回遊動線という言葉だけを聞くと難しそうな印象を受けますが、間取りにうまく取り入れると、家事の負担が軽減され、住み心地の良い家ができるといいます。一方で、失敗談なども多く聞かれることから、回遊動線のデメリットなども理解した上での検討が大切です。
そこで今回は、回遊動線とは何か、また、回遊動線による効果や失敗しないための注意点、検討の際の重要なポイントなどをシンプル工務店の月東慶次さんに聞き、解説してきます。
回遊動線は家事に最適?
回遊動線は家事がしやすいという声を聞きますが、どうして回遊動線だと家事がしやすいのでしょうか?
家事動線とは
「動線」とは、人の動きを示した線のこと。「家事動線」は、炊事や洗濯など家事をするときに人が動く経路のことです。
家事動線のポイント
「当社では、家事動線を考える際、水回りがキッチンから近く、洗濯機を回す、干す、取り込んだ洗濯物をしまう、という一連の動きがスムーズに行えることを重視しています」(月東さん、以下同)
回遊動線とは
「回遊動線」とは、行き止まりがなく、室内をぐるぐると回れる動線のことです。
「ぐるぐると回れることが重要なのではありません。例えば2方向から出入りできるというような、移動に無駄がないことを重視した結果、回遊動線になるのです」
家事動線を意識した起点別による回遊導線の種類
回遊動線は、単に間取りに取り入れるだけで、家事の負担が軽減し、利便性が良くなるわけではありません。家事動線を意識した回遊性を意識することが大切です。リビング、キッチン、脱衣所を起点とした回遊動線について説明します。
リビングを起点とした回遊動線
リビングは、家族が集まり、くつろぐための空間のため、リビングを起点とした回遊動線を確保することで家族全員にとっての回遊性が高まり、移動などによるストレスの軽減を図ることができます。
リビングを起点とした回遊動線とは、リビングからキッチン、水回り、玄関などへの行き来が容易な動線を取り入れた間取りということです。これにより、出かけるときや帰宅時のほか、部屋からの移動の際にリビングを通る機会が多くなり、家族が触れ合う時間も増えることとなります。
ただし、浴室やトイレなどに行くために必ずリビングを通らなければならない間取りですと、来客時などはかえって落ち着かないケースもあるため、注意が必要です。
キッチンを起点とした回遊動線
日常生活における動きを「生活動線」と呼びますが、その中でも特に家事動線は暮らしやすさに大きく影響します。家事の中でも、炊事は時間や労力がかかるため、キッチンを中心とした回遊動線を取り入れることで家事の負担を軽減できるでしょう。例えば、アイランドキッチンのようにキッチンの周りを回れる間取りにすることで、調理や配膳がスムーズになります。
また、キッチンを起点に回遊できる動線を設けることで、調理をしながら洗濯や掃除を並行して行うことができ、家事全体の効率が向上します。さらに、キッチンと玄関の動線が短くなり、行き来がしやすくなることで、買い物帰りの荷物の運搬やゴミ出しの負担も軽減されるでしょう。
脱衣所を起点とした回遊動線
洗濯や水回りの掃除も、家事の中で時間と労力がかかる作業です。この負担を軽減するためには、脱衣所を中心とした回遊動線を取り入れた間取りがオススメです。洗面所、浴室、ランドリールーム、物干し場、クローゼットを回遊しやすく配置することで、家事がスムーズに進みます。また、洗面所から浴室、トイレまでの動線も確保できれば、掃除がしやすくなるでしょう。
特に、脱衣所を起点とする動線設計で重要なのは、洗濯における「脱ぐ、洗う、干す、取り込む、しまう」という一連の流れを意識することです。そのため、脱衣所から洗濯機、さらに物干し場への動線が大事になり、屋内・屋外に干す場合の動線も考慮する必要があります。また、ドラム式洗濯機や浴室乾燥機、サンルームの使用有無によっても動線が変わることがあるので、設計時にはこれらの要素にも注意しましょう。
