「日照権」という言葉は聞いたことがあるけれど、家づくりにどんな影響があるのかご存じない人も多いと思います。そこで、高下謹壱法律事務所の高下弁護士と、一級建築士の佐川旭さんのお二人に、日照権と日照権にかかわる制限や規制について、また佐川さんには日当たりの悪い立地に日光を取り込む工夫について、話を聞きました。
目次
日照権とは?
あまり馴染みはないけれど、聞いたことはある「日照権」という言葉。家づくりにも関係がありそうですが、きちんと理解できていない人も多いのではないでしょうか?
そこで、そもそも「日照権」がどういうものなのかについて紹介します。
「日照権とは『自分の住む建物に対して日が当たることを確保して快適で健康な生活を送る権利』のこと。実は、日照権そのものを規定する法律はありません。ただし、日照権は人が有する当然の権利であり、無制限に保護されるものではない一方で、勝手に侵害して良いものでもない、と考えられています。そこで、日照権を守るために、建築基準法では一定の基準が設けられています」(高下さん)
日照権を守るため、建築基準法で規定されているのが、日影規制や斜線制限です。現在、何らかの建物を建てる場合には、必ず建築基準法に沿って建てられるため、全ての建物は日影規制や斜線制限をクリアしている、つまり最低限の日照権は保護されている、と捉えることができます。
規定の範囲でもトラブルになる? そのカギを握る「受忍限度」とは
本来、規定を守っていれば問題はないはずですが、現実には建築基準法に沿って建てられた建物であっても、日照権でトラブルになることがあります。
「規定の範囲で建物を建てることは自由です。しかし、それでも日照権を侵害されたと感じる人たちがいて、その人たちからすると『我慢できない』こともあります。一方で、一定範囲の日照の制限は、社会通念上我慢すべきという考え方もあります。この社会通念上我慢することを求められる限度を『受忍限度』と言います」(高下さん)
日照権によるトラブルはさまざまなパターンが考えられますが、訴訟になった場合、この「受忍限度」を逸脱しているかどうかが、判決を分けることも多いと言います。
日照権トラブルになるのはどんなとき?日照権の侵害を主張される例
それでは、どんな場合に日照権でトラブルになるのでしょうか?考えられる例を紹介します。
南側に新築を建てたことで影ができた場合
「これまで空き地だった自分の家の南側に建物が建てば、当然日影になります。通常は建築基準法を守っていれば問題ないところですが、我慢できないという人もいます。その場合、いきなり訴訟とはならなくても、屋根を低くしてほしいとか、屋根の角度を変えてほしい、と要望するケースは多いでしょう」
「ただし、変更の度合いによっては、居住スペースが削られたり、建築費用が上がったりすることもあるため、必ずしも要望が通るとは限りません。そして、話し合いで解決できない場合にトラブルになります」(高下さん)
ソーラーパネルへ太陽光が当たりにくくなった
ソーラーパネルに関連するトラブルについて、編集部が解説します。
南側に新しく建物が建ったことで、自分の家のソーラーパネルに太陽光が当たりにくくなり、想定していた発電量を得られなくなるケースがあります。発電した電力を売電しているケースも多く、日々の収入にすぐに直結する問題です。
ちなみに、経済産業省が発表したデータによるとトップランナー分析に基づき、2024年度のシステム費用想定値は25.5万円/kWとしています。この結果から例えば5kWの設備だと想定した場合、ソーラーパネルを設置するのに、100万円以上かかることになります。
※参考:経済産業省 令和6年度以降の調達価格等に関する意見(P20~21)
何年で回収できるのか計算して設置を検討するかどうか判断することも多く、日々の発電量はパネルを設置した家庭にとっては気になるものです。
隣地に建った家が原因で発電量が減ってしまったら、マネープランの変更を余儀なくされてトラブルになることもあるでしょう。
また逆に、隣家に設置されたソーラーパネルに反射する光がまぶしくて、ご近所トラブルになることもあります。
周辺環境は設置後に変わることもあるため、設置時のシミュレーションは絶対ではありません。そのため、どのようなリスクが起こり得るのかを想定することも大切です。
日照権でトラブルが起きたときの解決法
日照権が原因でご近所とトラブルになったら、どのようにして解決するのでしょうか。双方が納得がいくような、良い解決方法について高下さんに伺いました。
「究極は訴訟ですが、その前に建築差し止めの仮処分を申請するケースがあります。この段階で、金銭の提示によって和解が成立することもありますが、話がまとまらなければ訴訟に発展することもあります。訴訟では、建築工事の差し止めや損害賠償を求めて争うことになります」(高下さん)
日照権トラブルの相談窓口もある
訴訟を起こす場合は、弁護士に相談することになりますが、日照権のトラブルについて相談できる行政窓口もあります。
各自治体ごとにある建築指導課では、建物の設計図書を審査し、完成した建物やその敷地が建築基準法やその他の法令に適合しているか検査を行っています。またすでに完成済みの建物であっても、違反建築物に対しては指導を行うこともあります。
したがって日照権を侵害されている実情を伝えることによって、建設会社に対して改善を求めたり、建築計画の変更を指導してもらえる可能性があります。
必ずしも建築指導課が建設会社に対して指導するとは限りませんが、相談することで受忍限度を逸脱しているかどうかの判断はしやすくなるでしょう。
ちなみに自治体によっては建築指導課ではなく、建築課や建築審査課などと名称が異なることがあります。
日照権にかかわる規制や制限を解説!
