再生可能エネルギーが注目される中、太陽光発電を住宅に取り入れるケースが増えています。しかし、その一方で、設置費用や日々の電気代、売電でどのくらい節約できるのかなど、コストが気になる人も多いでしょう。そこで、一般住宅用の太陽光発電について、費用面や助成金が使えるのか、10年後にとるべき対応などを太陽光発電パネルのメーカー、長州産業の藤井さんと植野さんに聞きました。
目次
太陽光発電とは
太陽光発電を導入する理由
太陽光発電とは、太陽の光をエネルギーとして発電するシステム。家庭で使う電力は電力会社から購入するのが一般的ですが、太陽光発電を設置して自家発電すれば、本来購入するはずの電力量を大幅に減らして節約できます。
また、使い切れなかった電気は電力会社による買い取りも可能で、さらに経済的メリットが見込まれるでしょう。しかしながら設置するための初期費用がかかるなどのデメリットもあるため、導入にはコストパフォーマンスを考える必要があります。
太陽光発電の設置により発生する費用は?
本体価格と設置費用
太陽光発電を導入するにあたって、ハードルを上げているのが、本体価格と設置費用の高さです。
資源エネルギー庁の報告によると2021年設置費用の平均値は1kWのシステム容量あたり28.0万円で、その内訳はざっくりと、
太陽光発電パネル:17.1万円
パワーコンディショナ:4.2万円
架台(太陽光発電パネルを屋根に固定する台):2.1万円
その他設備:0.2万円
工事費:6.6万円
になります。
一般家庭で設置する容量を仮に5kWの容量とした場合、設置費用はおよそ140万円です。
年々その値段は下がってきているとは言え、まだまだ気軽に導入するとまではいかないでしょう。
「輸送費の高騰や社会情勢の影響を受けて多少上下する要素はありますが、太陽光発電の導入費用は、全体を見ればこれからも下がっていくだろうと思います」(藤井さん)
ランニングコスト
少しでも金銭的負担を抑えたいと考えるなら、維持費などのランニングコストも気になるところです。資源エネルギー庁の資料によると、国は年間維持費を1kWあたり3690円と想定しています。一般家庭で設置する容量を仮に5kWの容量とした場合、年間維持費はおよそ1万8450円となります。
運転電気代
太陽光発電パネルで発電された電力を家庭用電力として使用できるように変換するパワーコンディショナやモニターを動かすには電力が必要ですが、日中は太陽光発電パネルで発電された電力を使用するので電気代はほとんどかからないでしょう。
清掃費
基本的にパネルの汚れは雨で洗い流されますが、木の葉や埃といった汚れが溜まって発電効率が下がるのを防止したり、鳥の巣などができたりした場合はパネル清掃が必要になるかもしれません。一般的に清掃費用は1回5万円~10万円程度が相場のようです。
修理費
太陽光発電パネルなどの設備は、メーカーの保証が付いています。太陽光発電パネルは比較的故障が少ないとされていますが、保証期間を過ぎてから交換する場合は、有償です。
「通常太陽光発電パネルの保証期間は20〜25年程度と長く、交換が必要になることもそう頻繁にはありません。ただ、台風などの飛来物でパネルが割れたりすることが、ごく稀にですが起こり得ます。そのような場合は、パネル1枚から交換できます」(藤井さん)
交換の場合のおおよその本体価格は以下の通りです。(メーカーによっても異なる。交換費用は別)
・太陽光発電パネル(保証期間25年以上):1枚20万円程度(定価)
・パワーコンディショナ(保証期間10〜15年程度):基板交換のみ数万円、全交換の場合は1台平均20万円程度
メンテナンス費用
通常太陽光発電パネルは20〜30年の長期間、交換の必要がありません。「ほかの発電方法と比較しても故障のリスクは少ない」と藤井さんは言います。
「もし異常があればエラーがモニターやパワーコンディショナに表示されます。エラーが発生していないか、発電量は低下していないかなど、お客さまのできる範囲で定期的に確認していただきたいです。
クリーニング等に関しては、実際に私も自宅に太陽光発電パネルを付けて5年以上が経っており、黄砂もよく降る地域ですが、まだ一度もクリーニングをしたことはありません。だからと言って発電量が目に見えて落ちたりもしていません」(藤井さん)
何もしないのは不安だという人は、専門会社による定期点検も一つの選択です。資源エネルギー庁の調査によると、定期点検を行うのに、5kWの太陽光発電パネルを設置している場合、一回の点検費用は平均して2.9万円程度かかります(出典:「太陽光発電について」(資源エネルギー庁))
イレギュラーに必要となるコスト
鳥が太陽光発電パネルの下に巣をつくって駆除が必要になるなど、思わぬ費用が発生する事例もあります。
売電の仕組みや手続きは? 売電価格はどれくらいになる?