回遊動線のメリットは?【間取図で解説】
回遊動線には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
近道できるので移動時間が短縮できる
「2つ以上の経路ができるため、家の中の目的の場所へ近道することができます。移動時間が短縮できるので、日々の家事や生活のストレスが減ります」
家族同士でぶつかったり渋滞したりしにくい
「例えば、キッチンに2人、3人と入って作業する場合、キッチンの奥が行き止まりだと出入りがしにくく、使いづらく感じてしまいます。その点、回遊動線であれば出入りもしやすく、ぶつかったりする危険も減ります」
プライバシーを確保しやすい
「回遊動線は、人が自由に行き来できるので、落ち着かない印象がありますが、家族の生活スタイルを踏まえた回遊動線にすれば、経路が複数あるため、家族同士のプライバシーを確保した間取りにすることができます。また、来客時に気を使わなくて済むというメリットもあります」
家が広く感じられる
「実際の広さは変わらなくても、回遊動線だと行き止まりがないので、気持ち的に家の中が広く感じられます」
リビングが汚れにくい
「部活帰りの子どもが、汚れた衣服のままリビングを通ることにストレスを感じるという声をよく聞きます。回遊動線にして、玄関から直接リビングに行く経路だけではなく、玄関から洗面室を通ってリビングに行ける経路があると、リビングが汚れにくくなります」
回遊動線のデメリットは?【間取図で解説】
さまざまなメリットのある回遊動線ですが、デメリットはあるのでしょうか?
居室や収納が狭くなりやすい
「通路を確保しなければならないため、収納や居室のためのスペースが削られる点はデメリットです。間取りを考える場合には、家事のしやすい動線か、収納量か、どちらを優先するかを考える必要があります」
耐力壁を設けにくい間取りになる
「新築の場合、耐震基準を満たしているのは大前提なので、あまり心配する必要はありませんが、開口部が多く耐力壁を設けにくい間取りにはなります」
家具の配置が限られる
「通路部分には家具が置けないので、持っている家具のレイアウトまで考えて、回遊動線を採用する必要があります。きちんと計画すれば、新築時点で家具の配置で困ることはないと思いますが、模様替えはしにくいでしょう」
使われない出入り口もでてくる
「回遊動線にすることを目的に間取りを考えてしまうと、実際の家族の動きの中では使われない出入り口ができてしまう可能性があります」
回遊動線でよくある失敗や後悔例
回遊動線を取り入れること自体が目的になってしまうと、便利だと思って設置した出入り口や間取りが、かえって無駄を生むことがあります。ここでは、回遊動線に関するよくある失敗や後悔例をもとに、その原因を探ってみましょう。
プライバシーの確保が十分ではなかった
回遊動線を優先することで、プライバシーが十分に守られない場合があります。例えば、リビングを起点とした回遊動線を採用した場合、脱衣所やランドリールームなどの来客に見せたくない場所が目に入ってしまうことが考えられます。
また、家族間でのプライバシーにも影響がでることがあります。特に、子ども部屋を回遊動線に含めると、幼いころは問題なくても、成長するにつれて子どもが嫌がる可能性が高いでしょう。
そのため、回遊動線を取り入れる際には、来客時の動線や将来の生活スタイルも見据えて、慎重に検討することが重要です。
洗濯動線が考慮できていなかった
