在宅勤務やリモート会議、ネットでの動画視聴の機会などが増える今、インターネットが途切れる、繋がりにくいといった状況は避けたいもの。そこで、快適にインターネットを使うために、一戸建て住宅のWi-Fi環境で気を付けておきたいポイントについて、一級建築士で、やすらぎ介護福祉設計の齋藤進一さんに聞きました。
目次
一戸建て住宅でインターネットを使うには?
今や、自宅でインターネットを使えることが当たり前の時代ですが、一戸建ての住まいでインターネットを使うには、いくつか方法があります。その代表的な方法が、固定回線とモバイル回線です。
固定回線とモバイル回線
固定回線とは、建物まで有線で繋がっているインターネット回線のこと。電話に例えると固定電話のようなイメージです。一方モバイル回線は、建物の外も中も無線で繋がっているインターネット回線で、4Gや5Gなどといった携帯電話のデータ通信で使われる電波が利用されます。
「モバイル回線は屋外のビルや他の電波などの影響を受ける事がありますが、固定回線は、基本的に屋外の通信環境の影響を受けにくいため、固定回線の方が安定してインターネット接続できるという特徴があります」(齋藤さん、以下同)
固定回線の種類
固定回線にもいくつか種類があります。代表的なものとしては、光回線、ケーブルテレビ接続、ADSLです。ケーブルテレビ接続はケーブルテレビの回線を使ったインターネット回線、ADSLは電話線を使ったインターネット回線です。
「現在主流なのが光回線です。光回線は、光ファイバーケーブルを使ったインターネット回線で、安定した高速通信が可能です」
必要な機器や手続き
ここからは、固定回線に関しては光回線を前提に解説を進めます。
光回線を利用するには、光回線を扱っている回線事業者(NTTやKDDIなど)やプロバイダーと呼ばれる接続事業者に申し込む必要があります。
※一部、回線事業者とプロバイダーが同じ業者のケースもあります
「一戸建ての利用申し込みをすると、後日、回線事業者が引き込み工事に来ます。工事では、建物の近くの電柱から光ケーブルを分岐させて、エアコンダクトや壁に穴をあけ建物内に引き込むケースが多いですが、新築の場合は、スマートに電話線の配管を利用することが多いですね」
引き込み工事では、屋内の壁に光コンセントという接続口を設置します。この光コンセントにONUという回線側の光信号と機器側の電気信号を相互に変換する装置を繋ぎます。
「さらに、ONUとWi-Fiルーターを接続すると、パソコンやスマートフォン、ゲーム機器などを無線で繋ぐ(Wi-Fi接続する)ことができます」
ONUは回線事業者からレンタルして、Wi-Fiルーターは利用者自身が用意するのが一般的ですが、光回線のプランや事業者によっては、ONUとWi-Fiルーターが一体化したものを回線事業者からレンタルするケースもあります。
一戸建てのWi-Fiは遅い? 繋がりにくい? 有線と比較した特徴は?
固定回線はモバイル回線に比べて通信が安定していますが、固定回線をWi-Fiルーターに繋いで無線でインターネット接続できるようにした場合はどうなのでしょうか?
有線接続した場合と比べたメリット・デメリットや気を付けておきたい特徴などを紹介します。
Wi-Fiのメリット
「有線接続だとLANケーブルがかさばりがちですが、Wi-Fiではケーブルが少なくて済むため、室内がすっきりします。また、ノートパソコンなどの機器の移動が楽にできるというメリットがあります」
Wi-Fiのデメリット
「快適に通信できるかどうか、室内の環境に左右されます。例えば、Wi-Fiの電波(特に2.4GHz帯)は電子レンジや食洗器等の影響を受けやすく、Wi-Fiルーターと利用機器の間にキッチンがある場合、電子レンジや食洗器を使ったときに一時的にスマホなどのデバイスの電波が不安定な状態になり、通信が途切れることがあります」
気を付けておきたいWi-Fiの特徴
セキュリティー対策が必要
「Wi-Fiでやりとりされる個人データが他人に漏れないよう、セキュリティー対策が必要です。Wi-Fiのセキュリティーにはさまざまな種類がありますが、現在はTKIPという方式が多く採用されています。ご自身のWi-Fiルーターやパソコンのセキュリティー方式をチェックして安全性を確認しておくといいでしょう」
周波数や規格によって特徴が異なる
「Wi-Fiの電波の帯域(周波数の幅)には、2.4GHzと5GHzがあり、それぞれ以下の特徴があります。これらの特徴を踏まえて、使用する機器によって使い分けるといいでしょう」
2.4GHz | ・壁や床などの障害物に強く、電波が遠くまで届きやすい ・ほとんどのWi-Fi端末が対応している ・色々な製品で使用されている無線帯域であるため混雑して不安定になりやすい |
---|---|
