土地探しをしている中で、「旗竿地(はたざおち)」というタイプの土地を目にしたことはありませんか。旗竿地は、価格が抑えられる一方で、日当たりや間取りの工夫が必要になります。購入を検討しているものの、実際に住んだらどうなのか、後悔しないためには何を確認すべきか気になる方もいるかもしれません。
そこでこの記事では、旗竿地のメリット・デメリットについて建築家の佐川旭さんに伺った話を交えて解説していきます。実際に旗竿地に注文住宅を建てた先輩たちの実例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
旗竿地とは?
細い路地を通った先にある奥まった土地のこと
旗竿地(はたざおち)とは、細い路地を通った先にある奥まった土地のこと。旗を竿につけたような形状をしていることから「旗竿地」や「旗竿敷地」と呼ばれます。または「路地状敷地」「敷地延長」などと呼ばれることもあります。
特殊な形状をしていますが、「旗竿地ならではのメリットもあり、一般的にデメリットとされることも、建築の工夫によって解決できたり、むしろ逆転の発想で活かせたりすることがあります」と建築家の佐川旭さん。さっそくメリット・デメリットについて解説していきます。
「旗竿地」のメリット
旗竿地には、メリット・デメリットがあります。まずは、メリットから紹介すると、以下のとおりです。
【旗竿地のメリット】
● 土地の価格が安く、総額を抑えることができる
● 主要道路から離れているため静か
● 敷地延長部分を活用できる
● 延床面積を広く取れる可能性がある
それぞれ、詳しくご紹介します。
土地の価格が安く、総額を抑えることができる
旗竿地の最大のメリットは、価格が安いこと。個別のケースにもよりますが、「場所や広さなどほかの条件がほぼ同じで、旗竿地でない土地と比べると15〜20%ほど安い価格設定になっていることが多いようです」と佐川さん。
不動産業界では、整形地か不整形地によって、査定額を補正することがあります。
同じ面積でも、不整形地のほうが坪単価が割安になるケースも多いです。
また、土地をリーズナブルに入手できる分、建物に予算を回すことができるのもメリット。さらに、道路から見える部分が少ないため、割り切ってしまえば、外装材や外構のデザインにかけるコストを抑えることもできます。
主要道路から離れているため静か
道路から奥まった敷地のため、「車や通行人が家のすぐ前を通ることがなく、静かに暮らせるのも特徴です」。道路を走る車の騒音や排気ガス、通行人の視線などを気にせずに暮らせるというのもメリットとなります。
子育てファミリーであれば、玄関を出てすぐに道路がないというのは、より安心して暮らせるということにもつながります。
敷地延長部分の活用できる
長い路地を逆手にとって「花壇のあるアプローチをつくったり、土間を設けたり、玄関収納を充実させたりと、玄関まわりを楽しく、機能的に演出することができます」
また、旗竿地では路地の部分を駐車スペースとして使用することも可能です。一般的な土地形状では、限られた土地のなかに駐車スペースを確保しなければならないので、メリットといえるでしょう。
延床面積を広く取れる可能性がある
建設できる家の大きさは、建ぺい率や容積率で上限が決められており、その範囲内での建設をしなければならないため、注文住宅を建てる際には延床面積が重要になってきます。旗竿地に建築する場合、路地の部分を土地の面積として算入することで、延床面積を広く取れる可能性があります。
「旗竿地」のデメリットは
旗竿地には、以下のようなデメリットもあります。
【旗竿地のデメリット】
● 日当たりと風通しが悪い
● 家のデザインの自由度が下がる可能性がある
● 駐車スペースの確保
● 建築コストの増大
● 再建築不可となる場合がある
● 騒音問題が発生しやすい
日当たりと風通しが悪い
旗竿地は、周囲を建物などに囲まれていることが多いため、前面に道路がある敷地に比べ、日当たり・風通しの条件が悪くなりますが、佐川さんいわく設計の工夫によって解決できることもたくさんあるそうです。
「外側の窓からの採光には期待できなくても、中庭に対して大きな窓をつくって光を取り込むことができます」。このプランは、特に隣家との距離が近い場合、プライバシーの確保や防音対策としても有効な手段となるでしょう。
また「より明るい2階にLDKを設けるという手法も。さらに屋根の形を現した勾配天井にすると、LDKを天井の高いダイナミックな空間にすることもできます」
家のデザインの自由度下がる可能性がある
旗竿地は、不整形地ということから建築や家のデザインの自由度が下がる可能性があります。
その一方で、整形地にはできない、旗竿地ならではのデザインができることも事実です。
