床に高低差をつけることで、個性的でおしゃれな間取りができるスキップフロア。吹抜けと組み合わせた開放的な造りや、縦方向の空間を効率よく利用できる点が魅力です。
新築住宅にスキップフロアを取り入れるときには、後悔しないためにも最適な間取りや注意点を把握しておく必要があります。
そこで今回は、スキップフロアのメリット・デメリットや、活かす間取りについて、一級建築士の石川淳さんに話を聞きました。併せて、参考にできる魅力的な実例も紹介していくので、ぜひご覧ください。
スキップフロアとは?
スキップフロアとは、一般的に1階、1.5階(中2階)、2階と、半階ずつフロアがズレながらタテにつながる間取りのことです。ただし、実は「スキップフロア」と一口に言っても、大きく2つのタイプに分けられると、石川さんは言います。
「もともとは、スキップフロアと言えば、半階ずつフロアをズラしながらタテに空間をつなげることを指しました。1990年代に大手ハウスメーカーが、1階と2階の間に高さ1.4mの大型収納を設けた住宅を発売して以降、1つの階に中間階を設けて、その中間階の下を大型収納にすることもスキップフロアと呼ぶようになりました」(石川さん、以下同)
スキップフロアのメリットは?
個性的な空間に憧れる人も多いスキップフロアですが、どのようなメリットがあるのでしょうか?
限られた空間でも開放感が得られる
「もともとのスキップフロアの場合、中央のフロアから半階上のフロアと半階下のフロアを一度に見渡せるため、限られた空間でも上下に広がりが生まれて、吹抜けのような開放感が得られます」
段差を利用して収納スペースを確保できる
「居室の数と広さは妥協したくない、でも収納スペースも確保したいという場合、中間階を設けてその下に大型収納を確保できるスキップフロアは便利です」
空間を有効利用できる
「住宅の中には、高さがほしい部屋と、あまり高さの必要ない部屋があります。例えば、浴室などはあまり高さを必要としませんが、リビングなどは天井が高い方がいい。そういった高さの必要のない部屋と高さのほしい部屋をスキップフロアで組み合わせることで、住宅を建てられる空間を無駄なく有効に利用することができます」
採光や通風を取りやすい
「階段は、上の階と下の階がつながる空間なので、上からの光を下へ落とすときに重宝しますが、スキップフロアを大きな階段と捉えれば、それと同じ効果が得られます。また、スキップフロアは上下階をつないで家全体をワンルームのように使うことができるため、通風の面でもメリットがあります」
遊び心のある間取りにできる
同じ空間の中に高低差のあるフロアがいくつかある家は珍しいもの。天井が低い場所や床が高い場所のある立体的な空間は、まるで秘密基地のようで、子どもの好奇心を刺激してくれます。
スキップフロアの中2階から下を眺めたり、スキップフロア下でおもちゃを持ち込んで遊ぶ等、子どもの遊びの選択肢を増やしてくれます。一風変わったスキップフロアの空間には遊び心があり、子どもだけでなく大人にとっても魅力的です。
土地の高低差を活かした間取りにできる
高低差のある土地に家を建てる場合、スキップフロアはとても有効な間取りです。例えば一般的な間取りの場合、土地全面を平らに整地する造成工事や、基礎が崩れないように補強する擁壁が必要となります。
しかし、スキップフロアは土地の高さに合わせて間取りをつくれるため、こうした費用をかけずに家を建てられる場合があります。通常なら家を建てるまでにも高額な費用がかかる難しい土地でも、スキップフロアを採用すればうまく活用できる可能性があるのです。
スキップフロアはやめたほうがいい?デメリットは?
スキップフロアにはメリットがある一方、「スキップフロアはやめた方がいい」という声を見かけるなど、デメリットもあります。スキップフロアのデメリットにはどんなものがあるのでしょうか。またデメリットを解消するにはどうすればいいのでしょうか?
