地下室は趣味の用途や収納などに幅広く利用されています。また、一定の条件のもとでは居室としても使えるため、限られた敷地面積の中で部屋数を増やすことができます。地下室や半地下の部屋をつくるにあたり、気になる費用や注意すべき点について建築士の石井正博さんにお話を聞きました。
地下室にはいろいろな用途が!
地下室は文字通り、地下にある部屋のことです。建築基準法では「地階」として以下のように定義されています。
- 床が地盤面より下にある
- 天井高の3分の1以上が地面の下に埋まっている空間
音が響きにくい、温度変化が少ない、といった特徴から、地下室はさまざまな用途に利用されています。
<地下室の用途の例>
●趣味の部屋
・映画鑑賞室(ホームシアター)
・音楽室・音楽スタジオなどの防音室
●収納や貯蔵用の部屋
・倉庫
・ワイン貯蔵庫
●不測の際に利用する部屋
・災害などの際のシェルター
・予備の部屋
●生活のための部屋
・寝室やリビングなど
石井さんによると、欧米では日本と比べて地下室をつくるケースも多いようです。
「日本では、雨が多い、湿度が高い、木造家屋が主流、などの理由から、住宅の地下の利用はあまりされてきませんでした。加えて、建築基準法において地下に居室を設ける場合の指針が示されていませんでした。
一方、欧米では、食糧庫、防空壕、ボイラー室、石炭貯蔵庫、さらには居室としても地下を利用してきた長い歴史があります。今でも、居室や複数の可能性を持ったプラスアルファの部屋として地下室が活用されています」(石井さん、以下同)
地下室のメリット・デメリットは?
地下室がさまざまな用途に活用されているのは、部屋が地下にあることの特性が活かされているからです。地下室のメリットを確認してみましょう。
<地下室のメリット>
●遮音性の高さ
地下室は周りを土で囲まれているため、大きな音を出しても外部への伝播を抑制して近隣に迷惑が掛かりにくいのが大きなメリットです。また、地下室の部分は鉄筋コンクリート(RC)造になるため、上の階にも音が響きにくいのです。
●耐震性の高さ
地震の際には地上の部分は強い揺れの影響を受けて壊れる危険がありますが、地面の中にある地下室は地震の影響を受けにくいため、壊れる危険が少ないのです。そのため、シェルターや貴重なものの保管庫といったニーズにも活用できます。
●温度が一定に保たれる
温度変化が1年を通して小さいことも地下の特性です。外の気温に比べて冬は暖かく夏は涼しい特性をうまく活かせばメリットになります。例えば、温度の変化を抑えたいワインや保存食等の貯蔵庫などに向いていると言えるでしょう。
●土地の有効活用ができる
建築基準法(1994年改正)で、住宅等の地下室は、建物の床面積の合計の3分の1までは容積率に算入しなくて良いことになっています。前述の「地階」の定義に当てはまり、地下室の天井の高さが地盤面から1m以下であることが条件になります。
「例えば2階建てに地下室がある住宅のケースで、地上の2階と同じ形の地階なら、地下の床面積は全体の3分の1となるので、容積率がまるまる緩和されます。これにより、最大通常の1.5倍まで広い家が建てられる計算になります。狭小地に家を建てたい場合など、地下室をつくることで、土地の有効活用ができるという大きなメリットがあるのです」
地下室の容積率緩和の考え方
一方、地下室には地下にあるがゆえのデメリットもあります。
<地下室のデメリット>
●結露しやすい
湿気を含んだ空気は重たく下にたまりやすいため、換気など対策を十分に施さないと、地下室には結露が発生しやすくカビの原因にもなります。特に新築の場合、1~2年間はコンクリート自体が乾くまで水が出てくるので、正しい換気を心がけましょう。
●浸水しやすい
地下室には、集中豪雨などの自然災害で浸水してしまうリスクがあります。また、雨で地下水の水位が上がって地下室の壁に浸水してくる可能性もあります。1回でも浸水すると内装の張り替えなど大掛かりな修繕が必要になるので、浸水させないための万全の対策が必要です。
●費用が高い
地下室はコスト面が大きなデメリットだといえるでしょう。面積や仕様によって変わりますが、1000万円以上の費用がかかることも珍しくありません。次章でどのような費用がかかるのか、詳しく説明します。
地下室の費用ってどれくらいかかるの?