建築基準法を守っていてもトラブルになることはあると言いますが、それでも日照権にかかわる規制や制限を知っておくことは、将来的なトラブルに備えるために非常に重要です。
ここでは、日照権にかかわる規制にはどのようなものがあるかをご紹介します。
「規制や制限のうち、特に日照権と深くかかわっているのが、『日影規制』と『北側斜線制限』、『絶対高さの制限』です。『道路斜線制限』や『隣地斜線制限』よりこれらの規制・制限の方が厳しいため、この3つを押さえておけばいいでしょう」(佐川さん)
日影規制(ひかげきせい・にちえいきせい)
冬至の日(12月22日ごろ)を基準として、近隣が長時間にわたって日影にならないように建物の高さを制限する規制です。冬至の日の午前8時から午後4時まで(北海道のみ午前9時から午後3時まで)の間、その場所に一定時間以上続けて影を生じないようにする必要があります。規制を受ける建物は建てる場所の「用途地域」と「高さ」から決められていますが、環境や土地利用事情が異なるため、地域によっては自治体の条例で指定されていることもあります。
斜線制限
北側斜線制限
第一種、第二種低層住居専用地域・中高層住居専用地域で設けられている制限です。北側の隣人の日当たりを考慮して、南からの日照を確保するために建築物の高さを規制しています。北側隣地の境界線上に一定の高さをとり、そこから一定の勾配で記された線(=北側斜線)の範囲内で建築物を建てなければなりません。
道路斜線制限
道路の採光や通風が確保されるように、道路に面した建物の一定部分の高さを定めた制限です。道路だけでなく、周辺の建物の採光や通風の確保も目的とされています。
隣地斜線制限
隣り合う建物の日照や通風、採光を確保するための制限で、隣地の境界線を起点とする「高さ」と「斜線の勾配(角度)」によって規制されます。ただし、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域には、より厳しい「絶対高さの制限」があるため、適用されません。
絶対高さの制限
第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域で規定されている建物の高さの上限のことです。都市計画により、10mまたは12mのいずれかが設定されており、容積率に関係なくこれより高くすることができません。(ただし建物の敷地の周囲に広い公園や広場がある場合など、一部例外があります)
隣家との理想の距離は何m?
隣家との距離は、どの程度離れているのが理想なのでしょうか。特に都心部では狭小地に建物が立っている場合もあり、敷地に対して限度ギリギリまで建てていることも少なくありません。
ちなみに民法では、建物を建てるときは境界線から50cm以上距離を保たなければならないと定めていますが、双方の合意があれば50cm以下にすることも可能です。隣家との距離が近い建物を見かけることがありますがそのためです。
一般的には、十分な日当たりを確保するためには、隣家と5m以上離すのが望ましいといわれています。
敷地に余裕がある場合や南側などに限っては、日当たりを良くするために隣家と5m以上の距離を保てるように工夫してみましょう。
日当たりの悪い立地でも、こんな工夫で日光を取り込める!