旗竿地の設計を手掛けた経験のある建築会社に相談することで、土地の形状を活かしたデザインの家を建てられる可能性もあります。
駐車スペースの幅が限られる
前述の通り、旗竿地の路地部分を駐車スペースとして活用できる場合もありますが、一方で「路地の入口(公道に接する部分)は最低2m以上と法律で決まっているため、それ以上の幅があるケースは少ないのが実情。スライドドアのコンパクトカーなら、ぎりぎり置けることもありますし、駐輪場としてなら問題なく活用できるでしょう」
建築コストが増える可能性がある
旗竿地は「路地部分が狭い場合、工事の際に大きな重機が入れず、職人の作業が増え、工事費が高くなることもあります。また、電線・水道管の引き込み工事が新たに必要になることも」
とはいえ、土地の購入費が大きく抑えられることを考えると、それを上回るほどの出費にはならないこともあります。「購入前に建築の依頼先に相談してみるといいでしょう」
騒音問題が発生しやすい
旗竿地は、騒音問題が発生しやすいというデメリットもあります。住宅を建設する土地はもちろんですが、路地も敷地面積に算入されることから、隣地との距離が非常に近くなります。
そのため、家で出る騒音が問題になることも。また、自分では騒音だと思わないようなことでも、トラブルに発展することがあります。
【騒音問題に発展する例】
● 生活音
● 車を止める際の音
高気密高断熱住宅の検討や、気密性が高い材料を使うなどの対策を行うことで、騒音を軽減できる場合もあります。
防犯対策が必要になる
旗竿地は奥まった場所にあるため、防犯対策は欠かせません。不審者が侵入しても周囲の目につきにくく、逃げ道が確保しやすいためです。
特に、夜間は暗がりになりやすく、侵入されても分からないことがあります。照明を配置する、防犯ブザーやセンサーライトを活用するなどの防犯対策を怠らないようにしましょう。
再建築不可となる可能性がある
旗竿地は、土地の形状によって建て替えや再建築ができない場合があります。主な原因は、以下の2つです。
【旗竿地が再建築できない原因】
● 接道義務を果たしていないから
● 各自治体による建築基準に満たないから
建築基準法では、建物を建築する際「幅員4m以上の道路に2m以上接しなければならない」と定められています。これらの土地は新しく建物を建築できないほか、再建築もできません。
旗竿地の場合、接道義務を満たしていないことも多く、再建築不可になることも少なくありません。
また、接道義務を満たしていても、各自治体による建築基準を満たしていない場合は、同様に再建築ができないため注意が必要です。
旗竿地の土地を購入して後悔しないための注意点
旗竿地に家を建てる際、土地を購入してから後悔しないように、いくつか知っておくべきことがあります。ここでは、土地を購入するときに押さえておきたい注意点を解説します。
水道・電気の引き込みの有無を確認する
旗竿地を購入するときには、水道や電気の引き込み状況を事前に確認しておきましょう。水道が敷地まで引かれていない場合、新たに工事する必要があり、路地部分が長いと費用が高くなることがあります。
また、水道メーターの設置場所によっても、配管工事の範囲や費用が変わるため、事前に調べておいてください。電気も、道路の電柱から直接引き込みができないケースでは、敷地内に専用の支柱を設置する必要があり、その分コストがかかります。
場合によっては、隣家の協力を得て電線を通す必要があることも考えられます。購入前に水道・電気の引き込みが済んでいるかを確認し、追加工事が必要な場合は、見積もりを取って費用面の負担を把握しておくと安心です。
工事車両が乗り入れられるかチェックする
旗竿地は路地部分(さおの部分)が狭いため、大型の工事車両や重機が乗り入れられないケースがあります。特に建築工事の際、基礎工事や資材の搬入に必要なトラックやクレーンが通れないと、手作業での搬入が必要になり、その分工期が長くなり、費用もかさむ可能性があります。
購入前に建築会社や不動産会社に相談し、工事車両の進入経路や搬入方法を確認しておくと、トラブルを防げます。
接道義務を果たしているか確認する
旗竿地では、建築基準法を満たしていないと再建築ができません。先述のとおり、建築基準法では、「幅員4以上の道路に2m以上接しなければならない」と定められており、基準外の土地は新しく建物を建築できないほか、再建築もできません。
そのため、土地の購入を検討している場合は、事前に確認することが大切です。
自治体ごとの建築基準条例を順守する
接道義務を満たしていても、各自治体による建築基準条例を満たしていないと、再建築はできません。
これらの条例は、自治体によって異なるため、旗竿地に建築する前に確認しておきましょう。
建築基準法第43条第2項の申請を行う
