キッチンは1日のうちで最も長く家事を行う場所といえるかもしれません。家を建てる際にオープンキッチンやアイランドキッチンなど、キッチンにこだわる人が多いのもその表れではないでしょうか。
使い勝手のいいキッチンにするためには、十分なプランニングが必要です。そこで、キッチンプランニングのプロである建築士の小久保美香さんに、施主さんが陥りそうなよくある失敗を含め、満足のいくキッチンを手に入れるために気をつけておきたい間取りのポイントを教えてもらいました。
キッチンプランニングが重要な理由
モデルハウスを訪れたり、友人の家に遊びに行ったりしたときなどに、まずキッチンに目が行ってしまう、という人も少なくないでしょう。食事は家族の毎日の大切な営みで楽しみでもあります。一方で、キッチンの広さや間取りを検討することは非常に難しいことでもあります。住む人の家族構成や料理・食事シーンの過ごし方などにより、適したキッチンが異なるからです。
「キッチンプランニング」は、キッチンをつくる際に、どういった使い方をして、そのためにキッチンをどんな仕様にして、どういった設備や家電を配置するか、といった内容をできるだけ詳細に計画することです。家族にあったキッチンにするために、「自分の家族はどういう暮らし方をするのか」を将来の姿も含めて話し合っておきたいものです。
キッチンプランニングをするときには、ポイントとして次のような点が挙げられます。
キッチンプランニングのポイント
・これまでのキッチンの不満要素を考える
・長く住む過程でどんなニーズが出てきそうかを家族で話し合ってみる
・キッチンだけでなく、リビングやダイニング、水まわりなどの動線を考える
・料理する際の動線を考える(収納なども)
・冷蔵庫等の家電や備品の配置シミュレーションをする
小久保さんは、キッチンの間取りを考えるときには次のように考えると良い、とアドバイスしてくれました。
「キッチンを考える施主さん家族のそれぞれが『うちの家族はどういう暮らし方をするのか』をなるべく将来にわたって考え、話し合って決めていくことをオススメします」
キッチンの間取りで見る「こうしておけばよかった!」よくある失敗
キッチンプランニングに失敗しないために、小久保さんはこれまで施主さんにどんなアドバイスをしてきたのでしょうか? これまで手掛けてきたキッチンの間取りを紹介しながら、設計したときの工夫のポイントを教えてもらいました。特に、後で「こうしておけばよかった!」とならないように、気にかけたアドバイスを聞いています。
よくある失敗1:設置予定の家具や家電が入らない!
設計時に新居で使用予定の家具や家電の想定ができておらず、いざ住むときに想定していた場所に入らなかった、やむなく別のものに買い替えた、というケースがあります。そのようなことにならないために設計時に注意を払った事例として小久保さんに紹介してもらったのは、将来的に二世帯同居を想定したキッチンです。


工夫したポイント
「ゆくゆくは近所に住む娘さんのご家族との同居を想定されていました。そのため、将来を見越した設計として、冷蔵庫が2台になっても置けるだけのスペースを確保し、2階にも小さいキッチンを備えています」
間取図
アドバイス
「キッチンを囲んで複数の世帯が一緒に料理できるアイランド型のキッチンや薪ストーブを取り入れ、皆がそろって料理や食事を楽しめる空間になるようアドバイスしました。また、いつか2階で織りと染めの工房を開きたいというご希望があったので、2階のキッチンは、染め物作業にも使えるよう一般的なシンクの深さではなく、深めのものを提案しました」
失敗例のように必要な家具や家電が入らない、ということを避けるにはどうしたら良いでしょうか?
「使いたい家具や大物家電などがあれば、サイズを事前に確認して設計士に伝えておくことです。具体的な物のイメージがない場合は、誰とどんなシーンで、どのようにキッチンを使っていきたいのか、設計士としっかり共有して必要な設備や適した仕様を提案してもらうといいでしょう」
よくある失敗2:食器や食材の格納スペースが足りない!
