あまり耳慣れない「下がり壁」。下がり壁は、LDKなどの大空間を仕切ってゆるやかにつながりをもたせたり、空間に奥行きを演出したりすることができます。下がり壁のメリットやデメリット、プランのバリエーション、取り入れる際のポイントについてユウ建築設計室 一級建築士事務所の吉田祐介さんに話を伺いました。
目次
下がり壁とは?垂れ壁との違いは?
下がり壁とは、天井から下部に突き出している壁のことで、垂れ壁とも言います。下がり壁=垂れ壁なので違いはありません。
従来の日本家屋では、床の間と居室との境や欄間の入った部分の壁などでよく用いられてきました。
注文住宅では、空間を仕切る役割で取り入れられるほか、デザイン性を高めるために使用されていますが、構造上の役割も持ち合わせています。
2×4(ツー・バイ・フォー)の壁式工法など構造上で必要な場合もあります。
下がり壁の構造上の主な役割は?
下がり壁には、構造上いくつかの役割があります。ここでは下がり壁がどのような役割を果たしてくれるのかを、防煙と耐力確保の観点から解説します。
キッチン用の防煙壁
下がり壁は防煙効果もあり、法律上50㎝以上下がっている下がり壁は「防煙垂れ壁」とも呼ばれています。
防煙効果のある下がり壁は、キッチン用の防煙壁としても使われることがあります。キッチンは火を使うため、新築時から火事の対策を講じなければなりません。2009年4月1日の法改正以前はキッチンが火気使用室と捉えられ、防煙壁の設置が義務付けられていました。
一方で建築基準法の改正後は、コンロの周辺を燃えにくい材質でつくれば、防煙壁を設ける必要はないとされています。今では構造上の理由で設置されることの多い下がり壁ですが、火事の対策にも活用できる点を押さえておきましょう。
ツーバイフォー工法(2×4)などの耐力確保
ツーバイフォー工法(2×4)、ツーバイシックス工法(2×6)は木造枠組壁工法とも呼ばれており、柱ではなく壁や床を使って組み合わせるのが特徴ですが、下がり壁が構造上必要な場合もあります。
その下がり壁を活かして、空間を仕切りたい場合や、デザイン性をアップしたい場合は、建築会社に相談をしてみてください。
RC造の壁梁や防煙壁
RC造(鉄筋コンクリート造)にも、梁として下がった壁が表出されるケースが多くあります。これを壁梁と言います。
RC造は主に「ラーメン構造」と「壁式構造」に分類され、柱ではなく床や壁で建物を組み立てる壁式構造となっており、壁梁で建物の耐力を高めます。
加えて防煙壁として下がり壁を採用することもあり、火事への対策としても役立ちます。
下がり壁のメリット
下がり壁のメリットは主に以下の3つです。
LDKと隣接している和室や寝室の空間を仕切る
空間をゆるやかに仕切ることができることが下がり壁の特徴。LDKの空間が狭く、和室や寝室が隣接にしている場合に、無理に空間を分けずに下がり壁で仕切ると空間同士がゆるやかにつながり、空間としては別々にゾーニングをすることが可能になります。
おしゃれな空間を演出
また、デザイン面でもおしゃれな空間を演出することができます。下がり壁をアーチ状や三角形などにすることで、既製品の室内ドアでは実現できないデザインを実現し、インテリアのアクセントにすることができます。建具を使用しないことから、低コストに抑えられることも。
空間をスッキリさせたり、立体的に見せたりできる
そのほか、下がり壁の裏側にカーテンレールを取り付けて空間をスッキリきれいに見せることができたり、ダウンライトをつけて折り上げ天井のように空間を立体的に演出することもできます。
下がり壁のデメリットは?
下がり壁にはさまざまなメリットがある一方で、デメリットも少なからず存在します。特に内観やインテリアにおいて、いくつか制限を受けてしまう点を考慮しなければなりません。下がり壁のデメリットについて具体的に解説しましょう。
空間の広がりを妨げる
下がり壁は、リビングとダイニングなど居室の間を大きく区切る場合は効果的ですが、リビングなどの大きい空間の真ん中にあると空間の広がりを妨げてしまいます。構造上、下がり壁が必要になった場合は下がり壁をどのように活かすかを検討しましょう。
圧迫感がでる
キッチンの防煙垂れ壁としての下がり壁は天井から突き出している部分が大きいため、空間に圧迫感を与えてしまうこともあります。
薄暗くなる場合もある
下がり壁があることで、部屋が薄暗くなってしまう場合もあります。天井付近にも壁を設置することで、照明の光が室内全体に届きにくくなるためです。下がり壁を取り入れる際には、どの程度の明るさを保てるかを考慮しましょう。
家具・家電の配置が制限される場合がある
下がり壁によって、家具や家電の配置が制限されるケースがある点も注意しなければなりません。壁があることでスペースが確保しにくくなり、背の高い家具は基本的に置きにくくなります。
一度下がり壁を設けてしまうと、リフォームするときに手間やコストがかかることもあります。デザインだけを重視するのではなく、生活のしやすさも考慮してください。
アーチ、三角…下がり壁のデザインはバリエーションが豊富
一口に下がり壁と言っても、デザインにはさまざまなものがあります。
よく使われているのが、アーチ型や三角型のタイプです。これらのタイプでは、壁がアーチまたは三角形を描いて切り抜かれているように見えます。特に洋室と相性の良い種類であり、おしゃれな雰囲気を醸し出すのが特徴です。室内をかわいらしくアレンジしたいときにも採用されます。
他にも、下がり壁は来客に見られたくない場所を隠す働きもあります。キッチンスペースやシューズクロークなどが主な例です。このような働きを活かすうえでも、形状や長さにこだわった方が望ましいでしょう。
【実例紹介】下がり壁を取り入れたプランはどんなものがあるの?
