最近、間取図で見かけることが増えた「STR(ストレージルーム)」とは、どのような部屋を指すのでしょうか?この記事では、みゆう設計室の中川由紀子さんに伺った、ストレージルームの意味や活用方法をご紹介します。
さらに、ストレージルームのメリット・デメリット、取り入れる際のポイント、実際の活用実例もまとめています。「ストレージルームって何?」と疑問に思っている方や、導入を検討している方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
ストレージルームとは?
ストレージ【storage】とは、物の保管、収納庫、納戸のことを表した言葉です。
「ストレージルーム」というと「納戸」や「収納庫」を意味するのですが、間取図の中に書かれているストレージルームは「建築基準法の条件で居室としては認められていない部屋」を指すことがあります。
「居室ではない部屋という意味でのストレージルーム」と「収納庫としてのストレージルーム」、まずはこの2つの意味について詳しく解説します。
居室ではない部屋という意味でのストレージルーム
建築基準法では「居住、作業等の目的のために継続的に使用する室」のことを居室(きょしつ)といいます。住宅の場合、居室はリビングや寝室などを指し、玄関やトイレ、納戸などは居室に該当しません。
居室の条件の一つとして「採光のための窓」が必要です。窓面積に「採光補正係数」をかけた面積を「有効採光面積」といい、その部屋の床面積の1/7以上の有効採光面積が居室には必要になります。
採光補正係数には建物と隣地との距離、庇(ひさし)から窓までの高さなどが影響します。そのため、下階の部屋だと窓が大きくても居室としての採光の基準に満たないこともあります。
このように、建築基準法上は居室ではない部屋のことをストレージルーム(納戸)またはサービスルーム(家事室など)として「S」と間取りに表記されることがあります。建築基準法上居室と認められていないというだけで、その部屋をどのように使うかは使う人次第です。ただし、ストレージルームとしてつくられた部屋はコンセントや換気など設備が満たされないこともあるので注意は必要です。
収納庫としてのストレージルーム
文字通り、納戸や収納庫、保管庫としてのストレージルームのことです。お雛様や季節外家電、来客用の布団などの収納部屋を意味することが多いです。
「家の間取図を見て、『子ども部屋にしようと思っていた部屋にストレージルームと書かれているけれど何なんだろう?』と不安になる方もいるかもしれませんね。その場合は大抵、建築基準法上は居室とは認められていない部屋を指すのですが、隣地に近接して建物が建たない場合は光も風も入る部屋のこともあります。個室として使うかどうかは自分たち次第ですが、設備が不足する場合はコンセントや換気設備などを補う必要はあります。自分たちがどちらの意味のストレージルームをつくろうと思っているのか、きちんと考えて家をつくることをオススメします」(中川さん、以下同)
ストレージルームのメリット
ストレージルームは建築基準法上、居室としては認められていませんが、設置することで「多目的に活用できる」「大きな物を収納できる」といったメリットがあります。以下では、それぞれのメリットを詳しく解説していきます。
多目的に活用できる
建築基準法上は居室と認められていない部屋としてのストレージルームは、さまざまな使い道があると思います。設備を補って個室として使う人もいれば、趣味室やワークスペースにする人もいるでしょう。ストレージルームという文字通り、納戸や収納庫として使うこともできます。
「リモートワークが必要な時期はワークスペースとして使用し、必要なくなったときには納戸として使うなど、家族のライフステージに合わせて使い方を変化させるのも、ストレージルームを有効利用する方法の一つかと思います」
大きな物を収納できる
「ストレージルームの文字通り、納戸・収納庫として使う場合は扇風機や暖房器具などの家電やクリスマスツリーや雛人形など季節の飾り物やシーズン性のあるアイテムの保管場所、資源ごみの一時的な置き場所にすると便利です。収納したい物に合わせて棚などを設置すると使いやすくなります」