建築コストが高くなりやすい
「スキップフロアの場合、普通の住宅に比べて建築コストが割高になります。特に、鉄骨造の場合は、フロアが設けられる半階ごとに鉄骨を通す必要があるため、その分の材料費が割り増しになり、施工費用も上がります」
光熱費を抑える工夫が必要になる
「家全体をワンルームのように使うスキップフロアは、光熱費が高くなるイメージがあるかもしれません。もちろん、断熱性能があまり高くない住宅の場合、その傾向はあります。ただし、家全体を高気密・高断熱の仕様にすれば、影響は抑えられるでしょう。そのような断熱性能の高い家はヒートショックの防止にもなります。また、スキップフロアは下の階から上の階まで空間がつながっているため、暖かい空気が自然と上る『煙突効果』を利用して、上手に自然換気を促すこともできます」
段差が多くバリアフリーにはならない
「家の中に段差が多いため、特に高齢者は生活しにくいという印象を持つ人もいるでしょう。しかし、1階から2階へ一気に階段を上る場合に比べて、半階ずつ階段を上ればいいという意味では、スキップフロアの方が負担は少ないとも言えます。車椅子の場合などはホームエレベーターや段差解消機の設置を検討するといいでしょう」
プライバシーが確保しづらい
「上下の階がつながり、開放感があるのがスキップフロアのメリットの1つですが、その分プライバシーを心配する人もいます。しかし、スキップフロアだから個室を設けられないわけではありません。引き戸など開放しておける間仕切りを設ければ、開放感を維持しつつ必要に応じて個室として使うこともできます」
設計と建築の難易度が高い
スキップフロアのある家は、一般的な住宅と比べると壁が少なく階層構造が複雑であるため、建物の耐震性を確保しながら建築基準法に適した設計にしなければなりません。
また、綿密な構造計算や高度な施工技術も求められます。そのため、難易度の高い設計や施工に対応できる工務店や建築会社を選ぶことが重要です。
スキップフロアの実績が十分にあるなど、確かな技術力を持った建築会社に依頼しましょう。
自治体によって固定資産税の対象になるかは変わる
スキップフロアのある間取りは床面積が増えるため、一般的な住宅と比べて固定資産税が高くなる可能性があります。しかし「収納」として利用するのを前提とした場合に限られますが、「天井高が1.4m以下」「面積が直下のフロアの2分の1以下」などの条件を満たせば、スキップフロアは床面積に算入されません。
ただし、自治体によって条件が異なる場合もあるため、事前に確認が必要です。
「スキップフロアの場合、自治体などによって階の捉え方に違いがあり、他の自治体では問題のなかった設計が認められないことも。建築予定の自治体ではどのようなスキップフロアが可能なのか、事前に建築士とよく相談することをオススメします」
スキップフロアが活きる住まいとは?
これまで見てきたスキップフロアのメリット・デメリットを踏まえて、どのような条件がそろえば、一般的な住宅よりもスキップフロアの方が適していると言えるのでしょうか?
平屋で開放感を出したい
平屋は1階部分に全てのスペースを集約するため、ある程度の土地の広さが必要です。しかし、建坪が小さい平屋を建てた場合でも、スキップフロアを採用すれば縦の空間を有効活用し、開放感を演出できます。
例えば中2階部分は個室として利用し、スキップフロアの下部分は収納スペースとして使えます。さらに、平屋は屋根の形状をそのまま活かせるので、天井に勾配を付けて高さを出せば、広々とした空間がつくれるでしょう。
細長い狭小地を最大限に活かしたい
「限られた空間でも開放感が得られるため、狭小住宅には向いています。ただし、1つの階が分割されてしまうため、土地の形状によっては同じ面積でもスキップフロアに向かない場合もあります」
敷地に高低差がある場合
「敷地に高低差があって、スキップフロアの方が空間を有効利用できる場合は、敷地のポテンシャルを活かすためにスキップフロアを選択することもあります」
部屋の広さや部屋数で妥協できない
「希望する部屋の広さや部屋数が決まっていて、3階建てにはしたくない、それでも収納を確保したいという場合に、スキップフロアを提案することがあります」
スキップフロアで理想の住まいを実現した先輩たちの事例を紹介!