地下室をつくる場合、地上の同じ面積と比べて2倍以上の費用がかかるといわれています。これは、土を掘りそれを運搬するといった「1:つくるための費用」と、地盤改良や浸水対策で外壁に防水処理を施すといった「2:対策のための費用」の両方が必要なためです。それぞれ具体的にみていきましょう。
1:地下室をつくるための費用
●調査等にかかる費用
・ボーリング調査費(約25万~35万円)
地下室をつくる場合、ボーリング調査が必要になります。ボーリング調査では、地盤改良の必要性や方法を検討し、地下水の位置を把握し、土留など工事方法の見極めを行います。
・構造計算費用(地下室の部分:約30万~45万円/木造の地上階の部分:約20万~30万円)
地下室付きの家を建てる場合には、地下の鉄筋コンクリート部分の構造計算が必要になります。
・鉄筋コンクリート部分の設計図(約30万~80万円)
地下室をつくる際は、地下の鉄筋コンクリート部分の構造図も必要になります。
●土を掘る・運ぶ費用
・土留(どどめ)の費用(約150万~200万円)
地下を掘る際、安全に作業ができるように「土留(どどめ)」(あるいは「山留(やまどめ)」)という、周囲の地盤が崩れないようにするために地中に鉄骨のH型鋼を打ち込んで、そのH型鋼に横矢板といわれる板をはめながら土を掘っていく作業が必要になります(親杭横矢板工法の場合)。費用は、深さや土の種類、地盤が崩れやすいか否か、水が出るか出ないかなどによって変わってきます。
・掘った土の運搬・処分費用(約200万円)
地面を堀って大量の土を捨てる際、トラックを使って何度も運んで処分する必要があります。土は掘ると体積が約1.3倍になり、掘って搬出・処分するのに、だいたい1㎥当たり1万円程度がかかります。
2:各種対策のための費用
●地盤改良にかかる費用
・地盤改良工事費用(約100万~300万円)
調査の結果、地盤改良が必要になった場合に発生する費用です。地盤改良工事には、地面の土にセメント系の固化剤を入れ混ぜて地盤を固くする方法や、支持層となる地盤の固いところまで届くコンクリート杭を穴を掘ってつくったり、鋼管杭(こうかんぐい)を打ち込む方法がります。広さや支持地盤までの深さによって金額は大きく変動します。
●浸水対策にかかる費用
・外壁の防水処理費用(約90万~180万円)
地下室の壁にほんのわずかな穴が開いていても、そこから浸水してしまいかねません。なので、外壁の防水処理が必須です。防水処理には、以下のような方法があります。
・壁の外側から防水材を貼る方法(90万~120万円)
・内側から防水材を塗る方法(90万~120万円)
・二重壁にして防水する方法(120万~180万円)
・コンクリート自体を防水性のある壁にする方法(90万~120万円)
・排水ポンプ及びその設置費用(約70万~110万円)
災害による浸水といった非常時だけでなく、日常的に発生する水(雨水、トイレや風呂を地下につくった場合の排水、空調の結露水など)を汲みだすために排水ポンプが必要になります。ポンプは予備も入れて2台必要です。
・防潮板(止水板)などの設置費用(約30万~60万円)
外部が浸水する可能性のある場所では、入口から水が浸入するのを防ぐ防潮板を設置できるようにしておく必要があります。
●結露対策にかかる費用
・壁や天井などへの除湿素材の使用(約10万~60万円)
珪藻土などの左官材料や調湿性能のあるタイルの利用などがあげられます。施工面積によって金額は異なります。
・換気扇の換気経路をつくるための費用(約5万~10万円)
地上であれば換気扇にダクトをつないで外壁を貫通させれば外に排気できますが、地下だと地面にふさがれるため、地上に排気できるよう換気経路をつくる必要があります。
地下にリビングや寝室をつくるにはどうすればいい?
地下にリビングや寝室をつくるためには、そこを「居室」の規定に適合させなければなりません。居室とは、一定時間以上継続的に生活・作業する部屋のことです。居室には適切な大きさの窓を設置して、自然な採光通風が得られることが建築基準法で義務付けられています。また、何かあった場合の避難の方法も考えておく必要があります。
- 居室に該当する部屋:リビング、キッチン、寝室など
- 居室に該当しない部屋:トイレ、風呂、物置など
壁面のすべてが地下に埋まっていては窓を設置することができません。居室にするためには地下室に“埋まっていない”場所を設ける必要が出てきます。このためにつくられるのが、「ドライエリア」とも呼ばれる「空堀(からぼり)」です。
空堀とは、地下室の外をもとの地面より低い位置まで掘り下げ、そこに小さな庭などを設けたスペースを言います。空堀の深さを地下室の床面と同じ高さにそろえるケースも多く、空堀との出入りができる大きな掃き出し窓を設置すれば、地上のような、明るく風通しのいい空間づくりをすることが可能です。
ドライエリア(空堀:からぼり)とは
「この空堀ですが、面積を広く取ろうとする場合は注意が必要です。高さの基準となる平均地盤面に影響し、家の高さなどに制限が出てくる可能性があるからです。空堀を設ける際には、建築士にしっかりと法定基準に則った形で設計してもらうようにしましょう」
半地下は地下室に比べて経済的?