建築基準法第43条のただし書き申請をすることで、旗竿地でも再建築ができる場合があります。再建築不可となる理由の多くは、接道義務を満たしていないからです。隣接する土地が空いているなら、接道義務を満たす程度に土地を買い取ることで、再建築ができるようになる場合や例外として再建築が認められる場合もあります。
いずれも、建築前に確認して、申請をするとよいでしょう。
【編集部提案!】旗竿地で家を建てるときのポイント
旗竿地で住みやすい家を建てるためには、どのようなプランを選べばよいのでしょうか。ここでは、旗竿地で家を建てるときの間取りのポイントを解説します。
風を取り込む
旗竿地で家を建てるには、風通しを良くする工夫も大切です。例えば、「窓を対角線上に配置する」「通風用の小窓を設ける」などの方法を取り入れることで、風の通り道を確保できます。
また、中庭や吹き抜けをつくるのもオススメです。通気性を考慮した設計で光と風が室内に行き渡り、心地よい住まいを実現できるでしょう。ただし、スペースを確保する必要があるため、通風や採光、実用性のバランスを考慮しながらプランニングしていくことが大切です。
2階にリビングを取り入れる
旗竿地は、周囲を住宅に囲まれていることが多く、特に1階は日当たりが悪くなりがちなため、2階にリビングを取り入れるのも方法の1つです。リビングは家族が集まり、長時間過ごす場所なので、明るく開放感のある空間にしたいと思う方は少なくありません。
旗竿地では、2階にリビングを配置することで、周囲の建物の影響を受けにくくなり、十分な採光を確保できます。また、2階リビングにして大きな窓やバルコニーを設置すれば、風通しもよくなるでしょう。
一方で、寝室は適度に暗く静かな環境のほうが落ち着くため、1階に配置しても快適に過ごせます。
周囲の視線を遮る
旗竿地では、隣接する住宅に囲まれているため、周囲の視線を遮る工夫が欠かせません。隣家との距離が近いため、「リビングの窓を開けるとすぐ隣の家と視線が合ってしまう」「玄関を出るとすぐにお隣の壁があり、圧迫感を感じる」といった問題が起こりやすいからです。
ただし、視界を完全に遮ると死角が増え、防犯面でのリスクが高まることにも注意してください。高さのあるフェンスや植栽を配置する場合は、周囲からの見通しが極端に悪くならないよう工夫しましょう。
例えば半透明のパネルを活用する、縦格子や可動式のルーバーを設置するといった方法で、開放感を維持しながらプライバシーを確保する工夫が大切です。
どんな家が建つの?「旗竿地」を選択した先輩たちの実例紹介
【case1】ずっと住みやすい、住宅性能の高い家を。注文住宅でかなえた思いどおりの住まい
「将来までずっと住みやすい間取りの家を」と希望し、平屋にこだわった千葉県流山市のYさん。そのため土地探しにはじっくり時間をかけ、約75坪と広い旗竿地を見つけました。
「広さも周辺環境も駅からの距離も申し分なく、下水道も通っていて、坪単価的にも好条件。地形的に少し丘になっているので、水害にも強そうだと思って決めました」
間取りは、キッチン・ダイニング・リビング・和室をひと続きにし、和室を寝室にするという以前の生活スタイルを踏襲。旗竿地を選ぶことで広い土地をリーズナブルに入手し、のびのびとした暮らしを送っています。
広い旗竿地でのびのびとした平屋暮らし


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ずっと住みやすい、住宅性能の高い家を。注文住宅でかなえた思いどおりの住まい
【case2】道路まで距離のある旗竿地を活かして、静かな環境に明るく開放的な家を
できるだけコストを抑えながら、高気密・高断熱の快適な家を建てたいと希望していた千葉県松戸市のSさん。案内された旗竿地が気に入り、購入することに。「旗竿地は検討していませんでしたが、近隣の同じくらいの広さの土地と比べると数百万円も安くなるのが魅力でした」
当初は、日当たりが期待できないのではという思いもあったものの、「裏の土地が空いていたことと、家の中に光を取り込めるプランを提案してもらったことで不安は解消。旗竿地でも十分に光と風を取り込めるよう、吹抜けリビングを取り入れました。
隣家がワンクッションとなる旗竿地は、庭が道路に面さず、静かでプライバシーを保ちやすいのもメリット。「周囲を囲まれた旗竿地でも、プランの工夫で開放感を得られました。道路より奥まっていて、さらに窓がトリプルガラスなので、とても静かに暮らせています」
光と風を取り込み、静かに暮らせる家に


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道路まで距離のある旗竿地を活かして、静かな環境に明るく開放的な家を
【case3】周囲を家に囲まれた旗竿地で、最大限に開放感と光を手に入れた家