個性的でメリットも多いスキップフロアですが、スーモカウンターで理想の「スキップフロアの家」を建てた先輩たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【Case1】吹抜けの階段にスキップフロアが映える、デザインにこだわった住まい
いずれ活用できるようにと両親が購入していてくれた土地に、これから先の暮らしを豊かにする住まいを建てたいと考えたKさん。スーモカウンターでハウスメーカー・工務店選び方講座を開催していることを知り、相談に行ってみることにしました。
要望をかなえてくれそうな4社を紹介してもらい、プランと見積もりを比較した結果、1社に絞り込んで依頼先を決めました。決め手となったのは、外壁素材、ガルバリウムの施工に対応できるかどうかと、担当者との相性。特にデザイン面では、スタイリッシュな外観デザイン、スケルトンのリビング階段、梁(はり)見せのリビング、明るい吹抜けやロフトなどにこだわりました。
完成した住まいは、気持ちの良い吹抜けにおしゃれなスキップフロアの家。「今は早く家に帰るのが楽しみです」と笑顔で語ってくれました。
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白いガルバリウムの外壁にとことんこだわって、ようやく完成した終の住処
【Case2】バリアフリーの平屋に、スキップフロアで大型収納を確保
築30年以上の賃貸マンションに住んでいたAさんは、長男が筋肉に障害があってマンションの階段の上り下りの負担が大きくなってきたことや、2人目の子どもが生まれたことをきっかけに、夫の実家の隣にある土地に家を建てることにしました。
住宅展示場を見に行ったものの、何をどう決めていったらいいのかわからなかったため、スーモカウンターを訪れ、そこで建築会社を4社紹介してもらうことに。最終的に、延床面積が広く取れるプランを提案してくれた1社に絞り込み、依頼することにしました。
依頼先がスキップフロアを得意とする会社だったこともあり、バリアフリーの平屋プランにスキップフロアを採用して、リビングの半階上に寝室と書斎、その下を大型収納にすることに。収納は、「子どものプレイスペースとしてなど、今後もフレキシブルな使い方ができそう」と、期待が膨らみます。
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ランニングコストを抑え、将来を見据えたバリアフリーの平屋暮らし
【Case3】リビング階段の途中にスキップフロアを設け、妻の趣味スペースに
妻が第二子を妊娠したことと、2019年10月の増税を意識して新築を思い立ったというIさん夫妻。住宅展示場へ足を運んだものの疲れてしまい、当時、妊娠中だった妻の体調に配慮して、効率良く建築会社を探そうと考え直したときに、スーモカウンターを思い浮かべました。
スーモカウンターでは、「デザインに柔軟性があり、耐震性に優れていて、土地も一緒に探してくれる建築会社を紹介してほしい」と要望を伝え、4社が候補に。その中から、最終的にアイデアが豊富でレスポンスが良く、土地探しに強い1社に依頼することにしました。
リビングの周囲を妻が趣味のスペースとして活用している「スキップフロア」や子どもたちの「スタディースペース」、「ピアノスペース」などが囲む楽しい間取りの住まいが完成。「ますます仲良し家族になりました!」というIさんの喜びの声が、大満足の家づくりを物語っています。
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空間をうまく区切った、アイデアたっぷりの楽しい家
【Case4】5畳のスキップフロアを利用して、平屋に客間兼プレイスペースと大型収納が誕生
子どもが生まれたタイミングで、家族が伸び伸びと笑って過ごせるような家にしたいと思い立ち、家づくりをスタートさせたSさん。フリーペーパーに掲載されているスーモカウンターの広告を見て、個別相談に行ってみることにしました。
希望したのは、ワンフロアで完結する生活動線で、フラットな平屋のプラン。要望や予算に合った住宅メーカー6社の中から、3社と面談し、最終的にプラン面と予算面で柔軟性のある1社に依頼することを決めました。
完成した平屋は、フラットな間取りながらもリビングはスキップフロアで区切り、緩やかにつながりのあるオープンな空間に。スキップフロアは畳スペースにして、来客用の寝室としても、子どものプレイスペースとしても使えるようになっています。
「家づくりは『楽しかった』の一言に尽きる」というSさんは、家族みんながのびのびとできる暮らしを楽しんでいます。
