都会など住宅が密集しがちなエリアでは目にすることも多い「2階リビング」ですが、メリットが多い半面、デメリットもあります。そこで、2階リビングにするのはどのようなときか、またデメリットはどうやって解消するのか、2階リビングの住宅を手掛けることも多い秦野浩司建築設計事務所の秦野浩司さんに話を聞きました。
2階リビングとは?特徴を解説
リビングは、主に家族が集まってくつろいだり、コミュニケーションを取ったりする場所として活用されます。間取りでは、家の中で最も広いスペースを占めるケースも多いでしょう。では、「2階リビング」とはどのようなもので、どんな特徴があるのでしょうか?
2階リビングとは、文字通りリビングが2階にある間取りのことです。昔の戸建住宅では、1階にリビングを配置し、2階に個室を設けるのが一般的でしたが、最近では2階リビングの住宅も増えています。また、3階建てが増えたことから3階建ての2階をリビングにするケースもあります。2階リビングが増えたのは、さまざまなメリットがあるからですが、それはどのようなポイントなのか、またデメリットについても確認してみましょう。
2階リビングのメリット
1階ではなく2階にリビングを配置することで暮らしにどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、主なメリットを4つご紹介します。
良好な眺望が得られる
「2階リビングは、1階よりも位置が高い分、リビングから良好な眺望が得られるというメリットがあります。特に公園など開けたスペースが隣接している場合に、このメリットを感じられるでしょう」(秦野さん、以下同)
住宅密集地でもリビングに光を取り込みやすい
「住宅密集地で、敷地の4面に隣家が建ち並んでいるような場合でも、2階リビングなら光を取り込みやすくなります。もし、2階に大きな窓を設けられなくても、天井を高くして天窓や高窓を設置するなど、光を取り込む工夫がしやすい点もメリットです」
プライバシーを確保しやすい
「前面に道路がある場合は、1階リビングだと外部からの視線が気になりますが、2階リビングなら歩行者の視線よりも家族の過ごす空間が高い位置にある分、視線を避けやすく、プライバシーを確保しやすいというメリットがあります」
構造的に安定しやすい
「地震や風の揺れを受けても建物が耐えられるように設ける壁を耐力壁といい、2階より1階の方が多く必要になります。しかし、1階にリビング、2階に個室という配置だと、リビングを広く取りたい場合、耐力壁が取りにくくなり、構造上、不安定になりやすいのです。しかし、2階リビングで1階に個室という配置なら、1階に耐力壁を多く設けられるため、構造的に安定しやすいというメリットがあります」
2階リビングのデメリット
密集地でも屋内に光を取り込みやすいことやプライバシーを確保しやすいことなど、さまざまなメリットがある一方で、2階リビングにはデメリットも存在します。
ここでは、主なデメリットを4つご紹介します。
階段の上り下りでしんどい思いをすることがある
「ご高齢の方はもちろんですが、日常的な階段の上り下りが負担に感じることがあるでしょう。例えば、2階リビングの場合、キッチンも2階のことがほとんどです。そのため、スーパーで買った重い荷物を持って階段を上がるという行為が、日常に何度となく繰り返されることになります」
夏場は暑くなりやすい
「2階リビングは、夏場に暑くなりやすいというデメリットがあります。その主な理由としては、直射日光を受ける屋根からの熱が直接2階に伝わるからです。また、1階よりも2階の方が窓からの日差しが入りやすく、その影響もあります。なお、3階建ての2階リビングの場合は、屋根からの熱の影響が少ないため、2階建ての2階リビングほどではありません」
子ども部屋の位置次第では親子のコミュニケーションが取りにくいことも
「2階リビングで、1階に子ども部屋を設けた場合、子どもが自分の意思で2階に上がって来なければ親子で顔を合わす機会が減ってしまう可能性があります。1階に家族全員が通る動線としてリビングを設けた場合に比べると、コミュニケーションが取りにくくなる点もデメリットといえるかもしれません」
大型家電の搬入時には注意が必要
「2階リビングでキッチンも2階の場合、大型の冷蔵庫が搬入できない場合があります。新居に引越すときや、冷蔵庫を買い替えるときなどは、冷蔵庫と階段の幅や高さなどのサイズを確認した方がいいでしょう。特に回り階段の場合は引っかかることが多く、注意が必要です。また、階段で運べない場合、2階バルコニーからクレーンで搬入するなど、他の搬入経路があるかどうかも確認が必要です」
2階リビングのデメリット解消法とは?