季節家電などは出し入れするのが年に1回なので、頻繁に使うものを収納しておくLDKや個室の収納の他にストレージルームがあると、マイホームの収納問題を解決しやすくなります。また、物をたくさん持っている人や、子どものアイテムをしまっておきたいファミリーのニーズともマッチしています。
ストレージルームのデメリット
ストレージルームは、趣味やワークスペースとして活用したり、用途に合わせて収納を工夫できたりするなどメリットがありますが、デメリットもあります。ここでは、ストレージルームのデメリットについて詳しく解説します。
デッドスペースになりやすい
「ストレージルームを何に使うか決めておかないと有効利用できずに物を置くだけの部屋になってしまうことがあります。入居前にしっかりと使用目的を決めて、それに合わせて空間をカスタマイズすることで実用性の高い空間になります」
ワークスペースやキッズスペースなど、他の用途でストレージルームを使いたくなったときに、乱雑に物を置いていると他の収納に荷物を移動させることや処分することが大変になります。上手に活用できないまま、使っていないものを置いておくだけのスペースになってしまってはもったいないですね。
物を詰め込みすぎてしまう
「ストレージルームは大型の収納スペースにもなり便利な空間ですが、つい何でも詰め込みすぎてしまうことがデメリットといえます。無計画に物を収納してしまうと取り出しにくくなってしまい、さらに整理が難しくなるという悪循環に。ストレージルームを収納目的で使う場合は、ぜひ収納計画を立てましょう」
採光が難しいケースもある
ストレージルームには窓がないことがほとんどで、あっても居室に比べて小さい場合が多く、日中でも薄暗く感じることが多いでしょう。
そのため、日常的に使うには照明が欠かせません。作業スペースや書斎として使うなら、小さな窓を設けたり、十分な照明を用意したりといった工夫が必要です。
ストレージルームの主な使い方と収納や設備のポイントを紹介!
ストレージルームは、使い方に応じて必要となる収納や設備が異なります。ここでは、代表的な3つの活用方法に合わせて、便利な収納や設備のポイントをご紹介します。
- 納戸・収納として活用する場合
- ワークスペースとして活用する場合
- ゲストルームとして活用する場合
納戸・収納として活用する場合
普段は使わないものや大きな荷物を収納しておくほかに、充電式の掃除機を置くことなどを想定し、建築段階でコンセントを設置しておくと便利です。ハンガーパイプや衣装だんすを設置すればウォークインクローゼットのように使えます。
ワークスペースとして活用する場合
ストレージルームをテレワークなどに使用する機会も増えているようです。ワークスペースとして使う場合は、コンセントとネット環境が必要になります。また、室内で通話をする声が漏れないように防音扉を希望する人もいます。パソコンなどの精密機器を置いたままにする場合は、エアコンを設置できるように設備を補いたいものです。
ゲストルームとして活用する場合
ストレージルームをゲストルームとして活用する場合は、布団を何枚敷くのか、どれくらいの頻度で使う空間なのかを想定しておき、換気できる窓やコンセントを設けましょう。その他に、来客用の布団や季節外の布団を収納できる押入れを設けるのもよいでしょう。
書庫や趣味室として活用する場合
たくさんの本や趣味のアイテムを保管しておく場所としてもストレージルームは適しています。窓が大きく設けられないストレージルームの場合、日焼けを気にする趣味のアイテム、本、衣類などを保管するのに適しています。防音室にしてシアタールームにするのもよいでしょう。
キッズルームとして活用する場合
キッズルームやプレイルームとして活用するという選択肢もあります。子どもが小さいうちは室内用ジャングルジムなどを置く部屋に、小学生の間は親子共に使えるファミリーワークスペースに、子どもが成長した後には大人のための趣味室や書庫に使うなど。ライフスタイルの変化に合わせて別の用途でも使えるように考えておくとデッドスペース化を防げます。
パントリーとして活用する場合
ホットプレートやお菓子、パンづくりの道具、お鍋などの使用頻度の低いキッチン用品や、お水や防災用の保存食、ストック食品などをストレージルームに保管しておく場合は、湿気に注意し、換気ができるようにしておくとよいでしょう。
ストレージルームを住まいに取り入れる際のポイントは?
