東京都文京区に注文住宅を建てたエンジニアのTomohisaさん。都心に注文住宅を建てるという金額面でのデメリットを懸念しつつも、長期的な資産価値を考慮し「建物ではなく土地に可能な限り予算をかける」ことを選択しました。
そうして建てた自宅では全館空調、全館浄水器といった生活の快適さを追求する一方で、仕事スペースやネットワーク環境は必要最小限に。さまざまな制約がある中でバランスを取った家づくりを心がけたといいます。
職業柄、「よりよいもの」や「よりよい環境」を求める方が多いエンジニアの家づくりを紹介する「エンジニア、家を建てる」第8回です。
はじめまして、Tomohisaと申します。年齢は40代後半で、同世代の妻と小学生の娘2人(小5、小2)の4人で暮らしています。
大学生の頃に外資系ベンチャー企業でアルバイトを経験して以来、ベンチャー企業を渡り歩くエンジニア人生を送ってきました。アプリからインフラまで幅広く担当していますが、特にAWS(Amazon Web Services)には15年ほど前から継続的にかかわっています。
私は2021年の2月、千葉県から引越し、東京都文京区に注文住宅を建てました。土地が高額なエリアでかなり「痛い」出費ではありましたが、自分たち夫婦の「終の住処(ついのすみか)」であり、子どもたちが成長していく拠点。出費のバランスを考えながらも、ずっと快適に過ごせるような家にするため、さまざまなこだわりを詰め込みました。
今回はそんな私たちの家を紹介していこうと思います。
わが家の「スペック」
- 竣工年月:2021年2月
- 家族構成:4人(夫婦、長女、次女)
- エリア:東京都文京区
- 最寄り駅までの距離:徒歩7分
- 土地、建物の広さ:土地120㎡(36.4坪)、建物121㎡(36.5坪)
- 部屋数:4LDK (2階建て+小屋裏収納)
- 価格帯:約4500万円(土地代除く総費用)
- 住宅ローンの借り入れ先:ハウス・デポ・パートナーズ(【フラット35】S)
〜 私の家づくり3カ条 〜
🏠 建物ではなく土地に可能な限り予算をかける
🏠 さまざまな制約がある中で「落としどころ」を見つける
🏠 長く暮らすことを前提とした快適さを追求する
【目次】
- 子どもの都内進学を想定し、都心部で家探しをスタート
- 長く暮らすことを前提とした「快適さ」を追求
- 住宅のさまざまな制約をデザインや間取りで解決
- 2階ホールで仕事。ネットワーク環境は必要最小限に
- 1回で「ほぼ理想の家」をつくることができた
子どもの都内進学を想定し、都心部で家探しをスタート
土地を探し始めたのは2020年1月ごろ。当時、私は千葉県の実家で親と同居し、毎日1時間半かけて都内のオフィスへ出勤していました。
その頃、長女はもうすぐ小学校3年生というタイミング。もし娘たちが中学受験をして都内の学校に通うことになったら、自分の通勤と同じように通学にかかる時間が長くなってしまう。そのことに漠然とした不安を感じるとともに、都内に移り住む方がメリットがあるのではと考えるようになり、家探しを始めました。
自分たちの生活をイメージしながら、まず候補に挙がったのは郊外の一戸建て。子どもの進学を見据えると駅近が望ましいですが、そうなると郊外でも思った以上に高額だったので選択肢から除外。加えて、車を使いたいと思っていたので、駐車場コストがかかるマンションも見送り。
調べていくうちに、教育機関が多く、子育てに向いた安全で穏やかな雰囲気の文京区に引かれました。ですが、当時、売出中の建売住宅や中古住宅が少なく、希望条件(築浅、駐車場あり、広さなど)を満たす物件は皆無。結果、注文住宅を建てることにしました。
しかし都心部で土地を買って注文住宅を建てるとなると、「予算と土地・建物のバランス」をどうするかが課題となります。土地を狭くして3階建てにし予算を抑えるか、反対に総額は高くなるものの土地を広くして建物をシンプルな総2階建てにするか。悩んだ末、総額が上がるのは痛いものの長期的な資産価値を考えて、建物ではなく土地に可能な限り予算をかけることにしました。
その後は複数の不動産サイトに載っている情報にくまなく目を通し、
- 用途地域は何か(用途地域は13地域に分けられていて、その地域にどんな建物を建てられるのかがわかる)
- 私道に面しているか(土地が私道に面している場合は、接道義務を果たすための「私道負担」が生じる)
- 擁壁は必要か(擁壁とは斜面の土が崩れるのを防ぐために設ける壁状の構造物。擁壁を設ける場合は工事が必要になる)
- 容積率は何%か(容積率とは敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合で、その土地に建てられる建物の面積の上限を示す)
- 斜線制限はあるか(斜線制限とは建物周辺の日当たりや風通しを確保することを目的とし、屋根や建物上部の形状について一定の勾配面をもたせるなど、高さの限度を決めた規制のこと)