上に挙げた通り、2階リビングには多くのメリットがある一方でデメリットもあります。それでは、デメリットにはどのように対処したらいいのでしょうか?
階段まわりの工夫
デメリットのいくつかは、階段まわりを工夫することで、緩和または解消することができます。
階段の幅を広く取り、傾斜を緩くする
「階段の蹴上げを低くする、つまり傾斜を緩くすることで、上り下りの負担を軽くすることができます。途中で踊り場を設けるのもいいでしょう。また、階段の幅を広く取れば、上り下りしやすくなりますし、大型家電の搬入もしやすくなります。大型家電の搬入という点では、回り階段よりも直線階段を採用した方がいいですね」
上り口は玄関の近くに、下り口はキッチンの近くに
「階段の上り口は玄関に近い方がすぐに2階リビングに上がれます。また、2階から見た下り口、つまり階段の上り切った場所をキッチンの近くに配置することで、動線が短くなり生活しやすくなります」
設備面での工夫
2階リビングのデメリットは、設備面の工夫によっても緩和または解消できます。
暑さ対策にシーリングファンを設置
「2階の天井を高天井にした場合は、シーリングファンを設置して、冷たい空気と暖かい空気を撹拌することで、暑さ対策になります。また、ファンの回転を逆回転させることで、空気を上へ吸い上げることもできます」
家全体の断熱性能を高める
「断熱材の量や厚みを増やす、より断熱性能の高いLow-E複層ガラス入りのサッシや樹脂サッシを使うなどして、家全体の断熱性能を高めれば、少し大きめのエアコン1台で十分夏の暑さをしのぐことができます」
老後を考えてホームエレベーターの設置も検討する
「すぐには必要なくても、将来的に高齢になったときのことを考えて、ホームエレベーターの設置を検討するのもいいでしょう。上下階にホームエレベーター用のスペースを確保しておいたり、電源を取れるようにしておいたりと、建築時にあらかじめ設置用の準備をしておけば、いざというときに安心です」
強力なガス式衣類乾燥機で干し場の問題を解決
「2階リビングにバルコニーを設けて、そこに洗濯物を干すことが多いと思いますが、狭小地の2階リビングの家では、間取りの都合で1階に洗濯機を置かざるを得ない場合があり、毎回階段の上り下りが必要になります。そのような場合は、強力なガス式の衣類乾燥機を導入して、洗濯物は外に干さないと割り切る方法もあります」
間取りの工夫
秦野さんによると、親子のコミュニケーションの問題は、間取りの工夫で対応できるといいます。
「2階リビングの一部を引込戸などで仕切れるようにしておき、子どもが小学生くらいまでは、仕切ったリビングの一部を子ども部屋として使うという方法があります。また、子どもの自立を促す年ごろになったら、1階の個室を子ども部屋にするなど、年齢や状況に応じて部屋の用途を変えていくのもいいでしょう」
プロはどのような条件なら積極的に2階リビングを提案する?
住宅の設計依頼を受けたとき、プロである建築士は、どのような条件なら2階リビングを提案するのでしょうか?
「私が一番こだわるのは周りの環境です。2階リビングにすることで、良好な眺望が得られるような場合には、積極的に2階リビングを提案します。
他にも、住宅密集地でしかも狭小地であれば、リビングに光を取り込むためには2階リビングしかないというケースもあります。また、限られた敷地に駐車場を設けたいという希望をかなえるために、1階をビルトインガレージにして、2階にリビング、3階に個室というケースもあります」
【編集部が解説】2階リビングが向いていないケースとは?
