キッチンなどの横に設けられた小さな出入口である「勝手口」は、最近では設けない家も少なくありません。そもそも必要なものなのでしょうか? 勝手口とはどのようなものなのか、また勝手口を作る意味や、勝手口があると便利なケース、計画するときのポイントなどについて、子育て安心住宅の新谷勇人さんに聞きました。
勝手口の由来とは?
勝手口の「勝手」とは「お勝手」のことです。昔はキッチンのことを「お勝手」と呼んでいたことに由来し、キッチンにある出入口を「勝手口」と呼んでいます。
「勝手口は主にキッチンで出るゴミを一時的に室外に出す用途で使われていました。しかし、今はキッチン以外の場所に設けた出入口も勝手口と呼んでおり、庭へ直接出るためや、駐車場から荷物を運びこむためなど、用途も多様化しています」(新谷さん、以下同)
勝手口を作る意味
これまでアパートやマンションでの暮らしが中心だった人は、勝手口がない生活に慣れているため、一戸建てを建てる際にも勝手口を作る意味が分かりづらいこともあるかもしれません。
「勝手口のメリットや、あるといい場面についてはあとで詳しく述べますが、勝手口があることで生活がしやすくなる場面も多くあります。そのような生活スタイルをもつ人にとっては、勝手口を作る意味は十分あります」
勝手口は「いらなかった」という声があるのはなぜ?
便利な点も多い勝手口ですが、中には「いらなかった」という方もいます。
なぜなら、昔のように家の北側にキッチンをはじめとする水回りのスペースがまとめられていて、リビングとキッチンがそれぞれ分かれている間取りそのものが減っているためです。
現在は、キッチンと玄関の動線をスムーズにして勝手口の必要性を低くする間取りが主流です。キッチンはリビングと一体化され、部屋の中心に置かれることが増えました。そのため、勝手口がなくてもスムーズにゴミ出しができたり、リビング一体型のキッチンで勝手口が不要になっていたりと、徐々に勝手口のない家づくりが見られるようになっています。
また勝手口を付けることで便利になる一方、冬場の冷気を取り込んでしまうなどデメリットもあります。勝手口がなくても良い、と言っている人はそうした観点からなくても困らないと判断していると考えられます。
勝手口は必要?メリットを解説
勝手口のメリットを感じられる生活スタイルをもつ人にとって、勝手口は便利で、作る意味のあるものです。それでは、どのようなメリットがあるのでしょうか?
キッチンのゴミを一時的に出しておける
「キッチンで出るゴミを一時的に外に出しておけるのは便利です。例えば、家でお酒を飲む習慣のある人は、1週間で大量のビン・カンが出ると思いますが、ゴミの収集は大抵週1回でしょう。勝手口の外にゴミを一時的に置けるスペースを設ければ、1週間分の空きビンや空きカンを家の中に溜めておかなくて済みます」
採光や通風に役立つ
「キッチンに勝手口を設ける場合、勝手口のガラス窓から外の光が入ってきてキッチンが明るくなります。またにおいがこもりやすいキッチンの換気にも役立ちます」
動線計画の幅が広がる
「庭やテラス、駐車場などの室外と、室内を行き来するような動きが多い場合、勝手口を追加することで、動線計画の幅が広がります」
玄関や家の中を汚さずに、外で使うものを出し入れできる
「アウトドア用品など、外で使って濡れたり汚れたりしたものを玄関から出し入れするのは気が引けますが、専用の収納場所に勝手口を作れば、家の中を汚さずに出し入れできます」
勝手口のデメリットは?
メリットがある一方、勝手口を設けることのデメリットもあります。どのようなデメリットがあるのでしょうか?
防犯対策が必要
「出入口が増えるわけですし、特に勝手口は外からは見えづらい場所に設けることも多いので、防犯対策は必須です」
コストがかかる
「当然、壁にするよりは建具(ドア)が増える分、コストがかかります。勝手口ドアの他に、庇(ひさし)を設けたり、土間を設けたりすれば、その分コストも上がります」
キッチンが暑い、または寒い
「キッチンに勝手口を設ける場合、勝手口ドアの断熱性が低いと、夏場に陽が入り過ぎて暑くなってしまったり、冬場に外の冷気が伝わって寒くなってしまったりすることがあります」
他の使い方に制約が出ることも
「キッチンの奥にパントリーやユーティリティー(家事室)を設けようと思っても、勝手口があると設けられない、または狭くなるなどの制約が生まれることがあります」
勝手口があると便利なケースは?
