住宅関係の雑誌やWebサイトに掲載されている画像、モデルルームなどで、天井まで届くような一般的なドアよりも背の高いドアを見たことはありませんか? それが「ハイドア」です。ハイドアのメリットやデメリット、おすすめの設置場所などについて、ジェネシスの森邦生さんに話を聞きました。
目次
ハイドアとは?
「ハイドアとは、床から天井の高さまでのドアのことです。天井高に合わせてドアの高さが決まります」(森さん、以下同)
開き戸・引き戸など一般的なドアの構造は?
ハイドアの特徴についてより理解を深めるために、まずは一般的なドアの種類と構造について紹介します。特にハイドアにおいては次に説明する「枠」と「レール」をどうするかが、開放感に大きく影響します。
一般的な開き戸の構造
一般的な引戸(床レール)の構造
一般的な引戸(上吊り)の構造
▼ドア構造について詳しく記事を読む
建具とは? ドアや引き戸を適材適所で選ぶポイント
ハイドアはほとんどのドア構造に対応可能
「建具には開き方によって、開き戸、引戸、引き込み戸、折れ戸など、さまざまな種類がありますが、基本的にハイドアでも主要な開き方には対応しています。
また、ハイドアの場合は、枠やレールの仕様によって印象が大きく変わるため、枠やレールの見せ方によって、タイプが分かれます」
枠のない上吊り引戸のハイドア
枠のない開き戸のハイドア
あえて枠を残したハイドア
ハイドアに向かないドアのタイプ
「ドア自体のデザインにガラスが入っていたり、戸・障子などの周囲の枠「框(かまち)」にデザインが入っていたりする場合、ハイドアにすることでデザインのバランスが悪くなることがあります。そのため、気に入ったデザインのドアがあっても、ハイドアがラインアップされていないケースがあります」
ハイドアのサイズ・高さはどのくらい?
ドアの高さは一般的には約2,000mmです。玄関ドアでは2,400mmくらいまでが一般的な高さです。ハイドアはこれ以上の高さがあるものをいいます。
ハイドアのサイズはメーカーごとに設定され、現在、2,400mmから2,700mmがハイドアの標準的な高さです。
ハイドアはメーカーによって既製品がある会社や特注寸法対応の会社があります。
ドアの横幅を機能的に考えると、片開きの場合800mm以上あれば使い勝手がよいといわれています。
また一般的な車いすは幅が600mm~700mm程度あるため、車いすを利用する場合は必ず考慮しましょう。
横幅の狭いドアを後から広くするには工事費も高くなるため、機能面を考えた場合、可能ならドアの幅は大きめのサイズにしておきましょう。
ハイドアのメリットは?
ハイドアのメリットは、「開放感」、「おしゃれ」、「実用的」の3点です。
明るく開放感のある空間は、家族などが集いやすく、スペースとしての機能性を高めます。スタイリッシュなドアはおしゃれさを演出します。家具の運搬がしやすい点は実用的です。
機能性やデザイン、実用性を兼ねているのがハイドアのメリットといえるでしょう。
開け放つと明るく、開放感がある
「枠のない引戸のハイドアで、レールが目立たないように処理されているものを開け放しておくと、床も天井も隣の部屋と空間がつながって見えて、広がりが感じられます。これがハイドアの最大のメリットです」
空間がすっきり、スタイリッシュに見えて高級感が出る
「空間をすっきり見せるには、いかにラインを減らすかです。一般的なドアを設置する際には、下がり壁(垂れ壁)になるため室内にラインが増えますが、ハイドアにすることでラインを減らすことができます。枠なしにすればさらにラインが減って、すっきりスタイリッシュに見えます」
物の出し入れや家具の運搬がしやすい
ハイドアは、一般的なドアより400mmから700mmほど高くつくられています。
ソファや冷蔵庫など大型家具・家電の出し入れがスムーズにでき、大きさを気にせず選べるでしょう。これまで斜めにして搬入していた引越しや部屋の模様替えも楽になります。
また、搬入の際に枠などに物をぶつけて傷つくようなケースも少なくなるでしょう。
収納扉をハイドアにすれば、垂れ壁がないため、収納棚なども見渡しやすく、物を上部に置く際に出し入れがスムーズにできます。
ただし、搬入メリットを得るためには、ハイドアの幅も800mmなど一定の大きさを確保しておくことも大切です。
ハイドアは注文住宅のトレンドになっています。以下も記事でも詳しく紹介しているのでチェックしてみてください。
▼注文住宅のトレンド「ハイドア」について詳しく記事を読む
おしゃれ空間が作れると人気の「ハイドア」厚くて高いと何がいい? 注文住宅の最新トレンド
ハイドアのデメリットは?