これまで見てきた通り、日当たりを確保するためにさまざまな規制や制限が設けられており、最低限の日照権は保護されていますが、都心の住宅密集地や高い建築物が近くにある場合は、満足できるほどの日当たりが得られるとは限りません。
ただし、日当たりの悪い立地であっても、さまざまな工夫で日光を取り入れることは可能だと、佐川さんは言います。
「そこが、私たち建築士の腕の見せ所です。まず、大前提として現地確認は必須です。平面図だけを眺めていても、どのように日光が入るのかはわかりません。冬至の時期を想定しながら、隣地の建物の高さや屋根の形、窓の位置などを実際に目で見て、その上で敷地のどの位置に建物を配置するか、リビングをどこにするか、どこにどんな窓を設けるかなどを決めていきます。日当たりが悪い場合の具体的な対策としては、中庭や天窓、高窓などを設ける方法があります」(佐川さん)
中庭
中庭は、敷地内に建物を「コの字」や「L字」になるように配置してできた屋根のないスペースのことです。隣地の建物が接近していても、敷地の内部に光の通り道を設けることで、建物内に日光を取り入れることができます。
天窓
天窓は、建物の屋根に設けた窓のことで、トップライトなどとも言います。通常天窓は、遮るもののない空に向かって開いているため、日光をダイレクトに取り入れることができます。
「ただし、天窓からは光と一緒に熱も入ってくるため、夏場などは暑くなり過ぎることがあります。そのため、遮光カーテンを付けて光と熱の量を適宜調節できるようにした方が過ごしやすいでしょう」(佐川さん)
高窓
高窓は、ハイサイドとも呼ばれます。一般的な窓の位置よりも天井に近い高い位置に設けられた窓のことです。高い位置にあるため、周辺の障害物に邪魔されることなく光を取り入れることができます。
その他には、各階の用途を明確にして、天井高を調節する方法もあると言います。
「3階建てで考えたとき、住宅密集地ですとどうしても1階の日当たりは悪くなります。そのため、1階には浴室・トイレ・洗面などの水まわりをまとめます。そして、2階をリビングダイニングにして、3階は子ども部屋や寝室にする。
一般的に居室の天井高は2400mmにすることが多いのですが、各階の天井高は最低2100mmと決まっているので、1階は思い切って2200mmにする。3階も寝るだけならば2200mmでいい。その分2階の天井を高くして、高窓や大きな窓を設ければ、リビングダイニングに日光をより多く取り入れることができます」(佐川さん)
日当たりにこだわって家づくりを行った先輩たちの事例を紹介!
日当たりの悪い立地でも工夫次第で明るい住まいになることがわかりました。しかし、住まいの立地や周辺の環境は千差万別です。そこで、先輩たちがどんな工夫で明るい住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】平屋へのこだわりより、日当たりやアクセスの良さを優先して正解!
当初は平屋にこだわっていたTさん夫妻。スーモカウンターで紹介された5社を2社まで絞り込み、土地探しから依頼しました。しかし、希望のエリアでは平屋に適した広さと価格の土地がなかなか見つかりません。
そこで平屋にこだわるより、日当たりなどの条件やアクセスが良く、生活しやすいエリアに気に入った家を建てようと決めました。そうやって見つけた土地に建ったのは、平屋感覚で暮らせる住まい。将来のことを考え、2階には日当たりのいい子ども部屋を2室つくりました。
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大容量のウォークインクロゼットを備え平屋感覚で暮らせる2階建
【case2】住宅密集地の旗竿地でも、吹抜けを上手に使って明るい住まいを実現
妻の実家に近い旗竿地に土地を購入したHさん夫妻。路地状部分が幅3mと広く、住宅密集地ながらも、閉塞感がないことが購入のポイントでした。スーモカウンターで運命の建築会社を見つけた夫妻が、建物のプランニングで特にこだわったのは「日当たりのいい明るい家」。
1階のオープンなLDKの南側に吹抜けのリビング階段を設け、2階の大きな窓からの光が家中に行き渡るようにしました。「おかげで、都心の旗竿地とは思えない明るさと開放感あふれる家が実現できました」と大満足です。
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都心の旗竿地でも吹抜けの階段で明るく。空間ごとに壁紙を変えた個性的な住まいに
【case3】日当たりに不安のあった土地に、採光がよく考えられた開放的な平屋が完成
建物だけのつもりが、途中で土地探しからに変更になったHさん夫妻。見つけた2つの土地のうち、1つは日当たりが良くて形が整っているけれど、値段が少し高い土地。もう1つはそこまで日当たりに期待できず、坪数も小さいけれど、他より少し安い土地でした。
スーモカウンターで紹介された建築会社に相談したところ、小さい土地でも「リビングを大きな窓にして、隣の家に対して斜めにずらして建てることで、十分な日当たりを確保できます」と、アドバイスを受けて後者に決定。完成した家は、夫婦そろってお気に入りです。