これまで見てきたような勝手口のメリット・デメリットを踏まえて、「勝手口があると便利」「勝手口があると生活しやすい」と感じられるケースを紹介します
外から帰ってすぐに手を洗いたいとき
「洗面室の近くに勝手口を設ければ、勝手口を使って外から直接洗面室へ行き、そこで手を洗ってから居室へ行くことができます」
家庭菜園を楽しむとき
「家庭菜園を楽しむ場合、キッチンから庭に直接出られる場所に勝手口があれば、とれた野菜をすぐにキッチンに運んで、そのまま流しで洗うことができます」
洗濯物をテラスに干すとき
「1階のテラスに洗濯物を干す場合、洗濯スペースの近くに勝手口を設けて、そこからテラスに出られるような動線だと、家事がしやすくて便利です」
クルマから荷物を出し入れするとき
「駐車スペースの近くに勝手口を設ければ、クルマで買ってきたものをすぐに室内に運んだり、逆にクルマに荷物を積んだりするときに便利です」
勝手口のあり・なしの便利さは間取りによっても異なる
勝手口があると便利な間取りとなくても良い間取りがあります。
勝手口があると便利な間取りは、台所の近くにゴミ置き場や駐車場があるケースです。車で買い物に行った際にすぐに台所に荷物を運び込むことができ、匂いが気になるゴミも一時的に外庭に置けます。
さらに玄関とは逆方向に庭がある家では、庭側に勝手口を設ければわざわざ表から出て裏に回る手間を省けます。
しかし、玄関を出てすぐの場所に庭や駐車場がある間取りの場合、勝手口の必要性は低いといえます。
また、防犯面でも勝手口は狙われやすい侵入経路となります。防犯対策を施すのが面倒だったり、カギの締め忘れが怖いと思ったりする方は勝手口が本当に必要か、使用シーンを想像して判断するようにしましょう。
後悔しない勝手口をつくるためのポイントとは?
「防犯対策としては、格子の付いた勝手口ドアを採用する、人感センサー付きの照明を付けるなどの方法が考えられます。また、勝手口の外側に踏むと音が出る防犯用の砂利を敷くのも有効です」
暑さ・寒さ対策
「まず暑さ・寒さ両方に有効な手段として、勝手口ドアのサッシを断熱性の高い樹脂サッシとトリプルガラスにするのがおすすめです。
暑さ対策としては、そもそも陽の当たり過ぎないような配置にすること。やむを得ない場合は、庇(ひさし)を設けるといいでしょう。
また、寒さ対策として、キッチンに勝手口を作る場合は、キッチンの床に床暖房を付けるという方法もあります」
家事動線のポイント
「家事の動線を考えて、近道ができるような場所に勝手口を設けるといいですね。例えば、玄関とキッチンが遠くて駐車場とキッチンが近い場合などは、駐車場からキッチンへ直接行ける勝手口を設けて、さらにその前にパントリーを設けると、買ってきたものをすぐに収納できて便利です」
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家事動線のいい間取りをつくるコツは? 忙しい共働きや子育て中の家族は必見!
雨除け対策になるように庇(ひさし)をつける
勝手口上部に取り付けられている庇は、出入りするときに雨に濡れにくいという利点があります。また、ゴミ出しや駐車場に移動する際に便利です。掃除も楽になるので、勝手口周りを清潔に保ちやすくなります。
勝手口につける庇(ひさし)は大きなものでなくても構いません。扉の幅に収まるコンパクトなサイズでも効果を感じられます。
目隠し設置の注意点
勝手口は窓から離れた部屋の奥に設けられ、光が入りにくい配置になっています。そのため、勝手口のドアをガラスにすることもありますが、夜間、台所で電気をつけると明かりが漏れて外から室内が見えるのではないか、と気になる方もいると思います。
もし気になる方は、細かな格子が入ったデザインやすりガラスのドアを選んだり、防犯性を優先するなら小窓がついていないデザインのドアを選んだりするなど、代替案を試してみましょう。
勝手口のある住まいを建てた先輩たちの事例を紹介!