一方、ハイドアのデメリットは、「費用面で割高」、「開閉が重たい(造作の場合)」、「音・光や冷気が漏れやすい」、「圧迫感を感じる」、などが挙げられます。
詳しく見ていきましょう。
ドア単体では費用が高くなる
「ハイドアは一般的なドアに比べると割高です。メーカーや商品によりますが、当社で扱っている一般的な大きさのドアが1枚2.5万円~3万円なのに対して、ハイドアは4.5万円~6万円程度です」
開閉が重たい(造作の場合)
「一般的なドアに比べると、ハイドアの方が重いのは事実ですが、最近のドアは開閉がラクなソフトクローズのものが多いため、体感としてはあまり変わりません。
ただ、メーカー製のハイドアではあまり問題になりませんが、造作のハイドアの場合、木が反って建付けが悪くなることがあります。一般的な大きさのドアでも同じデメリットはありますが、ハイドアの方が大きいだけ、より反りやすく、開閉しにくくなる可能性は高いです」
音や光、冷気がモレやすい
「ドア自体の仕組みとしては一般的なドアもハイドアも変わりません。ただ、枠なしのハイドアの場合、天井部分の隙間が大きくなるので、そこから音や光、廊下の冷気がモレてくる可能性はあります」
インパクトがあり過ぎて圧迫感を感じることも
「ハイドアは、閉めたときに存在感が出やすいので、他のインテリアとの色や素材のバランスが悪いと、圧迫感を感じることがあります」
ハイドアで後悔しないための選び方と注意点は?
これまで見てきたハイドアのメリット、デメリットを踏まえて、ハイドアを採用するときには、どのような点に注意すればいいのでしょうか?
ドアを挟んだ内と外の天井高が違うとメリットが半減する
「ハイドアの大きなメリットの一つは、ドアを挟んだ内と外の空間がつながって見える点です。しかし、そもそも内と外で天井高が違う場合は、ハイドアにしても空間がつながって見えづらいため、そのメリットが生かせません」
引き戸の場合は引き込みスペースが必要
「一般的なドアでも、ハイドアでも、引き戸の場合は引き込みスペースが必要です。特にハイドアの場合は床から天井までの高さがあるため、引き込みスペースに家具や家電がぶつからないように計画する必要があります」
例えば、一般的なドアの場合、下がり壁のスペースにエアコンを設置することが可能ですが、ハイドアの場合は設置できません。
色や素材選びは他のインテリアとのバランスに注意
「ハイドアは、床から天井までの高さがあるため、色や素材によってはインパクトが大きくなります。空間のアクセントとして狙ってそうするのであればいいのですが、他のインテリアとのバランスが悪いと、チグハグな印象を受けてしまうでしょう。一般的には床や壁と色や素材を合わせて、圧迫感を感じないようにすることが多いですね」
複数のメーカーを比較する
建築会社が提案したメーカー以外の会社の商品が設置可能かを確認しましょう。SNSなどで気に入った画像があればそれを建築会社に共有してイメージを伝えるとズレが生じにくくなります。
ドアを選ぶ際には、種類(引き戸・開き戸なども含む)、素材、デザイン、価格などを考慮して選択してください。
失敗しない!おすすめの設置場所は?
コスト面を考えると、全てをハイドアにするというよりは、メリットが生きる場所だけハイドアにするという方法も考えられます。それでは、ハイドアを設置するのにおすすめの場所はどこなのでしょうか?
リビングの間仕切り
「ハイドアは、開け放して使うと特に効果的です。そのため、リビングと隣の部屋の間仕切りに使うのがおすすめ。枠やレールを目立たないものにすれば、より空間の広がりが感じられます」
玄関ホールや階段ホール
「家の中に入ったときの第一印象は非常に大事です。そして、空間を印象づけるのにハイドアは効果的。玄関ホールや階段ホールにハイドアを設置することで、住まい全体の印象アップが図れます」
クローゼット
「クローゼットは、上の方に枕棚(まくらだな)という棚があるのが一般的です。枕棚の高さは床から1.8mにすることが多いのですが、そうすると枕棚の上のスペースは50~60cm空きます。一般的な2mの高さのドアだと枕棚の上に置きづらいものも、ハイドアにするとスムーズに置けます」
LDKに隣接したパントリーや洗面所
「今は、家事動線を考えて、パントリーや洗面所をLDKとつなげる間取りが多く、そういった場所にハイドアを使うのもおすすめです。来客があるときは閉めて、普段は開け放して使えば、機能的ですし抜け感も得られます」
ハイドアの実例をポイントとともに紹介!
