たくさんの靴を収納できるシューズクロークは魅力的な設備です。しかし、一口に「シューズクローク」といってもさまざまなタイプがあることを知っていますか? 今回は明野設計室一級建築士事務所の明野岳司さんと明野美佐子さんに、シューズクロークの特徴や、ライフスタイルに合ったシューズクロークの設計について教えてもらいました。
シューズクロークってなに?
シューズクロークは「S.C.」と略されたり、「シューズ・イン・クロゼット」「玄関クローク」などと呼ばれることもあります。具体的にはどのような設備のことを指すのでしょうか。
「シューズクロークとは、土足で入ることができる玄関の収納のことを言います。戸建てにもマンションにも設置することができ、靴をしまうだけでなく住む人のライフスタイルに合わせていろいろな物を収納しておけるスペースです」(美佐子さん)
シューズクロークは、収納力の高さから子どもがいるファミリーや趣味がある人にも人気。しかし「玄関に広い収納が欲しい」という思いだけでつくってしまうのは少し危険です。
「憧れだけでシューズクロークを取り入れてしまうと、しまいたいものがしまいきれなかったり、せっかく設けたのに十分に使いこなせなかったりといった問題が出てきます。住む人のニーズをよく考えた上で広さや形状を決定し、使いやすいシューズクロークをつくることが大切なのです」(岳司さん)
実用性の高いシューズクロークをつくるためにも、タイプごとの特徴やメリット・デメリットをしっかりと押さえておきましょう。
代表的なシューズクロークのタイプを紹介
シューズクロークは主に2つのタイプに分類されます。玄関の横に空間を設ける「ウォークインタイプ」と、行き止まりをつくらずに室内に通り抜けることができる「ウォークスルータイプ」の二種類です。
ウォークインタイプ
通り抜けできない形状のシューズクロークです。ウォークスルーとは異なり、奥が行き止まりになっています。玄関の横に小さな個室が設けられている造りをイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。
「シューズクロークと聞くと、このタイプを想像する人が多いと思います。広さや構造はさまざまですが、最低でも1畳ほどあれば人が入って物の出し入れを行うことができます。3畳ほどあると、だいぶゆったりとした広さになります。靴箱だけでなく、上着を掛けるポールや奥行きのある棚を設置することも可能です」(岳司さん)
ウォークスルータイプ
玄関側と室内側に2つの入口を設けた、通り抜けできるタイプのシューズクローク。靴を脱いで収納した後に、そのまま室内へ入ることができます。
「ウォークスルータイプは生活動線を重視したい人にオススメです。ウォークスルーを出た後にどこへ抜けるかがポイントで、台所と繋げたい場合は少し仕切りを入れて台所に近い一部分を食品庫として利用したり 、帰宅後すぐにお風呂に入りたい人は着替えてそのまま浴室へ行くこともできます。ウォークスルータイプのシューズクロークには、住む人のライフスタイルやニーズが色濃く現れます」(美佐子さん)
また、シューズクロークに扉をつけるかつけないかによっても使い方が変わります。扉の代わりに暖簾やロールスクリーンを入口に設置するという手法もあります。
「靴を両手に持っているときに扉を開けるのは大変なので、入口に扉をつけないオープンスタイルのほうが人気です。そんなときに便利なのが暖簾です。両手が塞がっていてもそのままクローク内に入ることができ、空間を密閉しないので風を通すこともできます。
完全に中が見えないよう入口に扉をつけておきたい場合は、引き戸であれば扉を開けたときにも邪魔になりません。来客時だけ扉を閉めて、日常的には開放しておくという使い方ができます」(美佐子さん)
シューズクロークのメリット&デメリットは?
ウォークイン、ウォークスルータイプともにそれぞれ特徴があることがわかりました。どちらのタイプが自分の暮らしに合っているか検討する際には、シューズクロークのメリットとデメリットについても押さえておきましょう。
メリット
シューズクロークの一番の魅力は収納力があるところ。靴以外の物をしまう場所が欲しい、という人にとっては役立つ設備です。
「壁付けの下駄箱だと奥行きが限られていますが、シューズクロークは奥行きを出すことができるのでさまざまなものを保管しておくことができます。物を入れすぎて扉が閉まらなくなってしまうこともありません。また、ウォークスルータイプは生活動線をつくりやすいという点がメリットですね」(美佐子さん)
壁付けの下駄箱では実現できない収納力の高さによって、日々の暮らしがより便利になりそうですね。
デメリット
シューズクロークは便利な空間 ですが、メリットだけでなくデメリットもあります。玄関から土足で入れる場所ならではの弱点とは?