先述のとおり、回遊動線を検討する際は洗濯動線を十分に考慮することが大切です。洗濯動線とは、脱ぐ、洗う、干す、取り込む、しまうといった一連の流れを指します。この流れを行う動線が悪いと、家事効率が悪くなります。
よくある失敗例は、洗濯機、物干し場、収納スペースを結ぶ動線です。例えば、1階で洗濯をして2階のベランダで干す場合、濡れた洗濯物を重いまま2階に運ばなければならず、大変な労力がかかります。
また、取り込んだ洗濯物をしまうまでの動線も重要です。一時的に洗濯物を置けるスペースがないと、リビングや客室に洗濯物が散らかり、急な来客時に慌てる原因になります。
1カ所の出入り口しか使わなくなった
回遊動線を意識しすぎるあまり、必要以上に出入り口をつくってしまうことがあります。「ここに出入り口を設ければ便利かも」と考えて2箇所の出入り口をつくったものの、実際に生活を始めると1カ所しか使わず、「もう1カ所は収納スペースにすればよかった」と後悔することもあるでしょう。
出入り口をつくるためにはドアの設置や施工の手間がかかり、その分建築コストも高くなるため、使わない出入り口をつくるのは避けたいところです。回遊動線を取り入れる際には、実際の生活シーンをしっかりイメージし、無駄な動線になっていないか十分に検討しましょう。
回遊動線で失敗や後悔しないためのポイント
次に、回遊動線で失敗や後悔しないためのポイントを紹介します。
家事に必要な動きをチェックしておく
「家事に限らず、家族一人ひとりの行動パターンをチェックしておくことも大事です。
帰宅して、まずどこへ行って、何をするのか。回遊動線にすることで、家族一人ひとりにとって暮らしやすい間取りになるかどうかを検討しましょう」
居室や収納に必要なスペースが確保できるか確認する
「回遊動線にした結果、収納が足りなくなっては、使いづらい家になってしまいます。
家族の服や靴の数、荷物の量を把握して、必要な収納量を確保した上で、回遊動線にすべきかどうかを検討しましょう」
平屋や30坪、35坪など、さまざまな回遊動線のつくり方と間取り実例を紹介!
ここでは、平屋、30坪、35坪の各ケースについて、回遊動線をつくるポイントを間取りの実例とともに紹介します。
平屋で回遊動線をつくるときのポイントと実例
平屋は、リビングなどの共用スペースと、寝室や子ども部屋などの個室がひとつのフロアに配置されます。この共用スペースと個室のゾーニングに、使いやすい動線を組み入れるのがポイントです。
この実例では、真ん中に玄関や洗面室などを設け、LDKと居室を左右に振り分けました。その上で、キッチンからも居室からも洗面室にアクセスできるようにした結果、回遊動線になりました。
約30坪の家で回遊動線をつくるときのポイントと実例
限られたスペースの中では、できるだけ無駄がなく、使いやすい間取りにするのが理想です。短い動線と、2つ以上のアクセス経路を設けることがポイント。廊下も極力なくす方向で検討します。
この実例では、帰宅してすぐに洗面脱衣室で手を洗ってキッチンへ行くこともできますし、キッチンで調理をしながら洗濯もできます。また、玄関ホールから直接LDKへ行く経路も確保してあり、シンプルながら実用的な回遊動線になっています。
約35坪の家で回遊動線をつくるときのポイントと実例
約35坪ですと、比較的広いので回遊動線はつくりやすいでしょう。しかし、回遊動線を目的にするのではなく、家事がしやすいか、生活しやすいかを意識することが大事です。
この実例では、洗濯のための動線にこだわりました。
「洗面室で脱衣・洗濯 → 勝手口を通り → 外干し・取り込み → WICで収納」という洗濯のための一連の流れを一直線上でできる間取りです。
この一直線の動線に、リビングやキッチン、玄関からの動線を加えた結果、回遊動線になりました。
回遊動線を採用して理想の住まいを実現した先輩たちの実例を紹介!
