。身体に負荷のかからないストレスフリーな住環境を実現できます」(森さん)
「パッシブハウスは、断熱はもとより、通風や換気・日射取得・日射遮蔽(しゃへい)を工夫して、家の中の快適性を維持します」(井野口さん)
パッシブハウスにデメリットはあるの?
設備を減らして光熱費を抑え、健康で快適に暮らせるというパッシブハウスですが、デメリットはあるのでしょうか?
建築コストが高い?
高い住宅性能を誇るパッシブハウスだけに、気になるのはコストです。コスト面ではどうなのでしょうか?
「高い断熱性能を得るためには、それだけ断熱材の量も必要です。また、窓や換気設備なども高性能なものを使用するため、建築コストは上がる傾向です」(井野口さん)
「ケースバイケースですが、一般的な住宅の10%増くらいのコストで建築する工務店が増えてきています。ただし、イニシャルコストはかかっても、ランニングコストが抑えられるため、30年住めば元が取れます」(森さん)
立地に制約がある?
パッシブハウスを建てる際、何か立地に制約などはあるのでしょうか?
「パッシブハウスに適した立地とあまり適さない立地はあります。日射取得に恵まれた立地は有利です。逆に南に高い建物があったりすると、日影になって日射量が減るため、窓の位置や住宅の向きを工夫する必要があります」(井野口さん)
「西向きや東向きの家は、夏場に冷房需要が増すため、外付けブラインドやすだれ、オーニングなどを設置して、日差しを遮蔽することもあります」(森さん)
工期が長い?
工期について気になる人も多いでしょう。パッシブハウスの工期は一般的な住宅と比べてどうなのでしょうか?
「当社の場合、一般的な規模の家で着工から5カ月でお引渡しさせていただいております。3カ月位で建てる住宅会社もあるようなので、それと比べると長いかも知れません」(井野口さん)
「物件ごとに条件が異なるため一概にはいえませんが、土地選びに1年+設計に1年となると、完成までに3年近くかかる場合もあります。できれば、じっくりと家づくりに取り組んでほしいですね」(森さん)
パッシブハウスを建てるのは難しい?
厳しい基準をクリアしなければならないパッシブハウスは、建てるのも難しい印象があります。パッシブハウスに興味をもって、「パッシブハウスを建てたい!」という人は、どこに相談すればいいのでしょうか?
「お近くのパッシブハウス・ジャパン賛助会員へご相談いただくのがいいでしょう。賛助会員の工務店や設計事務所には、省エネ住宅設計について学んだ『省エネ建築診断士』の在籍が義務付けられています。パッシブハウス・ジャパンのWebサイトに賛助会員の工務店や設計事務所のリストが載っています」
高気密・高断熱や省エネにこだわった住まいを実現した先輩たちの事例を紹介!
パッシブハウスに代表される高気密・高断熱の省エネ住宅を建てた先輩たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】住宅のプロが立地と気密・断熱にこだわって建てた家
子どもが生まれてマイホーム購入を現実的に考え始めたSさんは、近くのスーモカウンターを訪れました。これまでハウスメーカー、住宅建材メーカーなど住宅関連で仕事をしてきたSさんのこだわりは、建物の省エネ断熱。要望に応えてくれそうな会社の中から、間取りへのこだわりが好みに合った1社と家づくりを進めることにしました。
仕事の経験上、家を持つ際にはどんな土地を手に入れるかが一番大切だと感じていたSさんは、理想の土地を見つけてすぐに契約。建物も、気密性にはとくに気を配り、自分が工事現場に立ち会えないときは妻に頼んで写真を撮ってもらうこともあったほどです。晴れて理想の住まいを手に入れたSさん、住まいのプロだからこそ、多すぎる情報の整理にスーモカウンターの存在が助かったといいます。
この実例をもっと詳しく→
プロも納得の住まい選びは、省エネの視点と間取りのこだわり
【case2】高気密・高断熱と24時間換気で、カビとは無縁の快適な生活を実現
築年数の経ったアパート住まいでカビに悩まされていたYさん。どうせ引越すならマイホームをと考えて、ネット検索で見つけたスーモカウンターへ相談に訪れました。新築と中古リノベを比較検討して、「せっかくのマイホームだから、将来までずっと住みやすい間取りの家を、最新の技術で建てたい」と注文住宅に決定。住宅性能が高く、体に優しい家を建ててくれる建築会社を希望して紹介された5社のなかから、同じ予算でより住宅性能の高い家を提案してくれた1社に依頼することに。
「将来までずっと住みやすい家」を建てたいYさんがこだわったのは、「平屋」。建築会社から「高気密・高断熱仕様だからエアコン1台で大丈夫」と言われ、半信半疑だったものの、完成して住んでみたら本当にエアコン1台で家中の暖房がまかなえました。また、24時間換気システムが常にきれいな空気環境を保ってくれるため、カビの悩みとは無縁の生活を実現、理想の住まいに大満足です。
この実例をもっと詳しく→
ずっと住みやすい、住宅性能の高い家を。注文住宅でかなえた思いどおりの住まい
【case3】北海道だから納得できる断熱を! 冬でも裸足で過ごせる理想の住まいが完成
子どもが生まれて、家の中で自由に遊ばせるなら、戸建てのほうがご近所に音の気兼ねをしなくて済むと考えた北海道札幌市在住のKさん。インターネットで情報収集をしているときに知ったスーモカウンターへ個別相談に行ってみることにしました。
Kさんの希望は、納得できる断熱性能の家を建ててもらえること。北海道では高気密高断熱の家が得意な会社がたくさんある上に、断熱方法もさまざまで、単純に比較ができないと悩んでいました。そこで、スーモカウンターで予算と希望を伝えるとアドバイザーが4社をピックアップ、そのうち2社と面談し、最終的に土地選びから相談に乗ってもらえる1社に依頼することにしました。
完成した住まいは、1階はLDKと洋室、浴室、洗面室。LDK全体に床暖房を設置し、冬でも裸足で快適です。子どもが元気に走り回れる環境に喜び、理想の住まいでの暮らしを伸び伸びと満喫しています。
この実例をもっと詳しく→
子どもが元気に裸足で走りまわれる、広くあたたかな家が完成
パッシブハウスで理想の住まいを実現するためのポイント
最後にあらためて井野口さんと森さんに、パッシブハウスで理想の住まいを実現するためのポイントを聞きました。
「土地が決まっている場合は、その制約の中で最大限日射を取れるよう工夫するしかありませんが、これから土地を買われるのであれば、たとえ多少高くなっても、冬の日射が取れる土地を選ぶことをオススメします」(井野口さん)
「パッシブハウスの求める基準を全て満たすためには、それなりの予算がかかるなど、ある種の覚悟も必要になります。認定を取ることにこだわるよりも『つくり手と住まい手が一緒に理想の家を目指しながら、太陽と風を活かしてなるべく冷暖房エネルギーに頼らない暮らしを実現する』というスタンスがいいのではないでしょうか」(森さん)
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「建築会社はどうやって選べばいいの?」住まいづくりに当たって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望をかなえてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
無料の個別相談のほか、「はじめての注文住宅講座」や「ハウスメーカー・工務店 選び方講座」など、家づくりのダンドリや、会社選びのポイントなどが学べる無料の家づくり講座も利用できます。ぜひお問い合せください。
イラスト/つぼいひろき
監修/SUUMO編集部(パッシブハウスの特徴一覧、一次エネルギー消費)