5GHz | ・繋がりやすく通信が安定している ・2.4GHzと比較して、より高速な通信が可能 ・2.4GHzと比較して壁や床などの障害物に弱い ・通信距離が長くなると電波が弱くなり、通信が不安定になる可能性が高い ・古いWi-Fi端末の場合、5GHzに対応していない場合がある |
「また、下表の通り、Wi-Fi 規格名により周波数、最大通信速度などが変わるので、Wi-Fiルーターやパソコンなどを購入する際の参考にしてください」
Wi-Fi規格名 | 最大通信速度 | 周波数 |
---|---|---|
IEEE 802.11a | 54Mbps | 5GHz 帯 |
IEEE 802.11b | 11Mbps | 2.4GHz 帯 |
IEEE 802.11g | 54Mbps | 2.4GHz 帯 |
IEEE 802.11n | 600Mbps | 2.4GHz 帯 |
5GHz 帯 | ||
IEEE 802.11ac | 6.9Gbps | 5GHz 帯 |
IEEE 802.11ax | 9.6Gbps | 2.4GHz 帯 |
5GHz 帯 |
Wi-Fiの規格別最大通信速度と周波数。aとbは同じ世代だが、それ以降は表の下になるほど新しい世代
一戸建てにWi-Fiを導入する際のポイント・注意点とは?
実際に一戸建て住宅にWi-Fiを導入する際にはどのような点に注意すればいいのでしょうか? 押さえておいた方が良いポイントを紹介します。
住宅構造によってWi-Fiの安定性が違う
「一般的に、木造よりも鉄骨造・鉄筋コンクリート造(ラーメン構造)、さらにそれよりも鉄筋コンクリート造(壁式)の方が、電波が繋がりにくく不安定になります。壁式の鉄筋コンクリート造の場合は、Wi-Fi接続を諦めた方がいいケースもあります。
また、間仕切り壁を木造でつくるか、軽鉄(LGS)でつくるかによっても通信環境が変わります。軽鉄(LGS)を使った場合は、金属が電波に悪影響を与えて通信が不安定になることがあります。
通常、間仕切り壁をつくるときに立てる柱と柱の間隔は30㎝~45㎝程度ですが、軽鉄で間隔を狭くして施工するほど鉄の壁状になるので、電波が届きづらくなると言えます」
費用
「一戸建てでWi-Fiを利用するために必要な費用は、プロバイダーと回線業者に支払う費用(工事費や月々の回線使用料とONUのレンタル料)とWi-Fiルーターの購入費用くらいです」
固定回線の引き込み場所(光コンセントの設置場所)
「新築で光回線を引き込む場合、電話線の配管を利用することが多いと言いましたが、その場合は固定電話のモジュラージャックの近くに光コンセントを設置することになります」
Wi-Fiルーターの家全体の中での設置場所
「Wi-Fiルーターを置く場所は、Wi-Fiでインターネット接続したい機器を使う場所に近いほどいいでしょう。一般的に、家の中心や階段の途中部分に設置すると家全体に電波が届きやすくなります。3階建ての場合は2階に置くといいですね。
ONUとWi-Fiルーターは近くに置くことが多いのですが、最近はLANケーブルの質が上がってケーブルが長くなっても問題ないので、ONUとWi-Fiルーターを離して置くこともできます。
新築であれば、ONUとWi-Fiルーター間のLANケーブルを壁内に通して、Wi-Fiルーターを電波の届きやすい場所に設置することも可能です」
部屋の中でWi-Fiルーターを設置する高さ
「Wi-Fiルーターは、床に近い位置に置くと家具や家電(空気洗浄機、扇風機など)の影響を受けることがあるので、腰から上くらいの高さに設置した方がいいでしょう」
回線やWi-Fiルーターなど機器選びのポイント
「回線速度をアピールする光回線の会社もありますが、家に届くまでのスピードと、Wi-Fiで利用機器に届くまでのスピードは違います。せっかく家に届く回線のスピードが速くても、Wi-Fiのスピードが遅ければ意味がありません。
スマートフォンや電気・ガスの契約と一緒に契約すると割引サービスを受けられるものもあるので、良さそうな回線を契約してみて、速度に不満があるなら乗り換えを検討してみるというスタンスでいいでしょう。
Wi-Fiルーターは、Wi-Fi規格を参照し、持っているデバイスの対応状況なども踏まえて、なるべく速く安定して利用できる機器を選ぶといいですね。
特に古いパソコンは5GHz帯に対応していないことも多く、あまり高性能なルーター(IEEE802.11ac/11axなども使える機種)を買っても意味がありません。ルーターは4~5年くらい使い続けていると、通信が不安定になったり、接続が途切れたりすることがありますので、一定期間で買い替えることを前提に選ぶといいでしょう」
中継機の利用について