「土足で入ったり屋外で使うものを収納しておくので、どうしても埃が入りやすくなります。そのため、室内とは違った方法で掃除をする必要があります。また、ウォークインの場合は臭いや湿気が籠りやすいため、小窓や換気扇をつけて換気ができるようにしておくことをオススメします 」(岳司さん)
「こんなはずではなかった」という落胆を防ぐためにも、シューズクロークの特性を踏まえてから計画することが大切ですね。
靴以外も収納したい!シューズクロークにしまえるもの
シューズクロークは屋外と屋内を繋ぐ場所にあるため、屋外で使用する道具を収納しておくのに便利です。また、家の中まで運ぶことが困難なストック品などの置き場所にしているという人も。ここでは、靴以外にどんなものを収納できるのか紹介します。
アウトドア用品
キャンプや登山道具などを収納できます。土や汚れがついていて家の中に持ち込みたくないアイテムも玄関の近くにしまっておけるので便利です。
家庭菜園やガーデニングなどの道具
ガーデニングをしている家族や家庭菜園 が趣味な人は、シューズクロークを作業道具の保管庫として利用できます。収穫した野菜を一時的に置いておく場所としても適切。
資源ごみ
古新聞や空き缶、空き瓶の置き場所として利用している人もいます。玄関の近くに置いておくことができるので、回収日にすぐ持ち出せます。
育児用品
ベビーカーや幼稚園のバッグなどを1カ所にまとめて収納できるので、子連れの外出もスムーズになります。
食品のストック
水や酒類、缶詰といった食品のストックは室内に運ぶのも一苦労。使う分だけキッチンに運び、残りはシューズクロークの棚に収納しておくこともできます。
コートや傘など
出掛ける際に必要なコートや傘といった衣類、小物の収納場所にもなります。外の埃を室内に持ち込むことがなく衛生的です。幅を取りがちな傘立ても収納できるので、玄関がスッキリとした印象に。
「シューズクロークに何を収納したいかは人それぞれ。どんなものを収納する予定か、どんな使い方をしたいかについて、設計者に具体的に伝えておくことで自分の暮らしに適した収納空間をつくることができます」(岳司さん)
ライフスタイルに合わせたシューズクローク
本当に使いやすいシューズクロークにするためには、住む人のライフスタイルに合った構造になっているかがポイントです。打ち合わせの段階で施主のニーズを細やかに聞き取ってから一人ひとりに合ったシューズクロークを設計しているという明野さんたちの代表的な建築事例を見ていきましょう。
【ウォークイン】食品宅配サービスで使う箱を保管しておきたい
「シューズクロークの中に奥行きのある棚を設け、大きめの収納スペースを確保しました。食品宅配サービスの商品を受け取るときに使っている箱をしまう場所が欲しいというニーズに寄り添った構造になっています。奥には窓も設けているので、行き止まりの空間でも風を通すことができます」(美佐子さん)
【ウォークスルー】登山グッズを洗濯、保管したい
「この家の住人は本格的な登山が趣味。そのためシューズクロークにはたくさんの登山リュックを収納しています。登山から帰ってきてすぐに汚れを落とせるように手洗いスペースや洗濯機も設置し、クロークを抜けると洗面所に出る動線になっています」(美佐子さん)
【ウォークスルー】洗濯機置き場を玄関ホールに設置したい
先輩たちの便利なシューズクロークの事例を見てみよう!