売電の仕組みと売電価格の推移
太陽光発電の導入は、電力会社から買う電気代の節約と、余った電力を電力会社に売る売電によって、経済的なメリットがあります。ただし、売電価格は、10年前の2012年では42円/kWでしたが、2022年では17円/kWと年々下がっています。
FIT制度について
一般住宅の場合は、太陽光発電を導入してから10年間は買取価格が据え置きになるFIT制度(固定価格買取制度)があります。国が太陽光発電の導入費用の推移を見ながら、投資回収期間に大きな変動がないように毎年、電力の買取価格を設定しています。
例えば、2012年に太陽光発電を導入した場合は、2022年まで42円/kWで余剰電力を売ることができました。2022年に設置した場合は、これから先、売電価格が下がったとしても10年間は17円/kWという売電価格が継続されます。
今後の売電価格の展望
今後の売電価格や電気代の見通しはどのように変化する可能性があるのか藤井さんに聞いてみました。
「売電価格は今後も低下していくと考えられますが、同時に設置費用が低下していることも忘れてはいけません。電気代については、FIT制度で電力を買い取るためにかかった費用は、実は電気代に組み込まれている『再生可能エネルギー発電促進賦課金』という形でわれわれ消費者が電気の購入量に応じて負担しています。再生可能エネルギー発電促進賦課金は年々上昇していて、2032年まで値上がりし続けるだろうと言われています」(藤井さん)
資源エネルギー庁によると、大手電力会社の直近9年間の家庭用電気料金単価の平均値を元に出した、2023年度の自家消費による便益は、想定で1kWあたり26.34円とのこと。
売電による利益の増加よりも、高い電力を買わずに自家消費するという点で、太陽光発電は経済的メリットがあると言えるでしょう。
太陽光発電の設置前に知っておくべきこと
発電容量と太陽光発電パネル設置面積の関係
太陽光発電は求める発電容量によって、太陽光発電パネルの設置面積が変わります。もちろん、多くの太陽光発電パネルを取り付けようとすれば、それだけ価格も上がるので、予算と必要とする発電容量、取り付ける屋根の広さのバランスを考慮し、設置面積を決めることが必要です。
設置コストの回収は10年以上かかる場合も
例えば、5kWの太陽光発電を設置して、かかった費用が、平均値の140万円だったとします。環境省のデータなどを元にして計算すると、年間売電価格はおよそ7万1000円強。売電だけで考えると10年で回収できる価格は70万円ちょっと。初期費用の約半分というところです。
加えて、パワーコンディショナなどの一部機器は10年を超えると、寿命が来て交換が必要になる場合があります。
では、設置コストの回収はできないのか、というとそうとは限りません。設置コストの回収は、売電価格だけでなく、自家消費による電力購入費用を抑えることと合わせて考える必要があります。
太陽光発電導入に補助金を利用する
2022年5月現在、太陽光発電設置のみに対する国からの補助金はありませんが、太陽光発電設備の設置が必須のZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)住宅を対象とした補助金はあります。
ただし、地方自治体によっては、助成金を設定しているところがあるので、自治体のホームページをチェックしてみましょう。
固定資産税や節税など、税金関係もチェック
家の屋根に設置する太陽光発電は、10kW以下で個人利用である場合、固定資産税の課税対象にはならないとされています。しかし、架台に設置するのではなく、新築で屋根と一体型の場合は、住宅の機能を高める設備と考えられ、住宅の一部として固定資産税が課せられるようです。どこまでを屋根の一部と判断するかは自治体によって異なります。
特に賃貸経営などの事業収入に結びつく場合は、上記課税対象外の条件であっても課税されるので注意が必要です。
太陽光発電の導入は、10年後も考えて
設置10年後に売電価格が大きく変わる
国が定めた価格で電力を買い取ってもらえるFIT制度が適用されるのは、家庭用太陽光発電では10年間だけです。この10年間が完了することを卒FITと言い、卒FIT後は新たに買い取りをしてくれる事業者と契約を結ぶ必要があります。2021年11月末に各小売電気事業者が公表している売電価格の中央値は9.5円/kWhでした。
FITの2022年度買取価格が17円なので、卒FIT後は買取価格が大幅に下がることが予想されます。
蓄電池を導入して自家消費を増やす