ストレージルームは、スペースを有効活用できる便利な部屋ですが、リビングや居室に比べると採光や使い勝手に工夫が必要になることもあります。ここでは、ストレージルームを取り入れる際に押さえておきたいポイントをご紹介します。
収納庫、納戸としてのストレージルームは湿気対策を考えよう
「キッチンや浴室など水まわりの近くにストレージルームがある、または北側に設けた窓の小さいストレージルームの場合は空間内に湿気がたまらない工夫が必要です。換気用の窓や換気扇を設けるか、物をたくさん詰め込まないようにするとよいでしょう。
収納庫だからと物をしまいすぎず、カラッとした天気の良い日に風を通して掃除をするとカビの発生を防ぐことができます」
何のための部屋にするかあらかじめ決めておくことで便利な空間になる
「ストレージルームをマイホームに設ける際の大切なポイントは、建築基準法上居室と認められない部屋としてのストレージルームなのか、収納庫・納戸としてつくるストレージルームなのかを認識し、何のための空間にするのかきちんと決めておくことです。何をしまうのか、誰が過ごすのか、どれくらいの頻度で使うのかなどを明確にすることで、その空間に必要な設計や設備が見えてきます」
ストレージルームを無駄な空間にしないために、どのように使うのかを事前に決めておくことが大切です。一緒に暮らす家族とよく相談し、ストレージルームを上手に活用していきましょう。
コンセントを設置しておく
これまでもご紹介しましたが、ストレージルームを書斎や作業スペースとして使うなら、コンセントの設置を検討しましょう。納戸や収納スペースとして使用する場合でも、掃除機の充電や除湿器の設置にコンセントがあると便利です。
コンセントは後から増設することも可能ですが、その際には費用や手間がかかります。配線が近ければ比較的簡単に設置できますが、そうでない場合は大規模な工事が必要になることもあります。
後から「設置しておけば良かった」と後悔しないためにも、あらかじめ以下のポイントを考えておくとよいでしょう。
- どのくらいコンセントが必要なのか
- どこにあると便利なのか
ストレージルームを上手に活用している先輩たちの実例を紹介!
ここからは、ストレージルームを上手に活用している先輩たちの実例を見てみましょう。レイアウトや空間の使い方など、ぜひ家づくりの参考にしてみてくださいね。
【case1】長年の夢だった「シアタールーム」を実現
長男が1歳になるタイミングで家づくりをスタートしたKさん夫妻。ホテルライクなインテリアでまとめた玄関や、車が3台止められる広い駐車スペースなど、二人のこだわりがたくさん詰まったマイホームになりました。
主寝室の隣に設けたストレージルームには、プロジェクターを取り付けてシアタールームとして活用中。「小さくてもいいから映画を楽しむ部屋をつくりたい」というのは妻の長年の夢だったそうです。共働きで多忙な夫妻がホッとできる癒やしの空間の完成です。
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シアタールーム完備で夢をかなえた、家事効率の高い家
【case2】スキップフロアを活用した収納量豊富な家
注文住宅ならではのオリジナリティーあふれる家をつくりたいと考えたIさん。1.5階、2.5階など中間階のあるスキップフロアの設計を取り入れて、収納スペースが充実したマイホームが完成しました。
1.5階のストレージルームには夫の趣味の釣竿などを収納し、さらにデスクを置いたことで仕事もできる便利な空間になっています。釣竿は壁にディスプレーする形で収納し、おしゃれで個性的なスペースに仕上がっています。
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スキップフロアのあるオリジナリティあふれる家に収納を充実させてすっきりと暮らす
【case3】趣味のアイテムを収納するために設計された空間
インテリアが大好きで、家づくりを始める前からおしゃれな住まいの情報収集を行っていたAさん。家族の暮らしやすさとデザイン性の高さ、どちらもかなえた和モダンな家ができあがりました。
夫の剣道具専用の収納兼趣味の部屋として活用されているストレージルームにはさまざまなこだわりが詰まっています。臭い対策として床には珪藻土を採用し、換気ができるように小窓を設置。剣道着を掛けて収納するため、窓の開閉の向きまで計算されているそうです。使用目的を明確にした上で、うまく使いこなされているストレージルームの実例です。