地下室に“埋まっていない”場所を設ける方法としては、空堀以外にも「半地下」にすることが考えられます。通常の地下室は空間のほとんどが地盤面の下にありますが、半地下とは側面の半分程度が地上に露出している地下室のことです。
傾斜地にあったり、敷地に段差があるなどで階の半分程度が埋まっている形態が半地下と呼ばれています。空堀を設けなくても自然に部屋の高い位置に窓が取れるため、地面の下につくる地下室よりも居住環境を高めやすいのがメリットです」
半地下のパターン
傾斜地などに地下室をつくる場合は、自然と半地下になるケースもあります。このように敷地条件を利用してつくることで、半地下には完全な地下室と比べて居住環境を高めやすく、経済的なメリットも生まれます。例えば、傾斜地に半地下をつくる場合、空堀を設ける場合に比べて掘る土の量は半分程度で済みます。また、掘る深度が浅いので、土留(どどめ)の方法が楽になります。
「通常の地下室の場合、地下を掘る作業は専門業者がしっかりとした土留を行い、土が崩れないように慎重に掘り出していく作業になります。ところが、半地下の場合は『単管パイプ』を使った簡易な方法で土留を行える可能性もあるので、工事費が割安になるのです」
【実例】地下室を設置することで、居住スペースが広がった
それでは実際に地下室を設けた先輩の事例を見てみましょう。
建て替えを予定していた土地が敷地に段差があるタイプで、駐車スペースを設けるためには擁壁を壊す必要があったSさん家族。擁壁工事に実績のある会社を紹介してもらったところ、工事会社から「擁壁を壊すのなら駐車場だけにしておくのはもったいない」と地下室をつくる提案を受けました。
「単純に考えると地下をつくらない場合に比べて、1.5倍の広さに住めることになります。道路と同じ高さに玄関をつくることもできるので、メリットが大きいと考えました。1000万円以上プラスの予算がかかりましたが、やって良かったと満足しています」(Sさん)
地下のスペースを有効活用できたことで1階のリビングダイニングを大空間にすることができました。さらに地下にも洗面室を設け、洗面台のタイルや鏡などにはかなりこだわったそうです。
最後に石井さんに地下室をつくりたい人へのアドバイスをお願いしたところ「ぜひ信頼できる専門家に相談してほしい」と言います。
「地下室は遮音性や耐震性に優れ、趣味の部屋としても収納にも、さまざまな用途で利用できます。それなりの費用がかかってしまうのが難点ですが、地下室を設けることで敷地を有効活用することができます。
一方、地下室や半地下をつくるには建物全体にも影響する複雑な条件が絡んできます。のちに問題が発生しないようなつくり方や、法規制に適合するか否か、などを設計段階で十分に確認しておく必要があります。信頼できる建築士などのプロに相談し、不安な点については事前に十分確認をしてください」
スーモカウンターに相談してみよう
石井さんのアドバイスにもあるように、地下室のある住まいを建てたい場合には、費用面のほか、つくり方や法規制の影響などを総合的に判断して設計する必要があります。地下や半地下の空間で快適に毎日過ごせるよう、信頼できる建築士や建築会社を探すことが重要でしょう。
注文住宅の新築・建て替えをサポートしているスーモカウンターでは、土地購入や家づくりの不安を解決できる無料講座や、アドバイザーに悩みを相談できる無料の個別相談などを実施しています。個別相談では土地選び以外にも、予算や希望条件の整理、建築会社の紹介など、注文住宅を建てる際のあらゆる不安について、知識と経験のある専任アドバイザーに無料で何度でも相談できます。
スーモカウンターを活用して地下室のある家づくりの第一歩を踏み出してはみてはいかがでしょうか。
取材協力/石井正博さん
一級建築士、OZONE家design 登録建築家。石井さんが代表を務める設計事務所アーキプレイスは、「敷地の特性」を活かし「建て主のライフスタイル」を大切にして、デザインとともに温熱環境や安全性、品質、コストの“バランスのとれた家づくり”を心がけている。
設計事務所アーキプレイス(https://archiplace.com)
取材・文/櫻井とおる(スパルタデザイン)