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計画変更を経て、1年越しでスーモカウンターを訪ねて建てた平屋
【case4】南に面した吹抜けにより、日当たり抜群の一戸建て
展示場やインターネット検索だけではたどり着けず、建築会社選びに難航していたSさん夫妻。出会いの幅を広げるために、スーモカウンターを訪問したのだそう。
地元に密着し実績のある会社を紹介してもらい、納得いくまで打ち合わせを重ねた結果、建築会社との打ち合わせはなんと18回。結果、理想の住まいをかなえることができました。
リビングの南側を吹抜けにしたことで、日当たりは抜群。さらにステップ階段を採用したことで明るさが増し、より開放感を感じられる空間になっています。
4匹の愛猫も空を眺めたりして、ステップ階段で日向ぼっこを楽しんでいるようです。
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モダンインテリアが似合うデザインと家事ラク動線にこだわった家
【case5】日当たり抜群の南向きのリビング
千葉県にある実家の農地を、宅地転用することを検討していたYさん夫妻。少し特殊な土地だったこともあり、スーモカウンターには「実績が豊富で、対応力のあるハウスメーカー」を希望したそうです。
フラットな空間を好むYさん夫妻は、もともと平屋を希望していましたが、建築会社の提案で勾配天井を活用し、2階にセカンドリビングとゲストルームを設けることに。
内装は、落ち着いた白とオーク材でベースを統一。憧れていた西海岸テイストを盛り込んだLDKは開放感が心地よく、ライフスタイルも変化したそう。
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憧れのアメリカンテイストを取り入れた開放感のある平屋風2階建ての暮らし
【case6】南・東・西の3方向から光が入るように窓を設置
共働きで忙しく、土地を探すも予算と希望に合う土地が見つからずにいたFさん夫妻。最後の頼みの綱のつもりで、スーモカウンターを訪問。
建築会社に提案された土地がほぼ条件通りで、依頼を即決したところから家づくりスタート。営業担当者とグループLINEでつながることで、打ち合わせ時間は短くても中身の濃い打ち合わせができたのだとか。
土地の南側に建物が建っていない条件を生かして、1階のLDKをなるべく広くし、南、東、西の三方から光が入るように窓を設置。断熱性も重視した家は、冷えやすい朝晩も暖かく、快適に暮らしているそうです。
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土地探しに約3年、あきらめかけた夫婦がプロを頼り理想の家を実現
日照権でトラブルを防ぐポイントと、日光を取り込むポイント
最後に佐川さんに、自分が施主の立場になったときに日照権でトラブルを防ぐポイントと、日光を取り込むポイントを聞きました。
「私たち建築士がその土地やご近所とかかわるのは一瞬ですが、家を建てて住む本人は、隣人と長く付き合っていかなければなりません。そういう意味で、後々トラブルになるようなことは避けたいですよね。そのため、建築基準法を守っているから問題ないではなく、周囲へも配慮するようなプランニングが可能かどうか、建築士や施工会社に相談してみるといいでしょう。その上で、周囲に対して『これだけ配慮しながら建築しています』と説明すれば、トラブルにはなりにくいのではないでしょうか。
また、日当たりの悪い立地でもアイデア次第で日光を取り入れることはできます。希望の立地が『日当たりが悪いから』とあきらめる前に相談してください。私たち建築士にとっては、そこが腕の見せどころなのですから」
スーモカウンターに相談してみよう
「日照権でトラブルになりたくない」「できるだけ日当たりのいい家に住みたい」、住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、立地への要望を聞いて土地探しからお手伝いしてくれる依頼先を提案することも、決まった土地に最適なプランニングをしてくれそうな依頼先を提案することも可能です。
無料の個別相談の他、「狭小・変形地 家づくり講座」など、建物費用の相場や会社選びのポイントなどが学べる無料の家づくり講座も利用できます。ぜひお問い合せください。
イラスト/アカネ
弁護士。高下謹壱法律事務所代表。企業法務や労働問題、大企業・中小企業から個人案件まで真摯に取り組んでいる。取り扱い業務は、民事、商事、知的所有権、労働問題、家事、刑事と多岐にわたる。
佐川旭建築研究所代表。一級建築士、インテリアプランナー。間取り博士と呼ばれるベテラン建築家で、住宅だけでなく、国内外問わず公共建築や街づくりまで手がける。
弁護士。高下謹壱法律事務所代表。企業法務や労働問題、大企業・中小企業から個人案件まで真摯に取り組んでいる。取り扱い業務は、民事、商事、知的所有権、労働問題、家事、刑事と多岐にわたる。
佐川旭建築研究所代表。一級建築士、インテリアプランナー。間取り博士とよばれるベテラン建築家で、住宅だけでなく、国内外問わず公共建築や街づくりまで手がける