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暮らしやすいアイデアが満載!家事ラクがテーマの和モダン住宅
【case4】生活動線にこだわったストレージルーム
飼い猫と夫妻が快適に暮らせる家づくりにこだわったKさん。中庭を囲うように部屋を配置し、家事動線が便利な平屋の家を建てました。
キッチン横の空間はパントリーとして活用し、宅配ボックスの荷物をパントリーの中で受け取ることができるようにするなど工夫を施しました。さらに、脱衣室の隣のストレージルームはウォークイン・クローゼット兼納戸として使用可能に。衣類以外にもたくさんの物を保管することができるため、収納に困りません。
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中庭を囲んで一周できる動線が快適な暮らしをかなえた平屋の住まい
【case5】ストレージルームを大人の趣味の部屋として活用
共働きで3人の子どもを育てるOさん夫妻は、効率的に家づくりを進めるためにスーモカウンターを利用し、厳選された3社のなかから、自由設計が可能な地域密着型工務店を選びました。
家づくりのポイントは、生活動線や家事のしやすさで、家族全員が片付けやすい家を目指し、生活を具体的にイメージしながら設計しました。
2階には主寝室や子ども部屋に加え、ストレージルームも設けられており、現在は大人の趣味の部屋として使用されています。以前の賃貸住宅では難しかったパーソナルスペースが確保され、収納も計画的に行えるようになったことで家全体が整理され、ストレスも大幅に減少したそうです。
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共働きで3人の子育て中。多忙ななかでの家づくりはタイパ&コスパを重視
【case6】ストレージルームを、生活音をシャットアウトする緩衝材として利用
Aさんは、初めての家づくりで入居後すぐに不満を感じていました。コロナ禍で在宅勤務が増えたこともあり、ストレスなく仕事ができる環境を求めて「2度目の家づくり」に挑むことにしました。今回は、スーモカウンターを活用して第三者の立場から建築会社を絞ってもらいたいと思い、紹介された3社のなかから『設計力・提案力』と『自社採用の大工による施工』が決め手となり、依頼する会社を決めました。
家づくりでは、将来的に子どもが独立した後も1階で生活が完結できるようなプランを採用。家事がしやすいようにキッチンを中心に、どの部屋へもアクセスしやすい動線を重視しました。
さらに、前回の反省を踏まえ、書斎の前に納戸を配置し、納戸を緩衝材にすることでリビングの生活音をシャットアウトし、仕事に集中できる静かな空間を確保。この工夫により、在宅勤務中も家族に気を使わず、落ち着いて作業ができるようになり、家族全員が気兼ねなく生活を楽しめるようになったそうです。
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2度目の家づくりで手に入れた家族みんなが笑顔になれる家
入居後の生活をイメージしてストレージルームを上手に使いこなそう
建築基準法上居室と認められない部屋としてのストレージルームは、住人の工夫次第で汎用性の高いスペースとして活用することができます。そのためにも、ストレージルームを設計する際に入居後のイメージを明確にしておくことが大切です。誰が何のために使う部屋なのかを考えたり、収納庫・納戸として使用したりするストレージルームの場合は収納したい物の種類や数をリストアップして収納計画を立てましょう。
ストレージルームを賢く活用し、家族全員が便利に楽しく暮らせるマイホームにしたいですね。
スーモカウンターに相談してみよう
ストレージルームのある家に興味のある人は、ぜひスーモカウンターで相談してみませんか。家づくりの基本からお金のことまで専門知識をもったスタッフがアドバイスします。注文住宅に関する知識を深めるための無料の講座も開催中です。家族が暮らしやすい理想の家にするため、一緒に考えていきましょう。
イラスト/村林タカノブ
監修/SUUMO編集部(採光が難しいケースもある、コンセントを設置しておく)
一級建築士事務所 みゆう設計室 代表。神戸を拠点に活動する一級建築士。主婦・母目線で家事ラク、心地よい間取りの家を設計。 家族の暮らしから住まいをデザインしている。