FIT対象期間が終了する頃には、各家庭で電力の使用状況をもう一度見直す必要が出てきます。その際の対策として注目されているのが家庭で電力を貯めておける「蓄電池」です。蓄電池を太陽光発電と合わせて使用すれば、夜間など発電ができないタイミングでも自家消費ができ、電気代を削減できます。
蓄電池の相場価格は容量やメーカーによっても変わりますが、設置費用と合わせて大体100万〜300万円くらい。停電のときも使える電力量が増えるため安心です。
「売電価格の低下と電気代の高騰を受けて、FIT制度での売電に頼らず、最初から蓄電池を導入して、自家消費を増やして電気代を抑える方がメリットは大きくなるという考え方も、近い将来、主流になるかもしれませんね」(藤井さん)
撤去費用も考える
太陽光発電システム一式の撤去及び廃棄費用は、一般の家庭用であれば、大体15万円程度です。具体的には、以下のような費用がかかります。
■撤去作業費
■安全対策費(足場代)
■諸経費
■運搬費
■処分費
太陽光発電パネルは産業廃棄物で、そのほかの銅線などリサイクルできないものは一般廃棄物として処理されます。安全対策費の大部分は足場代で、足場を必要とする面積や数によって変わります。
太陽光発電を賢く利用した先輩たちの事例を紹介!
太陽光発電を導入して、電気代を抑えるなど、経済的メリットを実感した事例を紹介します。
【case1】太陽光発電を導入しオール電化の家に。電力使用量は増えても電気代は以前と変わらない
住まいに関連する仕事に就いていたSさん。子どもが生まれたのを機にマイホーム購入を検討し始め、スーモカウンターに相談に訪れました。住まいのプロとして省エネ・断熱にこだわり、太陽光発電を取り入れ、オール電化の家に。引っ越してから使う電力量は増えているものの、売電や自家消費の電力を使えるので、光熱費は以前と変わらないと言います。
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プロも納得の住まい選びは、省エネの視点と間取りのこだわり
【case2】ランニングコストやメンテナンスのことを考えて選んだ太陽光発電の家
二人目の子どもが生まれて、賃貸アパートが手狭になったというAさん。住宅展示場を見に行って住宅メーカーの話をいろいろ聞くものの、何をどう決めていいのかわからずスーモカウンターへ。太陽光発電のオール電化を選んだ結果、ガスの基本料金がかからなくなり、太陽光発電による売電も光熱費を大幅に抑えることに役立ち、家計にもやさしくなったそう。
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ランニングコストを抑え、将来を見据えたバリアフリーの平屋暮らし
【case3】アフターメンテナンスの手間と費用がかからない家を希望し、太陽光発電設置を決めた
妻の実家から土地の提供を受け、注文住宅を建てることになったHさん。スーモカウンターの無料セミナー「はじめての注文住宅講座」の情報を見つけ、夫婦で参加することに。
耐震性、メンテナンス性、家族のコミュニケーションの取りやすさなどの希望を伝え、紹介された会社の中から、間取りの提案が魅力的だった1社に依頼しました。太陽光発電を導入してオール電化にしたことで、光熱費は収支トントンか、売電が買電をやや上回る月もあり、家計の助けになっているそうです。
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太陽光発電の費用と経済的メリットのポイント
太陽光発電の設置費用は、かなり下がってきているとは言え、まだまだ高め。しかしメンテナンスなどランニングコストは、ほかの発電と比べてもあまりかかりません。また、災害時に利用できる点も、ぜひ考慮したいメリットでしょう。
売電価格は年々下がっていますが、電気代は高騰しているため、自家消費の電力量と発電量をしっかり見極めて、経済的メリットを得られるように設置を検討してみましょう。
スーモカウンターに相談してみよう
電気料金の値上がりなどを背景に、太陽光発電の設置を検討している人は多いでしょう。しかし、設置費用と、売電や自家消費によるコスト削減効果とのバランスをよく考えないと、後悔することになりかねません。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望を叶えてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
無料の個別相談のほか、「はじめての注文住宅講座」や「ハウスメーカー・工務店 選び方講座」など、注文住宅の家づくりに役立つ無料講座も用意しています。ぜひお問い合せください。
取材協力/長州産業株式会社
取材・文/和田 文(りんかく) イラスト/タイマタカシ