スーモカウンターで、勝手口のある住まいを建てた先輩たちの事例を紹介します。先輩たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】家事がしやすい動線を考え抜いた明るいキッチンの家
家を持ちたいと思いスーモカウンターを訪ねたYさん。さまざまな講座で学び、最終的にはスーモカウンターに20回以上も足を運んで、納得できる依頼先に出会えました。完成した新居は、家の真ん中に階段を配置し、階段を中心にぐるりと回れる回遊動線の間取り。買い物から帰ったらキッチンの勝手口から入り、買ってきたものをパントリーや冷蔵庫にしまうなど、家事がしやすい設計になっています。
勝手口ドアには白い扉を採用し、キッチンが明るく広い印象になりました。楽しみながら納得がいくまで家づくりができたと、Yさん夫妻は大満足です。
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希望と思いを余すことなく伝えて出来た「シンプルだけど面白い家」
【case2】使いやすさと気持ち良さにこだわった中庭のある平屋
Tさんは、仕事でいろいろな住まいを見るうちに、住まいづくりへの思いが高まり、スーモカウンターを訪問。ローコストで、昔の日本家屋の良さがある平屋を建てたいと希望を伝えました。そこで条件に合った2社を紹介され、最終的には土地探しにも精力的だった1社に依頼することに。
完成した新居は、コの字型で中庭のある平屋です。家中を見渡せるキッチンには、使いやすい工夫も追加。キッチンカウンターの背面の扉を開けると、右側がパントリーで、左側がゴミ箱と勝手口になっています。間取りや使い勝手も希望通りの住まいに、納得のTさん夫妻です。
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「わが家に帰ってきたな」とホッとする、土間のある平屋
【case3】家事動線にもこだわった暮らしやすくシンプルな家
不満の多い借家住まいを脱して、注文住宅を建てることにしたSさん夫妻。友人からおすすめされたスーモカウンターへ行ってみることにしました。Sさんの希望は、ちゃんと腕がある会社。贅沢な家は望んでいないので地震で倒れなければいいというもの。その条件から依頼先候補として3社紹介され、設備と提案内容のよかった1社に決定。
完成した新居で目を引くのは、クライミングウォールですが、家事動線もしっかり考えられています。妻のアイデアで駐車場とキッチンを勝手口でつなげ、買った食材をすぐに運び込めるようにしました。
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娘二人がボルダリングとブランコで遊ぶ、「楽しく、安心して暮らせる」家づくり
【case4】1階だけですべての家事が完結する家事ラクな家
「いつかは広い一戸建てで暮らしたい」と憧れていたAさん。家づくりを始めるにあたり、まずはスーモカウンターを訪れました。希望したのは、断熱性、耐震性に優れていて自然素材を使った和モダンなデザインの住まい。そこで、依頼先候補として4社を紹介してもらい、最終的に一から自分たちの思う通りにできる1社に決定。
Aさんのこだわりは、いかに家事がスムーズになるか。洗濯動線も考え抜かれており、浴室から勝手口を通って物干しスペースのある庭まで一直線につながる間取りで、無駄なくシンプルに家事がはかどります。
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暮らしやすいアイデアが満載!家事ラクがテーマの和モダン住宅
【case5】2人でも十分な広さと、勝手口のある使いやすいキッチンが完成
子どもが生まれたことをきっかけに、漠然と家を建てようと考え始めたNさん。何もわからず、まずはスーモカウンターで聞いてみようと訪問しました。そこで、自分たちが希望する屋上プランが得意な会社など、計3社を紹介してもらい、最終的に屋上と畳のダイニングが気に入った1社に決定。
夫婦共に料理をするNさんはキッチンにもこだわりました。2人で使用しても十分な広さを確保するとともに、念願だったカウンター式に。さらに、勝手口や床下収納も設け、使い勝手のいいキッチンが完成しました。
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憧れの屋上となじみある畳と家族の笑顔がある家
【case6】築65年の家をおしゃれな勝手口付きキッチンにリフォーム
妻の祖母から譲り受けた築50年の家に15年間住んでいたTさん。雨漏りをはじめとした修繕の多さととにかく寒い点が気になり建て替えることに。
しかし住宅展示場の家はどれも立派で大きいことからイメージできず、夫婦二人にちょうどいいシンプルな平屋を建てられる会社を探すべく、スーモカウンターに相談することにしました。
2人の生活スタイルが違うため、それぞれの部屋を持つことを希望し、リビングを中心として双方に互いの部屋を配置する間取りにしました。また、老後を見据えて床にものを置かないなど、とことんシンプルにまとまる部屋を目指した平屋が完成。
さらに、見学したモデルハウスでは見かけなかったものの、Tさんの強い希望でキッチンには勝手口を取り付けました。玄関から運びにくい泥付きの野菜などを置くのにも便利で大満足しているようです。
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築65年の家を建て替えた夫婦二人にちょうどいいシンプルな平屋
勝手口はどんな人におすすめ?
最後にあらためて新谷さんに、勝手口を設ける際のポイントを聞きました。
「勝手口の使い道が具体的にイメージできることが前提です。コストもかかりますし、とりあえず付けておこうというのはおすすめしません。勝手口を作ることで家事が楽になる、家の中が快適になる、暮らしやすくなるなど、具体的に勝手口の用途をイメージできて、メリットを感じる人にはおすすめです」
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「家事が楽になる上手な勝手口の配置は?」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望を叶えてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
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イラスト/高村あゆみ
監修/SUUMO編集部
※監修箇所
勝手口は「いらなかった」という声があるのはなぜ?
勝手口のあり・なしの便利さは間取りによっても異なる
雨除け対策になるように庇をつける
目隠し設置の注意点