第25回大会(2010年)から計13回もSASUKEに出場し、今や3rd STAGE常連の実力者となっている将士さん。そんな将士さんが千葉県郊外の静かな土地に建てたのは、SASUKEの“トレーニング用セット”を備えた5LDK・2階建ての家でした。
土地探しから「SASUKEありき」の家づくりだったと話す将士さん。そんな将士さんの気持ちを尊重しつつ「家族が心地よく過ごせる空間」を目指した妻の真弓さん。お二人の家へのこだわりを伺いました。
※取材は、新型コロナウイルス感染症の予防対策を講じた上で実施しました
自宅横にそびえ立つ、SASUKE攻略のためのセット
――家のことを伺う前に、まずはやはり、このトレーニングセットに触れずにはいられません。ここには将士さんがSASUKEで苦手としているエリアが詰め込まれているそうですね。
日置将士さん(以下、将士さん):はい。僕が過去の大会でリタイヤしたエリアを克服するためのトレーニングセットです。以下7つのエリアを、庭にある約35平米の空間に収まるようコンパクトに再現しています。
SASUKEでは1st STAGEのラストに登場することが多い。湾曲した壁を駆け上がり、頂上までよじ登る。日置家の壁の高さは、2階ベランダの手すり付近に相当する。
<トランポリン>
1st STAGEで必ずと言っていいほど登場。「トランポリンで跳躍し、その先にあるバーやネットなどにつかまる」というのが定番。第35回大会よりこのトランポリンを使ったエリアとして「ドラゴングライダー」が登場した。
<サーモンラダー>
バーにぶら下がりながら体を押し上げ、上にある突起に引っ掛けながら登っていく。2nd STAGEの代名詞ともいえるエリアだが、第32回以降はFINAL STAGEにも登場し、なんと7メートル15段もの高さを登らなくてはならなくなった。
<フライングバー>
3rd STAGE最初の関門。バーにぶら下がり、そのまま勢いをつけてジャンプ。前方の左右の皿にバーを引っ掛けながら進んでいく。
<サイドワインダー>
3rd STAGE第二の関門。ポールにしがみつき、別のポールに飛び移っていく。
<クリフハンガー>
3rd STAGEの難所で、将士さんはここで何度も涙を飲んでいる。わずかな突起に指を引っ掛け、横に移動しながら渡っていく。
<綱登り>
FINAL STAGE、ラストの難関。満身創痍の体をひたすら引き揚げていく10メートルの綱登り。
将士さん:雨ざらしで傷みやすいので、一度建てたら終わりではなく、こまめに補修しています。そり立つ壁も最近塗り直しました。あとは新しいエリアができたら、このセット内に収まる範囲で増設もしています。
――SASUKEが進化すると、こっちもトレーニングセットをアップデートしないといけない、と。コロナ禍以前は、SASUKE仲間のみなさんも頻繁にトレーニングしに来られていたそうですね。このセットはご自身で設計されたんですか?
将士さん:いえ、SASUKE仲間の又地諒くんがほぼ考えてくれました。彼は配管工なので、設計から溶接まで何でもやってくれます。
自宅につくるまでは、群馬などにある仲間のセットを借りてトレーニングしていました。ただ、車で往復何時間もかかるので、練習でヘトヘトになったあとに運転するのはかなりキツくて……。
そこで、僕が千葉郊外のまあまあ広い土地に家を建てる、セットもつくりたいと話したら、みんな喜んで協力してくれて。僕の本業が電気屋であるように、SASUKE仲間が各々さまざまな職業に就いているので、いろんな方面からサポートしてくれました。おかげで素晴らしいセットができましたね。
材料も知り合いからいただいた廃棄品などを使ったので、ほとんどお金はかかっていません。
日置将士(ひおき・まさし)さん……1981年6月5日生まれ、千葉県出身。千葉県印旛郡にある電気店「キタガワ電気」の店長を務めつつ、日々SASUKEのため鍛錬を重ねる。妻の真弓さんと3人の子ども、真弓さんの父と6人で暮らしている。
Twitter:@hiokimasashi YouTube:日置将士
――すごい……。セットだけでなく、家の中にもトレーニングスポットがあるんですよね。
将士さん:はい。奥行きの幅1cmの突起に指で掴まりながら横移動する「クリフハンガー」と「バーティカルリミット」が特に苦手なので、セット以外に室内でもトレーニングができるよう、リビングの天井梁に小指の爪くらいの幅の突起をつくりました。
大工さんと相談し、梁の強度をUPした
ぶら下がるだけでも精一杯で、めちゃめちゃキツイんです。正直言うとやりたくない(笑)。なので、リビングから浴室への動線上につくって練習せざるを得ないようにしました。
――他にSASUKEのためにこだわった点はありますか?
