日本で家を建てるなら和風の家を、と考えている人も多いでしょう。いわゆる純和風のほかに、今は「和モダン」の家も人気です。そもそも和風の家の魅力とはどういったところにあるのでしょうか。洋風住宅との比較や「和」を感じられる外観や内装、素材にも着目して、一級建築士の秋山怜史さんに和風住宅の魅力と家づくりのポイントについて聞きました。
和風の家や和モダンの家とは?
日本古来の建築としては、書院造りや数寄屋造りなどがあります。これらには一定の様式や格式がありますが、現在私たちが「和風の家」と言った場合、必ずしもこれらの様式や格式を守った住宅というわけではないようです。
「実は、『和風の家』の定義はなかなか難しく、人によっては和室があるだけで、『和』を感じられる『和風の家』になります。新建材を使っていてもデザインさえ和風ならば『和風の家』と言えてしまう点は、専門家としては違和感もありますが、住まい手がイメージする『和』が再現できていれば、それは『和風の家』と言っていいでしょう。それほど、『和風の家』という言葉には幅広さがあります」(秋山さん、以下同)
「和モダンの家」はどんな家?
「和」の要素を取り入れた住宅として「和モダンの家」と言われる住宅もあり、人気が高まっています。では、「和モダンの家」とはどのような家なのでしょうか?
「『和モダン』と聞くと、和洋折衷のようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、それよりも『和』の現代的な部分をどう解釈するかによると思います。実は、『和モダン』も定義が難しく、幅広いものです。例えば、明治時代や大正時代の西洋文化が入ってきた当時の日本の建築を『和モダン』と感じる人もいるでしょうし、より現代的な要素を取り入れたものを『和モダン』と捉える人もいるでしょう」
「和風の家」と「洋風の家」の違い
「和風の家」や「和モダンの家」の定義が難しいことはわかりました。では、「和風の家」と「洋風の家」の違いは、どういったところにあるのでしょうか?
「主にデザイン要素で『和風』と『洋風』を分けているのではないでしょうか。例えば、欧米の住宅には石やレンガが多用されているイメージがあります。ただし、今の日本で『洋風の家』と言われている住宅に必ずしも石やレンガが使われているわけではありません。外壁は石やレンガに見えても、石風やレンガ風のサイディングだったりするのです。
例えば、『洋風の家』を細分化して『南欧風の家』と言った場合、イメージするのはテラコッタタイルだったり、『北欧風の家』ならばパイン材と白壁だったりします。このようになんとなくイメージするデザイン要素が含まれている住宅を『〇〇風の家』と言っているのです」


和風住宅の魅力とは?
「和風の家」には、明確な定義はないものの、「和」を感じさせる要素のある住宅が「和風の家」だとするのなら、その魅力はどのようなところにあるのでしょうか?
「日本の風土に適している」は間違い?
「『和風の家』は、日本の風土に適している点が魅力だと考える人がいるかもしれませんが、そうとも言い切れません。日本には四季があり、夏は高温多湿で冬は寒い。しかし、昔の日本家屋は夏に照準を合わせて建てられた結果、冬に寒いという弱点がありました。20年~30年前でも無断熱の住宅があったほどです。
一方、『和』を感じさせる要素として軒(のき)や庇(ひさし)がありますが、これらは夏の強い日差しを遮り、外壁を風雨から守るという役割を担っており、日本の夏に適した造りと言えるでしょう」
日本人の心に響く素材感やデザイン
木の質感や木目の表情など、「和」をイメージさせる素材には、どこか日本人の琴線に触れる趣があるように感じます。そういった点も「和風の家」の魅力と言えるのではないでしょうか?
「木を使っているから『和』とは言い切れませんが、木の使い方や見せ方に『和』を感じる部分はあると思います。木の柱をそのまま使う「現し」で仕上げるといった使い方は、日本の特徴的な建築様式の中から生まれたものなので、そういったところに『和風の家』の魅力を感じる人も多いでしょう。
また、色も『和』を感じるポイントです。例えば日本瓦が黒いことから、黒っぽい色に『和』を感じる傾向があります。黒系のガルバリウム鋼鈑を外壁に使った住宅を『和モダン』と言ったりするのは、色の影響からでしょう」
外部とのかかわり方にも「和風の家」の魅力がある
歴史的に日本の住宅が求められてきた外部とのわり方の中にも、「和風の家」の魅力を見出すことができると、秋山さんは言います。
「日本の住宅は、火事のときにどうやって家財を守るかという視点が取り入れられています。例えば、土蔵の壁に漆喰が使われたのは、高い耐火性があるからです。家の外壁には焼杉が使われることもありますが、木材に焼きを入れることで腐食を防ぎ、耐火性を高める効果があります」
内装にも「和風の家」の魅力がある
「和風の家」は、外観だけでなく内装にも特有の魅力があるように感じます。
「外からの視線を遮りながら柔らかく光を取り込むアイテムとして障子があり、『和風の家』では定番になっています。また、板張りの床にむく材を使い、傷がついたら削ってオイルを塗りなおすというメンテナンス性の高さも『和風の家』の魅力と言えるでしょう」
「和風の家」の魅力は、庭の捉え方にも
「『和風の家』にとって、自然をどう取り込むかは重要です。家は庭の一部ですし、庭は家の一部です。家だけではなく、庭も一緒に考えることが『和風の家』の家づくりだと考えています。たとえ広い庭が確保できなくても、日本には昔から『借景』という考え方があります。家の中からどのような風景を見たいのかを考えることで魅力的な『和風の家』になります」
和風の家づくりで気をつけるポイントは?
さまざまな魅力のある「和風の家」ですが、その家づくりにあたって、どのような点に気をつければいいのでしょうか?