ここからは、スーモカウンターに相談してシューズクローク付きの家を建てた先輩たちの住まいを見てみましょう。生活動線のつくり方やデザインのヒントにしてみてください。
【case1】おしゃれなスペースに、家族の靴をわかりやすく収納
ライフスタイルに合わせた生活動線を取り入れたいと考えたSさんファミリーの住まい。家全体の収納を重視し、みんなが便利に暮らせるマイホームを実現しました。外装用タイルを貼っておしゃれに仕上げた玄関には大きめのシューズクロークを設置。家族の靴も余裕を持って収納することが可能です。どこに誰の靴がしまってあるか一目で確認できる棚は、子どもがいるファミリーにぴったり。日ごろから整理整頓の習慣が身につきそうですね。
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広くて天井が高く開放的なLDKと 便利な水まわり動線をかなえた家
【case2】小物類の管理にも便利な家族用シューズクローク
価格帯、性能、デザインのバランスを考えてつくったKさんの住まい。夫婦の希望を詰め込んだ、理想の家が完成しました。ウォークイン型のシューズクロークには靴の他にも傘や子どもの縄跳びなどを収納し、屋外で使うアイテムを整頓した状態で保管。棚の高さも調整できるので、ブーツタイプの靴もそのまま収納することが可能です。季節やライフステージに応じて収納の仕方を柔軟に変えていくことができそうですね。
この実例をもっと詳しく→
開放感あふれる大空間をかなえた高気密・高断熱の住まい
【case3】細部まで生活動線にこだわって設計したシューズクローク
猫を家族に迎えたことをきっかけに建てたKさんの住まいは、こだわりがたくさん詰まった平屋造り。勾配天井から日光がたっぷり差し込む明るい家です。特にこだわったのはスムーズな生活動線でした。玄関からシューズクロークへ、シューズクロークからパントリーへと繋がる動線を取り入れ、そのままLDKへ抜けることができます。
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中庭を囲んで一周できる動線が快適な暮らしをかなえた平屋の住まい
【case4】システム収納棚付きのシューズクロークでお出掛けをスムーズに
生まれ育った地に家を建てたDさん夫妻。玄関横に取り入れたシューズクロークは、中が丸見えにならないようにと考えて入口にデザイン壁を設置しました。システム収納棚を活用し、靴以外にも時計やバッグを収納できるように。身支度から出掛けるまでの動線がスムーズになりました。
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生まれ育った街で、家族や仲間が笑顔で集える住まいを実現
シューズクロークを設置するときのポイント
住む人の暮らしごとに、様々な設計のシューズクロークがあることがわかりました。最後に、シューズクロークを設置するときにどんなことを大切にしたら良いか、明野さんにポイントを聞いてみました。
「全ての人に合うシューズクロークは存在しないと思います。趣味や暮らし方、物の量によっても最適な設計は変わってきますし『便利さ』の定義も人それぞれです。せっかくシューズクロークをつくっても使い物にならなかったら勿体無いので、シューズクロークが自分の生活に合っているのかも含めて検討してみてくださいね」(岳司さん)
シューズクロークを家に取り入れる場合、自分のライフスタイルに合ったものをつくることが大切なのですね。収納したいものの種類や量によっても、ベストな構造は変わってくるようです。
「シューズクロークは広ければ広いほど良いというわけではありません。大切な家の面積の一部を割いてつくるわけですから、どれくらいのスペースが最適かよく考えてから計画する必要があります。そこに何をどれだけ収納するのかわかっていると、棚の奥行きや確保すべき広さも決まってきます」(美佐子さん)
まずはシューズクロークに収納したい物の量を把握するところからスタートしてみてはいかがでしょうか。
スーモカウンターに相談しよう
家の中の生活動線にこだわって、便利なシューズクロークを設けたいと思っている人は、ぜひスーモカウンターに相談してみてください。
スーモカウンターではアドバイザーがお客様の家づくりを全面サポート。適切な予算から家づくりの段取りなど、注文住宅の新築・建て替えに関するさまざまな疑問や不安に寄り添ってアドバイスを行っています。その他にも家づくりの疑問を解消する講座などを無料で開催していますので「まずは何から始めたらいい?」と思っている人はぜひご利用ください。
あなたのライフスタイルに合う理想の家づくりを任せることができる会社を一緒に探しましょう。
取材協力/明野設計室 一級建築士事務所
2020年 川崎市優良設計者表彰
小田急線新百合ケ丘駅にある自宅のアトリエで、住宅を中心に手掛けている。
・明野岳司さん
一級建築士、専攻建築士(統括設計)、神奈川県応急危険度判定士、川崎市木造耐震診断士
・明野美佐子さん
一級建築士、専攻建築士(統括設計)、神奈川県応急危険度判定士、福祉住環境コーディネーター2級
取材・文/佐藤 愛美(スパルタデザイン) イラスト/上坂じゅりこ