将士さん:お風呂です。鍛錬と同じくらい体のケアも大事なので、浴室でストレッチができるくらいのスペースは欲しいなと思い、通常より洗い場を広くしてもらいました。
リラックスして入浴できるよう、バスタブの形状にもこだわり、いろんなメーカーのものに入ってみて、フィット感を入念にチェックしましたね。
SASUKEありきの土地選びから家づくりがスタート
――では、改めて家を建てた経緯をじっくり伺わせてください。まず、この土地はどうやって見つけたんですか?
将士さん:知り合いの不動産屋さんから「今度、いい分譲地が出るよ」と教えてもらいました。まだ更地だったんですけど、ひと目で気に入ってしまって。
――どんなところが気に入ったのでしょう。
将士さん:土地がゆったりと広いところですね。もともと家を建てるならSASUKEのセットを組む予定でいたので、隣近所がギチギチの住宅地は厳しいなと思っていました。その点、当時ここは不安になるくらい何もなかったので、条件にぴったりだった。
あと、立地的にも大通りから外れて奥まっているので、ここならセットでのトレーニングで音を出しても大丈夫かなって。
――いま、将士さんがさらっと「SASUKEのセットを組む予定でいた」とおっしゃいましたが、真弓さんも了承していたんでしょうか?
日置真弓さん(以下、真弓さん):長年、手狭な賃貸暮らしをしていて「いつか家を建てたい、そしてSASUKEのセットも建てたい」と聞いていたし、SASUKEのことは家族みんな応援しているので、特に反対もしませんでした。
ただ、土地を買ってすぐ、家よりも先にセットをつくり始めたのは驚きましたけど(笑)。
――優先順位が……(笑)。土地について真弓さんの第一印象は?
真弓さん:当時は区画整理もされていない雑草がぼうぼうと生えた場所で、道すらなかったんです。だから、あまり住むというイメージは湧かなかったですけど、高台で見晴らしがよく、風も通り抜ける気持ちいいところだなと思いました。ここなら穏やかに暮らせそうだなって。
――目的は違うものの、お互いに気に入った土地だったわけですね。
将士さん:あと幸運だったのは、ここが分譲地の第一号で周囲に他の家が建つ前にSASUKEのセットをつくれたこと。近所にこういうものがあるとわかった上で建てているからか、苦情がきたことは一度もなくて。むしろみなさん積極的に応援してくれていて、とてもありがたいです。
(画像:日置将士さん提供)
家族みんながリビングに集まる家にしたかった
――SASUKE以外の「家の話」もお伺いしたいです。6人暮らしということで、1階にLDKと浴室、あとは洋室が2つ、2階は洋室3つにウォークインクロゼットと、空間の多さが特徴です。お二人のなかで「こういう家をつくりたい!」というテーマはあったのでしょうか。
将士さん:家に関しては、基本的に妻がいろいろと提案してくれて。ただ、たまに奇想天外なプランが飛び出すので「それはあまりにも……」というやつには僕も意見するようにしていました。「お風呂の壁をイルカの模様にしたい」とか「家の中にすべり台をつくりたい」とか……。
真弓さん:海やイルカが大好きなので、家もマリンテイストにしたかったんです。すべり台は、忙しい時に2階から1階まで滑って移動できたら効率的だし、楽しいかなって。
将士さん:最初は冗談かと思ったんですけど、何度も言ってくるから、あ、これマジなやつだと思いました(笑)。
真弓さんの海好きは、家の各所で感じられる
――では、真弓さんの希望が反映されたところはどこですか?