実際にハイドアを効果的に使ったジェネシスの実例を紹介します。
【実例1】壁と一体化したハイドア
「写真右側の木材を使った壁に見えるところには、玄関収納があります。壁と同じ素材、同じデザインで造作したハイドアを用いた隠し収納です。これにより、生活感を抑えた玄関になりました」
【実例2】表面に壁紙を張って空間になじませたハイドア
「実例1のように完全に同化はしていませんが、ハイドアの表面に室内で使っている壁紙と同じものを張り、空間になじむように仕上げました。ハイドアの圧迫感を緩和するための工夫です」
【実例3】ハイドアを採用し、抜け感のある玄関を実現
「玄関の先に洗面所があり、さらにその先にトイレがある間取りです。洗面所とトイレのドアにはハイドアを採用して、開け放したときに一つの空間に見えるようになっています。玄関から一直線上にあるトイレの窓を通して、外の景色が感じられるほど抜け感は抜群です」
ハイドアを採用して理想の住まいを実現した先輩たちの事例を紹介!
スーモカウンターで、ハイドアを採用して理想の住まいを実現した先輩たちの事例を紹介します。その人たちが、どんな点にこだわり、どんな住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】玄関ホールに設置した濃い木目調のハイドアが、印象アップに貢献
時間をかけて家づくりのことを考えて情報収集し、細かいところまで要望があったDさん。しかし、すべてを取り入れるのは予算的に厳しかったため、取り入れるものと諦めるものを選別しました。ハイドアは、厳選して玄関ホールとリビングをつなぐ場所に設置。その甲斐あって、機能的な玄関がすっきりとした印象になりました。
この実例をもっと詳しく→
生まれ育った街で、家族や仲間が笑顔で集える住まいを実現
【case2】インパクトのある赤いおしゃれなハイドアが、モダンなリビングを演出
「音楽好きな二人の好みにあったデザインの家がいい」と考えていたOさん夫妻。完成した家は、明るい光が差し込む2階のLDKが自慢。2階リビングと廊下の間には、枠なしの赤いハイドアを設置。全面赤なのでインパクトは大きいものの、黒系統でまとめたキッチンや床と調和が取れて、モダンなデザインになっています。
この実例をもっと詳しく→
デザインと収納に大満足!来客の動線も考えたギター教室併設ハウス
【case3】冷暖房効率と開放感を満たすリビング階段のハイドア
「子育てをするにあたって、明るくてナチュラルな家にしたかった」というIさんは、同時に「大人っぽいテイストも欲しい」と思っていたため、1階から3階まですべて異なる雰囲気の内装をチョイス。
機能面では、外壁に寒冷地でも通用する断熱材を採用し、エアコンの冷暖房効率を高めるために、リビング階段にハイドアの引戸を付けました。冷暖房不要なときは開け放して、開放的なリビングを満喫できます。
この実例をもっと詳しく→
1階から3階まで、すべて異なる雰囲気の家で理想的な家事動線を実現
【case4】和室に確保したたっぷり収納の建具に、引戸のハイドアを選択
将来的に夫の両親との同居を視野に入れたプランの家づくりを進めたTさん夫妻。同居を念頭に、リビングの隣に和室を設けました。和室の押入れは広めに確保して、収納力もたっぷり。車いすや腰が悪くなっても使いやすいよう、バリアフリーにして、1階は引戸中心に。和室の押し入れも引戸のハイドアにすることで、コンパクトなスペースも広く見えます。
この実例をもっと詳しく→
思い通りにできたシンプルな佇まいの切妻屋根がかわいい家
【case5】障子タイプの引き戸のハイドアで、和室をフレキシブルに活用
「木の家」を建てようと考えたMさん夫妻。こだわったのは、和室をつくること。和室は、家に入ったときにすぐに目にすることができるように、玄関の次の間に配置しました。
土間側の2面の障子にはハイドアを採用し、フルオープンすると和室は広い玄関ホールになります。閉めれば独立した一部屋に、リビング側の引戸を開け放せば、LDKの空間とつながってさらに開放的に使えます。
この実例をもっと詳しく→
木の香りと温もりに包まれた、のんびりリラックスできる家
【case6】おしゃれでホテルライクなテーマを実現した住まい
以前に夫の実家を建て替えるつもりで新築することを検討していたYさん。しかし、営業担当が契約前に退社してしまい、一旦計画を白紙に戻したのだとか。