「部屋数が多く、かつ各部屋へWi-Fiの電波を届けたい場合などは、中継機(中継器)の利用を検討しましょう。中継機を使うと、電波が遠くまで届くようになります。ただし中継器を介しても、中継器と利用機器の間に鉄筋コンクリートの壁などがあれば、電波は届きにくくなります」
住宅を新築する際の注意
「インターネット環境は、今まで居室でパソコンやスマホを使ったり、リビングのテレビで動画配信サービスを観たりするために利用されてきましたが、今後は冷蔵庫や洗濯機、宅配ボックスなどの住宅設備機器がインターネットに繋がるIoT化が進むので、住宅内全体にWi-Fiが届くような設計がポイントになります」
工務店やハウスメーカーへ相談するタイミング
「通常新築の場合には、電源コンセントやスイッチの位置を決める設備打合せの機会があるので、その際にWi-Fiを利用したい部屋などを伝え、光コンセントの位置やWi-Fiルーターの設置場所を相談するといいでしょう」
Wi-Fi以外の選択肢
「Wi-Fi接続よりは、LANケーブルで繋ぐ有線接続の方がインターネットは安定して利用できます。そのため、鉄筋コンクリート造などWi-Fiが不安定になる環境では、家中の壁の中にLANケーブルを通して、各部屋までは有線で接続するという方法も考えられます。
また、固定回線とWi-Fiの組み合わせ以外に、モバイル回線とWi-Fiを組み合わせたホームルーターというものもあります。これは、通信速度や安定性は固定回線+Wi-Fiに劣りますが、モバイル回線の通信エリア内であれば、工事も不要なので、屋外(コンセントのある場所)に持ち運んで使うことができますし、長期の出張など、利用シーンによっては重宝します」
計画的に一戸建てにWi-Fiを導入した先輩たちの事例を紹介!
スーモカウンターで、こだわりの住まいを建てた先輩たちの事例の中から、計画的に一戸建てにWi-Fiを導入した先輩たちの事例を紹介します。その人たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【実例1】コートかけの上に棚をつくってWi-Fiルーターをすっきり収納
子どもが生まれて一段落したタイミングで家の購入を本格的に検討し始めたTさん夫妻。スーモカウンターで紹介してもらった大手住宅メーカーのモデルハウスを見学し、もう少し予算を抑えられる会社を探していたところ、友人が家を建てた建築会社がスーモカウンターに参画していることを知り、面談することにしました。その会社が希望の土地を持っていたことから、依頼を即決し、本格的に家づくりがスタート。
シンプルな外観にこだわり、間取りプランも何度もやり直して理想の家に近づけていきました。玄関の横にはシューズクローゼットとコートかけを設け、コートかけの上段にWi-Fiルーターをすっきりと設置。シンプルで住みやすい家が完成しました。
この実例をもっと詳しく→
思い通りにできたシンプルな佇まいの切妻屋根がかわいい家
【実例2】家事スペースにWi-Fiルーターを設置、家事動線にこだわった家が完成!
駅近の便利な立地で土地が販売されるという話を聞きつけ、家づくりを決心したDさん夫妻。スーモカウンターの講座に参加して勉強しつつ、依頼先の紹介を受けることにしました。そこで8社紹介されて6社と面談、最終的には自分たちの要望が予算内でどれだけ実現するかで依頼先を決定。
家事動線には特にこだわり、家事スペースを設置しました。Wi-Fiルーターやプリンターもそこに置けるようにしたところ、とても使いやすくて便利だと大満足です。
この実例をもっと詳しく→
生まれ育った街で、家族や仲間が笑顔で集える住まいを実現
戸建て住宅にWi-Fiを導入するときのポイントは?
最後にあらためて齋藤さんに、一戸建て住宅にWi-Fiを導入するときのポイントについて聞きました。
「住宅内のネットワーク計画については、建築会社の担当者や建築士によって提案力に違いがあります。もし担当者の知識が不安な場合は、自身で調べて『こうしたい!』と、要望をはっきり伝えた方がいいでしょう。
今後は、家中の家電や設備がインターネットに繋がるIoT化が進みます。先々のことを考えて、Wi-Fi環境を計画することをお勧めします」
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「Wi-Fiなどネットワーク計画のアドバイスもしてくれる建築会社はどうやって選べばいいの?」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望を叶えてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
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取材協力/やすらぎ介護福祉設計 齋藤進一さん
取材・文/福富大介(りんかく) イラスト/タイマタカシ