断熱性を高める工夫を
「日本の家には冬に寒いという弱点があると言いました。実は日本では冬場、室内でヒートショックで亡くなる方が多いのです。その原因は家の中の寒暖差にあります。日本の家はもっと断熱性を高めなければいけません。
一方で、『和』を感じられるように木の柱を現しで仕上げるなら、外断熱を選んだ方がよいでしょう。『和』の魅力を維持しながら、弱点を補う工夫が必要です」
太陽と上手に付き合う
「太陽と上手に付き合うことも、良い『和風の家』を実現するためのポイントになります。例えば軒や庇は、夏の強い日差しを遮り、冬の柔らかな日差しを取り入れるのに優れています。軒が長ければ屋根の面積が広くなるので、太陽光発電にも適しています。
また、日光を取り入れるために、北側にも窓を設けることをオススメします。北側は光が安定していて、曇りの日などは北側が最も明るいほどです。南の窓と北の窓を開ければ、南北に風が通るので通風も確保できます」
メリハリをつければ、コストも抑えられる
「和風の家」に魅力を感じるうちに、気になってくるのはコストのことです。「和風の家」はコスト的にはどうなのでしょうか?
「『和』を感じる素材にこだわれば、どうしてもコストは高くなってしまいます。例えば、内壁を壁紙で仕上げた場合と、漆喰で仕上げた場合では、平米単価にして3~4倍も漆喰の方が高くなります。一方で、むくの杉板のフローリングの方が、複合材のフローリングよりも安価に済むこともあります。要は、どこにどこまでこだわるか。こだわる箇所にメリハリをつけることによってコストを抑えた『和風の家』を実現することは可能です」
理想の和風や和モダンの家を手に入れた先輩たちの事例を紹介!
「和風の家」の魅力や気をつけるべきポイントはわかりました。そこで、スーモカウンターで理想の「和風の家」や「和モダンの家」を建てた先輩たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】ローコストでも実現した縁側と土間のある家
古い建物を見るのが好きで、昔の日本家屋の、ひんやりと涼しい土間や、日当たりのいい縁側に憧れていたというTさん夫妻。和風の家は予算的に自分たちには無理だろうと考えていましたが、一度詳しい人から話を聞いてみようと、スーモカウンターを訪れました。そこで、「なるべくローコストで、昔の日本家屋の良さがある平屋を建てたい」と希望を伝えたところ、条件に合う2社を紹介され、最終的にそのうちの1社に依頼することにしました。
Tさん夫妻が希望したのは、中庭があるコの字型もしくはロの字型の平屋。予算の関係から純和風ではなく和モダンの家を選びましたが、洗い出しの土間にはこだわりました。完成した理想の家に対してTさん夫妻は「本当に建ててよかった」と大満足です。
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「わが家に帰ってきたな」とホッとする、土間のある平屋
【case2】ルーバースクリーンの外観が特徴、車椅子でも使いやすい和モダンの家
長男が小学校に入学する時期に合わせて、家づくりをしようと計画していたIさんご家族。祖母が昔住んでいた空き家を建て替える予定で検討を始めました。しかし、ハウスメーカーの家は高く感じたため、相場を知るためにスーモカウンターを訪問。そこで紹介された会社とは縁がなかったものの、改めてスーモカウンターを訪れ、運命の1社と出会いました。
Iさんの希望は、ゆったりと落ち着きのある和モダンの家。近所に住む車椅子の母が気軽に遊びに来られるように、廊下や階段の幅は広めに取りました。バルコニーのルーバースクリーンもこだわりのポイント。和モダンを感じさせる外観のアクセントになっており、軒を深く取ったので、雨の日でも安心して洗濯できるお気に入りの場所です。
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庭の紅葉を眺めながらゆったりくつろげる和モダンリビングのある住まい
【case3】ヒノキの見せ梁が圧巻、「和」の要素を取り入れた木造平屋
「いつかは一戸建ての家を持ちたい」と思っていたFさん夫妻は、住宅展示場を訪れたのをきっかけに「もっといろいろな平屋が見たい」と考え、次の休日二人でスーモカウンターへ足を運びました。そこで、木造の平屋で、耐震性に信頼が置ける建築会社を紹介してもらうことになったFさん、平屋の施工実績があり、土地から探してくれる5社のうちから木造建築に強いと聞いた地元の1社に惹かれ、最終的に契約を交わしました。
完成した木造平屋は、リビングから見上げるヒノキの白木の見せ梁が圧巻です。リビング横には、小上がりの和室を設け、段差を利用した収納も確保。浴室の窓から見える坪庭やシューズクロークの縦格子戸など、随所に和の要素を取り入れた住まいに、Fさんは「ホッとできる」と大満足です。
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ヒノキの梁が清々しい、ロフト付きの平屋
理想の和風住宅を実現するためのポイント
最後にあらためて秋山さんに、理想の「和風の家」を実現するポイントを聞きました。
「冒頭でお話したように、『和風の家』に明確な定義はありません。各人が『和』を感じる素材やデザインを住宅に取り入れることで『和風の家』が実現します。どこに『和』を感じるかは人それぞれなので、これから『和風の家』を建てたいという人は、自分が思い描く『和風の家』に近い住宅の写真などを集めておきましょう。自分が住宅のどんなところに『和』を感じるのかを考えながら、それを設計担当の建築士などとも共有して、楽しみながら家づくりをすることが大事です」
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スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「建築会社はどうやって選べばいいの?」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望をかなえてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
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取材協力/一級建築士事務所 秋山立花
取材・文/福富大介(スパルタデザイン) イラスト/杉崎アチャ