といった土地に関する基本的なポイントをチェックしました。
そうして見つけたのが、今の土地。「第一種低層住居専用地域」(都市計画で定められた用途地域の一つ)で周辺環境も良く、接道は南側で公道のみ、形状はきれいな長方形。地盤も申し分ありません。当初想定した予算では収まりませんでしたが、がんばれば届かなくはない、絶妙な金額でした。
広い土地全体が「3分割」もしくは「2分割」で売られていたのですが、3分割では私たちの希望する間取りが収まらず、2分割では予算に収まらない。予算と間取りのバランスが取れる、土地全体の「2/5(5分の2)分割」で購入できないかと希望を伝えたところ、提案を受け入れてもらえました。
本格的に土地探しを始めて1カ月もたたない状態で、この土地に決めて良いのだろうか。予算的には限界まで背伸びをすることになるが大丈夫だろうか……。そんな無数の不安に押しつぶされそうになりつつも、自分たち家族にとって「理想の土地」だという確信はありました。
「幸運の女神には前髪しかない」。そんなことを思いながら、購入意思を不動産業者に伝えたのです。
長く暮らすことを前提とした「快適さ」を追求
仕様を決めて、設計し、進捗(しんちょく)情報を確認しながら、納期に合わせて開発する――。日頃からソフトウェアエンジニアとして手を動かしている私にとって、家づくりはソフトウェア開発とよく似ていると感じました。
ただし、今回は自分が手を動かすのではなく、プロジェクトオーナーとして要望を伝える立場。ハウスメーカーのルールや法令等の各種制限が複雑に絡みあう中で、私たち家族は施主として、ハウスメーカーの営業担当者や建築士、インテリアコーディネーターはプロフェッショナルとして、それぞれのこだわりや要望を正確に互いに伝える。そしてプロジェクトオーナーである私たち施主が、最終的な取捨選択をして「落としどころ」を見つけなければいけません。
そんな中で重視したのが「長く暮らすことを前提とした快適さ」。具体的には「全館空調」と「全館浄水器」を導入しました。
全館空調は宿泊体験でその快適さを知って、どうしても導入したいと思っていました。ただ、全館空調は配管を通すために天井を部分的に下げなければいけないという点がデメリット。
加えてエアコンを設置する「空調室」の配置箇所自体に多数の制約があるほか、空調室から各階4本ずつのダクト経路、さらにダクトから空調室に戻る経路も考慮する必要があり、最初の図面ではダイニング、リビング、和室の天井が下がっていました。
一部が「下がり天井」になるくらいなら、全部の天井を下げてしまうことも考えたのですが、営業担当者が売りであるリビングの高天井を捨てることに難色を示し、熱い議論をしたのをよく覚えています。
結局、ダイニング、和室は天井を全面下げて、3本のダクトを通すリビングについては、インテリアコーディネーターが配管が目立たないようにデザインでうまく吸収してくれました。
こうして導入した全館空調は、SwitchBot温度計を利用してエアコンを自動制御しています。全館空調が苦手といわれる春、秋の室温調整も、冷房・暖房・送風を自動的に切り替えることで、常に24〜26.5℃の範囲に収まるようになりました。
ちなみに全館空調は空気が家中を巡るため、食事のにおいも一緒に拡散します。それを軽減するために、ダイニングの天井照明にはシャープの空気清浄機(現在は廃番)を導入。重量があるので天井を補強しました。
もう一つの大きなこだわりは全館浄水器の導入です。
全館浄水器とは、水道引き込み部分に浄水器を設置することで、キッチンだけでなく、洗面所、浴室でも浄水を利用できるもの。これまでもキッチンで普通の浄水器を使っていたのですが、どうせだったら全ての水を浄水にしてしまおうと考えたのがきっかけです。
ハウスメーカーの取り扱いがなかったため別手配となったのですが、設計段階で浄水器の設置を考慮した配置と配管にしておくことで、引き渡し直後に工事を終えることができました。
全館浄水器の利用料は月額約4300円と割高ですがメンテナンスは1年に1回、保守担当者がフィルターを交換するだけ。料理だけでなく、洗面、歯磨き、お風呂……全て浄水だと考えると、満足度は高いです。
住宅のさまざまな制約をデザインや間取りで解決
全館空調の「全ての空間を快適な室温で維持できる」メリットを生かして、間取りを考えました。
例えば階段はホールに設置するか、リビングに設置するか迷いましたが「リビング階段」を採用しました。空調効率が悪いといわれているリビング階段も全館空調であれば気になりませんし、必ず家族とコミュニケーションを取ってから2階に上がる方が子育て面ではいいと考えたからです。