限られた敷地面積の中で家を建てる場合、空間をどのように配分するかは悩ましい問題です。特に共働きの家庭では調理スペースとほかの家事スペース(洗濯機まわり、室内物干し等)の動線の確保が重要です。また、キッチンまわりに食材の収納場所がないと後になって困ることになります。小久保さんに紹介してもらったのは、キッチンスペースが限られる中で食器や食材の格納スペースをしっかりと設けた、家事動線を意識した共働き夫婦のI型キッチン(調理台・コンロ、シンクが横一列に並んだキッチンの形)です。


工夫したポイント
「共働きこそ、家事効率を上げるために保存食品やつくり置きが必要になることが多いので、パントリーのスペースをしっかり確保しました。調理スペースはその分狭くなりましたが、お皿や必要なキッチン用具を収納できるよう背後の壁面とキッチンカウンターに造作で棚を設けています。棚をつくる際、食器や調理道具など何を入れるかをあらかじめ聞いておき、その大きさに合わせた収納にしています」
間取図
アドバイス
「省スペースで、料理から食事にいたる動線も意識して提案しました。パントリーもある対面キッチンエリアからリビングとダイニングがつながり、狭さを感じさせない空間になるようアドバイスしました」
キッチンをコンパクトにしなければならないとき、あとから食器の置く場所がない、とならないために気をつけるべきことには、どのようなことがあるでしょうか?
「食器や調理用具など、どこに何を入れるかをあらかじめ決めてから収納をつくると、機能的なだけでなく省スペースな設計をするのに役立ちます。設計士には、少し細かいかな、と思うくらい具体的に伝えたほうがいいでしょう」
よくある失敗3:キッチンを独立型にしたら暗い!
独立型のキッチンは料理に集中できる点をメリットとして選ぶ人も多いでしょう。一方でリビングダイニングに開けたオープン型キッチンと比べ、照明など明かりへの配慮がおろそかになりがちです。そうならないための事例として小久保さんに紹介してもらったのは、代替わりして建て替えた、美しい中庭を望むL型キッチン(コンロとシンクが90度で向かい合うように設置されたキッチン)です。


工夫したポイント
「このキッチンは独立型で、広いリビングダイニングとは引き戸で仕切ってあります。キッチンは北側にあって、この窓だけでは採光が弱いと感じ、高窓を設けて光を採り入れるようにしました。料理中にキッチンから中庭を望むことができます」
間取図
アドバイス
「動線を玄関から分け、右動線はパントリーからキッチンに通じ、左動線はリビングに通じる『回遊動線』にして家事効率を上げる間取りになるようアドバイスしました。パントリーは2畳ほどのスペースを確保し、食料品だけでなくサニタリー用品も置けるだけの広さになっています」
独立型キッチンは暗い、という声もあります。採光など設計の際に気をつけるべき点を教えてください。
「自然採光にこだわるなら、北側の高窓は暑さも気になりにくく、空間を明るくできてオススメです。また、通風もよく自然な換気ができます。キッチン自体は南側や東側の明るい位置でも差し支えありませんが、パントリーを南側につくるのはオススメしません。暖かくて食品が傷みやすくなるからです」
よくある失敗4:こだわりのキッチンが、歳を取ったら使いにくくなった!
施主さんは、今の生活をベースに家の間取りを考えるものです。けれども、年月を経るにつれてこだわってつくったキッチンや、それを中心にした生活が営みづらくなるときが来るかもしれません。そんな将来を想定して心がけるべきことにはどのようなことがあるでしょうか? 小久保さんに紹介してもらったのは、60歳の夫婦があえて2階が生活の中心になるようキッチンを設けた例です。
工夫したポイント
「夫婦二人暮らしで60歳からの家づくりでした。あえて健康のために階段の上り下りをして2階のリビングを生活の中心にしたいということだったので、キッチンも2階につくり、景観を楽しみながら料理ができるようにしています」
間取図
アドバイス
「二人とも料理をするので、キッチンは二人がすれ違っても邪魔にならずに通れる幅を確保しています。天窓も設けて手元が明るいキッチンになるようアドバイスしました。
さらに高齢になって2階での生活が厳しくなったときに1階をリフォームできるよう、新たにキッチンを置く場所も想定した構造の工夫をしています」
将来的にキッチンをリフォームしたくなったときに、失敗しないためにはどのようにしておくべきでしょうか?
「実は、“その時”になってからでは遅いのです。キッチンを別の場所につくる場合、水まわりなど家の構造に大きく制約されます。ですから、最初から別の場所にキッチンを置く可能性を想定しておく必要があります。家には耐力壁など、鋼材があって構造上動かせない部分があります。そういったところを避けて改修しやすいスペースをあらかじめつくっておくことがポイントです」
よくある失敗5:コンセントの位置が悪く、家電が使いづらい!