真弓さん:リビングに関しては、ほぼ私の希望どおりになりました。せっかく注文住宅で建てるなら、家族にとって最高に居心地のいい空間をつくりたかったんです。
人数が多いからこそ、それぞれが自分の部屋でバラバラに過ごす家にはしたくなくて。リビングをみんなが集まりたくなるような楽しい場所にできたらいいなと思っていました。ハンモックをつけたのもそうだし、畳の小上がりもそう。ここにみんなで集まったり、ゴロゴロできたらいいなって。
完成直後のリビング。中央に小上がりがある
ハンモックは子どもも大興奮
(画像:ともに日置将士さん提供)
真弓さん:あとは、リビング階段にすること。夫は本業の目線で「リビング階段は空調の効率が悪くなるから」と渋い顔をしていたんですけど、私もどうしても譲れなくて。
――なぜリビング階段にこだわったんですか。
真弓さん:子どもが帰ってきた時に、家族と顔も合わさずそのまま2階の自分の部屋へ直行するのは、絶対にイヤだったんです。
将士さん:自分が思春期の子どもだったら、友達や恋人を家に連れてきた時、パジャマ姿の親がリビングにいたらイヤじゃない? とも話したんですが。
真弓さん:私はパジャマだろうが、堂々と紹介してほしい! と言って(笑)。結局、リビング階段を採用しつつ、2階の入口にすりガラスの扉を付ける折衷案で落ち着きました。扉を閉めればエアコンの効率も問題ないし、匂いが寝室まで上がってしまうこともないので。
――1階ではなく、2階の入口に扉を設置するのは珍しいですね。実際のところ、みんなが集まるリビングになっていますか?
将士さん:そうですね。小上がりも、僕は正直あまりピンときていなかったんですよ。でも、実際にあると、超いいです。便利だし、快適。
ダイニングテーブルを買うまではここでご飯を食べていたんですけど、定食屋さんみたいな気分でした。今は子どもが宿題をしたり、僕もYouTubeの編集はだいたいここでやっています。友達が来た時もだいたい小上がりでくつろいでるし、みんな気に入ってくれてますね。
つり戸棚付きのカウンターキッチンを選択
――そのほか、夫婦で慎重に検討したことは。
真弓さん:壁紙の色ですね。私はマリンカラーが好きなんですが、夫はシンプルで落ち着いた色みが好きなので、話し合いの結果、一部屋ずつ全て違う壁紙を使うことにして。
将士さん:最終的に20種類以上になったんだよね。
――20種! 注文住宅だからこその選択肢ですね……。
将士さん:この道50年の工務店さんが、こんなに壁紙の種類を使ったのは初めてだって言っていました(笑)。
(画像:日置将士さん提供)
暮らすごとに高まる妻への感謝
――(取材中、学校帰りのお子さんがランドセルを放り出しSASUKEのセットで遊び出したのを眺めつつ)将士さんの「趣味」をかなえた家ではありますが、こんなセットがあると家族も楽しそうですね。
真弓さん:そうですね、子どもたちはやっぱりうれしいみたいで。花火が上がる時は、ジャングルジムみたいに一番上まで上がって鑑賞していますね。
コロナ禍でなかなかお出かけもできなくなったので、こういう場所があってなおさら助かっています。ここで鍛えられているのか、学校の体力測定も結果がよくて(笑)。
――英才教育ですね。
真弓さん:夫もできるだけコンパクトになるよう、工夫してセットを組んでくれましたし、これ以上スペースを拡張しないようにもしてくれていて。あと、意外と実用的で、低い位置にあるバーに子どもの上履きを引っ掛けて干せたりもするので便利なんですよ。
――まさかの活用法(笑)。結婚前からずっと、将士さんのSASUKE出場を応援されている真弓さんならではの愛のあるコメントですね。
将士さん:本当に。普通はSASUKEのセットをつくるなんて、なかなか許してもらえないですよね。当初は「家を建てるなら当然、つくるでしょ!」くらいに思っていましたけど、SNSの反応を見ていると「うちの夫がこれつくるって言ったら最悪」っていう声も中にはあって……。
――この環境って当たり前じゃないんだ、と気付いた。
将士さん:はい、勘違いしていました。こんなに居心地のいい家にもしてくれて。家族が仲良く過ごせているのも、みんなが顔を合わせる家にしたいという妻の思いがあったからです。本当に感謝しています。
(画像:日置将士さん提供)
――他に、SASUKEのセットがあってよかったと思うことはありますか?
真弓さん:一番は、いろんな人と出会えることですね。今はコロナ禍で難しくなりましたが、以前はSASUKE仲間のみなさんがトレーニングをしにきたり、ロケや取材が来てくれたり。なかには、いつもテレビで見ていたような人がふらっと遊びにいらっしゃることもありました。
普通に生活していたら絶対に出会えなかったであろう人たちとのつながりが生まれたのは、とても大きいです。
子どもも友達をたくさん連れてくるようになって。やっぱり自宅だと距離が縮まるし、すぐに仲良くなれるんです。
あとは何より、夫のSASUKEでの成績が上がってよかったなって。
将士さん:ここまでやらせてもらってますから、これからも家族にはかっこいい姿を見せていきたいですね。
聞き手・文:榎並紀行(やじろべえ)
写真:関口佳代
編集:はてな編集部