2階リビングが向いていないケースは、次の通りです。
● 敷地が広い
2階リビングは住宅密集地や狭小地に家を建てる際に有効な間取りのため、敷地が広いと入口からリビングまでの距離が遠くなり、生活動線が不便になる可能性があります。
● 高齢者や身体的に制約のある家族がいる
1階にリビングを設ける際と比較して、日常的に階段の上り下りが多く発生するため、家の中での移動が負担になる可能性があります。
その他にも、夏場は暑くなりやすいため暑さが苦手なペットと生活する際はよく検討したほうが良いでしょう。
せっかく2階にリビングを設けても、条件次第ではメリットが最大限活かしきれないケースもあるため注意してください。
2階リビングの住まいの実例を紹介!
これまで、2階リビングのメリット・デメリットや、2階リビングにするときの考え方などを見てきました。次に、実際に秦野さんが設計した2階リビングの実例を見てみましょう。
【実例1】生活動線を考え抜いた広々2階リビングの家
2階に21.5畳の広いLDKを配置した住宅です。階段を上り切ると、目の前にキッチンがあります。ダイニングの奥には引き戸があり、開けると洗濯室が。さらにその対面には、物干し専用のバルコニーが設けられています。LDKは勾配天井としてシーリングファンが設置されており、夏場の温度対策も考えられています。
【実例2】2階リビングの一部を仕切って子ども部屋にできる家
東西に長く、南面の間口が広い2階リビングは日当たり抜群。壁の少ない広々としたスペースは、2階リビングならではのもの。リビング奥は、5枚の引込戸で仕切って個室にすることもできます。子どもが小さいうちは、このスペースを子ども部屋として使えるのが特徴です。
【実例3】1階ガレージ、2階リビング&ロフトの3階建て
限られた敷地の中で駐車スペースを確保するため、1階をビルトインガレージにして、リビングを2階に持ってきた事例です。1階の天井高を抑えた分、2階と3階の間に広めのロフトを設け、ロフトがない部分を吹抜けとして、高天井のリビングとしています。
2階リビングの住まいを建てた先輩たちの事例を紹介!
スーモカウンターで理想の2階リビングの住まいを実現した先輩たちもいます。その人たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】視線を避けて2階リビングを選択、リビング横の小上がりも気持ちいい家
スーモカウンターを訪れたSさん夫妻の希望は「見た目はシンプルでも、質の良い素材を使った家」。提案された5社のうち、予算的にも魅力だった1社に決定。
Sさんの土地は、通りに面していたため、通行人の視線を避けて2階リビングを希望しました。耐震面についても担当者に相談したところ、「大丈夫です」と太鼓判を押されて一安心。完成した2階リビングは、人目を気にせずくつろげる上、リビング横につくった小上がりの和室ではゴロ寝もできると大満足です。
この実例をもっと詳しく→
むく床と漆喰仕上げの、自然素材が心地いい家
【case2】最優先の防音室を1階へ、2階リビングにして空間を効率的に利用
ドラムが趣味のMさんは、スーモカウンターを訪れ、防音室をつくるという条件で依頼先を紹介してもらいました。
完成した住まいは、防音室を1階へ持ってきたため、必然的に2階リビングになりました。リビングの天井は勾配天井にして、お気に入りのシーリングファン付きの照明を設置、開放感のある2階リビングを楽しんでいます。その他の空間も隅々まで利用して、スペースを効率的に活かした住まいになりました。
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防音室に実績ある会社とタッグ、趣味のドラムを楽しむマイホームを実現
【case3】リゾートホテル感が満載の開放感ある2階リビング
Webからスーモカンターを見つけて、実際に訪問することにしたKさん家族。希望する住まいのイメージは、タイのリゾートホテルのような家です。
依頼先を1社に絞って完成したのは、2階リビングに大胆な吹抜けを設けた家。天井のシーリングファンもリゾート気分を演出しています。また、2階リビングから続くバルコニーも広く取り、椅子やテーブルを置いてもう1つのリビングとして活用。新居のおかげで、自粛期間中でも楽しかったといいます。