冷蔵庫や食洗器、電子レンジなど、キッチンでは多くの家電を利用します。ところが、せっかく新しい調理家電を買ったのにコンセントが届かない、という失敗をしてしまった人もいるかもしれません。そうならないよう気をつけて設計した事例として小久保さんに紹介してもらったのは、つくる人と食べる人の目線を合わせた省スペースのカウンターキッチンです。
工夫したポイント
「敷地に限りがあるなか、キッチンスペースを犠牲にしてもリビングを広くしたいというニーズがあり、その結果『への字型』の対面キッチンにしました。カウンターにそってベンチをつくり、料理をするときは野川の景色を楽しみつつ、食べる人との会話も弾みます。
キッチン内にパントリー、シンク、コンロ、冷蔵庫の設置スペースなどがコンパクトに収まっています。こういう場合、注意すべきは家電の配置です。例えば電子レンジはどこに置きたいか、などを最初から確認し、それに応じてコンセントを予備も含めて散らして配備しています」
間取図
アドバイス
調理家電を買ったもののキッチンに使えるコンセントがない、とならないように気をつけるべきことには、どのようなことがあるでしょうか?
「コンセントは多いに越したことはないのですが、無尽蔵に配備できるものでもありません。また、コンロまわりにコンセントを設置するのは危険、冷蔵庫はアース付き差込口を使った方がいい、など家電によって位置を考える必要があります。
そのため設計士と事前の打ち合わせで、どんな家電をどこに置くかをしっかり共有しておきましょう。なお、想定分より少し多めに予備のコンセントを設けておけば安心です」
このように、小久保さんは施主さんたちと何度も話し合いを重ねて、それぞれの家族のニーズに合わせたキッチンをつくってきたそうです。キッチンは家族の日々の糧をつくり出す大事な場所。もし、動線などに問題があれば、大きなストレスを抱えたままその後の長い時間をおくることになってしまいかねません。生活動線や収納などの面で失敗しないために、ぜひ、設計士さんとしっかりと情報を共有しながら間取りを検討してください。
「キッチンの間取り」にこだわった先輩たちの実例紹介
それでは実際に、使いやすく納得のいくキッチンを実現した先輩の実例を紹介しましょう。
【case1】料理中に子どもの姿が目で追えるカウンターキッチン
埼玉県のIさんファミリーの新居は子供がのびのびできる開放的な家。広いリビングダイニングキッチンからは子どもを見ながら料理でき、キッチンのカウンターから子どもの居場所に目が合う設計に。パントリーやファミリークロゼットなど収納も充実しています。
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【case2】工夫をこらしたリビングと子どもに目が届くキッチン
愛知県一宮市のIさん夫婦の家は、家族が集まるリビングに工夫を凝らした家です。子どもの遊び場が見えるキッチンには個性あふれる照明をつけています。
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空間をうまく区切った、アイデアたっぷりの楽しい家
【case3】家族が目で追える料理好き妻の白いキッチン
茨城県のSさんご夫婦の新居には、料理が好きな妻がこだわりのキッチンを設けています。白を基調にしたシステムキッチンを備え、全体も白色に統一しました。その隣には独立したランドリールーム兼家事室も備えています。
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スーモカウンターに相談してみよう
新しく建てる家にキッチンをつくる際、具体的な暮らしのイメージによってふさわしいキッチンの間取りは大きく変わってきます。どんなキッチンが自分の家族に合っているかをプロに相談したいと思う人も多いでしょう。
注文住宅の新築・建て替えをサポートしているスーモカウンターでは、家づくりの不安を解決できる無料講座や、アドバイザーに悩みを相談できる無料の個別相談などを実施しています。個別相談ではキッチンの間取りはもちろん、予算や希望条件の整理、建築会社の紹介など、注文住宅を建てる際のあらゆる不安について、知識と経験のある専任アドバイザーに無料で何度でも相談できます。
キッチンプランニングに不安を感じている人は、スーモカウンターを活用して、自分たちにあったキッチンづくりの一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
取材協力/小久保美香さん
一級建築士。小久保美香建築設計事務所代表 。1973年埼玉県生まれ。1996年芝浦工業大学建築工学科卒業後、株式会社カワモクに入社。徳井正樹建築研究室を経て、現在に至る。
取材・文/櫻井とおる(スパルタデザイン)