階段は大きな窓で採光しています。ただ、隣家が近いため法律上、透明ガラスは使用できません(民法235条の窓への目隠し設置義務)。その上、土地は準防火地域のため防火窓にする必要があります。当時は目隠しできる曇りガラスで防火窓だと「網入り」しかありませんでした。
「目立つ部分に網入りガラスか……」と渋っていたところ、インテリアコーディネーターが防火の透明ガラスにステンドグラスを重ねるという提案をしてくれて、きれいに仕上げることができました。
また、わが家の非常に大きな制約として、斜線制限(高さの限度を決めた規制のこと)により勾配天井にしなければならない部屋が2階に2つありました。勾配天井には天井の低いスペースが生まれてしまい、人によっては圧迫感を感じるといいます。
一つが子ども部屋で、次女の部屋が勾配天井になっています。長女の部屋と比べるとどうしても狭さを感じるのですが、天窓を採用することで開放感と奥行きのある空間を演出しています。勾配天井は断熱性が下がるといわれますが、ハウスメーカーが屋根断熱構造材を採用しているため、問題ありませんでした。
もう一つは主寝室。ここは2方向が勾配天井となるのですが、1方向はウォークインクローゼットにする設計にして、目立たなくしています。
ほかにこだわった点は1階の和室と玄関。私は畳に寝っ転がって一人で考えごとをする時間が好きなので、和室が欲しいと思っていました。両親など来客の際も活用できますし。
最初の間取りでは押入れが備わっていてスペースがもったいなかったので、その分玄関を1畳広げました。このおかげで玄関が土間的に活用できており、非常に気に入っています。
2階ホールで仕事。ネットワーク環境は必要最小限に
私は現在、週1日だけ出社であとはほぼリモートワークですが、個室でなくても集中できるタイプなので、あえて仕事場は設けませんでした。
全館空調のおかげで2階ホールでも快適に過ごせるので、そこをオープンな書斎と位置づけて仕事エリアにしています。子どもたちがまだ小さいのでドアを開けて、いつでもコミュニケーションが取れるようにしています。
ネットワーク環境も必要最小限にしました。おそらくソフトウェアエンジニアが家を建てるとき、多くの方が通信速度10Gbpsでのネットワーク配線を検討すると思います。しかし、わが家の場合はハウスメーカー側で10Gbpsを可能にするCAT6Aケーブルは取り扱いがなく、標準のCAT5eケーブルで配線を行うか、配管だけを通しておいて後から自分で配線を行うかの2択を迫られました。
できるだけハウスメーカー経由でパーツを手配するという方針を決めていたのと、CAT5eケーブルでもネット環境として十分な性能を得られるため、標準配線を利用しました。実際には10Gbイーサネットスイッチ(Netgear GS110MX)を配置したところ短距離であるためか問題なく10Gbpsで通信できています。
家づくりは理想を全て追求するのは難しいので、「どこにこだわらないか」を見極めるのも重要だと思っています。
1回で「ほぼ理想の家」をつくることができた
家づくりは完成して終わりではありません。むしろ、ここから先が長い運用フェーズ。暮らしていく中で課題に直面したら、エアコン自動制御を構築したように技術で解決したり、より快適にするためにリフォームを検討したり……。日々改善していくことを考えています。
新居になって懸念していたのは人間関係でした。特に子どもたちの友人関係がリセットされることを心配していましたが、転校初日から友達を連れて帰ってくるなど、心配は杞憂(きゆう)に終わりました。
近隣の方々も穏やかな人たちが多く、地域のお祭りでは家族全員がおみこしを担いで、楽しく過ごせています。
「家は3回建てないと満足できない」といわれますが、私は「1回でほぼ理想の家をつくることができた」と感じています。自分たちのこだわりを優先するだけでなく、建築士やインテリアコーディネーターなどのプロのアドバイスを柔軟に取り入れたことが結果的には正解だったように思います。
時間をかけて習得した注文住宅に関する知識がもう生かせないのはちょっと惜しい気がしているので、私の経験がこれから家を建てる方の参考になれば幸いです。
🏠子育て中のエンジニアが建てた家🏠
- 「賃貸にはない家」を目指して。ミニキッチン付きの仕事部屋で効率UP
- 家づくりはソフトウェアと同じ。子育て重視で移住&戸建てを選択した話
- 育児中&共働きなので、効率よく「時短」できる家を手に入れた
- 👉「エンジニア、家を建てる」アーカイブ
著者:Tomohisa
Webアプリケーション開発に従事するエンジニア。新卒で外資系半導体ベンチャーに入社し、そこからソフトウェア開発に転身。自身が創業した会社も含めて、ベンチャー企業を渡り歩いている。お得なクレジットカードや、各種投資などのルールを理解して攻略することを趣味としている。
X (旧Twitter):@toowitter
編集:はてな編集部