その後、数年の時が経ちましたが、ある日夫の母がショッピングモール内のスーモカウンターへ話を聞きに行ったそうです。母の後押しもありYさん夫妻もスーモカウンターへ出かけることに。アドバイザーからは6社提案をされましたが熟考の結果、居住エリアに強い会社に決定します。
こだわり派の夫に建築会社の営業担当者は、「Yさんはこういったオシャレなデザインが好きそうだから」と言って粋な提案をしてくれました。天井高を2,700mmとして一部を階段に絡めた吹き抜けのリビングでした。
リビングは天井が高く、大きめの観葉植物も配置できます。大きなクリスマスツリーを飾ったときは、娘にも喜ばれたそう。ソファに座りながら壁掛けテレビで映画を見ているとリラックスできるそうです。 さらに高さ2570mmのハイドアを採用しホテルライクな雰囲気になっています。
この実例をもっと詳しく→
天井高と吹き抜けが自慢の、ホテルライクな住まい
【case7】玄関扉を引き戸のハイドアにして広々とした空間を実現
勤務先にもアクセスしやすいエリアで注文住宅を建てようと検討したOさん夫婦。最初はなかなか土地が見つからず、さらには情報量が多くなり過ぎてしまい自分たちの要望の整理ができなくなってしまいます。そこで「スーモカウンターに行ってプロに任せてみよう」と考えたOさん夫婦は近くの店舗に行くことになりました。
Oさん夫婦は家づくりに妥協せず、こだわりを詰め込みました。特に寒い冬のために、気密性・断熱性にこだわりました。
また、家族とのコミュニケーションを大切にしたいと考え、みんなが使うパブリックスペースには工夫を凝らしています。
リビング階段のあるLDKは一角を吹き抜けに。太陽の光を取り入れ明るく開放感を出し、一方で断熱性にもこだわっています。
さらに、玄関からリビングに入るドアをハイドアの引き戸としました。ハイドアを開くと、吹き抜けで開放感あるリビングに直結するため、広々とした空間を演出できました。
日中は広々とした明るくて気持ちのいいリビングで、子どもとゆったりと過ごしているようです。
この実例をもっと詳しく→
2台分の駐車スペースを確保した、家族時間と趣味を楽しむ家
【編集部解説】ガラスのハイドアもおしゃれでおすすめ
先述したようにハイドアを設置するメリットは、「ドアを開けると明るく開放感がある」、「スタイリッシュに見えて高級感が出る」、「物の搬入がしやすい」の3点です。
特に、「明るさや開放感」「スタイリッシュさと高級感」のメリットをさらに引き出すために、ガラスのハイドアも検討してみてはいかがでしょうか。ドアを閉めても明るさが感じられます。
透明ガラス、すりガラス、ペアガラスなどのガラス種類やフレームなどさまざまな組み合わせで、さらにおしゃれでスタイリッシュさがアップする空間になるでしょう。
ガラスは割れる場合もありますが、強化ガラスを採用すれば、小さなお子さまがいる家庭でも安心です。
ハイドアを採用するときのポイント
最後にあらためて森さんに、ハイドアを採用するときのポイントを聞きました。
「都心では土地が高く、家づくりに苦労している人が多い印象を受けます。限られた面積の中で開放的な空間を実現し、くつろいで過ごしたいという要望に、どうやって応えるか? その答えの一つが、ハイドアです。
建具を少し工夫することで、実際には広くなっていなくても、広く感じることができます。これまで紹介してきたメリット・デメリットやポイントを参考にして、ハイドアを効果的に使ってみてください。特に狭小地で開放的な住まいを求める方に、ハイドアはおすすめです」
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「ハイドアの使い方が上手な建築会社はどうやって選べばいいの?」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望を叶えてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
無料の個別相談のほか、「はじめての注文住宅講座」や「ハウスメーカー・工務店 選び方講座」など、家づくりのダンドリや、会社選びのポイントなどが学べる無料の家づくり講座も利用できます。ぜひお問い合わせください。
イラスト/青山京子