この実例をもっと詳しく→
理想の住まいが快適なおうち時間にフィット、家族それぞれが楽しい空間
【case4】木のぬくもりあふれる二世帯住宅の2階リビング
スーモカウンターに相談し、夫の実家を建て替えて二世帯住宅を建てたIさん夫妻。
「木のぬくもりが感じられ、ローコストで二世帯住宅が得意な会社」に依頼したいと希望し、アドバイザーに紹介された中から4社と面談。そのうちの、以前から憧れていた建築会社に依頼しました。
完成したIさん親子宅のポイントは、それぞれの暮らしを尊重するため、居住空間を各フロアごと(1階を夫の両親、2階をIさん夫妻)に分けたこと。
Iさん夫妻の生活拠点となる2階には、暖かな光が差し込み、木のぬくもりあふれる2階リビングが誕生しました。リビング横には居酒屋のような小上がり風ダイニングを設け、お酒好きの2人がくつろげる空間も用意。
Iさん親子はほどよい距離感が保てる二世帯住宅で、それぞれの暮らしを満喫しています。
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みんなの好きが詰まった二世帯住宅で、冬でも暖かな暮らし
理想の2階リビングを実現するためのポイント
最後にあらためて秦野さんに、理想の2階リビングを実現するためのポイントを聞きました。
「リビングは2階がいいのか、1階がいいのか、単純には言えません。敷地や住み方、家族構成などを考慮して決めるのがいいでしょう。生活しやすい動線計画を実現することが、最も重要です」
編集部が回答!2階リビングに関するよくある質問
2階リビングについてよくある質問と回答を編集部がご紹介します。
2階リビングに関する悩みや疑問を抱えている方は、ぜひこちらを参考にして不安を取り除いてください。
2階リビングは売れないって本当?
家が売れるかどうかは、建物の立地や周辺環境、価格、間取りなどさまざまな条件が関係するため、一概に2階リビングは売れないとは言い切れません。
しかし2階リビングを採用する家庭は増えつつあるとはいえ、1階リビングは根強い人気があります。
「1階リビングだと通行人の視線が気になるから2階リビングにしたい」「良好な眺望を得るために2階リビングを求めている」などのニーズがマッチしなければ2階リビングは売れにくい傾向があるといえます。
家を建てる際は、需要の高い土地(駅から近い、商業施設が近くにあるなど)を選ぶことももちろんひとつですが、「2階にリビングを置くことでその住宅の魅力が増す土地」を選ぶことも視野に入れると良いでしょう。
2階リビングにして後悔したという声があるのはなぜ?
「2階リビングにして後悔した」という声が挙がる理由は、メリットばかりに気を取られてデメリットへの対策をおろそかにしたことなどが考えられます。
例えば、「宅配を受け取る際にわざわざ1階の玄関まで行くのが面倒」「水やお米など買い物後に重い荷物を持って階段を上がるのが大変」といった後悔は、2階リビングのデメリットとして挙げられやすい点です。
サイン不要の荷物は宅配ボックスへ入れてもらう、ホームエレベーターを設置するなど、設計面で解消できるものもあります。
2階リビングの暮らしを後悔しないためには、不安要素となるデメリットへの対策をしっかり取ることが大切です。
スーモカウンターに相談してみよう
2階リビングにしたいと思ったときに「どうやって進めたらいいのかわからない」「建築会社はどうやって選べばいいの?」と思ったら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望をかなえてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
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イラスト/村林タカノブ
監修/SUUMO編集部(【編集部が解説】2階リビングが向いていないケースとは?/編集部が回答!2階リビングに関するよくある質問)
秦野浩司建築設計事務所 代表建築家、一級建築士