下がり壁にも、設置場所や形状などによってさまざまなプランがあります。実例も確認しながら、どのような設置方法があるかを調べることが大切です。下がり壁を取り入れたプラン実例を紹介します。
空間をゆるやかにつないで、「開放感」と「おこもり感」を両立
LDKや隣接する居室との間に下がり壁を設けると、適度な開放感を感じながらも空間同士をゆるやかにゾーニングすることができます。天井が下がっていることで、落ち着いた空間も演出でき、おこもり感も楽しめます。
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キッチンの下がり壁にはたっぷり収納できるつり戸棚を
カウンターキッチンに下がり壁を設けると、調理中のニオイや油ハネなどがリビングダイニングに広がるのを抑えてくれます。その場合、つり戸棚を設けることが多く、収納スペースも確保できるメリットも。
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廊下などの狭い空間を開放的に
玄関や廊下などの狭い空間は、きっちりとドアで仕切らず下がり壁にすることで開放感と奥行きを演出することが可能に。扉を設けないので明るさも確保できます。
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下がり壁のデザインでインテリアにアクセントを
好みのデザインテイストに合わせて下がり壁のデザインをコーディネートすると、おしゃれなインテリアになります。アーチ状のデザインで柔らかさを演出したり、直線的なデザインでシャープにしたりと、既製の室内ドアにはできないデザインにすることができるのも下がり壁の魅力のひとつです。
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下がり壁を取り入れる際に注意するポイントは?
下がり壁は実生活でも高い利便性を誇りますが、取り入れる際には注意すべきポイントもいくつかあります。建築会社と相談する際にも、自分自身である程度の知識を持っておくことは大切です。特に守ってほしい注意点を解説します。
仕上がりを具体的にイメージしよう
下がり壁を取り入れる際には、設置したときの部屋の状態を具体的にイメージしてください。
アーチ型や三角などのデザインに惹かれ、つい形状だけで選んでしまう人もいるかもしれません。しかし部屋全体のイメージを考慮しなければ、室内とのバランスが悪くなる恐れもあります。
自分で上手くイメージできない場合は、設計士の助言も借りることをおすすめします。
用途に合わせて照明の位置やタイプを決めよう
下がり壁部分に照明をつけるときには注意が必要です。ダウンライトの場合は下がり壁の裏側部分が暗くなるため、照明がついていない側の使用用途に合わせて照明を両側につけるなど工夫しましょう。または、下がり壁よりも下の位置にペンダントライトを設置するという方法も。
狭い空間はアクセントクロスで奥行きを演出
玄関や廊下などの空間を下がり壁にする場合は、奥の壁の色を濃いめのアクセントクロスにすると奥行きを演出することができます。面積が狭い分、ビビッドな色みをセレクトするのもオススメです。
下がり壁の高さは排煙に配慮しよう
キッチン周りに下がり壁を設ける場合は、排煙にも十分配慮を。あまり下がり壁を下げてしまうと煙が滞留してしまうため、万が一火災が発生した場合に煙が充満しないよう、窓の配置や下がり壁の高さを調整しましょう。
下がり壁以外のアイデアも検討しよう
室内の仕切りを設置するときは、下がり壁以外のアイデアもあわせて検討しましょう。具体的には、パーテーションや開閉可能な間仕切り扉を用いる方法があります。
他にも、棚や収納壁を取り入れるといった工夫も可能です。下がり壁だけにこだわるのではなく、室内の雰囲気も確認しながらより最適な方法を検討するようにしましょう。
下がり壁の撤去や後付けは可能?
下がり壁の撤去や後付けは、ルール上は可能です。しかし条件によっては、これらの作業が認められない場合もあります。
一般的に下がり壁を後付けするときは、天井に補強材を入れて固定します。したがって配管ルートの設置状況によっては、後付けが不可能なケースもあるので注意が必要です。
さらに工事に数日程度を要することもあるほか、工事費用以外の経費も発生します。これらを踏まえると、なるべく新築時に取り入れる方が望ましいでしょう。
撤去についても、手間やコストがかかりますし、ツーバイフォー工法(2×4)のように耐震性に影響が出る場合は認められません。後悔しないためにも、新築の段階で入念にデザインを考えることが大切です。
スーモカウンターでかなえよう!
このように、下がり壁を取り入れることで、空間をゆるやかにつなぐことができ、おしゃれな空間にしつらえることができます。しかし、下がり壁を取り入れたプランが得意な建築会社を探そうと思っても、自分で見つけるには手間と時間がかかってしまいます。
そこで頼れるのがスーモカウンター。注文住宅の新築・建て替えをサポートしているスーモカウンターでは、家づくりの不安を解決できる無料講座や、アドバイザーに悩みを相談できる無料の個別相談などを実施しています。個別相談では住宅建築の予算や希望条件の整理、建築会社の紹介など、注文住宅を建てる際のあらゆる不安について、知識と経験のある専任アドバイザーに無料で何度でも相談できます。
スーモカウンターを利用して、下がり壁を取り入れたセンスのいい家づくりを実現してくれる会社を見つけましょう!
監修/SUUMO編集部