スーモカウンターを利用して、回遊動線のある理想の住まいを実現した先輩たちの実例を紹介します。その人たちが、どのような点にこだわり、どのような住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【実例1】家事のしやすい家にこだわり、回遊動線になった家
「いずれは一戸建てが欲しい」と思っていたMさん夫妻は、ショッピングのついでにスーモカウンターに立ち寄りました。
そこで話を聞くうちに、「家事のしやすい家がいい」と希望が明確になった夫妻。さっそく依頼先候補として3社紹介してもらい、最終的に土地から探してくれた会社に依頼を決定しました。
完成した新居には、冷蔵庫の並びにパントリーを設けました。買い物から帰るとキッチンに直行して、すぐに食材をしまえる理想的な回遊動線の間取りです。
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【実例2】こだわり抜いて完成した、家事のしやすい回遊動線の家
家を持ちたいと思いスーモカウンターを訪ねたYさん夫妻。当初マンション希望だったものの、注文住宅に切り替え、建築会社8社を紹介されました。その中から対応が柔軟な1社に依頼を決定。
実際に完成した家は、中央に階段を配置し、階段を中心に行き止まりがなく、ぐるりと回れる動線の間取り。やりたいことをすべて伝えてできた家事がしやすく、生活しやすい、こだわり抜いた新居は最高だと喜んでいます。
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希望と思いを余すことなく伝えて出来た「シンプルだけど面白い家」
【実例3】感動するほど住み心地の良い、回遊できる間取り
家づくりを考え始めたRさん家族は、スーモカウンターへ相談に行き、依頼先候補として3社紹介されました。最終的に、その中から展示場で見た遊び心のあるデザインが気に入った会社へ依頼することに。
完成した新居の1階は、生活動線を重視した間取り。ペットコーナーを兼ねたウォークインクローゼット(WIC)を中心にぐるりと一周できるのが特徴です。洗面化粧室→ウォークインクローゼット→キッチンとつながっており、家事にも便利な動線が実現。実際に住んでみたら、住み心地が良すぎて感動したそうです。
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ハーフ吹抜け+シアタールーム。「早く帰りたくなる家」実現!
【実例4】階段の周りを回るような家事動線が考えられた家
結婚2年目のKさん夫妻は、毎月の家賃を支払い続けるなら早めに家を建てようと決意しました。しかし、モデルハウスや施工事例を見ても具体的なイメージがつかめず、近くのショッピングセンターにあるスーモカウンターに相談へ。希望の土地の交渉を進めてくれたことが、建築会社を決める決め手になったそうです。
1階は階段を中心に、リビング、ダイニング、キッチン、水回りを回遊できる動線を取り入れ、朝の通勤準備や帰宅後の家事がスムーズに行える間取りとなっています。この動線により、キッチンでの調理とランドリールームでの洗濯を同時に進めることができるため、家事の負担が軽減し、移動のストレスも少なくなる工夫がされています。
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回遊動線とランドリールーム、ファミリークローゼットなど豊富な収納で家事も暮らしも快適に
【実例5】家事動線だけでなく身支度における回遊動線も取り入れた家
結婚後、賃貸マンションで暮らしていたOさん夫妻。住宅ローン控除の優遇制度が変わる前にマイホームを建てることを目指し、スーモカウンターを訪れました。そこから1年足らずで、こだわりの新居が完成。家づくりは土地探しからスタートしましたが、建築会社の手厚いサポートが決め手となったとのことです。
2階はキッチンを中心に家事効率を重視した回遊動線を取り入れ、家事がしやすい間取りになっています。また、1階は寝室とファミリークローゼットが回遊動線でつながっており、家事だけでなく、身支度の効率も高められる工夫がされています。
住み始めてからも、毎日ワクワクできる家ができて大満足と語っています。
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短期間で妥協せず叶えたZEH仕様の長期優良住宅
回遊動線の間取りのポイントは?
最後にあらためて月東さんに、理想の回遊動線の間取りのポイントについて聞きました。
「回遊動線にする場合は、無駄な廊下や通路ができないように計画することが重要です。
施主の方は、自身や家族がどういった家事や生活をするのかをあらためて考えてみて、家事や生活がしやすい間取りの選択肢のひとつとして回遊動線をご検討いただくとよいと思います」
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「使いやすい家事動線の家をつくりたい」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望をかなえてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
無料の個別相談のほか、「はじめての注文住宅講座」や「ハウスメーカー・工務店 選び方講座」など、家づくりの段取りや、会社選びのポイントなどが学べる無料の家づくり講座も利用できます。ぜひお問い合わせください。
イラスト/松元まり子
取材協力/シンプル工務店・月東慶次さん