家賃を払い続けるのはもったいない、同じ学区内で家を持とう!と考えた千葉県松戸市のKさん。学区内で見つかった土地は、古家付きの旗竿地でしたが、希望の広さで予算内だったことが決め手となって即購入しました。
気になるプライバシーは、外構フェンスにひと工夫。半透明のアクリル板を隣家との間にめぐらせて、大きな窓と吹抜けリビングのある家に。
「窓を開けても、外からの視線が気にならずのんびりできるのが何よりうれしい。リビングのソファに座って、ひなたぼっこしている時間が気に入っています」
最大限に開放感と光を手に入れた家


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周囲を家に囲まれた旗竿地で、最大限に開放感と光を手に入れた家
【Case4】子どもを安心して庭で遊ばせられる旗竿地の住まい
第1子の誕生を機に、賃貸アパートの手狭さを実感し、新築を検討し始めたFさん夫妻。友人の勧めで訪れたスーモカウンターでは、地元密着型の建築会社5社を紹介されました。最終的に、現在の建築会社に決定したのは、メンテナンス費用を抑えられる提案と担当者の熱意に引かれたからです。
旗竿地のメリットを生かし、採光を確保できる間取りを建築会社と綿密に検討しました。また、ランドリールームを2階に配置した洗濯動線にも工夫が見られます。選んだ建築会社はアフター保証が充実しているため、将来的なメンテナンス費用を抑えられる点にも満足しているそうです。
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初期投資が高くなっても、長い目で見るとコストパフォーマンス抜群の家
【Case5】安心して子どもが遊べる広々プライベートガーデンのある住まい
大阪に住みながら九州で家を建てることを決めたYさん夫妻。土地探しやハウスメーカー選びの進め方が分からず悩んでいたところ、スーモカウンターの広告を見て問い合わせることにしました。
希望エリアに詳しいアドバイザーの紹介で4社と面談し、具体的な提案があった2社と相談を進めていくことに。最終的には希望の立地に分譲地があり、スムーズにやりとりできるハウスメーカーに決めました。
Yさん夫妻が選んだ土地は旗竿地でしたが、庭の広さを確保できる点に魅力を感じたそうです。窓の位置やサイズも、隣家と視線が合わない設計にしたことで、心地よい暮らしができています。
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大阪にいながら九州に家を建てる。相談開始~入居を11カ月で実現
【Case6】都心でも吹き抜けをつくることで明るい住まいに
都内で家を建てるために土地探しを進めていましたが、購入を決めた土地が直前で契約されるという経験をしたHさん夫妻。その後、希望に合う旗竿地を見つけたものの、提携していた建築会社のデザインが好みに合わず、スーモカウンターへ相談しました。
そこで予算と好みのデザインに合った4社を紹介され、間取りの提案力とプランの自由度が高い工務店を選びました。
Hさん夫妻は、旗竿地の閉塞感を解消するために、吹抜けのリビング階段を設け、2階の大きな窓から自然光を家全体に取り込める間取りにしました。また、ルーフバルコニーを活用して屋外スペースを確保し、開放感を感じられるようにしているのもポイントです。さまざまな提案をしてくれた工務店で、家族の要望を盛り込んだ理想の家づくりがかないました。
この実例をもっと詳しく→都心の旗竿地でも吹抜けの階段で明るく。空間ごとに壁紙を変えた個性的な住まいに
スーモカウンターに相談してみよう
旗竿地は、比較的土地が安く、道路から離れているため静かに暮らせるというメリットがある一方で、日当たりや風通しの確保、防犯対策も欠かせません。しかし、間取りやプランニングの工夫次第では、旗竿地ならではの暮らしやすい家をつくることが可能です。
旗竿地での家づくりを成功させるには、建築会社選びも重要なポイントです。スーモカウンターでは、旗竿地の設計が得意な建築会社や、返済計画の相談ができるファイナンシャルプランナーを紹介し、家づくりのサポートを行っています。個別相談や家づくり講座なども、無料で利用できます。旗竿地での家づくりを検討している方は、ぜひ一度スーモカウンターに相談してみてください。
監修/SUUMO編集部 (延床面積を広く取れる可能性がある、家のデザインの自由度下がる可能性がある、騒音問題が発生しやすい、再建築不可となる可能性がある、旗竿地で再建築不可にならないために知っておくべきこと)
佐川旭建築研究所代表。一級建築士、インテリアプランナー。間取り博士とよばれるベテラン建築家で、住宅だけでなく、国内外問わず公共建築や街づくりまで手がける