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子どもが思いきり遊べる、スキップフロアのある平屋の家
【Case5】スキップフロアで希望の間取りを実現した、5人が暮らす二世帯住宅
これまで親世帯と共に住んでいた名古屋市内の平屋を、「いつかは二世帯住宅へ建て替えたい」と考えていたSさん夫妻。工務店探しの過程で、妻が友人から「スーモカウンターへ行くといい」と聞き、訪れることにしました。
そこで、自分たちの要望をぶつけ、紹介されたのは自然素材の扱いが得意な6社。そのうち5社と直接会い、2社まで絞り込んでから半年悩みましたが、最終的に選んだ1社は、「自分たちのアイデアやこだわりに対して、決して否定をしなかった」と振り返ります。
完成した二世帯住宅は、客室としても使えるリビングの小上がりの和室や、3階の小屋裏部屋の夫の個室、中3階のパソコンスペースなど、Sさんの希望が数多く取り入れられたものでした。新居の快適な住み心地に、Sさん家族は大満足です。
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両親も大満足!5人が住む平屋を二世帯住宅へ建て替え
【Case6】家族が伸び伸び過ごせる2畳のスキップフロア
賃貸マンションが手狭になったため家づくりを検討し始めたKさん。情報収集する中でスーモカウンターの存在を知り、足を運びました。
スーモカウンターのアドバイザーから紹介された5社の中から3社と面談。最終的には、スピード感のある提案や丁寧な担当者の対応が決め手となり1社に決定しました。
新居では子どもが伸び伸びと遊べるように広いLDKをつくりたかったというKさん。明るく開放感たっぷりの吹抜けとスキップフロアを採用し、空間を有効活用しています。家中のいろいろな居場所で家族それぞれが緩やかにつながり、家族間でコミュニケーションを取りやすい間取りが実現しました。
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家族がゆるやかにつながり伸び伸び過ごせるスキップフロアのある家
【Case7】子ども部屋を5.5畳のスキップフロアにしたことで平屋でも開放感のあるLDKに
子どもの小学校入学をきっかけにマイホーム購入を検討し始めたCさん。「シングルマザーで住宅ローンが組めるのか」相談するため、スーモカウンターを訪れました。
資金計画から家を建てることに希望が見えたので、2社を紹介してもらいました。土地選びに半年ほどかかりましたが、条件に合う土地が見つかり、購入を決意。
ようやく完成した住まいは、お互いの気配は感じながらも適度なプライバシーが確保できるよう、子ども部屋にはスキップフロアを採用。スキップフロア下には5.5畳の収納を設けました。リビングは高天井にして、開放感のある空間が実現しました。
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シングルマザーが建てたスキップフロアのある平屋 家事がラクな空間で娘との時間を満喫
スキップフロアで理想の住まいを実現するためのポイント
最後にあらためて石川さんに、スキップフロアで理想の住まいを実現するためのポイントを聞きました。
「スキップフロアに憧れている人も多いと思いますが、住宅の場合は実用性も大事です。住む人にとって実用的な住宅は、デザインもシンプルになります。なので、単に憧れだけでスキップフロアを選ぶのではなく、自分にとってスキップフロアにすることが実用的なのか、スキップフロアにする必然性があるのかを考えてほしいですね。
漠然として判断がつかない場合は、設計者に相談して、家族にとってのメリット・デメリットを整理してもらった上でプランニングしてもらうといいでしょう」
スーモカウンターに相談してみよう
スキップフロアで満足度の高い家にするには、スキップフロアの特徴や、メリット・デメリットなどを十分理解して家づくりを始めることが大切です。
その上で、スキップフロアのある家は一般的な住宅よりも階層構造が複雑なため、設計力・デザイン力・施工技術に優れた会社を選ぶ必要があります。
スーモカウンターでは、理想の暮らしを実現するために、アドバイザーが細かく要望を聞き取ります。スキップフロアに対応できる確かな技術力を持った建築会社の紹介や、打ち合わせの調整、契約に至るまでをサポートします。
取材協力/石川淳さん 石川淳建築設計事務所
イラスト/高村あゆみ
監修/SUUMO編集部(遊び心のある間取りにできる、土地の高低差を活かした間取りにできる、設計と建築の難易度が高い、平屋で開放感を出したい)